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第60話


 翌日、自宅でくつろいでいると

玄関をノックする音がし、ティエラが出ると

玄関先に2人の30過ぎに見える冒険者風の男達が立っていた

ティエラを見ると軽くお辞儀をして


「突然すみません、こちらランクAのレンさんと

ティエラさんのご自宅ですか?」


「そうですけど」


「初めまして。俺たちは王都の冒険者ギルドに

所属してる冒険者。俺がサイモン、こちらがエステバン」


「は、はぁ」


 ティエラが間の抜けた返事をしていると


「王都からわざわざ来たのなら上がってもらったら?」


 背後から玄関に来たレンが声をかけて、

ティエラ越しに二人を見て


「狭い家ですが、よかったらどうぞ」


「ありがとう。では遠慮なくお邪魔します」


 家に上がった二人をリビングのソファに座ってもらって

ティエラが果実汁のジュースをテーブルの上に置き

二人に向かい合う様にレンとティエラが座る。


 ジュースをグイっと飲んだサイモンがグラスをテーブル

の上にそっと置いてから二人を見て


「いきなりお邪魔して失礼した。仕事でベルグードに

来たので、この街のNo.1の冒険者と言われている

お二人に挨拶しようと思ってね。


 改めて自己紹介させて貰う。俺はサイモン、

剣士。そしてこちらがエステバン、精霊士。

二人ともランクSの冒険者をやってる。」


「エステバンです。よろしく」


 その言葉にティエラがびっくりして


「ランクS?」


 その言葉にレンはやっぱりという顔をして


「今この国で唯一のランクSの冒険者。ジョブは

剣士と精霊士と聞いていたけど、あんたたちが

そうだったのか」


「俺たちのことを知っていてくれたのは光栄だね」


 レンの口調に合わせてSランクのサイモンの口調も

砕けてくる。


「唯一のランクSの冒険者が有名じゃない訳がないだろう?

もっとも普段は国王や貴族の仕事をしているから

めったにギルドにも顔を出さず、その素顔を

知っている人は少ないって聞いてたけどな」


 笑みを絶やさずにレンの話を聞いている二人


「別に素顔を隠してる訳じゃないけど国王というか

国の仕事をしてあちこちに行ってギルドに顔を

出してないのは事実だな。」


 エステバンがレンの顔を見ながら答えると、


「その多忙なお二人がまた何で私達の家に?

挨拶だけって訳じゃないんでしょ?」


 ランクSと聞いた軽いショックから立ち直った

ティエラが思ったことを言うと、


「半分は本当だよ。以前から君たちのことは

聞いていてね、一度会いたいと思ってたんだ。

ダンジョンの秘密や上位転生の仕組みを見つけ、

神獣の加護をいくつも持っている赤魔導士、

いや今は魔法剣士か。王国中で名前が知れ渡っていて、

今やランクAでベルグードNo.1の冒険者。一体どんな人か

興味が湧くのは当然だろう?」


「で、残りの半分は?」


 サイモンの言葉にレンが続けて聞くと

サイモンは頷いてから


「神獣の加護をいくつも受けてる冒険者が

どれ程の力を持ってるか、模擬戦を

してもらおうと思ってね」


「どうやらそっちが本音みたいだな」


「わかるかい?というか冒険者なら

わかるよね?強い相手と戦いたいって気持ちは」


「強いったってそっちはランクS、こっちは

ただのランクAだよ?」


 レンとサイモンのやり取りを聞いていた

エステバンが


「ただのランクAならサイモンもここまで

言わないよ。君たちが今までやってきたこと

僕らが聞いているだけでも相当なことを

当たり前の様にしてきている。

最近ではナスコのレア種討伐とかね。」


「でも、あれは弱かったよね」


 ティエラがレンを見ると、


「確かにあれは弱かった」


「俺たちは実際に戦ってないから、強さは

知らないけどさ、でもそういうことなんだよ。


強さが???表示だっただろう? そういう

レア種を其の場で簡単に討伐できる冒険者は

なかなかいないよ。たいていはやばそうなのを

見つけると一旦戻って、それから

大人数で討伐するものだからね」


「なるほど。そういうものなんだ」


 今までその場で討伐してきたティエラには

エステバンの説明は新鮮に聞こえてくる。


「別にこっちは君たちに喧嘩を売ってるわけでも

何でもなくて、純粋に強いと言われている

冒険者と鍛錬をしたいのさ。それが自分たちの

成長にもつながるしね」


「そういうことなら是非にお願いしたい。

ランクSの冒険者と模擬戦なんてお願いしても

なかなかできることじゃないしな」


「そうかい、受けてくれるかい。ありがとう。

エステバンは精霊士なので、模擬戦は僕一人に

なるけど、そっちはどうする?」


 サイモンがレンとティエラを交互に見る。


「レン、挑戦してみたら?」


「いいのかい?」


 ティエラの同意を得てレンが相手をすることに


「場所だけど、ギルドの鍛錬場だと目立つよな」


「じゃあこの裏庭はどうだい?ギルド程広くは

無いけど、模擬剣を振り回すには十分な広さがあるぜ」


 二人を裏庭に案内すると


「こりゃいい場所だ。じゃあここでやろうか」


 と自宅の裏庭でランクSと模擬戦をすることになった。

結界を張って音が外に漏れない様にしてから

お互いにアイテムボックスから模擬剣を取り出す。


 その場で軽く模擬剣を振って準備運動する二人。


 それを見ていたティエラはサイモンの素振りを見ながら

(無駄のない動きね) と思い、レンの素振りを見ている

エステバンは (いい振りしてる。鋭いな)と感じている。


「そろそろやろうか」


 サイモンの声で庭で対峙する二人。


 エステバンの掛け声で模擬戦が始まった。


 お互いに一瞬で突っ込んで剣を合わせ、

また瞬時に離れる。


(さすがにSランクだ。剣筋が強い)


(これでまだランクAか?想像以上だな、

俺と変わらないじゃないか)


 そうして今度は至近戦でお互い目に見えない程の

速さで剣を繰り出し、それを躱す。


 レンは繰り出されるサイモンの剣筋を見極めながら

ギリギリで躱し、相手の身体に剣を突き出すが、

サイモンもその剣筋を見切ってぎりぎりの距離で

躱す。


(すごい勝負だわ。私なら今の突きでやられてるところ。

レンもぎりぎりで躱してるし)


 ティエラが二人の剣の動きを食い入る様に見ている。


 そしてレンがサイモンの剣を躱し、その反動を

利用して模擬剣を首筋に向けて横に払う様に

降ったと同時にサイモンの剣が下から上に振り上げられて

レンの片手剣が弾き飛ばされた。


「…参りました」


「…いや、想像以上だったよ。強いね」


 二人とも荒い息をしながらも握手をして健闘を

たたえ合う。


「レン、惜しかったね」


「ああ、やっぱりランクSは強いわ」


 先に家に戻っていますから休んでからどうぞという

レンとティエラの後ろ姿を見ながらエステバンが


「それにしてもレンっての、想像以上に強かったな。

お前でもギリギリだったんじゃないのか?」


エステバンを見ながら


「本当は俺の負けで、あいつの勝ちだ」


「ええっ? どういうことだ? サイモン」


「最後、勝負が決まったのは、レンの横払いの剣を

僕が下から弾き飛ばした…そう見えたよな?」


「ああ。その通りじゃないのか?」


「ところが実際はレンの片手剣は俺の首に当たる直前に

自分から手首を曲げて、俺の首にギリギリ当たらない様に

調整したんだよ。そして俺が下から剣を振り上げるのを

しっかり見極めて手首の力を緩めやがった」


「…マジかよ? どうして?勝てたのに?」


「あいつに聞かないと分からないが、恐らく

俺の力量が把握できたので、もうこれ以上

剣を合わせる必要がなくなったと思ったんだろうな」


「ってことはあいつはサイモンと同じ強さってことか?」


「対戦した感じでは個人の力量ではほとんど同じ。

10度対戦したら5分5分ってとこだろう。

ひょっとしたら4分6分で俺が負けるかもしれん。

全くとんでもない奴だぜ」


 エステバンはもう誰もいない裏庭から家に入る

ドアを見ていた…



 防具屋のエルフのルフィーが力説していた様に、

赤魔道士はそのジョブの特性で、ある程度

レベルが上がると実質の能力が飛躍的に上昇

する。


 しかもレンとティエラは上位転生

して魔法剣士になっているので更に上昇率が

アップしていた。当人達は気づいてないが

LV70での能力アップもプラスされて

実質のレベルは楽にLV80を超えて90前後に

までなっていた。


 その後自宅でSランクの2人にナスコで買った新鮮な

魚貝料理を振舞い、食後にリビングでエールを飲みながら


「今日は無理なお願いを聞いてくれてありがとう。

お前達ならすぐにSランクになれるだろう」


「いや。俺もティエラもSランクにはなりたいとは

全く思ってなくてね。なので、今日の事もできれば

誰にも言わないでもらいたい」


 何故なりたくない?とは聞かず、レンの

言葉を聞いたサイモンは


「わかった。そうであれば今日のことは

俺たちの胸の内に留めておく」


「ありがとう。私もレンもこのベルグードで

冒険しながらのんびり過ごしたいんです。

王都のことはよろしく。全てお任せします」


 ティエラのある意味無責任なフォローに

場の雰囲気が和む。


 和んだ勢いでティエラが


「お二人はいつも二人だけで行動しているんです?

ヒーラーとかなしで?」


 聞かれたサイモンは


「余り知られていないんだが、レベル80に

なるとサポートジョブってのが付けられる

様になる」


「「サポートジョブ?」」


「もう1つジョブを選べることができて

2つのジョブ持ちになるんだよ」


「それって凄くない? 一人で二人分じゃん」


「いや。そうはならないんだよな。サポート

ジョブっていうのは、自分のレベルの半分の

レベル分の新しいジョブが持てるってこと。


例えば当人が剣士LV80だとすると

サポートジョブのレベルはLV40になる

LV86ならサポートジョブレベルはLV43

だな。」


「なるほど。それでも全然違うよね」


「だから俺は剣士でサポートジョブはナイト

にしている。防御力がアップするからね」


「俺は精霊士でサポートジョブは白魔道士。

なのでヒーラー系が使用できるのさ」


 サイモンとエステバンの説明を聞いて

納得したティエラ


「だから二人で十分なんだ」


「人が増えると意見の調整が面倒臭く

なるし、エステバンとは冒険者に

なった時から一緒だから気心がしれて

お互いに何を考えているのかがわかるから

楽なのさ。


それよりそっちの方がすごいじゃない

3つのジョブをそのレベルで使いこなせる

んだろ?魔法剣士はサポートジョブの恩恵が

受けられるのか?」


「まだLV80になっていないのでそこは

どうなるのかわかりませんが、でも

このレベルになるまで本当に大変

だったんだから」


 食後のジュースを飲みながら

ティエラがサイモンに答える。


「レン達が魔法剣士に転生して

更に強くなったことから、最近は

赤魔道士をジョブに選ぶ冒険者が

増えてきているって聞いたけど?」


 エステバンの言葉にレンが


「今まで不遇ジョブと言われていた

赤魔道士が注目を浴びるのは凄く嬉しい。

願わくば途中で挫折することなく頑張って

欲しいかな」


「うんうん、最後までやりぬいて欲しいよね」


「ところで、レン達は魔王の復活について

何か知っているか?」


 エステバンが話題を変えて聞いてくる。


「この前ギルドには報告したけど、瘴気が

濃くなって最終的に魔王が復活するらしい。

おおよそ約20年後前後だと聞いている」


「そうそう、瘴気の件もお前達が知らせて

くれたんだよな。あれもまた新鮮な情報だった。


で、魔王だが、最近の王都の研究者の間では

20年待たずに復活するんではないかと言われている。

今回は少し早めに復活するかもしれない」


「なるほど。それで勇者はもう出てきてるのかい?」


「そっちはまだらしい。過去の例を見ると魔王復活と

ほぼ同時期に誕生してるって話しだから

もうちょっと後になるだろうな」


 サイモンの話を聞いてから、一呼吸おいて、


「あんた達だから言うけど、俺とティエラは神獣から

勇者に万が一があったらその時は二人で魔王を倒せ

と言われている。


勇者が魔王を討伐してくれたらそれが一番いいんだけどな

そうでない時のために準備しているのさ。

ランクSになりたく無いっていうのもそれが理由でね。

いつでも動ける、フリーな立場ってのが神獣が求めている

俺たちの立ち位置だと思ってる。

ランクSで国や貴族に縛られたくないんだ」


 レンの話しを聞いていたサイモンとエステバン


「なるほど。よくわかった。そういうことなら

もう俺たちも何も言わないよ」


 エステバンも


「それだけ神獣から信頼されてるってのは

逆にプレッシャーもきついだろうけど

レンとティエラなら何とかやり遂げそうだな」


「ランクSのあんた達は魔王登場に備えて

何かやるのかい?」


「いや、魔王はまだ登場してないし、それに

登場するころにはこっちは引退してるよ。」


 サイモンは笑いながら言い、続けて


「詳しくは言えないが、俺たちの仕事は

魔王や獣人よりもっと身近にいる人間達さ。」


「特に北の方のね」


 エステバンがフォローして言うと、

レンもティエラも納得する。


「そっちの方がずっと大変そうね。まだ

魔獣や魔人を相手にしてる方がずっといいわね」


「まったくだ」


 その後泊まっていったらとレンもティエラも

言ったのだが、宿を押さえているからと

固辞する二人


 最後に家の玄関の所でお互いに握手しながら


「今日はありがとう。また会えるのを

楽しみにしてるよ」


「俺たちはここベルグードにいるから

いつでもどうぞ」


 最後にサイモンがレンの耳元で


「次回は手抜き無しで頼むぜ」


 とつぶやいてから、


「じゃあな」


 と夜のベルグードの街に消えていった


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