第7話
80階あるというダンジョン、そこの最下層のボス部屋に
いる二人。
『さてと、我の話はこれくらいにして、このダンジョンが
できてから初めてこの部屋にやってきた二人。
その二人に敬意を表して我から贈り物がある 受け取って持って帰れ。』
そう言ってフェンリルが前足を払う様に動かすと
その前に大きな宝箱が現れた。
『神から預かりし物じゃ。遠慮はいらないぞ』
レンが目の前に現れた宝箱を開けると
「ええっ すごい!」
中を覗き込んだティエラが思わず声を出す。
中には青く輝く片手剣が2本、そして腕輪が2つ、
それに真っ青なスカーフの様なのが2つ。
レンが片手剣を2本とり、1本をティエラに渡し、
そして自分で手に取ると、
「軽い。しかも握りやすい」
「本当ね。これすごい剣よ」
「この腕輪はなんだろう?」
レンが手に持つと、フェンリルが
『それはアイテムボックスの腕輪じゃ。中の容量は無限、
しかも中では時間が止まっておる。
冒険者が長旅をする際には必須じゃろ?』
レンとティエラがそれぞれ腕輪をはめると、
腕輪は自動でサイズを調整してぴったりと腕にはまった。
『ボックスに入れたいものを触りながら念じると
それだけでボックスに転送される 取り出すときは頭の中で
取り出したいものをイメージするだけでよい』
ティエラとレンが今手に入れた片手剣を触りながら念じると
目の前から剣が消え、そして再び目の前に握った状態で現れた。
「これ、いわゆるレアアイテムだよね しかも超レアじゃない。」
「ああ、噂では聞いたことあるけど、まさか本当に存在するとは」
『ふふ、大事に使えよ。その剣と腕輪は最初に装備した者以外は
装備できない様になっておる。それから最後にそのスカーフじゃ』
鮮やかな青色をしたスカーフを手に取ると
『それは我と通じたという証じゃ。
他のダンジョンのボス部屋に行ったときに、そのボスが
我と同じ神獣のボスだった場合は、そのスカーフを身につけていると、
フェンリルとは心が通じたという証になってその
ダンジョンのボスとも戦闘をせずに話あうことができるじゃろう。
それと、そうそう、忘れておったわ。そのスカーフ、
身につけておると身体能力がアップする効果があるぞ、
体力、剣の技術、それと探索能力がアップするから
普段から身につけておくが良い。
そのスカーフも本人しか使用できない様にしてあるが、
このことは他の人間には言わぬがよかろう、
これから将来冒険者がここに来たとしても、スカーフはもう無いのじゃ。
それは一番最初にここに到達した者達のみが得られる宝物じゃ。』
興奮しまくりの二人。
「さらっと言ってるけど、これもすごいアイテムじゃないの。
じゃあ俺たちが他のダンジョンのボス部屋に行ったときに
このスカーフをみたボスは自ら話かけてくることがあるってことか」
手に持っている真っ青なスカーフとフェンリルを交互に見る
『そうなる。我ら神獣は別の場所にいても通じあっておるからの。
お主らが次にどこのダンジョンを攻略するから知らぬが、
その最下層のボス部屋に神獣がおれば、
そいつは主らを歓迎するじゃろう。
なぜならそのスカーフは神獣の加護が付与されておるからの』
「「神獣の加護?」」
また新しい言葉が出てきた。
『わしら神獣が特別な能力を付与しているアイテムのことを
神獣の加護というのじゃ。そのスカーフ、腕輪、
そして片手剣。全てに神獣の加護がついておる』
レンは早速スカーフを首に巻いてみた
隣をみるとティエラも同じ様に首にスカーフを巻いている。
「どう?似合ってる?レン」
「ああ、いい感じだ」
お互いに首に巻いたスカーフを見ながら、
「ところで…」
レンがおもむろにフェンリルを見て
「この話しは地上に戻ってギルドマスターなんかに
話ししてもいいのか?
『ギルドマスターとは冒険者の元締めのことか?』
「まぁ、そんな感じ」
『スカーフ以外のことは話ししてもよかろう。
剣や指輪は見ただけで優れ物だとわかるしな。
スカーフは見た目は普通に見えるし、そこまで言う必要はなかろう。
ギルドマスターとやらに報告するのは、
それで冒険者のやる気が上がるのなら構わんぞ』
「でも、こんな話し、ギルマス信じるかしら。証拠もないしさ」
ティエラが心配そうに言うと
『証拠か… 相変わらず人間とは面倒くさいものよの。
で、どういう証拠が必要なのじゃ?』
「そうだな、フェンリルと話ししたという証拠かな。
あとはレベルが上がってれば尚良しかな。」
『レベル、経験値ならさっき部屋に入った時に
我がもうお主らに与えておるぞ、自分で確認してみるがよい』
言われて脳内で自分のレベルを見てみると
「えええっ、LV 43になってる
私、このダンジョンに入る前LV20だったのよ」
素っ頓狂な声を出すティエラ、
「俺もLV43だ。22も上がってる」
『ふふふ、初めて最難関のこのダンジョンの
最下層まできたお礼じゃ。それにこれから他のダンジョンに
挑戦するにもある程度のレベルは必要じゃろう?』
「ありがとう!」
ティエラは丁寧にフェンリルに一礼してお礼を言うと
『あとは証拠じゃな、そうじゃな、では』
と言ってからフェンリルが一声吠えると、
足元にフェンリルの大きな牙が4本落ちた
『これが証拠になるじゃろう。フェンリルの牙4本、
持って帰るが良い』
足元に落ちたフェンリルの牙を拾い、
「これって1本でも相当高価なものよ、
それが4本もなんて」
「いいのかよ?これもらって」
『持って行きなさい。我はほらっ、
もうちゃんと4本生えておるしの』
確かにいつの間にかフェンリルの牙が綺麗に生えそろっていた
「ありがとう。じゃあ、遠慮なく。ティエラ、
とりあえず4本、俺のアイテムボックスに収納しておくぜ。」
言いながらレンは自分のアイテムボックスに
フェンリルの牙x4本を収納した。
『さて、そろそろお主らを地上に戻してやるかの』
いつの間にかボス部屋の隅に魔法陣が形成されていて、
そちらに顔を向けて、
『それに乗るとこのダンジョンの1階の入り口近くまで行けるので、
それを使って帰るのじゃ我は再び次の挑戦者を待つとしよう』
「ずっとここで待ってるの?」
『ふふ、時々外にも出ておるぞ、ひょっとしたら
今度は地上でお主らの前に現れるかもしれんぞ』
「そん時はまたいろいろ教えてくれよな。じゃあ世話になった。
俺たちは行くよ。ギルドマスターにはちゃんと
言えることだけ報告しておく。ありがとう」
「どうもありがとうございました。また地上で会いたいね」
二人して一礼してから魔法陣に乗れば、
魔法陣がすぐに光り輝いて、そして二人の姿が消えていった
『素直な人間達じゃ。このまま真っ直ぐ成長してくれれば
また会うこともあるだろう。
いや、こっちから会いに行きたくなる程の二人だったな、ふふふ』
そしてフェンリルはボス部屋の奥の場所で座って
ゆっくりと目を閉じていった。
魔法陣が解けるとそこはダンジョンの1階の階段側で、二人で地上に上がると
入り口の警備員が
「おかえり、帰りもここにカードを当ててくれるかい」
言われるままに二人カードを当てて退出記録を残してから
お疲れさんという声を背中に聞きながらダンジョンを離れていく
「まだこんな時間か…一気にベルグードの街まで行くか。いいかな?ティエラ」
「いいわよ、レンの街のギルドに行って報告しましょ。それから美味しいものが食べたい」
「そうするか」
真っ青なスカーフを首にまいた赤魔道士の二人が並んでグラードの街に向かって
歩いて行った。
ベルグードの街につくとちょうど夕刻で
ギルドもその日のクエストを終了した冒険者の連中が報告するためにギルドに
集まっていて混んでいた
「私がいた街よりも大きいね。ギルドも立派だし」
「そうなのか」
二人で話ながらギルドに入ると中にいた冒険者連中が視線を飛ばしてくる
レンはこの街で赤魔道士として活動していることはある程度知られているが
今日はその視線はレンの隣にいるティエラの方に飛ばされていて
「いい女連れてるな」
「あんな美人、このギルドにいたっけ?」
「ひょっとして彼女も赤魔道士か?」
周囲から聞こえてくる声を聞きながら、まぁ、俺が見ても美人だし、
それにスタイルもいいしな…そう思いながら、
声が聞こえてくるのを無視して並んでいると、
既にギルド内の酒場で出来上がっていた冒険者の一人が近づいてきて、
「よう、出来損ないジョブのレンじゃないかよ。今日もゴブリン退治かよ?ククク
出来損ないのくせにいい女連れてるじゃないかよ。オメェには勿体無い女じゃないの
こんないい女はお前じゃなくて俺みたいなCクラスの戦士様に相応しいんだよ。」
「レン、なんなのよ、この男」
黙っていたティエラだか、怒りで顔を赤くしながらレンを見ながら言うと、
「よくいるじゃないか、弱い犬ほどよく吠えるってさ」
「テメェ、出来損ないジョブのくせに」
言うやいなやギルドの中だというのに怒声を吐きながら
両手斧を背中から抜いて振り下ろそうとする男に
レンは左手を上げて
<<サンダー>>
かなり抑えて発動させた精霊魔法一発で戦士はその場で
崩れ落ちてしまった一瞬でシーンとするギルド内、
その中で床に崩れ落ちてピクピクしている男を見ながら
「本当に弱い犬ほどよく吠えるのよね でも弱すぎじゃない?この戦士」
笑いながらティエラが言うのを聞きながら自分で思ってた以上の威力の魔法が
打てたことに実はレンはびっくりしていた。レベルが上がる、スキルがあがると
こうも違うのかと…
「おいおい、ギルド内での暴力行為は処罰の対象だぞ」
大声と共にギルドカウンターの奥から大柄な男が近づいてきた
「ん?君は赤魔道士のレンか。一体どうした?」
近づいてきた男を観察するレン。この男は強い、多分元冒険者だろうと
見ているとカウンターの中からギルドの犬族の可愛い受付嬢が
「マスター、わたしは見てました。この床に倒れている戦士が最初レン君に絡んで
ここで両手斧を振りかざしたのでレン君が魔法で倒したんです。
悪いのはレン君じゃなくてこの倒れている方です
しかもこの倒れている人はレン君に向かってひどいことを言ってました。
出来損ないジョブだって」
「そうなのか?」
周囲に確認すると何人かの冒険者が
「その通りだ。」
「彼は正当防衛よ」
という声がして、
「わかった。こいつは起きたら俺の部屋に連れてきてくれ。しっかり説教してやる。
その前にレン、そして一緒にいる彼女。一応話を聞きたいからこっちに」
言うなり背を向けてカウンターの奥に歩き出すギルマス。
一瞬目を合わせたレンとティエラはその背中を追う様にしてカウンターの奥に進み
応接室の1つに入っていった。
プロローグが終わりました
これから不遇ジョブ二人の冒険が始まります。