第54話
妖精が来たことにより翌日も休養にあててのんびり過ごした
夕方、街の外からテレポリングで南の山脈の中の洞窟の
入り口に飛んだ二人はそのまま洞窟の中に入っていく
一番奥の広場にはシヴァ、フェンリルの他にいつもの
リヴァイアサン、イフリートと4体の神獣が
既に奥にいた。
『お休みの所呼び出して悪かったわね』
シヴァが代表して言うと、ティエラが自分の顔の前で手を振って
「とんでもない。休んでいたところでしたし、
それよりも呼んでいただいてありがとうございます」
ティエラの返答を聞いて場の雰囲気が和んだ。
『わかってると思うけど、今日二人を呼んだのは
先日のナスコの南の森に出たレア種のことよ』
やっぱりという顔でレンもティエラも頷く。
『結論から言うとね、あれは貴方達の読み通りなのよ
レンが金属に触れなかったのも大正解ね』
後を引き取る様にリヴァイアサンが続ける
『あの金属は大昔にこの地に落ちた隕石の欠片じゃ』
「「隕石?」」
『隕石とは空の彼方から飛んできた星屑じゃ。
それがこの地のあの山の麓に落ちたのじゃ。
落ちたのはもうはるか昔、まだこの星に人も魔人も
誰も住んでいなかった大昔の事。それから誰にも
知られずにあの地で埋まっていたのが、長い年月の間に
数えきれない程降った雨で少しずつ地表が削られて、
ついにその金属が顔を出したのじゃ』
『それだけなら別に問題なかったのよ。
問題はあの金属に含まれている成分の1つがこの地で
生きていく全ての物にとってとても危険だってこと。
人にとっても魔人にとっても魔獣や動物にとっても
とても危険な成分が混じっているの』
再びシヴァが語り掛ける。レンとティエラは黙って
神獣の話しに耳を傾ける。
『その成分を身体に過分に吸収すると、人格が変わったり
姿形まで変わってしまうの。貴方達が相手にしたレア種の様にね。
あれは元々トレントの魔獣、そのトレントの根があの金属に
触れ、そこから危険な成分を取り続けた結果、ああいう形に
変化してしまったのよ』
「それってレンの想像通りじゃない」
ティエラが思わず口にすると
『さすがに我が認めた人間だと感心したぞ、レン。
答えもレンが想像していた通りだ。それが正解じゃ。』
今まで黙っていたフェンリルが口を開く
そのまま続けて、
『あの危険な成分については実は我らも全く気付いていなかったのじゃ。
今回異型のレア種として表れて初めてその成分のことが分かったという
次第での。』
『それについては神獣の私達も何も言い訳できないわね』
「いやいや神獣にそこまで謝られてもこっちが困っちまうよ。
それより今の話しを聞いて大体わかった。つまり今回の
レア種は偶然の産物で、決して魔族やほかの種族が造り出した
ものじゃないってことだよな」
『そういうこと。その点は安心していいわ。
それとレンとティエラがむき出しの金属部分を隠してくれたし、
あとはあの場所をしっかり封印すればまず問題ないわよ』
レンはシヴァの話しを聞きながら…隕石が落ちたとなれば
あの場所以外にもどこかに落ちて今は地中に眠っているのが
あるのではないかと考えていた…
暫くじっと考え事をしている様子のレンを見てティエラが
「どうしたの?レン。難しい顔して」
「ああ。悪い。いや、さっき神獣があの危険な成分
…隕石…というのがこの地に落ちた際の物だって
言っていただろう?となると今回俺たちが見つけた以外
にもこの地のどこかにまだ眠っている危険な成分が
あるんじゃないかと思ってさ」
レンの言葉にティエラがハッとする
何かを口にする前にシヴァが
『その通りよ、レン。まだ他の場所に眠っているかも
知れない。今回貴方達を呼んだのもまさにそのことに
関係があるのよ。』
そこまで聞いてレンは理解したとばかりに顔を上げて
シヴァを見て
「つまりもし他の場所であれが見つかったら俺たちがそれを
封印すればいいんだな?」
『そういうこと。お願いできるかしら?』
「あれが地表に出てきたら神獣には直ぐに分かるものなのか?」
『それは大丈夫じゃ。今回の件で我らはあの成分について
理解したからの、この地でまた同じ成分が地表に出たら
直ちに分かる様になっておる』
イフリートが二人を見ながらきっぱりというと、
「なら問題ないな。わかった。その時は俺とティエラで
それをしっかり封印するよ。ただ、願わくばこの危険な成分が
魔族の国の中で見つからないことを祈ってるよ」
そう言うとシヴァも声を出して笑い
『そうならないことを祈っているのね。でも祈ってる
だけじゃ何の準備にもならないから』
そう言うとレンとティエラの前に4体の神獣が並んで立って
そして4対の神獣の8つの目が二人を見たかと思うと
二人を今まで一番強い光が包んでいく。
暫くして光が消えると並んでいた4体の神獣も元々の
場所に戻って二人を見る
『うん、大丈夫みたいね』
『しっかり効いておる様だな』
「…今のは?…」
ティエラがシヴァを見て言うと
『加護よ。今かけたのは守りの加護
具体的にはあらゆる状態異常をレジストするわ
石化、毒、麻痺、盲目、緩慢等戦闘で
考えられる全ての状態異常を100%レジストしてくれるわよ』
「そりゃ凄い」
『それだけじゃないの、もう一つ掛けておいたわ』
「まだあるのか?」
状態異常の完全レジストでも相当な加護なのにと
レンがびっくりして言うと、
『ええ。このもう一つの加護を掛けるために私たち4体の神獣の
力が必要だったのよ。その加護は“身替りの加護”』
「「身替りの加護」」
『簡単に言うと、あなた達の身に死に繋がる様な
ダメージが襲い掛かった時、あなた達の分身が現れて
替りにそのダメージを受けてくれるの』
「やばいと思ったら勝手に分身が現れてそのダメージを
全て受けて、当人の俺たちは無傷だってこと?」
『そう。その理解であってる』
「それって無敵じゃない?」
『ふふ、そうだったら今からでも魔族の国に行ってもらうわよ。
この身替りの加護、効果は今説明した通りだけど、
リキャストがあるのよ』
「そのリキャストの時間は?」
『90秒』
「なるほど。連続で致死ダメージは受けられないってことか」
『そういうことじゃ。なので本当の危機の時にしか効果がない
と思っておいてくれ』
フェンリルの言葉にシヴァが続ける
『レンとティエラ、それぞれが90秒のリキャストを持ってるわ。
それと、この加護はあなた達が成長すると短くなっていくの』
「具体的には?レベルリンクとか?」
身を乗り出してティエラが言うのをシヴァは首を振って否定し、
『それは言えないの。言えばあなた達は”身替りの加護”を
あてにして無茶な戦闘をするでしょ?そこは教えられないわ。
でもこれだけは言える。成長するに従って少しずつリキャスト
は短くなっていくって。』
「わかった。せっかくもらった加護だけど無いものと
思って今まで通りやればいいのね」
『そう。ティエラの言う通りよ。あなた達は今まで通り
でいいのよ』
シヴァが優しく言うが、レンは4体の神獣を見ながら
「つまり、今の俺たちでは魔王とやらに向かっていっても
勝てないってことだよな」
レンの言葉に互いに顔を見合わせる神獣
しばらくの間を置いてフェンリルが
『残念だがその通りじゃ。確かにレンとティエラは
人間界の中では今では最上位に位置する強さだと
言えるだろう。じゃがそれでも今のお前達では
魔王に勝てない』
「もっと精進しないといけないって事ね」
『幸いに魔王はまだ復活していない。その間にもっと
力をつけるのじゃ。来たる未来に備えての。』
洞窟に来てからどれだけ時が経ったかもわからない程
神獣とレン達との話は続いている。
「魔法復活という話が出たのでこちらから聞きたい
事があるんだがいいか?」
『申してみよ』
答えたイフリートを見ながら、
「魔王は約100年毎に復活すると聞いているが、
なぜ100年なんだ? それとそもそも復活って
どういうことなんだ?」
ティエラが続ける
「復活を待っているのって何か変な話だなと
思っています。 復活する前にこちらから
手を打てないのかと」
レンとティエラの話を聞いた神獣達
しばらくしてからシヴァが2人を見て
『そもそも魔族や魔獣ってどうしてこの地に
いるんでしょう?』
シヴァの問いに答えられない2人
『この世界はね、いくつかの世界と繋がっているの
その一つは私たち神獣を支配している天上界。
そしてもう一つは闇の世界と言われている。』
「「闇の世界?」」
『そう、向こうの闇の世界のことは私たちの
誰もわからない。でも向こうの世界と
こちらの世界は間違いなく繋がっているの。
その繋がっている場所が魔族の領にある魔王城よ』
フェンリルが後を続ける
『向こうの世界とこちらの世界との接点は
約100年単位で門が大きくなっていく。
そしてその接点は決して閉じられることがないのじゃ』
2人が次の言葉を待っていると
『そして接点では闇の世界からこの世界に常に瘴気が流れて
きておる。その瘴気は風にのりこの世界中に飛んでおるのじゃ
そしてその飛ばされた瘴気がある場所で止まり徐々にその
瘴気の濃度が濃くなっていくと…』
「そこに魔獣が生まれる?」
『その通りよ、ティエラ。魔獣は瘴気の塊からできたものなの』
「だから倒しても倒しても同じ場所に魔獣が現れるんだな」
レンが納得した様に言うと、頷く神獣達。
『魔族の領はその瘴気の濃度が非常に濃いエリアじゃ
なのでそこでは魔獣より一段上の魔人が現れておる。』
フェンリルの言葉にティエラが
「魔獣や魔人の誕生の秘密はわかったけど、魔王は?」
『先ほど100年単位で門が大きくなるって言ったでしょ?
魔王というのはその瘴気が最大限に溢れ出て、そして
濃度が一番濃くなった時に誕生しているの。なので
100年で最も門が大きくなって、多くの瘴気が
一気に流れ込んできた時に魔王が誕生するのよ。』
「なるほど。となると魔王ってのはそれだけの瘴気から
生まれてきたってことは半端なく強大な魔人って
ことになるな」
レン達と神獣との話は続く、
『そう。魔人の何倍もの瘴気から誕生してきたのが魔王
強さも魔人の何倍も上よ。私たちも闇の世界と
この世界との接点の門の大きさはいつも確認しているの。
そうね後20年前後で門が最大の大きさになるわ』
「わかった。今は魔王はいないけど、来たるべきとに
しっかり備えておく必要があるってことだな」
「だから私たちに加護を与えてくれて、いろんな試練を
経験させてくれているのね」
ティエラも魔族の仕組みがわかって納得したのか
「長寿の加護もその一つね。もし勇者と言われる人が
現れなかったり、途中で倒れたりしたときのために
私とレンにその役目を負わせてくれたのね」
『2人にはその資格があると私たちは信じているの。
最初に気づいたのはここにいるフェンリルだけどね。
今では私たち全員が、あなた達を選んで良かったと
思っているわ』
「ありがとうございます」
ティエラがお礼を言うとレンも
居住まいを正して
「もやもやしていたのがすっきりした気分だ。
ただ冒険者になって魔獣を退治して世のために
働きたいって思って、もちろん、その気持ちは
今でも変わらないけど、それだけじゃなくて、
もっと大きな使命というか役割を担っているって
事だな。
選んで貰ったからには神獣の期待にも応えられる様に
さらに精進するよ」
レンとティエラの言葉を聞いて神獣達も
納得の動作をして
『勇者と言われている人が人格も戦闘力も
本当に超一流ならあなた達の出番はないかも
しれない。でも万が一の時にはあなた達しか
いなくなるのよ。頑張ってね』
「わかった」「わかりました」
『どうじゃ?我の目に狂いはなかっただろう?』
フェンリルがどうだと言わんばかりに
その巨体を反らせながら自慢げに言うと、
『世間では不遇ジョブと言われ続けておった
赤魔道士が本当は一番能力値が高いジョブである
ということをこの2人が身をもって証明
してくれたわい。そのおかげで最近では
赤魔道士を選択して努力する人間も多い。
将来が楽しみじゃて』
今までほとんど口を開かなかったリヴァイアサン
が感慨深げに言う。
神獣達は知っていたのだ、冒険者が選択する
ジョブの中で魔法剣士が最強だということを。
最強になるために、赤魔導士の経験値ハードルを
高く設定し、それで“篩”にかけ、そこで残った
冒険者の中から自分達の目にかなう、その資格がある
者を探していたのだ。
レンとティエラが魔法剣士にまで上り詰め、その
能力(戦闘力)が半端ないことが実証された今
後に続く冒険者が赤魔導士を選択することは
長期的に見て魔族に対抗する冒険者の質の向上に
大きく寄与することは間違いなく、その先駆者と
なったこの二人に対する期待は大きい。
しかも戦闘能力だけではなく、人格も優れているこの二人に
神獣が大きな期待をかけるのも当然と言える。
シヴァの洞窟に着いてからかなりの時間が過ぎた頃、
『私達からは以上よ。来るべき時に備えてこれからも
鍛錬して頂戴』
シヴァのこの言葉を最後に神獣達との話合いが終わり
最後にレンとティエラはもう一度お礼を行ってから
洞窟を後にした。
評価をお願いします




