第71話
アンドリューが領主と面談した3週間後、
王国内のギルドから新たな報告が同時になされた。
”長寿の加護”なるものが存在する。それを得たものは
人族でもエルフ並みの寿命が与えられる。
この長寿の加護の取得条件が判明したので発表する
・3箇所のダンジョンの最下層にいるボスを最低3体倒すこと。
ただしその3箇所のダンジョンの内1箇所は必ず80階層ある
ベルグードの南ダンジョンを含むこと。
(ダンジョン討伐は1パーティ最大5名であり、
それ以上での攻略はボス部屋に入れない仕様になっている
ことが確認されている)
・ボスを3体倒した際に”ランダム”で与えられる加護の一つに
長寿の加護がある。従い3体倒しても必ず長寿の加護が
得られる保証はない。あくまでランダムである。
・現在長寿の加護を持っている冒険者は2名である。
この発表がギルドからなされたとき、一番興奮したのは
冒険者達ではなく、予想通り貴族であった。
しかしながらその加護の取得条件の余りの難易度の高さに
諦めざるを得なかった。
特に最大5名の部分は普段戦闘しない貴族にとっては
とてつもなく高いハードルだと思われた様だ。
実際は有能な冒険者5名でも80階ダンジョンを攻略することは
ほとんど不可能なのだが…
そして最後の現在長寿の加護を持っている2名については
それがレンとティエラであることはベルグードの冒険者達
にはすぐにわかり、それから徐々に王国内に二人の名前が
広がっていった。
そしてそれを聞いた国内の冒険者達は
「やっぱりあいつらか…」
と今までのレンとティエラの活躍を知っているだけに
素直に納得するのだった。
レンとティエラはギルドの発表を事前に聞いていたこともあり
この件について特に何をするわけでもなく
普段通りの生活を送っていた。
「能力の上がった装備と身体に慣れないとな」
78階への階段を降りたところでそのフロアを見ながらレンガ言うと
「そうね。慣れてから79階の強くなった魔獣、魔人でレベル上げしましょ」
80階をクリアして数日休養してリフレッシュした二人は
再び南のダンジョンにいた。
フェンリルはじめ、神獣が与えてくれた能力に慣れる目的で
まずは78階の攻略を開始していく。
通路に立っている魔人に無造作に近づいていく二人。
こちらに気付いた魔人が剣を振り上げて近づいてくる
それを軽く躱して片手剣を一閃すると魔人の身体が
綺麗に2つに分かれて其の場で倒れ込んだ
「すごいね」
「ああ、身体の動きも、剣の威力も想像以上だ」
足元で光の粒になって消えていく魔人を見ながら
レンとティエラは神獣によって強化された身体と装備
の凄さを再認識していた。
「これなら78階はサクッといけるかもね」
ティエラに頷きながら前に進んで行く二人。
前方に魔人が見え、魔法の詠唱を開始すると同時に
魔人に向かって走り出していくティエラ。
レンは敢えて其の場に立ったまま魔人の精霊魔法を
受けてみる
魔法着弾のショックが以前より相当軽減されているのを
感じていると、かなり素早い動きでティエラが
魔人の元で剣をふるって一刀両断にして切り裂いたのが見えた。
そうやって身体能力、武器能力のアップを身をもって
体験しながら進んでいく。
78階をクリアする頃には新しく身についた感覚にも
すっかり慣れていた。
「79階の攻略が楽しみになってきたね」
二人で話しながら79階に続く階段を降りていく
「さてと、フェンリルが相手のレベルを上げてくれている
って話だが、実際どれくらい強くなってるのか、楽しみだな」
そう言うとおもむろにフロアに1歩踏み出していく
魔人城をイメージしているダンジョンの廊下を
歩くとすぐに前方に1体の魔人の姿が見えてきた
剣をもって通路を塞ぐ様に立っている魔人に
「こっちも強くなってるけど、相手も強くなってるから
気を付けていこう」
そうティエラに声を掛けると自分から先に飛び出していく
後ろをついてくるティエラを背中に感じながら
こちらに気付いた魔人と正面から向かい合う形になっても
スピードを緩めずに突進していく。
「おっと、敵も素早くなってるな」
相手の一撃を躱しながらすれ違い様に腹に剣を走らせる。
攻撃してきたレンを捕まえようと振り返った所に今度は
ティエラが片手剣を背後から袈裟懸けに撃って
仰け反ったところをレンが正面から切りつけて倒した。
「3発で倒せる様になったか」
「相手のレベルも上がってるけど、こっちもかなり
上がってるわね。」
「上手くやれば2回の攻撃で倒せる様になるかもしれないな」
「魔法も上手く使えば更に短縮できるかも」
二人で気付いた点を指摘し合って打ち合わせをしていく
その後も無理をせずに階段を降りたところにPOPする
1体を何度も倒して剣と魔法のコンビネーションを確認したり
身を躱す練習をしたりしてその日の活動を終えた。
ダンジョンを終えて拠点の街であるベルグードに戻って
ギルドに顔を出すと、受付にいたキャシーが、
「あっ、ちょうどよかった。ギルドマスターがお二人に
話があるから、ギルドに顔を出したら呼んでくれと
言われていたんです。今、大丈夫ですか?」
頷くとギルドの奥に消えたキャシーがすぐに戻ってきて
「マスターも大丈夫なので」
と言いながら二人をカウンターの奥にある応接室に
案内した。
キャシーがテーブルに果実汁を置いて部屋を出ていくと
直ぐにギルマスのアンドリューが部屋に入ってきた
「ダンジョンに潜ってたんだろう?疲れているところ
申し訳ない」
ソファに座るなり挨拶もそこそこに
「来てもらったのは他でもない。お前たち二人に
ギルドからの指名クエストを依頼しようと思ってな」
「ギルドからの指名クエスト?」
ティエラがオウム返しの様に言うと
「そうだ。このクエストは依頼主がベルグードの
冒険ギルドだ」
それまで黙って聞いていたレンが
「ややこしい話しなのか?」
聞かれたアンドリューはレンを見ながら
「いや、依頼自体は全くややこしくない。
実はお前らにアルゴナ公国、ミッドランド王国の
冒険者ギルドに届け物をして貰いたいんだ」
「届け物?」
「機密文書だと思ってくれていい。お前らは
アイテムボックスがあるから紛失の心配はないし
治安が悪い場所も全く問題ないだろうからな」
ギルマスの話しを聞いてややこしい話じゃないと
ホッとするティエラ。 一方レンは、
「アイテムボックスはいいとして、途中に治安の
悪い場所があるのか?」
聞かれたアンドリューは
「無いとは言えないが、魔獣と言ってもせいぜいランクD
とかランクCだ。お前らにはいないも同じだろ?」
アンドリューの説明に
「ちょっといい? いくら機密文書だと言っても
道中もあまり危険が無いのなら、私達を指名しなくても
他の冒険者でも十分務まるクエストだと思うけど、
どうして私達なの?」
ティエラが思ったままを口にする。
「確かにな。聞いてる限りそれほど難易度の高そうな
依頼じゃなさそうだし」
横からレンもティエラの発言をフォローする。
アンドリューは二人を見ながら
「そう。確かにお前らの言う通りだ。単に機密文書を
運ぶだけならお前らじゃなくてもこのギルドには
適任がいくらでもいる。」
「じゃあ、何で?」
畳みかけて聞くティエラに
「1つは、お前らを暫くベルグードから離してやろうと思ってな。
例の長寿の加護の発表以来、辺境領以外の領地の貴族達が
お前らに会いたいから仲介してくれとここの領主や
このギルドに毎日毎日問い合わせが来ているんだよ。
そいつらが言うにはギルドの発表は難易度を上げる為の
外向けの発表で、本当はもっと簡単なんじゃないかとな。
それで真偽を確かめたいからお前ら二人に会わせろと
うるさいんだよ。
今のところは俺のこのギルドと領主の所で全て断っているが
いつ、直接お前らに出向くかもしれん。それって鬱陶しいだろう?」
アンドリューはそこでニヤリと笑い
「領主とも相談して、とりあえず仕事でこの街から
離れさせたらそのうちにほとぼりも冷めるだろうって
考えたのよ」
アンドリューの話しを聞いて
「なるほど。こっちに気を使ってくれたって訳だ。
それは申し訳ない。わかった。で、もう1つの理由は?」
レンが問うと、真顔になったアンドリューが
「実はこっちが本当の理由なんだが、
実はミッドランドのギルドから内密に問い合わせが来ていてな。」
「「内密?」」
「そうだ。内密にだ。あの国が南の国境線で魔族領と接しているのは
知ってるだろう?」
言われて頭の中で地図を思い出す二人、確かにミッドランドの南と
このロチェスターの南は共に魔族領と接している。
それを確認して頷く二人。
アンドリューが続ける。
「最近、以前見られなかった強い魔獣が南の国境線を越えて北上してきて
ミッドランド中南部の村を襲っているらしい。
ミッドランドの冒険者ギルドももちろん対応してはいるが
残念ながらあの国の冒険者のレベルはここに比べて低いらしく
魔獣退治に苦慮しているので、助けてくれないかとの事だ。
ただし、正式に依頼するとあの国の冒険者を信用していないって
事になって話しがややこしくなるので、内密に依頼が来たって訳だ」
「内密に依頼が来ても私達が行ったら分かってしまうんじゃないの?」
ティエラの言葉に頷いたアンドリューは
「なので、お前らには面倒くさい話になるが、ミッドランドの
ギルドで手紙を渡すと一旦国境を越えて自国領に戻ってもらう。
国境を越えて自国に入ったらそのまま国境線沿いに南下して
魔族とミッドランド、そして我が国の国境が重なっている場所から
再度ミッドランドに入ってもらう。ただ、これは厳密には
密入国になるが、ミッドランドのギルドマスターとは話しが
ついている。」
「本当にややこしい話だな。それで南から再度密入国した後は
どうしたらいいんだい? 村とか街に行ったら住民や冒険者に
バレてしまって密入国した意味が無いと思うけど?」
レンの危惧についてもアンドリューは即答する。
「もちろんだ。なので南で再入国した後は二人は街や村に
行く必要はない。それにミッドランドもここと同じで
魔族との国境近くには街も村もない無人地帯だ。
そのエリアで南から北上しようとしている魔獣を
間引いてもらいたいというのが彼らの依頼事項だ。」
「わかった。その従来いなかった強い魔獣が南の魔族領から
国境を越えて北上してきているという情報に間違いはない
んだな?」
「そこは確認済みだ」
「南で魔獣を間引くとして、その期間はどれくらい?」
レンとティエラから矢継ぎ早に質問が飛ぶ。
「期間については申し訳ないが1か月程お願いできないかとの
希望が来ている。大丈夫か?」
二人で顔を見合わせて、レンが
「夜はテレポリングで自宅に帰り、朝またリングで南に飛ぶ
つまり夜は魔獣退治をしないという条件であれば1か月受けよう」
レンの答えに満足した様に
「それでいい。元々キャンプしたとしても夜は活動できないからな。
ミッドランドへの機密文書の中には南部での活動についても
書いてある。ミッドランドのギルドマスターとよく話を
してくれ」
「いつから行けばいいの?」
「最初にアルゴナに向かってもらいたい。アルゴナでは
ギルドに機密文書を渡すだけだ。その後はそのままミッドランド
に移動してさっき説明した流れで活動してもらいたい。
出発は任せるができれば2,3日以内に向かって欲しい。
そうそう、ここからアルゴナの国境まではギルドが馬車を
出すからそれに乗って移動してもらって構わないぞ」
「レン。どうする?2日後位にしようか」
「そうだな。じゃあ明後日に出発する」
「わかった。明後日の朝、南門に来てくれ。馬車を
用意して待っているから」
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