第74話
その後アルゴナの冒険者達と飲んで、ギルド手配の
宿に泊まった二人は翌朝、首都のバンドールを出て
南に向かって歩いていた
「昨日の話聞くと、今からミッドランド
へ行くのが気が重いね」
ティエラもレンが思っていた通りの感想を口にする
「それで出発前にアンドリューがあんなややこしい
やり方を依頼してきたんだよな。ミッドランドの
冒険者のプライドは守りつつ魔獣を間引いてくれって」
「全部が全部そういう人ばかりじゃないんだろうけどね。
まぁ、波風立てない様にしとけばいいんじゃない?」
「そうだな」
王都のバンドールを出て10日後、二人はアルゴナ公国と
ミッドランドの国境の検問所にいた。
ミッドランドは獣族と人族との比率が1:1と言われているが
検問所も見事にその通りで獣族と人族の人数がちょうど
半分半分になっていた。
順番が来てギルドカードを見せると
獣族の衛兵がカードと二人を見て
「ロチェスターの冒険者か。この国で余り好き勝手な
事はするなよ」
そう言いながらカードを二人に返す。
返されたカードを受け取って国境を越えてミッドランドに
入るとティエラが
「何なのよ、あの態度。ロチェスター出身ってだけで
酷いと思わない?なにが好き勝手なことはするなよ…よ。
自分達が手に負えないから外から助けを呼んでるくせに」
衛兵の態度に相当頭にきたのか、道を歩きながら
ティエラがまくしたてる。
「そういうくだらないプライドにすがっているから国が
成長しないんだよ。余り怒ってるとここの連中と
一緒になっちまうぞ」
レンがそう言うと
「そうね。余り文句ばかり言ってると私も
同じレベルになっちゃう。もうやめよっと。
レン。ギルドに行って親書渡したらとっとと帰るわよ」
「もとよりそのつもりだ」
ミッドランドに入って3日後、二人はミッドランドの
首都である王都についた。
この国は王都に都市の名前はなく、ただ王都と言われている。
王都の城内に入る際の衛兵のチェックはそれほど厳しくは
無く、すんなりと城内に入った二人は
直ぐに冒険者ギルドを見つけてその扉を開ける。
昼間の時間帯だったせいか、ギルドの中の冒険者は
それほど多くなく、とはいえ、彼らの視線を浴びながら
真っすぐにカウンターに向かうと受付嬢に
ギルドカードを見せながら
「ここのギルドマスターと面会したい。」
と出身地やジョブ、ランクを言わずに用件だけ言う。
カードを受け取った受付嬢は最初怪訝な顔をしていたが
二人のカードを見ると
「少々お待ちください」
とカードを持って奥の部屋に言った
(受付嬢はちゃんと教育ができてるわね)
(その様だ)
念話で会話をしていると奥から戻ってきた受付嬢が
「ギルドマスターがお会いになられます。こちらへどうぞ」
二人を奥のギルドマスター室に案内する。
扉をあけて中に入ると丁度執務机から立ち上がった
ギルマスが
「よく来てくれた。ここのギルドマスターをしている
ランスだ。」
と狼族のギルマスが手を出してくる。
レンとティエラも自己紹介をして、握手をしてソファに座り、
お茶をだした受付嬢が部屋から出ていくと
「この街はお茶が有名でね。来客にはジュースよりも
お茶を出すことが多いんだ。」
そう言って自分もコップにつがれたお茶を口にする。
つられてティエラも一口飲むと、
「本当だ。このお茶、美味しい」
「そうだろう?」
「こんなにおいしいお茶 飲んだ事ない。うちの国で
売ったらきっと凄く売れると思う」
ティエラの言葉に苦笑するギルマス
「このお茶を飲んだ人は皆そう言ってくれるんだが
このお茶を作っている会社の連中曰く、
こんなうまいお茶をよその国の奴らに飲ませるなんて
もってのほかだって言っててね」
ティエラとギルマスの話しを聞いていたレンが、
「なるほど。噂通りの国民性だな」
「聞いていたか。全くプライドの高い奴が多くて
こっちはやりにくくて仕方がない。プライドだけで
魔獣や魔人に勝てる訳がないのにな」
ため息をつきながら話すランスを二人黙って
聞いていると、
「ここでお前らに愚痴っても仕方がない。
早速仕事の話をしよう」
そう言ってくれたのでアイテムボックスから親書を
取り出してギルマスに渡す。
「うむ。確かに受け取った」
受領のサインをして受取書を返すランス。
「で、もう一つの依頼の方も聞いてるよな?」
「ああ。聞いている。お宅の冒険者や住人に見られずに
南で発生している魔獣の間引きだよな?」
「そうだ。情けない話だがな。
お前らも知ってるとは思うけど、この国の多くの国民は
冒険者も含めてプライドが高くてな。そのくせ自分達だけで
魔獣を討伐出来る程の力量のある奴が少ない」
自嘲気味に話すランスに
「でもそれだったら魔獣が増えて困るのでは?」
ティエラが聞くと
「なので、この国ではランクA以上の魔獣が出たときは
国の軍隊が討伐することになっている。
ランクAの魔獣1体に兵隊を何十人とぶつけるわけだ。
数の論理で魔獣を駆逐してきている。」
「恐ろしく効率の悪い話だな」
あきれ返ったという口調でレンが言うが
「このやり方をもう何十年も続けてきている。
ランクB以下の魔獣は冒険者が徒党を組んで倒し、
それ以上のランクの魔獣は軍隊が討伐。
情けないことに冒険者もそれでいいと思っているんだよ。」
「なるほど。」
レンが頷くと
「ただ、この国の全ての冒険者がそういう考え方を
しているとは思わないでくれよ。
中には魔獣は冒険者が討伐すべきだと考えて
日々鍛錬し、時には他国まで出向いて自身の
スキルを上げている冒険者もいる。
ただ、残念ながらまだそういう考えの冒険者達は
この国では少数だってことだ」
ギルマスの説明を聞いて
「事情は分かった。取り敢えず
俺たちは今日はこのまま王都に一泊して
翌朝南に降りてロチェスターとの国境を越えて
一旦自国に戻る。それから国境線沿いを
南下して魔族領近くでミッドランドに入って
そこで魔獣を討伐することにする」
そう言うとランスが自分の机の上の後ろにある
棚から地図を持ってきてテーブルの上に広げた。
それはミッドランドの地図で、地図上に指を走らせながら
「ここが王都だ。お前たちは北の
アルゴナ公国からこの検問所を通って
王都に来たはずだ」
二人が頷くと
「明日は王都を出るとこの道を南西に進んでくれ
歩いて5日程でロチェスターとの国境検問所に
着く。そこで一旦戻ってからは南下してもらって
大体この辺り」
ランスが指さしたところはミッドランドと魔族領の
国境から北に少し上がったところで
「この辺りから再度入国してくれるか?
この国の最南端の村はここだから
お前たちが国境を越えて入る地点からは徒歩で
4日以上離れている。無人の荒野だから
誰にも気付かれないはずだ」
ギルマスの指を追って場所を確認する二人
「ミッドランドと魔族領との境ってどうなってるの?
高い山が遮っているとか? それと、この南部って
ミッドランドとロチェスターの国境線ってあるの?」
地図を見ながらティエラが聞くと
「いや、高い山があるという報告はない。
恐らくだが、森になっているんだと思う。渓谷は
あるかも知れないがな。それと国境線だが
丁度川が流れているだろう?」
地図では確かに魔族領から北に両国の間に川が流れている
その川は北上してミッドランドの街があると言われている辺りで
右に蛇行してそのまま海に注ぎ込んでいる
川をなぞりながら
「この川が国境になっている。川幅はともかくそれほど深くない川
だと聞いているので川を渡って入国してもらいたい」
「川越えね。高い山が無いからロチェスターじゃなくて
ミッドランドに魔獣が現れているんだろうね」
ギルマスの説明にティエラが納得した表情で言う
「恐らくそうだろう。川を越えて再入国するのは
問題ないだろう」
レンも同意し、続けて
「いずれにしても俺たちはこの南から密入国する事になる。
基本、人を避けるが、見つかったらテレポリング
で逃げるってことでいいよな?」
「ああ。是非そうしてくれ。無用のトラブルは避ける方向で」
「それにしても、ギルマスも大変ね。こんな調子なら
魔王が復活したらどうなるのかしら?」
ため息をついて、ソファに座り直したティエラ
「いや、全くティエラの言う通りなんだよ。
殆どの冒険者、いや国民に危機感は無いんだよ。
魔王が復活したら勇者も登場して退治してくれる筈だって
他人事でな。」
心底困ったという表情で説明するギルマス。
「俺たちはベルグードのギルドから依頼受けたクエストを
こなすだけだ。無責任な言い方になるが
この国民が何を考えていようが関係ない。頼まれた間引きは
ちゃんとやるよ。」
結論の出ない愚痴に終止符を打つ様にレンが言うと
「よろしく頼む」
ギルマスに頭を下げられる二人
「こちらこそ」
ギルマスとの打ち合わせが終わると
ギルドの受付に戻る二人、すると
酒場にいた冒険者から
「見慣れない顔だが、どこからだい?」
声を掛けられ
「ロチェスターのベルグードから来た」
聞いてきた冒険者は犬族の男でテーブルの後ろの壁に
槍を立てている。その男が
「俺たちを信用できなくてわざわざロチェスターから
助っ人を呼んだのか?」
想像通りの好戦的な口調だが、装備や槍を見る限り
せいぜいレベル40そこそこだろうとレンはあたりをつけていた。
むしろこちらの装備や武器に注意を払わないことに
びっくりしながらも、
「言ってる意味が分からない。俺たちはロチェスター
ベルグードのギルドからここのギルドに届け物を
持ってきただけだ」
「たかが子供の使いに冒険者が二人がかりとはベルグード
の冒険者も大したこと無いんじゃないのかい」
わざと大声で言うと酒場にいた冒険者達がつられて
大声で笑う。
「その子供の使いが終わったから俺たちは帰ることにする。
じゃあな」
背後で冒険者達の馬鹿にした笑い声を聞きながら
レンとティエラはギルドを出て通りを歩いていく
「あれじゃあギルマスが頭を痛めるのもわかるわ」
今まで黙っていたティエラがギルドを出るなり言うと
「人を蹴落とす事でしか自分の価値を上げられない奴らばかりなら
この国もそう長くはないな」
「あれを見てると魔獣の間引きなんてしたく無くなっちゃったわよ」
「そう言うなって、それも仕事だろ?」
ぶつくさいうティエラを宥めながら通りを歩き。
目立たない宿を見つけて中に入っていく。
身分証明書のロチェスターの冒険者ギルドカードを
見せると噂になりかねないのでカードは見せずに
代わりに宿泊代以上の金額を受付にデポジットして
部屋を確保した。
よかったら評価をお願いします。