第63話
一方、レンとティエラはテレポリングで砦の近くまで
飛んでから徒歩で砦に向かう。
入り口の門に立っている警備兵に領主の手紙を
見せて取次を頼むと、しばらく待たされてから
砦内に案内された。
部屋に入るとすぐに2人の男女の騎士が入ってきて
手を差し出しながら、
「よく来てくれた、私は今この砦の隊長を
やっている。レオンだ。そしてこちらは
副隊長のソリア」
「よろしく」
二人と握手して部屋の椅子に座る。
「君らのことは前任者の引継ぎでも聞いている。
南のマッピングをしてくれたそうだな。
助かったよ」
隊長がお礼を言うと
「いえいえ、領主様からの依頼でもありましたし。
それとこれ、差し入れです」
ティエラがアイテムボックスからベルグードの商店や
露天で買ってきた食料品をテーブルに並べていくと
「これは有難い。単調な食事が続くと飽きるからな。
遠慮なく頂こう」
隣のソリアも
「ありがとう。隊員たちも喜ぶわ。」
ひとしきり挨拶が終わると
「ところで領主からの手紙を見た。
君らが東の森に現れた魔人の討伐と調査を
してくれるということでいいんだな?」
「その通り。領主様からは魔人の討伐及び
その発生源の究明と予防を言われている」
レンが説明すると
「領主のレターにも書いてあったが、
君らはランクAでベルグードでもトップの
冒険者との事だ。魔人退治はできるとしても
発生源の究明、その予防はできるのかい?
いや、すまない。出来るのかい?という言い方は
間違ってるな。何か原因の予測や予防のあては
あるのかい?」
「魔人はたまたま今潜っているダンジョンでランクS
の魔人を相手にレベル上げしているので問題ないと
思います。発生源については実際現地に行かないと
分かりませんが、恐らく瘴気が溜まっている場所が
あるはずで、そこが発生源じゃないかと。
場所が分かればそれを予防するのは難しくはないので」
ティエラの説明に今度はソリアが
「難しくないって具体的にどうするの?」
「瘴気が溜まらない様にすればいいだけですね。
例えば周囲に土魔法で壁を作ったりもできますし。
あとは場所が分かれば教会にお願いしてその場所を
浄化してもらう手もありますし」
「なるほどね」
「教会の人がここまで来られるとしても直ぐじゃない
でしょうから、当面の措置で瘴気を溜まらない様に
若干地形変更するのが良いかと思います」
ティエラの丁寧な説明にレオンとソリアも納得する。
「それでこれからの行動予定を聞かせてもらえるか?」
それにはレンが答える
「今日はここで1泊させてもらいたい。
明日の朝に東に向かって出ていって
そのまま仕事が終わるまで帰ってこない。
解決した時点でこの砦に戻ってくる。
もちろん、緊急事態があったらテレポリングで
直ぐにここに戻ってくるつもりだが。」
話を聞いた隊長が二人を交互に見ながら
「わかった。ただ領主の手紙でできるだけ
二人に協力してやってくれと書かれているので
内の兵隊から何人かを同行させたいのだが
構わないかね?」
レンとティエラは顔を見合わせたあと
「魔人の討伐は俺とティエラに任せてもらいたい。
それがOKならこっちは問題ない」
「わかった。討伐は君らに任せよう。
こっちからは副隊長のソリアと部下2名、都合3名を
出す。ついでに馬車もだそう。移動が楽になるだろう?」
「それは助かりますね。」
「ではこれからソリアが君らを部屋に案内する
夕食時に声かけるから隊員達と一緒に食べてくれ。
最近のベルグードの話なんかをしてくれると
助かる」
砦の騎士との面談が終わり、与えられた部屋で
くつろぎ、夕食に参加すると
隊員からベルグードからの差し入れの礼を言われ
その後はベルグードの様子について主にティエラが
説明していた。
レンはそういうゴシップ系の話題に
ついていけないので黙って食事をとるだけだった。
翌朝、門の前に馬車が1台停まっており、その前に
副隊長のソリアと騎士の男女1名づつが立っていた
レンとティエラが近づくと
「おはよう。昨日は色々話してくれてありがとう。
今日からしばらくよろしくね。
一緒に東に行くメンバーを紹介するわ。昨日の夕食時
に会ったと思うけど改めて。
こちらがリル、その隣がリンツよ。」
お互いに握手をすると
「じゃあ、早速行きましょうか」
馬車の御者はリンツがするとの事で
残り4人は馬車に乗り込んで東を目指す。
「ところで東で見つかった魔人だけど
どうやって見つけたんだい?」
ガタガタと揺れながら進む馬車の中で
レンが騎士に聞く
「この砦の目的は知ってるよね?
あくまで南の魔族の国の動向を探るために作られて
いるって。その南だけど、レン達が以前来た時に
マッピングしてくれて、それなりの地図が
出来上がっているの。それに引き換え東の
ミッドランドとの国境沿いは高い山があることも
あって、マッピングが進んでいなかったの。
それでも少しづつマッピング作業はしていたのね。
で、この前砦から6名程マッピング目的で
東に向かって行った時に魔人を見かけたって訳。」
「なるほど」
ソリアが説明すると、隣に座っていたリルが
「私とリンツはそのメンバーだったの。砦から
東に進んで2日目の午後に東に向かって右側の
森に魔人がいるのを見つけて、気付かれない様に
砦に戻ってきたの」
「それで今この馬車はその森を目指しているってことか」
「でもどうして魔人は砦を襲ってこないのかしら?」
ティエラが思ったことを口にすると、
「恐らくだけど、そこに砦があることを知らなくて
森をあてもなく彷徨っているか、あるいは
仲間の魔人を待っているかのどちらかだろうな」
レンが思っていたことを言う
「仲間?」
聞き返したソリアの方を向きながら
「そうだ。仲間。魔人が1体だけとは限らないだろう?
その瘴気溜まりから別の魔人が出てくるのを待っている
かも知れない」
「なるほど」
「あくまで推測だけどな。現地に行ったら
何かわかるだろう」
馬車は何事もなく東に進み
初日の夜はいつも騎士達が野営する同じ場所に
キャンプを張った
翌朝今度はリルが御者となり馬車を東に走らせていく
午後になり、御者席からリルが
「そろそろ右側に森が見えてきます」
と馬車の中に向かって声をかけると
「じゃあここで止めてくれ。ここからはティエラ
と二人で探索してくる」
馬車を止めさせて砦の騎士達には
ここで待つ様に指示してから
レンとティエラは探索スキルを使用しながら
東に歩きだすと暫くして右手に森が見えてきた。
事前の作戦通りに森が見えてくると右と左に
分かれて距離を取りながらまずは森の周囲から探索し
それから森の中に入っていく。
『何か異常あるか?』
『今のとところ異常無し』
念話で会話をしながら森の探索を進めていると
レンの探索スキルに反応が
『右前方で魔人発見、1体、ランクSだ
周囲に他の魔人は見えない。取り合えずこいつを倒す
ティエラは引き続き探索を頼む』
ティエラの了解の返事を聞きながら既にレンは
動いていた。
見つけた魔人の周囲に他の魔人や魔獣が
いないことを確認すると隠れることなく、でも
音は立てずに背後から魔人に向かって歩いていく。
そして20メートルほどに近づいたとき、
こちらの気配に気づいたのか、魔人が振り返った。
(やっぱり魔人気配感知は20メートルか)
こちらを向いた魔人は片手剣を掲げながら
「ニンゲンカ、コロス」
(言葉も話せるのか)
「殺されるはそっちだろう?」
「オマエタチハ オレノテキジャナイ オトナシクシネ」
「大人しくなんてしてられるかっていうの」
突撃してきた魔人の動きを見極めるレン
振りかざしてきた片手剣をあっさりと躱すと
すれ違いざまに脚で魔人の身体をキックして
弾き飛ばす。
「キサマ…コンドハ ハズサナイ」
蹴り飛ばされて木にぶつかった魔人が
怒り狂った様に無茶苦茶に剣を振り回しながら
レンに向かってくるのを冷静に見極め
力任せに振り回す剣を避けてから
魔石があると思われる首の付け根辺りに
片手剣を突き出した。
耳を防ぎたくなる大声を上げて
魔人が地面に倒れる。
「たいしたことなかったわね。
ダンジョンのと同じ位かそれ以下じゃない?」
いつの間にか傍にきたティエラが倒れた魔人から
魔石を取り出すレンの作業を見下ろしながら言うと
「ダンジョンの方がもう少し手ごたえが
あったかもだな。切り刻んでも良かったんだけど
1匹きれいな姿でもって帰った方がいいだろうと
思ってさ」
魔石は他の魔獣よりは少し大きい程度で、
レンの片手剣が刺さった部分が傷ついていた。
取り出した魔石と魔人をアイテムボックスに
放り込んでから立ち上がり、
「これ1体だけか」
「そうみたい。あとはこの森にいいるのは
ランクAとかBの雑魚の魔獣ばかりよ」
二人にとってはランクAは既に雑魚にまで
成り下がっている。
「一旦馬車に戻って今度は瘴気溜まりを探すか」
森から出て停まっている馬車に近づくと
周囲に立っていた騎士達がレン達に気付いた。
「森の方から叫び声が聞こえてきたけど
無事討伐できたの?」
ソリアが近づいてくるレンに言うと
「魔人は1体だけだったな」
言いながら地面に倒したばかりの魔人の
死体を出す。
「これが魔人か…強かった?」
「ランクはSだけど、そうでもなかった」
「結構大きいわね」
「人間の言葉をしゃべったぜ」
「本当?噂には聞いてたけど本当に話せるんだ」
ソリアとリル、リンツは地面に置かれた魔人を見ながら
感心している
「それでこれからどうするの?」
魔人を再びアイテムボックスに収納すると
レンは
「取り敢えず森に沿って進んでくれ。
瘴気溜まりを探しながら森にもう魔人が
いないかどうか確認する」
レンの指示通り、馬車は再び森に沿って
進みだした。
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