表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/101

第55話


 翌日、二人はギルドマスター経由で領主との面談を依頼した。

魔獣、魔人、魔王の発生条件は隠す必要がない

むしろ情報を共有化した方が良いと判断したからだ。


 それと先日のナスコでの突然変異種の話しもする必要がある。

一方、それ以外の事…身替りの加護の事や

勇者に万が一の時があった時神獣が二人に期待している事は

黙っていようと決めていた。


 本当にその時が来たら誰にも言わずに二人だけで魔王退治に

行くのが加護を付与されている自分達の使命だと考えていた。



 領主との面談はレンとティエラ、そしてギルマスの

アンドリューの4名で領主の館の一室で始まった。


「先日の護衛はご苦労さんだった。おかげで事故もなく

無事王都に着けた。途中で盗賊も捕まえられたし。

それにしてもお前達の強さは俺の想像以上だった。

冒険者崩れの盗賊を殺すことなく全員逮捕なんてそう簡単に

できるもんじゃねぇ」


 ヴァンフィールドは相変わらず豪快で

領主らしくないざっくばらんな口調で話かけてくれるので

レンもティエラもソファに座りながら肩の力を抜いて

リラックスしている。


「で、今日はどういう用件なんだい?」


 領主から問われて、ティエラが順を追って説明していく。

ナスコでの一連の出来事、それから闇の世界や瘴気、そして

魔獣誕生の秘密など…


 その間、ギルマスも領主も質問することなく黙って聞いていた。

長いティエラの説明が終わると、しばらく沈黙した後で

ヴァンフィールドが


「相変わらずお前ら、毎回とんでもない情報を持ってくるよな」


隣に座っているギルマスのアンドリューを見て


「この二人、絶対俺の領地から離れさせるなよ。ここまで

優秀な奴は見たことがない」


 アンドリューは笑いながら


「うちのギルドの実質No.1だからな。今じゃこいつらを

目指して赤魔導士を選択する冒険者も増えてるし。

逃げると言って俺が許す訳がないだろ?」


 レンとティエラは黙って目の前の二人のやりとりを

聞いている。


「わかった。まずはナスコの突然変異のレア種の件だ。

今のティエラの話しじゃ、今後見つかったら神獣が

お前らに連絡して、それでお前らがその危険物質とやらを

しっかり封印するってことでいいんだな?」


「その通りです。今回はたまたま地表に出てきて

この危険物質の存在が分かりました。その隕石というのが

地表に落ちてきたものであれば当然他の場所にも落ちている

可能性があるので、見つかり次第私達で封印します」


「わかった。そのレア種から取れた魔石と危険成分は

今は王都の錬金ギルドに送られて分析中って事か。


その結果がどうあれ今後の対応はレンとティエラ

でやってくれるって事か。となると

これ以上はレア種が誕生する可能性は低いってことになるな。

いずれにしてもすまんな。

見つかり次第封印する役目を押し付けて」


「いえ、お気になされず」


 領主に謝られてティエラが恐縮して言う。


「次は魔獣誕生についてだ。こっちは公にしても

いいんだろう?」


「ギルドとしてはこの情報は公開しても良いと考えている。

それによって特に不利益を被ることも無いし。むしろ

来るべき時に冒険者ギルドとして備える意味でも公開

が良いと考える。王都の軍がどういう態度に出るかは

不明だけどな」


 アンドリューが一気にまくしたてると

領主のヴァンフィールドは


「王都の奴らが何かする訳が無いじゃないか。

あいつら又言うぜ、真偽が不明な情報について

コメントはできないとか何とかさ。

それで結局何もせずだ。

魔王が誕生したら勇者の誕生を待つだけの

無能の衆の集まりだ」


 気心が知れているとは言え、一冒険者のレンと

ティエラの前でそこまで王都をボロクソに

言っても良いものかとレンとティエラが

びっくりしていると、


「貴族なんてのはな、自分の立場と権益を守るのが

最大の関心事なんだよ。魔王が生まれようが

暴れようが、自分達の生活、地位が脅かされない限り

何もしなくてのほほんとしてるだけさ」


 追い打ちをかける様に言う


「いやな世界ね」


 ティエラがボソッと言うと


「そう、いやな世界なんだよ」


 領主に聞こえていたと知って慌てて頭を

下げて


「失礼な事言ってすみません」


「謝らなくてもいい。その通りだからな。

それより、神獣の話しだと魔王復活まであと約20年と

言ってたんだな?」


「そう言っていた。闇の世界とこの世界とを

繋いでいる門の開き具合はいつもチェックしていると」


 失言したせいか俯いているティエラに代わってレンが

領主の質問に答えていく。


 レンの説明が一息つくと、

隣でやりとりを聞いていたアンドリューが、


「その神獣の話しだと、門は徐々に大きくなってきているって

事だよな?」


 レンをじっと見ながら言う


「その通り。そしてそれはギルマスの思っている通りだと

俺も思う」


 レンもギルマスの方を見ながら答える。


「どういうことだ?」


 今度は領主がレンとギルマスとの会話に口を挟むとレンが

領主を見ながら、


「徐々に門が大きくなってるということは、徐々に

瘴気の流入が大きくなってるっていうこと。

つまり、これから魔王誕生に向けて更に多くの瘴気が

この地に流れ込んできて、その結果今以上に魔獣、

魔人達がこの地に誕生することになる。」


「…」


 レンの言葉に天を仰ぐ領主


「いずれにしても今の領主の話しでも、騎士や軍隊が

あてにできない中、ギルドを中心とした冒険者達で

対応していくしかないな」


 アンドリューが無言でいる領主の代わりに言い、


「お前たちにももっと頑張って貰わなくてはならんな。

余り個人に大きな負荷をかけてはいかんのだろうけど

そこは堪えてくれ。優秀な冒険者はそうはいないからな」


 ティエラが顔をあげて対面に座っている二人に


「わかりました。出来るだけご期待に応えられる様に

します」



 領主との面談を終えて、商業区に戻る馬車の中で


「お前たちはこれからどうするんだ?」


「取り敢えずは今攻略している南のダンジョン、

その最下層の80階を目指すつもり」


「そうか。俺の立場で言うのも何だが、今や

お前達頼りの部分があるからな、引き続き

宜しく頼む」


 ギルマスの馬車がレンとティエラの家の近くで留まり

馬車から降りるとレンが


「ちょっとルフィーの店に寄っていくか」


 二人並んで路地の奥に入っていつもの防具屋の店の前に着くと、

ちょうど店主のルフィーが店の前に出ていた。

二人を見ると、


「久しぶりだね。しばらく見なかったがどっかに

行ってたのかい?」


「クエストでナスコまで行ってました」


「ナスコか…海産物の美味しいところだよ…ん?」


 と話したところで二人をじっと見て


「おや、また加護がいくつか増えてるね。しかも…

なるほど。こりゃまたすごいのをもらったじゃないの」


「わかりますか?」


「ああ。私には分かるね。こりゃ人には言わない方が

いいね。」


 加護の話しはこれで打ち止めとばかりに


「ところで今日は特に何か欲しいものがあって来たのかい?」


「いや、特には無いんだが。何かいいものが入荷してるかなと

思ってさ」


 ルフィーは二人を店の中に案内して


「そうだね。頂点に一番近いところにいるあんた達の装備に

ふさわしいのは無いけど自宅の周囲に張る結界なんてどうだい?」


「へぇ、どんな効果があるの?テントを張るときに

使う結界と同じ様なもの?」


「あれとはちょっと違うし、こっちの方が強力だよ。

効果は外からの効果と中からの効果があってね、

まず家自体の印象が薄くなる。つまり見過ごしてしまう

効果がある。これだけでも盗人が入る確率はぐっと減るよ。


 それから無断で侵入しようとすると

結界自体が明るく光る。これが外からの効果。


 中からの効果は例えば庭で水浴びしても外からは見えない

し声も外に漏れない」


「朝から庭で枝から吊るしている木を木刀で

殴っても問題ないって事か」


「そうなるね。音漏れしないからね。この結界を家の

周囲4か所に置いておくだけで大丈夫だよ。

ここに魔石が入ってるだろう?これを

交換すればほぼ永久で使えるよ」


「結界を発動させるにはどうすれば?」


 ルフィーはエルフ語を呟いた

「今の言葉をこの5つの結界のどれでもいい、呟くと

それで結界が作動する様にしてあるよ」


 ルフィーからエルフ語を聞いて、それをレンとティエラが

交互に詠唱すると結界が作動しはじめた。


「4つは外で、1つは家の中に置いておきな。」


 ルフィーから結界を購入し代金を払っていると


「最近結構赤魔導士のジョブの若い子が多くなってね

ここで装備を買っていってるよ」


「そうなんだ。なんだか嬉しいね」


「もうあんた達に売れる様な防具は無いかもしれないけど

もしいいのが入ったら連絡するよ」


 礼を言って店を出て、歩いて自宅に戻って

早速自宅の4隅に結界を置いた。


「これで一安心ね」


「そうだな」


 結界は購入したものの、レンとティエラという

ベルグードNo.1の冒険者の家に無断で入ろうとする

市民や冒険者はまずいないのが実情であったが

二人はせっかくルフィーが紹介してくれた商品だからと

迷うことなく購入を決めた。



評価をお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ