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第51話


 ギルマスの部屋を出て受付に戻ると

酒場にいた男女の冒険者達が寄ってきて


「魔法剣士のレンとティエラだろう?」


「酒をおごるからさ、色々と話しを聞かせてくれよ」


 こういう場では表に出ない情報を入手できることがあるのと、

レンとティエラも他の冒険者達との交流は嫌いじゃなく

むしろ好きな方なので誘われるままに酒場に移動した。


 ティエラは早速この街の女性冒険者達と戦闘以外の

話題で盛り上がっている。

レンはテーブルを取り囲んだ男の冒険者達に自己紹介を

し、今回のこの街の訪問の目的を説明する。


 聞き終わるとランクBだという冒険者が


「レンは来たばかりで分からないかもしれないが

この街は基本平和で周辺もせいぜいランクB程度の

魔獣しか現れない。街から東に向かう道、あんたらが

通ってきた道は更に安全で商人が一人で歩いても

問題ないくらいだ」


 そこでグイっと美味そうにエールを飲み干し、


「街の外、南に行った所にたまに出るランクBなら

俺たちが徒党を組めば倒せない相手じゃないからな。

それに元々この辺りはランクBの魔獣自体がしょっちゅう

出る場所じゃないんだ」


「なるほど。となると本来いる筈がないと思われていた

ランクAが突然登場したって訳か」


 冒険者の話しを聞いてからレンが答えると

別の冒険者が


「その通り。ランクAを見つけたのはこの街のランクCの

冒険者達だ。嘘を言う奴らじゃないのは俺が保証する。

奴らが言うには、南の森に生息しているランクCの

フォレストウルフを討伐しに行ったときに、森に入って

暫くして視界の先にオークチャンピオンを見つけたって話だ。

もちろん、見つけ次第に即そこで回れ右して帰ってきている」


「じゃあランクAが1体か、それともそれ以上いるのか、

分からないんだな」


 レンもエールを口に運ぶ


「ところで、最近変わったことはないかい?

ランクAのオーガ以外で」


 レンが別の話題を振ると、周囲の冒険者達は怪訝な

顔をして


「変わった事?」


「ああ、ごめん、聞き方が悪かった。

例えば見たことがないのを見たとか、海が普段より

荒れてるとか、光や音がするとか」


 恐らくこのギルドのリーダー格だろうと思われる

 さっき説明をしてくれたランクBの冒険者が周囲を

グルっと見て


「おい、お前たち、何か思い当たる節はあるか?」


 聞かれた冒険者達は


「海は普段と変わらないよな」


「魔獣もランクA以外は余り変わってない気がする」


「光、音…そんなのあったかな?」


 口々にそういう中、今までティエラと話をしていた

女性の冒険者が


「そういえば、少し前にさ、南の山から突然動物が

逃げ出した事があったじゃない。

今回のに関係があるのかどうか分からないけど」


「魔獣じゃなくて動物か?」


 声をした方に顔を向けて聞くと、その女性が


「そう。動物なの。魔獣に追われて出てきたのかなと

思ってたんだけど」


 レンはエールのジョッキを掴んだままじっとグラスを見つめて

暫く考えてから顔を上げて、


「天変地異の前には動物がその場所から逃げ出すって

話は聞いたことがある」


「天変地異って?」


「そうだな、火山の爆発とか地震とか大津波とかかな

その動物が逃げ出してきたってのはいつ頃の話しなんだい?」


「いつだったかしら、1か月くらい前?もうちょっと前?」


 女性冒険者が悩みながら口にすると、それをフォローする様に

別の女性冒険者が、


「あの時じゃない? ほらっ、港に大きな船が入ってきて

皆で見に行った時。あの前の日にそんなことがあったじゃない」


「そうだ、思い出した。あの船が入ってきた前の日だ」


 女性冒険者が手を叩きながらながら同意する


「その大きな船が港に入ってきた日っていつなんだい?」


 レンが言うと一人の冒険者が立ち上がって


「俺が港で聞いてきてやる」


 言うなりギルドを飛び出して行った。


「なぁ、レンよ。仮に天変地異の前触れだとして

それがランクAの登場と関係があると思っているのか?」


 このギルドの冒険者の中のリーダー格のランクBの男が

レンを見つめながら言うと


「いや、正直俺にもまだ分からない。天変地異って話も

確定じゃないしな。あるいはあの南の地区の生態系に

変化があって、最下層にいる動物達が逃げ出した

ってことかもしれないし、

今はとにかくいろんな情報が欲しい所なんだ。

ただ魔獣と違って普通の動物は天変地異を

本能で嗅ぎ取って動きだすって話しを聞いたことが

あったからさ。」


 そんな話をしていると港に向かった冒険者が息を切らせて

ギルドに入ってきた


「今から35日前だった。確認してきた。」


 その話を聞いたレンはまたしばらく俯いて

考えをまとめてから顔を上げる

皆の視線がレンに注がれている。


「詳しいことは明日以降、ティエラと森に入ってからの

調査になるが、今想像されるのは2つ。

1つは近々天変地異が起こるのを知った動物が一斉に

逃げ出して、餌のなくなったランクAの魔獣が山の中から

麓の森にまで餌を探して降りてきたというケース。

もう1つは天変地異じゃなくて、森と山の生態系が

崩れたって事」


「生態系が崩れたってどういうことなんだい?」

 

質問してきた冒険者を見ながら


「話を聞く限り、この地区の山や森の生態系の頂点にいたのが

ランクAの魔獣だったんだろう。ところがそれより

強い魔獣が山に住み着いたら順位が下がる」


「つまり、生態系の頂点から追い出されて森に来たってことかい?」


 ランクBのリーダー格の男を見て、


「そう。その可能性もある。その場合はランクAを

追い出すくらいだから、新しく来たのはランクS以上の魔獣

ということになるな。ただ、その場合には天変地異説は

無かったってことになる」


「ランクS以上だって?」


「天変地異もやだけど、ランクS以上ってのもいやだね」


 レンの言葉を聞いて冒険者がざわめく。


「いや、まだほとんど何も分からない中での想像だけだし。

ひょっとしたらもっと別の理由があるのかもしれない。」


 慌ててレンが自分でフォローを入れて


「いずれにしても明日から森の方に行って調査してくるよ」


 その後しばらくして酒場での話しはお開きとなった。


 ギルドが予約してくれていた宿屋はギルドから遠くなく

通りに面した大きな宿で、その2階の奥の部屋に入ると


「きれいな部屋ね」


 そのままティエラは窓を開けて


「潮の匂いがする。海の近くだって実感するわ」


「終わったらうまい海鮮をいっぱい食べようぜ」


「うん。ところでレンは本当はどう思ってるの?」

ベッドに腰かけているとその隣にティエラが座って聞いてきた。


「どっちかって言うと、天変地異よりランクS以上の

魔獣の登場説かな」


「じゃあ動物たちが逃げ出した原因は?」


「逃げ出したんじゃなくて、追い出されたんじゃないかと

思ってる」


「追い出された?」


「ランクS以上の魔獣が今まで見たことがない、未知に近い

魔獣だったとしたら、今まで感じたことがない恐怖心が

本能をして逃げろ…と命令したんじゃないかと」


「もし本当に、レンの言う通りだとしたら

厄介な魔獣があのエリアにいるってことになるわね」


「ああ、そうなる。簡単な魔獣退治じゃ済まないかも

しれない」


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