第62話
ベルグードに戻ってギルドに報告に出ると
ギルドカードを預かりながら受付嬢の
キャシーが
「ギルドマスターが待っています。奥にどうぞ」
と二人をいつもの応接に案内していく。
部屋に入ってしばらくすると
ギルマスのアンドリューが部屋に入ってきて
「悪いな。呼び出して」
「いえいえ、で、何でしょうか?」
ティエラがギルマスの顔を見ながら言うと
「領主が明日、お前らに会いたいそうだ。
俺も一緒に行くから明日の朝、時間を
作ってくれるか?」
「領主が俺たちに?何の用事だろう?」
レンは思い当たる節がないと首を振り、
ティエラも顔を斜め上にあげて何の
ことだろうというポーズをしている。
「詳しいことは俺も聞いてないんだ。
子供の使いみたいで申し訳ないが
明日の朝、お願いできないだろうか」
「明日は元々休養日にする予定だったし
こっちは二人とも大丈夫だ」
「そうか!助かる。じゃあ明日朝
ここに来てくれ、ギルドの馬車で領主の
館に向かう」
ギルドを出て家に戻ってから
二人で一体何のことだろうと話しあったが
思い当たることはなく、何となく
モヤモヤしたまま夜を過ごした。
翌日朝にギルドに行くと、ギルドの前に
馬車があり、アンドリューと一緒に
乗り込んで市内を移動して領主の館に向かう
「一体何が起こったんだろう?全く
思い当たる節がないんだけど」
「面倒な依頼ごとじゃなかったらいいけどね」
そんな話しをしていると領主の館の前について
馬車を降りて3人で館に入っていく。
いつもの執事が扉を開けて待っていて
そして領主の部屋に案内されると
机に座っていたヴァンフィールドが
ソファに移動してきた。
「朝からすまんな。この時間しか空いてなくて
無理言った」
謝りながらソファに座ると
挨拶もそこそこに、
「悪いがテレポで南の砦に飛んでくれんか?
あのあたりに魔人が出たという連絡が
砦から入ってきた」
「魔人が出た?」
この情報はギルマスも知らなかったらしく
アンドリューが素っ頓狂な声を出す
「その魔人はどこから来たんだ?南から
山脈を越えてきたのか? 魔人は1体だけ?」
レンが立て続けに領主に質問していく。
「いや、俺も詳しいことはわからない。
魔人が何体出たのかも不明でな。ただし
砦からの報告だと魔人は東の方面から
出てきたらしい。まだ砦には攻撃してこずに
近くの森にいるらしいが」
「東ってミッドランドの方?」
ティエラが頭の中で地図を思い出しながら言うと
「方角的には合ってる。ただミッドランドから
来たのか、俺の領地で沸いたのか、そのあたりは
不明なんだ。それも調査してもらうと助かる」
一気にしゃべると喉が渇いたのか
領主のヴァンフィールドはテーブルの上に置かれた
果実汁をグイッと飲んで、
「この前の話しだと、あと20年くらい後に
魔王が復活するっていう事だったから、魔人が
こっちに現れるのはその5年位前かなと思ってたら
いきなり現れやがったんだよ」
アンドリューがレンの方に顔を向けて
「レン、魔人と戦闘したことはあるのか?」
「ちょうど今南のダンジョンで魔人が登場する
フロアでティエラと攻略中だ」
「どうだ?勝てそうか?」
「そうですね。魔人のランクがSなら
今ダンジョンで相手をしているレベルなので
レンと二人なら問題なく倒せますね。
ランクSより上の魔人とはまだ戦闘していないので
その強さがわかりませんが」
ティエラの言葉にアンドリューが
「ランクSなら問題なくいけるとか
普通に言うんだよな。まぁ規格外のお前ら二人
だからその通りなんだろうけど。」
「アンドリュー、他の冒険者達じゃ無理か?」
「無理だな。ランクAが何人揃っても
まず無理だ。いたずらに犠牲者を出すだけだ」
領主の問いに即答するアンドリュー
「となるとやっぱりお前ら二人に頼まざるを
得ない。悪いが二人で砦に飛んでそれから
近くの森で魔人を退治してもらいたい。
できれば魔人がどこから来たのかもわかれば
頼む。」
頭を下げる領主に
「わかりました。レンと行ってきます。
ギルマス、これはクエスト扱いでいいんですよね?」
アンドリューの方を向いて問うと
「ああ、領主のクエストということで頼む。」
「じゃあ早速行くか。」
「うん」
「すぐに発てるのか?」
「常にアイテムボックスに必要なものは入れてる
からこのままいける」
レンが言うと領主が
「ちょっと待て、砦に手紙を書くからここで待っててくれ」
そう言うと領主のヴァンフィールドが机に戻って
手紙を書き始める。それを見ながら、
「でも魔人が突然現れるなんて、どうなってるのかしら」
ジュースを飲みながらティエラが独り言の様に言うと、
「多分東のどこかに瘴気溜まりができてるんだと思う。
何かの拍子にそれが濃くなって魔人が沸いたんじゃないかな」
レンが答える。
「レンの言う通りだとしたら、沸いたのは1体だけに
なるね」
「ああ。でも放っておくとその瘴気溜まりからまた
別の魔人が湧くかもな。そこを元から断たないと
ダメだと思うぜ」
黙って聞いていたアンドリューが口を開いて
「神獣の言っていた瘴気溜まりか…
お前らが情報を持っていたおかげで助かるよ。
その瘴気溜まりってのは見つけられるのか?」
「わからない。多分俺たちの探索スキル上には
現れてこないと思うけど。まぁやってみるよ。」
手紙を書き終えた領主のヴァンフィールドが
ソファに戻って丁寧に封印された手紙を
受け取ってアイテムボックスに入れて
「魔人が沸いたという情報を知っているのは
砦の連中の他にはここの4人だけだ。今
魔人の情報を開示すると混乱を招く恐れが
あるから口外禁止で頼む」
「「わかりました」」
領主の館を出て、商業区に戻る馬車の中で
「クエスト依頼票は俺の方で作っておく。
内容が内容だけに掲示板に張り出すことはできない
からな。それにしても妙にクエストにこだわっていた様に
見えたが?」
ギルマスの問いにティエラが
「冒険者として活動するのはいいんです。でも
領主様や貴族の御用達になる気はないので。
あくまでギルド経由の依頼ってことでお願いします」
「俺たちは冒険者のままでいたいんだ。
だからランクSとかやらにも興味は全くない。
このベルグードで冒険者を続けられればそれでいい」
レンがフォローする。
「なるほど。確かにランクSになれば国やら貴族やらの
案件絡みが多くなるよな。ベルグードにずっといてくれる
というのは俺にとっては有りが立ち事なんだが、
お前らは本当にランクSになる気はないのか?」
レンとティエラが頷くのを見て、
「お前達の気持ちは分かった。ところでどうする?
一旦家に戻ってから出かけるのか?」
ゆっくりと市内を進む馬車の中で
アンドリューが二人を見ながら言うと
「一旦家の前で下ろしてください。
あとは装備確認したら勝手に行ってきますから」
自宅の近くで馬車から降りて家に戻り
最終の装備、準備の確認をしてから
砦の騎士達への差し入れを買って、
そのまま門から外に出てテレポリングで砦に飛ぶ。
一方、レンを自宅前でおろしたアンドリューは
御者にもう一度領主の館に向かう様に指示した。
再び領主の部屋で向かい合った旧友の二人は、
「なるほど、ずっと冒険者を続けたい。ランクSに
上がる気は全くないって言ったのか」
領主のヴァンフィールドの言葉に、
「その通りだ。このベルグードからランクSが出ないのは
ギルドとしては残念な気もするが、それ以上に
あいつらがこの街でずっと活動してくれる方が
トータルメリットはでかい。」
頷く領主にアンドリューは続けて
「とは言え、彼らをこの領内の問題解決に
毎回毎回頼んで無理強いさせない様に気を付けないとな。
今は快く受けてくれてるが、余りに続くと
嫌気がさしてフラッと出ていっちまうかもしれん」
尤もだという顔をしながら領主が
「あれ程の人材、そう簡単に現れるとも思えんしな。
冒険者なんて浮き草稼業だし、その気になったら
いつでも出ていける身軽さはある。
基本は好きにさせといて、今後はどうしてもという時に
のみお願いするか。」
「それがいいと思う。奴ら程じゃないが、
そこそこ優秀なのは育ってきているしな」
領主とギルドマスターの話はその後も
暫く続いていた。
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