第72話
ギルドとの話しが終わって
自宅に戻ったレンとティエラ、ティエラ手作りの食事を
とりながら、
「それにしても南から強い魔獣が登場してきたってことは
いよいよ瘴気が濃くなってきたってことかな。」
「そうかも知れないな。」
「でもどうしてミッドランドの方なんだろう?
この国でも同じ様な事が起こってもおかしくないのに」
スープを飲んでいたティエラがその手を止めてレンを見て言う。
「現地を見てないから分からないが、ミッドランドと魔族の国境は
俺達の国と魔族領の国境と違って高い山が無いのかも知れないな。
森だったりすると瘴気が溜まるとすぐに森を出てこられるからな」
「なるほど。そういえばこの前行った南の地区ってすごく高い山が
魔族領とうちらの国の間にあったわね」
「ああ。だから瘴気は来ないし、来ても風に流されちまうか何かで
うちらの南には瘴気溜まりができにくいかもしれない」
「なるほど。その可能性は十分あるね」
「いずれにしても行けばわかるさ」
2日後の朝、二人が南門に行くと、既にそこには
馬車が二人を待っていた。
ギルマスのアンドリューが二人に近づいてきて
「これとこれが機密文書だ。よろしく頼む」
文書にはそれぞれアルゴナ公国ギルドマスター宛
ミッドランド王国ギルドマスター宛と書いてある
それを確認してレンがアイテムボックスに機密文書が
入っている箱をしまうと、それを見ていたアンドリューが
小声でレンに
「南に行ったら夜は帰ってくるだろう? 不定期でいいから
向こうの状況を報告してくれるか?」
「わかった」
短りやり取りの後、馬車に乗り込んだ二人を乗せて
御者が馬車を東に向かって進めていった
順調に馬車は進み、ベルグードを出て7日目には
隣国のアルゴナ公国との国境に着いた
国境手前で馬車を降りた二人は徒歩で国境に向かう。
暫く待っていると二人の番となり
ギルドカードを見せる
ベルグードランクAのカードを見てアルゴナ公国の
国境警備兵は二人の顔を見てから
「ようこそ。アルゴナ公国へ」
と二人を通してくれた。
国境のゲートを越えてアルゴナに入ったところでティエラが
「今の人私達のランクを見てびっくりしてたわね」
「この年でランクAってのが珍しかったのかも知れない。」
アルゴナに入ると二人は馬車に乗らずに歩いて首都の
バンドールを目指す。
途中の村で3泊し、4日目に二人の前にバンドールの城壁が
見えてきた。
「大きな街みたいね」
「この国の首都だからな」
そんなやりとりをしながら市内に入る順番を待つ二人
流石に獣人の比率が高い国だけあって
順番を待っている列に並んでいる多くが獣人で、
城門で身分チェックをする衛兵も狼族だった
無事に市内に入った二人は先ず宿泊先を探すべく
通りを歩いていくとホテルの前に冒険者ギルドを
見つけた
「先にギルドに行って用事を済ませてしまおう。
ついでにギルドにお勧めの宿を聞いてたらいいよな」
「そうしましょう」
そう言って二人でギルドのドアを開けて中に入っていく
国は違えどどこのギルドも基本同じ造りになっていて
正面は受付カウンター、その横は打ち合わせ兼酒場に
なっている。ベルグードと決定的に違うのは
ギルド内にいる職人、そして冒険者の8割程度が
獣人族であるということ。
その冒険者達の目が今ギルドに入ってきた男女二人組に
注がれている。高級そうなローブに両脇に差された片手剣二刀流
首にはお揃いの真っ青なスカーフ。
レンとティエラはそういう目にはもうすっかり慣れているので
ドアから受付に向かって真っすぐに歩いていく。
二人が歩くと酒場の視線も動く。
カウンターに着くと、レンが受付嬢のの猫族の女性に
「ロチェスター王国から来た冒険者のレンとティエラだ。
こちらのギルドマスターに渡し物を頼まれてもってきているので
取り次いで貰いたい」
そう言いながらレンとティエラはロチェスター王国
ベルグードギルド発行の冒険者カードを受付に提示する。
それを見た受付嬢は口にこそ出さなかったものの
ギルドカードと二人を交互に見て
「魔法剣士、ランクA」
と呟いたかと思うとカウンターの奥にすっ飛んでいった。
「ロチェスターの冒険者かよ」
「こちらでは見ない恰好だな」
「高そうなローブだ。名のある冒険者か?」
酒場でヒソヒソと話する声が聞こえてくるが
レンもティエラもそれを聞き流して受付嬢の反応を待っていて、
暫くすると奥から戻ってきた受付嬢が二人に
「お待たせしました。ギルドマスターがお会いになりますので
こちらにどうぞ」
二人をカウンターの奥の応接室の1つに案内した。
部屋に入ってしばらくすると扉が開いて一人の男が
入ってきた。
レンもティエラも獣人族の多いアルゴナ公国なので
てっきりギルドマスターも獣人族と思っていたら
意外にも部屋に入ってきたのは人族の男で。
「待たせて悪かったな。初めまして。
私はこのアルゴナ公国の首都バンドールの
冒険者ギルドのギルドマスターをしているグランツだ
よろしく」
「ロチェスター王国から来た魔法剣士、ランクAのレン」
「同じくランクAの魔法剣士のティエラです」
差し出された手に握手をして自己紹介が終わると
ソファに向かい合って腰掛ける。
ジュースを持ってきた職員が部屋を出ると
「君たち二人の噂はこの国のギルドにも聞こえているよ。
ダンジョンの秘密を暴いたり、神獣の加護をいくつも
持っていて、赤魔道士で初めて上位転生した冒険者だよね」
そこまで言ってからグイッとジュースを飲むと続けて
「そうそう。ちょっと前にうちのランクAの冒険者達が
お邪魔して君たちにコテンパンにやられて帰ってきたってのも
知ってる」
言われてティエラが
「カッセルさん、ギーセンさんらのパーティのことね」
そうだと頷くギルマスに
「あれは個人戦だから勝敗はあまり関係ないと思うけどな。
実際4人組だけど対戦したのは2人相手で1対1の個人戦だったし。
パーティ組んだら相当強いと思う。チームワークも
よさそうな感じだった」
レンが思ったことを言うと、
「そう言って貰えるとギルマスとしても助かる。
今でもここのランク1位の冒険者なんでな。」
話が切れるとレンはアイテムボックスから
親書を取り出して
「これがうちの辺境領、ベルグードのギルマスから
預かってきた機密文書だ。確かに渡したよ。
差し出された親書を受け取ってギルマスのグランツも
「ありがとう。確かに受け取った」
「これで1つ目のクエストは終了ね」
ティエラの言葉にギルマスが
「この後ミッドランドにも行くんだっけ?」
「ええ。2カ国に機密文書を届ける様に依頼されてるので。
今日はここで1泊してから明日南のミッドランドに移動
する予定です」
「それで、今夜の宿をまだ決めてないんだけど、
どこかいいところを紹介して貰えないかい?」
レンがギルマスに言うと
「わかった。宿ならうちでなんとでもなる。
受付嬢に言っておくからあとで聞いてくれ」
そう言うと扉を開けて職員を呼んでレンとティエラの
今夜の宿を手配する様に指示した。
レンとティエラが礼を言い、指示された職員が出ていくと、
「ところで、この機密文書の内容については君らは知っているのか?」
改まった口調でギルマスのグランツが二人を見ながら言うのに
同時に首を振る二人。
「そうか。何も聞いてないのか。君らなら知っていても
問題ない話だと思ったが。そうか、なるほど。どうせ
俺やミッドランドのギルマスが説明するだろうってことであえて
何も言わなかったんだな。」
一人納得しているギルマスを見ながら
「どう言うことなんです?」
ティエラが訳がわからないという表情でグランツに問ひ返すと
「この機密文書の中身は魔王が復活するまでにギルドとして
協力して準備するためのプランが書かれているのさ」
「いいのかい?文書の中身を俺たちに明かしても?」
びっくりしたレンが思わず口にすると、
「いいから私がこうして話をしている。いいかい?
まず、この機密文書を君たちベルグードのトップランクの
冒険者二人に依頼したってことがそもそものスタートなんだよ」
「どういうこと?」
「君たちは確かテレポリングを持ってるよね? そして
そのテレポリングは一度行った場所には次回からすぐに
飛んでいける。」
頷く二人
「逆に言えば、行ってない場所にはすぐに行けないってことだよね?」
再び頷く二人、そこでレンが気が付いた
「つまり、俺たちにこの国とミッドランドをリングで飛べる様に
記録させる旅を手配してくれたってことか」
「その通り。それもこの魔法復活の際のギルドの対応策の
1つに入っている。つまり有事の時の応援として
ギルドは君たちに大いに期待しているってことだよ。
最近発表された長寿の加護の件ももちろん、我が国も
ミッドランドのギルドも情報は共有しているから知っている。
ギルドとしては万が一の際には君たち二人が動きやすく
なる様に今から便宜を図っているってことさ」
「ギルマスから2カ国に行ってくれって言われた時は
テレポリングの行き先が増えるし、悪くない話だと
思ってたけど、ギルドは正にそれを期待してたってことか」
「でも勇者が生まれて魔王を退治してくれたら私たちの
出番なんてないよね?」
レンの言葉に続けてティエラが思ったことを口にすると
ギルマスのグランツが
「もちろん。将来登場するであろう勇者が魔王を退治してくれたら
それが一番良い方法であるのは間違いない。過去はそうやって
魔王を倒してきたからな、ただ、ギルドとしてあらゆる可能性
を考えてその対応策を出してそれを3国間で共有しようって
話しがここ最近出てきていてね。勇者に頼らないケースに
ついてもスタディしておこうと言うことになったのさ。」
このオールバニー大陸にある4カ国のうち、北のオムスク王国を
除く国は大陸の覇者と言われているロチェスター王国とは
友好関係を結んでおり、政治的な関係はもとより、ギルドの
レベルでも友好関係を維持している。
それにしても自分たちの知らないところで自分たちを
頼りにした話が進んでいるのを聞いてレンは複雑な
表情をしながら
「うちのギルマスにも言ったけど、冒険者として
魔獣や魔人の相手をするのは全然問題ないんだけど、
国や貴族の指示を受けて活動するのだけは
俺もティエラもノーって言ってるからな」
レンの話を聞いてもグランツは全く慌てることなく
「もちろん。君たちのその意向も十分知っている。
さっきも言った様にあくまでいろんなケースを想定して
対応策を練っておこうというレベルなので、まだ具体的には
何も始まってないよ。
それに知ってる様にギルドは国に所属しているとは言いながら
独立性の強いところだ。こちらが理不尽と思えばたとえ国からの
依頼でも断ることなんていくらでもある」
そこでティエラも姿勢を正してグランツを見ながら、
「それを聞いて少し安心したわ。レンも言った通り
私達、いつもベルグードでは言ってるけど
冒険者として生きていきたいの。なのでランクについても
こだわりもないし、まして名誉や地位なんて欲しいと
思ったこともない。」
ティエラの言葉をじっと聞いていたグランツは
「なるほど、わかった。 お宅のギルドマスターの
アンドリューから以前聞いていた通りだ。
もちろん、ギルドとして冒険者に無理強いする
つもりはないから安心してくれ。
ただ、ギルドが君たちを頼りにしているは紛れもない
事実だ。この点はわかって欲しい」
グランツの説明を聞いていた二人
代表してティエラが
「もちろん、こちらもギルドには世話になっているし
正面からことを構える気はさらさら有りません。
魔獣や魔人が私たちの生活を脅かすのなら、
その討伐は冒険者として当然だと思ってますので」
その言葉に頷きながら
「うん。そういうことでこれからもよろしく頼む
グランツは以前ベルグラードのギルマスのアンドリューから
聞いていた言葉を思い出す
…レンとティエラという魔法剣士はうちのギルドでも
トップクラスの冒険者だが、ランクSに上がるのを頑なに
拒否している。その理由は国や貴族に仕えたくないからだ。
彼らをコントロールするのは難しいが、味方にすると
これほど頼りになる二人はいない…
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