第56話
翌日、二人は久しぶりに南のダンジョンに向かった。
入り口にいるギルド職員に挨拶し、カードを提示して
中に入って転送版に触れると55階の転送版まで飛ぶ。
55階は破壊された宮殿の様な造りだった
折れたり倒れたりしている石柱
床も所々日々が入ったりずれて段差になっている
そんな宮殿の中を徘徊しているのはランクA
のオーガ、トロル。
探索スキルで見ると前衛、後衛の両方がいる
「さてと、ここもさっくり進みましょうか」
「そうだな」
無造作に一歩を踏み出して宮殿の中に入っていく2人
その気配に気づいたオーガ、トロルが呻り声を
あげて突進してくるが、それらを軽くかわして
すれ違い様に片手剣を一閃して倒していく。
魔法使いのランクAには好きに魔法を
打たせるが、ハーフレジストや完全レジストで
2人にダメを与えられない。
ハーフレジストしても防具と加護で
ほぼノーダメで、すぐに世界樹の葉の効果で
HPがフル回復していく。
結局ほとんど止まることなく宮殿内を進んで
56階に降りる階段を見つけた
魔獣は大した強さはないものの、ここまで
降りてくると1フロアが広くなっているので
1日に1フロア程度しか攻略できなくなっている
この日は56階に降りて転送板に触れてから
地上に戻っていった。
その後も1日1フロアの攻略を続けて
59階をクリアして60階に降りた時には
2人ともLV66になっていた。
60階になると今度は洞窟ダンジョンが復活し、
探索スキルでみると、分岐点には必ず
複数体のランクAが固まっている
もちろん通路にもところどころランクAが
数体ずつ固まっているのがわかる
「このフロアからランクAの集団相手だな」
2人小走りに駆け出していく。通路で
トロル3体を見つけるとそのまま両手に
持った剣でバッサリ切り捨てて
止まることなく通路を進み、
分岐点にいるオーク5体については
遠距離から精霊魔法で2体を倒し、残りは
片手剣二刀流で瞬殺して止まることなく
どんどん進んでいく。
「ランクAだと練習にもならないな」
「ランクSがいるフロアまでさっくり
進んじゃおう」
61階は今度はランクAの獣のフロアとなっていた
砂漠で見たスコーピオンやロックウォーム
いずれもランクAということで大きくなっており
ロックウォームに至っては <<ストーン>> を
範囲魔法で撃ってくる。
スコーピオンは尻尾の先の毒針に気をつけながら
首を切り落とすか又は <<フリーズ>> で
氷漬けにして破壊し、範囲の<<ストーン>>を
撃つロックウォームは好きに魔法を撃たせ
その間に近づきながら精霊魔法で数を減らし
最後は片手剣で胴体を2つに分断して殲滅
1週間で65階までクリアした。
そしてレベルは68になっていた。
その後も2勤1休のパターンでダンジョンを
攻略し、ようやく70階に降りる階段を見つけた。
レベルは二人とも69に到達していた。
階段から転送版の所は安全地帯となっているので
そこに立って70階のフロアを見る二人。
まるで荒野の様に木々が生えていない岩土が
むき出しの起伏に富んだ地形の上に
体長3メートル弱、背中から羽根をはやし、
頭には角を持っている人型の魔獣が徘徊している
「あれが魔人なのね…」
狭い範囲を徘徊する魔人を見るレンとティエラ
「ランクS しかも雰囲気が今までとは全く違う」
「ここまで長かったわね。でもこれからが
本当の試練でしょ?」
「ああ。今までとは格段に違う強さの魔獣や
魔人が相手になる」
気を引き締める二人。
「手前に1体だけいる魔人と戦闘してみるか。
相手の実力も知りたいし」
答える代わりに二刀流の準備をしたティエラを見て
レンも二刀流にし、お互いエンサンダーを付与してから
安全地帯から一歩荒野に踏み出す。
魔人の感知距離を掴むためにゆっくり近づいていくと
約20メートル程になったところで相手がこちらに
気付いて剣を振り上げながら向かってきた。
「感知距離も今までより広いな」
「これはリンクに気を付けないとね」
近づいてくる魔人にティエラが <<サンダー>>を
撃つ。 身体の正面で魔法を受けながらも
殆どスピードを緩めずに近づいてくる魔人
「魔法が効かないなんて」
「レジストされてるっぽいぞ」
左右に分かれて、魔人を迎え撃つ二人
魔人が振り下ろした剣を交わしながら
「早い」
すれ違いざまに片手剣を払う様に動かして
魔人の腹を切ろうとするが、腹は切れるが
致命傷を与えることはできない。
レンが魔人と対峙して、相手の剣を自分の剣や
身体能力で躱しながら打ち合いをしている背後から
ティエラが剣を振り下ろして魔人の背中に切りつける。
「これでも倒れないの?」
腹と背中を削られても攻撃をやめない魔人。
背中を切られて今度はティエラの方を向いた魔人の
背中にレンが片手剣を振り下ろす。
大きな叫び声を上げてよろめく魔人
そのタイミングでティエラがジャンプして魔人の
首を刎ねた。
首と胴体が離れてからようやくドスンと魔人が
地面に倒れ、しばらくすると光の粒になって消えていった
それをじっと見ながら
「これがランクS? 私とレンで4,5回攻撃しないと
倒れないなんて…」
「これに比べたらこの前のレア種なんてランクA以下だよな。
俺の認識が甘かった。このままじゃ、このフロアなんて
攻略できないぞ」
「うん。急に強くなってる。」
「ティエラ。しばらくここでレベル上げしよう。
俺たち装備が充実していたから勘違いをしていた様だ。
俺たちの実力なんてまだまだなんだよ。
魔王を倒すなんて偉そうな事を言える立場じゃないんだ。
明日からこの階段下でじっくりレベル上げしよう」
隣でティエラも
「そうしよ。うぬぼれちゃ駄目だよね」
転送版から入り口に戻っていって、入り口で
カードを差し出すと、ギルド職員から
「何階までいったんだい?」
「69階まではクリアしたけど、70階から
桁違いに強くなって前に進めないよ。」
「マジかよ? レンとティエラが前に進めないって
どんだけ強いんだよ」
びっくりするギルド職員の言葉を背中に聞きながら、
街に戻っていく二人。
その夜、自宅のテーブルで向かい合って
夕食をとっているとき、今まで何かを
考えている様に無言で食事をしていたレンが
顔を上げて、
「さっきダンジョンの中でも言ったけど、
俺たちって装備は確かに加護で充実してるよな」
ティエラは顔を上げてレンを見て頷く。
レンとの付き合いが長いティエラは
レンが何か考え事をしているときは
こちらから声をかけずに、彼が何か言うまでは
じっと黙っているのが良いと理解している。
「でさ、さっきもダンジョンで言ったし、
その後も思ったんだけど、レベルが装備に
ついていってない気がするんだ。
逆に言うとレベルが上がれば装備との相乗効果で
更に強くなれると思うんだ。ティエラは
どう思う?」
「装備が充実してたから69階までクリアできたけど
もし装備が普通だったら絶対無理だったよねとは
思った。つまりレンの言う通り装備と実力が
見合ってないってわかったわ。」
ティエラが同意してくれて我が意を得たりとばかり
「ティエラもそう思うか。じゃあやっぱり
暫くあの70階でレベル上げしよう。
今までのレベル上げの感覚から言うと
レベル70になったらまた一皮むけて強く
なれると思うんだ。そしてレベル80でまた強くなる。」
「そうだね。実力を上けながら攻略していきましょ」
その翌日再び70階の転送版の前に立った二人。
二人の視線の先には昨日倒した魔人が復活して徘徊している。
「やるぞ」
その声でレンとティエラは剣を抜いてエンサンダーを付与してから
荒野に踏み出す。昨日と同じく約20メートルの距離に近づいた
ところで魔人がこちらに気付いて突進してきた。
今日はレンが<<サンダー>>を魔人に撃つが
ティエラと同じくレジストされた様でレン達の魔法を意に介さない
様に近づいてくる。
左右に散り、魔人を挟む様に立ってから交互に
剣を繰り出していく二人。
ティエラの4度目の剣が魔人の首を刎ねて地面に倒れ込む
のを見て
「やっぱり硬いね」
「でも得られる経験値もきっと多いからこのまま続けていこう」
魔人のリポップ時間を計っていると
およそ約5分で同じ場所に
魔人がポップした
そうして湧いた魔人を倒すと今度は
安全地帯に戻らずにそのまま歩みを進めると
100メートル程先に同じ様な魔人を見つけた。
前の魔人と違うところは剣じゃなくて槍を
持っているということ。
「この距離ならさっきの魔人がリポップしても
こちらに気付かないね」
「恐らく70階はランクSが単体で湧くんだろう。
下に降りると複数体が相手になってくるよな」
話ながら近づくと、やはり20メートル程手前で
槍を持った魔人がこちらに気付いて突進してくる。
同じ様に精霊魔法を撃つがレジストされる。
そのまま剣で槍の魔人を倒してから
「そろそろ剣の魔人が湧くころよ」
入り口まで戻ってすぐに剣の魔人がポップした
「しばらくはこの2体を交互に狩ってレベル上げだな」
それから二人で交互に湧く魔人を倒して経験値稼ぎを
行った。
夕刻になって街に戻ってギルドに顔を出すと
酒場にいた冒険者仲間から、
「レン、苦労してるんだって?」
「ああ、70階から段違いに強くなって前に進めないよ」
キャシーから預けた冒険者カードを受け取って
酒場のテーブルに座って頼んだエールをグイっと飲んで答える。
「レンでも進めないってどんだけだよ。相手はランクSなんだろう?」
「そう。しかも魔人が相手なんだ。こいつら強いぜ」
「魔人ってあれか?魔王領にいる人型で背中に羽根の生えてる
あいつらか?」
レンガ頷くと、
「レンとティエラで苦労するなんて相当ね」
「私とレンの精霊魔法もレジストされちゃうのよ。もう頭にくる」
ティエラが知り合いの女冒険者に愚痴をこぼしてテーブルの上に
置かれたつまみに手を伸ばす。
「あまりに身近にいるし、二人とも全然威張ってないから
時々忘れちゃうんだけどさ、よく考えたらやっぱりティエラとか
レンって凄い人なんだよね。普通こんな簡単にランクAになったり
南のあのダンジョンの70階到達なんて出来ないよ。」
ティエラの友達の冒険者が言うと
「そうそう」
周囲の冒険者も同意して
「すごい事を当たり前の様にあっさりと何度も
やられちゃうとさ、こっちまで感覚がマヒしちまうよ。」
「そうだよな。」
レンとティエラはどういう返事をしてよいのか分からないので
黙って飲みながら聞いていた。
すると、一人の冒険者がレンを見て
「そういえば今この王国でランクSを持っている
唯一の二人組が王都にいるって聞いているんだが、
レンは会った事あるのかい?」
「いや、この前領主の護衛で王都に行ったけど、
そんな話は聞かなかったし逢ってもいない」
「ティエラも?」
「うん。そんな話、今初めて聞いたよ。」
ランクSになると国中のギルドにその名前とジョブが
公開されることになっている。
「俺が冒険者になってから聞いてないってことは
それより前にランクSになってたってことだよな」
「そうなるな。おそらくランクSになったのは
5,6年位前の話しじゃないかな。確か剣士と精霊士の
コンビだったと思う」
ベルグードで古株の冒険者で、つい最近
ランクAに昇格した冒険者が答える。
ランクSの冒険者か…ダンジョンにいるランクSの
魔人クラスの実力なんだろうか、
それとももっと強いのだろうか
酒を飲みながらそんなことを考えていると、肩を叩かれ、
「お前らが次のランクSの最有力候補じゃないの?」
「いやいや、それは無いだろう?それに俺はランクSに
なりたいとは思ってないし」
レンが言うと周囲の冒険者達がどうして?という目で見る。
「ランクSになったら国絡みの事案に対応するんだろう?
王都に住まされて、貴族とか王族の相手なんて
勘弁してほしいよ。ここベルグードで冒険者してるのが
俺とティエラの性にあってるよ」
レンがそう言うとティエラも
「もうこっちで家も買っちゃったし、それに
レンも私も基本のんびり冒険者暮らしをしたいのよ。
王族やら貴族やらの相手は無理!」
「そんなものなのかなぁ、ランクSになったら
王都で豪勢な屋敷を与えられて、金だって
使い放題らしいじゃないの。きっと女も
選り取り見取りだぜ。」
レンと同じ年くらいのランクCの冒険者が
言うと、
「じゃあお前が頑張ってランクSになってくれよ。
俺とティエラは応援するぜ?」
レンの言葉に回りから お前じゃ無理! と一斉に
突っ込みが入って言い出した当人もがっくりして
大笑いとなった。
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