第73話
アルゴナ公国の首都バントールのギルドマスター
との打ち合わせが終わり、
二人がカウンターに戻ると受付嬢から
今夜の宿の場所を聞いた。
礼を言ってギルドを出ようとすると
ちょうどギルドの扉が開いて4人組の
パーティが中に入ってきた。
「おや。レン君、ティエラさん、お久しぶり」
「ああ、カッセルか。」
「こんにちは」
入ってきたのは以前ベルグードにやってきた冒険者
4人組で、ここのギルマスのグランツがNo.1の冒険者
と言っていたパーティだった。
「どうしたんです? この国にまできて腕試しですか?
握手をして再開を祝うとカッセルが冗談交じりの口調で
話しかけてきて、
「まぁ立ち話もなんですから、そこに行きましょうよ」
誘われるままにレンとティエラ、そしてカッセルら4人組が
ギルドの酒場に移動した
最初からレンとティエラを見ていた他の冒険者達は
「おいっ、あいつらカッセルらと知り合いかよ」
「どういう関係だ?」
などと話ししているところに酒場に移動してきて
テーブルに座ったその周囲に街の冒険者達が
集まってきた。
それを見てカッセルが
「レン達のことをここの冒険者に紹介してもいいかな?」
「任せる」
とレンが言うと周囲に集まってきた仲間をを見ながら
「この二人はロチェスター王国の辺境領のベルグードから
きたレンとティエラ。
赤魔道士から魔法剣士に上位転生したベルグードNo.1の
冒険者だよ」
そう言うと、周囲からどよめきが…
一人の犬族の冒険者が
「噂は聞いてる。赤魔道士で初めて上位転生して
ランクAになったけど実質はランクSじゃないかと言われている
ペアだ」
「その通りだ。この二人の外見だけ見てちょっかいかけると
とんでもない目にあうぞ」
ギーセンが野太い声で周囲を見渡して言うと
「ギーセンがそこまで言うほどの実力の持ち主なのか」
周囲の冒険者が驚いた顔をしてギーセンを見て、
それから二人を見る。
「カッセルと俺はレンとティエラの実力を知っている。
知っているから言えるんだ。この二人、半端ないぞ」
「ちょっと言い過ぎじゃないかい?」
思わずレンがギーセンに言うと
「いやいや、これでも相当抑えた言い方してるんだよ。
俺の盾が1撃で10メートルもぶっ飛ばされたのは
後にも先にもティエラの剣を受けた時だけだ。
それに…」
ちらっとティエラを見て
「あの時も全力じゃなかったんだろう?」
虚をつかれたティエラは思わず、
「うっ。 ま、まぁね」
そのやりとりを聞いた酒場にいる冒険者達は
「あの不動のギーセンが10メートル吹っ飛ばされたって?」
「しかも吹っ飛ばした相手が女性で本気出してなかったとか?
どう言うこったよ?」
驚いて口々に話している。
「とにかく、みんな、ベルグードから来たこの二人は
相当の実力者だってことだよ。
もちろん僕たちのパーティよりずっと強いってことは
うちのパーティの全員が認めている」
カッセルのパーティの残り3人もそうだとばかりに頷いている。
カッセルがそこで一旦話を切って
「ところでこのアルゴナの首都のバンドールには何か目的が
あって来たのかな?」
カッセルの問いにレンが
「ああ、うちのギルドからお宅のギルドに何か
親書を渡すって言うんで、俺たちがその配達を
頼まれたんだよ。このあとミッドランドにも同じ様に
親書を届けに行くんだけどな」
レンの答えを聞いてカッセルは
「なるほど。でも親書を渡すだけなら別にレン達でも
よかったんじゃないのかな?何か裏があるのかな?」
意味深な視線を向けてくるが、それを真正面から受け止めて
「少なくとも俺とティエラにとってはギルドから預かった親書を
指定の場所に渡すというクエストをこなしているだけで
それ以上の事についてはギルドが何を考えているのかっていうのは
正直興味はないんだよ。」
レンの言葉に続いてティエラも
「そうそう。行ったことのない場所に行くっていうのは
ウキウキするしね。それにこうやって知り合いにも会えるし。
私達はそれだけでクエスト報酬貰えるし、それ以外に
何も考えてないよ」
「まぁ上が考える事を僕たちが気にしても仕方ないしね。
それよりせっかくの再会だし、ここで飲んでいかないか?」
「いいね」
と言う流れでその場でバンドールの冒険者達とレン達が
一緒に飲み始めた。
ティエラは早速女性同士のテーブルに移動してあれやこれやと
話に花を咲かせている。
一方レンはカッセル、ギーセン、そして他の冒険者達と
情報交換をしていた。
「なるほど。瘴気溜まりが大きくなって魔獣や魔人が
出てくるのか」
レンの話しにカッセルが相槌を入れてくる
「現にロチェスターの辺境領の南では1体だが、魔人を見ている」
「それで?強さはどうだったんだ?」
ギーセンがレンを見ながら聞いてくる
「ランクSだったかな。1体だけだったからそれほど強くは
無かった。ティエラと2人で普通に倒せる強さだった」
「ランクS? それを強くなかったって?」
周囲の冒険者が口々にレンの発言に突っ込みを入れるが
「レンとティエラにとってはランクS単体ならそうなるんだろうね」
カッセルはさもありなんという口調で同意する。
カッセルと他の冒険者とのやりとりを聞き流しながらレンは
「この国では最近魔獣が強くなったとかいう情報は持ってるのか?」
「いや、聞いてない。もちろん俺たちも普段からこの国で活動してるが
魔獣が強くなったという感じはないな。ある意味平常運転だ。
答えるギーセンの方を向いて
「こっちは魔族領と国境を接していないからかな? じゃあ南の
ミッドランドはどうなんだろう?」
レンが言うとその言葉でレンの周囲がなんとも言えない雰囲気になる。
それを察して
「ん?ミッドランドがどうかしたのか?」
続けてレンが聞くと、暫く間をおいてカッセルが
「ミッドランド王国か。この後レン達が行く予定なんだよね?」
「ああ。そうだが?」
まだ事情がつかめないレンは何事だ?という表情でカッセルを見ている。
暫くしてからようやくカッセルが口を開いて、
「ロチェスターにいると分からないと思うんだけど、ミッドランドと
アルゴナ公国の関係って微妙でね。」
そこまで言うと一旦口を閉じるカッセル
「微妙?」
レンがカッセルの目を見ながら問う。
すると、周囲の冒険者から
「あいつら、たいして強くないくせに、プライドだけは
高いからな」
「今でも自分達が一番だって思ってる勘違い野郎が多いんだよ」
口々に発言する。
それを聞いてカッセルが、
「今周りの仲間が言った通りでね。
ミッドランドの冒険者、というよりミッドランドの多くの国民は
自分達が一番だって今でも思っててね、プライドがすごく高くて
周囲の国と相談とか、協力を仰ぐとかいう気が余り無くてね、
その結果あの国の情報が余り入ってこないんだよね」
「なるほど」
「こちらからは何度かギルドを通じて情報交換を依頼したり
場合によっては魔獣退治も手伝うって言ってるんだけど
その都度、こちらで対処できるから手助けは不要って
回答ばかりでね。その癖最近はミッドランドの南で
村が魔獣にやられているって情報まで入ってきてるのに
こっちに助けを求めてこないんだよ」
カッセルの説明を聞きながら、これから向かるミッドランドでの
立ち位置が難しくなりそうだとレンは思っていた。
「ところで、レン。ミッドランドってこの大陸の東の端にあるだろう?
なのに何故国名がミッドランドって言うか知ってるかい?」
レンが考えていると、カッセルが質問してきた
「いや。知らない。でも言われてみれば確かにそうだな」
そう答えると、今まで女性冒険者達と話をしていたティエラが
振り返って、
「私知ってるよ。元々ミッドランドはオールバニー大陸の
中部から南部、丁度今のロチェスター辺境領から東のエリアを
領土にしていたのよ。
それが何百年も前、戦闘の度に負けては領地を失っていって
結局東の今の領土にまで追いやられたって訳。
でも国名は昔大陸中部を治めていた時の国名を今でも
名乗っているのよ。」
「そうなのか。それにしてもティエラ、よく知ってるな」
「昔いた村の人たちが教えてくれたの。そこ頃から言ってたわよ
ミッドランドの連中はプライドの高い人が多いって」
ティエラの説明を聞いて納得したレン。
「しかし、魔王が復活したらそんな事言ってられないだろう?」
「そうだと思うけどね。でもギリギリまで助けは求めてこない様な
気もするね。あそこの王都の冒険者ギルドでまともな人はギルマスだけだって
聞いている。用事を済ませると長居はしない方がいいかも」
カッセルの言葉に
「何故だ?」
「ミッドランドの領地を奪ったのはロチェスター王国だって
今でも思っている人が多いらしいよ。
昔、自分達の先祖が戦争に負けたから領地を取られたのにね」
「それって殆ど逆恨みだろ?」
「僕らはそう思うけど当事者はそう思ってない人も多いらしいから。
なので長居は無用だと忠告しておくよ。」
「わかった」
急に気が重くなってきたなと思いながら、レンは
「いずれにしてもそういう事情ならあの国での
魔獣や魔人の発生状況なんて教えてくれそうもないな。
親書を渡したらとっとと帰るか」
「それがいいと思うよ。まぁレン達なら万が一絡まれても
何も問題なく対処できるとは思うけどね」
第80話にて完了します。既に予約投稿済みです。
良かったら評価をお願いします。