第69話
そしてその部屋に入ると、奥の壁の前には
このダンジョンの主であるフェンリルの他に
シヴァ、リヴァイアサン、イフリートの4体の神獣が
レン達を待っていた。
背後で扉が閉まると
『久しぶりじゃな。そして見事じゃ。
我のこのダンジョンを1階からここまでクリアしてきた。
称賛に値するぞ』
『レンとティエラ、ご苦労様。フェンリルが言ってるけど
本当に見事でしたよ。正直レベル80以上ないと攻略が難しい
かと思ってたけど、貴方達には関係なかったみたいね』
『我のダンジョンをさっくりクリアした時から
恐らくはとは思っていたが、これ程までの短期間で
クリアするとはな。』
『我らの神獣の加護も持て余さずに上手く使って
おったの。それにしても本当に強くなったものじゃ』
4体の神獣が口々にレンとティエラを褒めるのを
二人は神獣達の前に立ったまま黙って聞いていた。
『どうじゃ?このダンジョンの手ごたえは?』
フェンリルが二人の前をゆっくりと左右に動きながら問うと、
「正直、70階以降は楽じゃなかった。
このダンジョンは70階から、魔族の領土を想定して
ダンジョンを作り、76階からは魔王城を想定して
作ってあるんだろう?」
レンの問いに4体の神獣が頷く
『その通り。来るべき時に備え、ここでしっかりと
経験を積んでもらう目的じゃ』
隣でティエラがやっぱり…という顔をしている。
「ということはここをクリアできない冒険者は
魔王城に行っても生き残る確率が低いって事だな」
『そうなるわね。レンのその理解で正解よ。
逆に言えばここをクリア出来たのなら、魔王城に行っても
十分戦力になるってことね』
レンの言葉を聞いたシヴァが説明する。
『貴方達はクリアできたので、魔王城に行っても
十分に戦力になるわよ』
面白そうに言うシヴァに
「でもクリアはしたけど結構苦戦しました。
特に最後のフロア。相手が魔法をレジストする
自己強化魔法をかけてると私達の魔法も
余り通らなかったです」
今までの戦闘を思い出しながらティエラが説明すると
『剣の力も、もう少しあればもっと楽に倒せる、
そう思っただろう?』
イフリートの言葉に頷く二人。
『そうなると思って、我らがここでお主らを
待っていたのじゃ』
「と言うと?」
『我ら4体の神獣でお主らの武器や防具を更に
強化してやろう。今使っている片手剣をここに
出すのじゃ』
イフリートの言われるままに
4本の片手剣を目の前にある小さな石のテーブルの
上に置く。
『フェンリルの剣、刃こぼれ一つしてないな』
剣を見ながらリヴァイアサンが言うと
『当たり前じゃ。我の剣がそんななまくらな
訳がなかろう』
そうしてテーブルの上に置かれた4本の剣の
周りを取り囲む様に4体の神獣が立つと
暫くして4本の剣が淡い光に包まれ
そしてほどなくして光が消えた
『これで終わりじゃ。この4本の剣は、
そうじゃな、今までの約2倍の能力が付与されている
と考えてよいぞ』
「「2倍も?」」
『約2倍じゃ。実際はもうちょっとある筈じゃ。
重さは変わらずに能力を上げておる。剣の切れ味
魔法の威力、全てが従来の能力の2倍以上上昇しておる』
「それって凄いよ、レン。魔法をレジられる
事もなくなるんじゃない?」
「それに格上の相手でも剣を交える回数が
減って討伐が楽になる」
フェンリルの説明を聞いてレンとティエラが興奮して
話しする。
『まだ終わりじゃないわよ。さぁ、二人ともこちらに来て』
シヴァに言われて前に出ると今度はレンとティエラを取り囲む様に
4体の神獣が囲んで…二人の身体が淡い光に包まれた。
『これはね、今まで貴方達に付与してきた全ての加護の効果を
アップさせたの。身体能力が今まで以上にアップしているわ。
それと、身替りの加護…リキャスト時間が短くなってるわ。
具体的には言えないけどね』
余りの好待遇に二人戸惑っていると、リヴァイアサンが
『我らはいつもお主らを見ていた。ダンジョンやフィールドでの
振る舞い。戦闘時以外の街の中での振る舞い。
全てを見て、お主らにはその資格があると判断したのじゃ。
だから気を遣う必要はないぞ。お主らは我らの最大級の加護を
持つに値する人間なのじゃ』
『何度も言うけど魔王は強いわよ。近い将来に
登場するであろう勇者の質、能力が分からない今
私達は確実に魔王と勝負できる人を押さえておく必要が
あったのよ。貴方達から見たら神獣の身勝手な行動と
思うかも知れないけれど、この世界を守るためには
どうしようもない事なの。そこを理解してくれるかしら』
シヴァの言葉に顔を見合わせてからティエラが代表して
「わかりました。神獣様に選ばれた事は正直嬉しいし
光栄に思っています。そして魔王討伐はあくまで
勇者と呼ばれる人とその一行で、私達が万が一の時の
控えだというのもわかっています」
そこで一旦言葉を切って、
「勇者が魔王を討伐してくれればよし、そうで
無かった時のためにレンと二人でその時まで冒険者を
続けながら鍛錬に努めます」
ティエラの言葉に4体の神獣達が満足気な顔をして
頷く。
暫くの沈黙の後、
『このダンジョンもクリアしたお前たち、
これからどうするつもりだ?何か考えている事はあるのか?』
聞いてきたフェンリルの方を向いて
「取り敢えずこのダンジョンの70階から79階の間の
魔人領と魔王城のダンジョンでLV80を目指してレベル上げを
するつもりだ。もちろん、その間にギルドから頼まれた
クエストなんかもこなしていくだろうけど」
『ふむ。それではレン、お前たちが鍛錬しやすい様に
79階だけ今いる魔獣、魔人のレベルを上げて
やろう。その方がお前たちの鍛錬にもなるだろう?』
「それは助かる。こうやって能力をアップしてもらって
剣や防具も強化してもらったこの身体をなじませるのには
格上と戦闘をするのが一番だからな」
レンとティエラにとっては願ってもない提案だった。
他の神獣達も それはいいアイデアだと頷いている
『78階までは今まで通りじゃ。新しい武器や防具を
そこでなじませてから79階に挑戦するがよかろう』
『なんだかんだ言ってもね、このフェンリルが
一番レンとティエラのことを気にしてるのよ』
「「ありがとう」」
『さて、与えるべきものは与えたし、我らはこれで
消えるとするか。レンとティエラは知ってるな、
この奥にある転送版に乗ると戻れるって』
頷く二人
『逢いたくなったらいつでも来なさい。
私達は貴方達ならいつでも大歓迎だから』
「ありがとうございます。ではこれで今日は失礼します
また会えるのを楽しみにしています」
ティエラが礼を言い、転送版に乗って
二人は地上に戻っていった。
『あとは勇者か…何代か前にあったが、あの時の様に
とんでもないのが力を持たなければよいが』
『ふふ、もし仮にそうなっても今回は大丈夫でしょ。
彼らがいるから』
そう言って、消えていったばかりの転送版をいつまでも
見つめている4体であった。
レン達が地上に戻って受付のギルド職員に報告するのを
聞いていた冒険者達はレン達が80階クリアしたのを
聞いてウォーと一斉に声を上げて二人に近づいてくる。
「凄いじゃないかよ、本当に正攻法でやっちまったのかよ」
「もうお前らより強い奴ってこの国にいないんじゃね?」
もみくちゃにされた二人は冒険者達から解放されると
テレポリングでベルグードの街に戻っていった。
翌日になるとレンとティエラの80階正面突破からのクリア
の話はギルド中で話題になっていって
二人がギルドに顔を出すと、再び周囲からもみくちゃに
されてしまった。
ギルドの職員が総出でなんとか二人を助け出して
そのままギルマスの待つ応接に通された。
「南のダンジョン、正攻法で80階クリアしたらしいな」
部屋にはいるなり手を差し伸べてくるギルマスと
握手してソファに座る。
「お前達以外で最も攻略が進んでいるパーティ
これは5人組だが、それでもまだ40階に到達
していない。かたやお前らは二人で80階到達だ。
これで名実ともにうちのギルドのNo.1冒険者になったな。
どうだ? その気があればランクSにしてやるが?」
これにはティエラが
「前にも言いましたけど、ランクSに全く興味ないから。
お国の為? 貴族の為?まっぴらごめんですから」
またこの話かと言わんばかりの強い口調で否定する
ティエラを横に座っているレンがうんうんと頷いている。
「そう言うと思ったが、俺も立場上一応聞かねばならないんだよ。
お前らの気持ちが変わってないのはわかった。この話は
これで終わりだ。」
そう言うとソファに座りなおしたギルマスのアンドリューが
「ところで、どうだった?あのダンジョンは? 差し支えの
ない範囲で教えて貰えないかな? ああ、大丈夫だ
他の冒険者には言わない。
あくまで俺が知りたいだけだから他意はない。」
ギルマスの言葉に二人顔を見合わせてから、おもむろにレンが
口を開いて、
「70階までは普通のダンジョンだ。敵が徐々に強くなっていくだけ
だけど。」
アンドリューは黙って次の言葉を待っている。
「70階から79階までは、魔人領の領地を再現したダンジョン
になっている、特に最後は魔人城の中を再現していて、
魔人のランクもSからSSまで存在している」
「魔族の領地や魔人城の再現だって? ってことは?」
アンドリューの言葉にレンが続ける
「ギルマスの想像通り。魔王討伐を前提として作られた
ダンジョンだ」
「…なるほど。これこそ本当の試練の場じゃないか」
独り言の様に呟くアンドリューに今度はティエラが
「クリアして80階までいくと、このダンジョンの主である
フェンリル、それ以外に今まで私たちが逢ってきた全ての
神獣がいました。その場でレンが確認したんですけど、
フェンリルは魔族の領地、城を再現したダンジョンだって
認めてました」
レンとティエラの報告を聞いていたアンドリューは
暫くソファに座って天井を見ていて、おもむろに
二人を見て
「ということは、あのダンジョンをクリアできない奴に
魔王を倒すことはできないってことか」
「いや、そうじゃない」
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