第5話
一度転送板に触れていると、次回はその場所まで転送できるので、
迷わず3階に飛んだレン、片手剣を抜いてゆっくりと進んでいく。
3階の構造も1、2回と同じで通路と小部屋の組み合わせだが、
出会う魔獣が強くなってきているのが戦闘するとわかる。
今まで近づいてきた魔獣の頭に魔法を当てれば倒れていたゴブリンも、
この階層では倒すのに2発必要となってきた。
ゴブリン以外のトロルや新たに登場したウルフの魔獣についても同様だ
リンクすると大変になるな…と思いながら今まで以上に慎重に進んでいく。
幸い地図を持っているので方向を間違えることはないが、
それでも最低でも2匹、時には3匹を相手にすると以前より
討伐に時間がかかり、その分当然レンの疲労も蓄積されていく。
それでもレンは休むことなく魔獣を倒していき、LV21にアップした
「やっぱりダンジョンは得られる経験値が多いみたいだな。
もっとも俺自身も相当の数を倒してるけどな」
3階の討伐もある程度進んできたところでレンは小さな
小部屋を見つけた、中を覗いてみると魔獣の姿もなく、
部屋に入って壁にもたれながら足を床の上に伸ばして
「ふぅ〜」 水を飲みながら休憩タイムに…
持ってきた干し肉をちぎって少し口に入れ、
壁にもたれていると全身の力が抜けていく
初めてのダンジョン、しかもソロでの攻略ということで
自分で意識している以上に緊張していた様で、
レンはいつの間にか小部屋の壁に凭れながら、
うとうととして瞼を閉じてしまった。
レンが眠ってからしばらくすると、レンの休んでいる
小部屋の床の一部が光始めてそこに魔法陣が形成されていく。
魔法陣はしばらく光ってからゆっくりと光を落として消えたかと思うと
今度はレンの座っている真下の床が光始めた。
そして数秒後、その光は大きく輝き、レンの姿を
どこかに転送していった。
床に座り、壁にもたれていた自分の周囲が光で包まれた時に
目を覚ましたレンは慌ててその場から移動しようと
立ち上がったが、その時にはすでに光が自分を包んで
どこかに飛ばされる感覚が襲ってきて間に合わなかった。
どこかに飛ばされ周囲の光がだんだんと薄くなり、
そして消えて、足元の魔法陣も無くなり、レンは自分が
どこにいるのかおもむろに周囲を見渡して見る。すると、
「一人なの?」
声がして思わずそちらを見ると、壁際に凭れている
一人の女性冒険者の姿が…
ローブを羽織り、片手剣の手入れをしている。
「あなた、ひょっとして赤魔道士?」
「そうだが、そっちもか?」
「赤魔道士なんて私くらいかと思ってたけど、
他にもいるなんてね。しかもこんな場所で偶然会うなんて」
よく見ると年は同じくらいか。人族、黒髪の女冒険者。
美人だなとレンは思った。黒髪は後ろで一つにまとめて
リボンで留めてある。服の上からでもわかるスタイルの良さ。
「俺はレン、赤魔道士レベル21になったばかりだ」
「私はティエラ、同じ赤魔道士レベルは20よ。
でももうそろそろ上がりそうな気はする」
「赤魔道士が俺以外にいたなんてな…」
「私も今聞いてびっくりしてるわよ」
とにかく、お互いの自己紹介が終わると、
「で、ここは一体どこなんだ?」
ティエラは部屋の中のある方向を指差し、
「そこにある階段を上がると一つ前のフロアよ。
オークキングやらトロルキング、Sクラスの魔獣が徘徊してるわよ。
あと、本でしかみなかった魔人と言われてるんだっけ?
背中に羽根をつけて角を持ってる獣人までいるわよ」
階段を上がって上をチラッと見て戻ってきたレンは
「本当だ、魔人までいるとは…」
ということは… とティエラを見れば
「そう、おそらくここはこのダンジョンの最深部、
そしてその扉の向こうにいるのはこのダンジョンのボスよ」
「なるほど…最深部に飛ばされたってことか」
ティエラの近くに座り込んだレン
「で、ティエラも同じかい?転移魔法陣でこの部屋に?」
「そうよ、2日前。3階に降りてすぐの部屋で魔獣を倒していたら、
リンクして数が増えちゃってその相手をしている時に床が
光り初めて、やばいと思ったけど逃げるに逃げられないままに
飛ばされてきたのよ」
「2日前にきたのか。で、ここで何してたんだよ?」
「誰かAかSクラスの冒険者が魔法陣でも上の階からでも
降りてきたら、頼んで一緒に帰らせてもらおうと思ってたのよ。
まさかLV21のレンがソロでくるとは思わなかったけどね。
食事も水も無くなって焦ってたところなのよ」
そんなに焦ってない口調でいうティエラ。
こいつ意外と根性あるかもと思いながら、
ポーチから干し肉、水を取り出して
「ほらっ、飲んで食えよ。腹減ってるんだろう?」
「いいの! 実はお腹空いてたの、ありがとう」
受け取った干し肉をかじり、生き返るわ〜
とか言いながら水を飲むティエラを見ながら
「赤魔道士って自分以外初めてみたけど、ティエラはどこから
このダンジョンに来たんだ?俺はベルグードの街で
冒険者になってここにきたけど、ベルグードで一年近くいるけど
赤魔導士なんて自分以外いなかったぜ?」
干し肉を水で流しこんで、一息ついてから、
「私はここから西に3日ほど歩いたところにあるカレスト
という街から来たの。私自身はそのカレストから少し離れた
ところにある村で育って、冒険者になるときにカレストに出て、
そこで赤魔道士で登録して、それからは街の周辺の森なんかで
レベル上げてで、LV20になってすぐにこのダンジョンに来たって訳」
「なるほど、めったにいない赤魔導士がここで二人か…
同じジョブの人に会えたのは嬉しいけど、
この絶望的な状況の場所で逢えるとはな。 二人ともランクDだし」
「ほんとね、で、どうする? このまま誰か来るのを待つの?
それとも上の階で逃げ回りながらこの上の階を走り回って
階段のところにある転送ゲート探す?
あの魔獣の中を逃げ回りながら探すのはまず無理だと思うけどね。」
とりあえず空腹を解消できたティエラの問いかけに
「やっぱりというか、このフロアだけは階段の下にある
転送板はないんだな。かといって上に上がって戻るのは
まず無理だろうな」
言いながらレンは立ち上がってボス部屋であろう
堅牢な金属で出来ている扉の前に立つ。
扉はギザキザのノコギリが噛み合う様になっている左右に
スライドするドアで、扉の横の壁に上下に動かすレバーがある
「ここ、開けたか?」
「この部屋に飛ばされて、1回だけ開けたわよ。
そして中を見たらボスがこっちを見て立ち上がったから
直ぐに慌てて締めたの。ボスは一瞬しか見えなかったけど、
フェンリルだった」
狼の王、フェンリル ランクはSというかSS以上。
特に魔法は使わないが恐ろしく敏捷で体力もあり
その爪と尻尾で敵を倒す物理攻撃ではSランクの中でも
最上位に位置する魔獣だ。
「なるほど、とは言ってもここで助けを待ってても、
誰か来る前に飢え死にしそうだよな。かと言って
上の階はあんな状態だし。」
しばらく扉の前で考えていたレンは、
「ティエラ、ちょっとレバーの近くに立って開けてくれよ、
俺が閉めてと言ったらすぐ閉めてくれよ。
俺も中の様子を見てみる」
「わかったわ」
ティエラがレバーの前にたち、自分は扉の中心に立って、
「頼む」
レバーを倒すと音を立てながら金属の扉がゆっくり左右に開いていく
その大きくなっていく隙間から中を見ると、
部屋の奥にある一段高い場所に7,8メートルはあろうかという
真っ青なフェンリルがゆっくり立ち上がってこちらを
睨みつけるのが見えて
「閉めろ!」
声と同時にティエラがレバーを上げ、扉がゆっくり閉まってくるが
フェンリルが立ち上がってこっちに向かってくるのが見えて
心臓がバクバクするが、なんとか扉が閉まる方が
早くてことなきを得た。
「あれは間違いなくフェンリルだな しかも結構でかい」
「でしょ? あんなのSランク1パーティでも厳しいんじゃない?
それを私達二人で倒せると思う?」
「戻るも地獄、進むも地獄ってやつか…ただ、
ここでこうしてるだけってのは俺は嫌だな。
何か方法があるはずだ、考えないと」
しばらく扉の前で座り込んで考えていたレン
あまりに同じ姿勢のまま動かないので寝ちゃったのかと
思ったティエラが声をかけようと
したそのタイミングでレンは起き上がり
「一つ方法を見つけた。」
「えっ、うそ!」
思わずティエラが問いかけると
「失敗する確率の方がずっと高い。失敗すると多分二人とも
あっという間にやられちゃうけど、この方法しか思いつかないな。」
「その方法を聞かせて」
レンはティエラに討伐の方法を説明していく
レンの作戦を聞いたティエラは、
「凄いこと考えつくね、本当に可能性が低い方法だけど、
私は何も思い浮かばないからレンの方法でやるしかないよね。
どうせ何もしなくても結果は同じなんだろうし」
「一か八かやってみるか」
二人並んで立ち上がって所定の場所につくと
「いくぜ!」
レンの合図でティエラが扉のレバーを倒すと、さっきと同じ様に
金属の扉がゆっくり左右に開いていく。開いた扉の前に立っている
レンを見つけたボスのフェンリルはゆっくり立ち上がって一
声吠えてからこっちに向かって走りだしてきた。
「まだだ、まだだ」
レバーをいつでもあげられる姿勢でティエラは泣きそうな
顔でレンを見ている。もう少し、ギリギリまで引きつけないと
恐怖で叫びたくなるのを抑え込み
「いまだ!」
その声と同時にレバーを上げるティエラ、
扉が閉まるスピードがもどかしく感じながら
レバーを上げっぱなしで持っている。
レンは扉から下がってじっと近づいてくるフェンリルを
見ていて…そして、
「グギャァァ」
大きな声と同時に扉に首を挟まれたフェンリルの
頭部が見えて…
「や、やったのね」
「ああ、ナイスタイミングだったぜ、ティエラ」
二人の目の前で扉に首を挟まれ、呻き声を出しながら
首を左右に振り、目でこちらを威嚇してくるフェンリルが…
「早速やろう。いつ扉が開いたり、こいつが扉をこじ
開けるかわかんないからな」
片手剣を持った二人がフェンリルに近く、フェンリルはさらに
威嚇する様に声をだして二人を睨みつける
「顎の下、同じ場所を切るんだ、身体から血を出させて倒すんだ」
言うなりレンは片手剣で顎の下の首のところを切ろうとするが
「メチャクチャ硬いな、こいつ」
「剣が弾かれちゃう」
「この硬さは想像以上だ。ティエラ、魔法と剣の両方で」
剣で切り、魔法で同じ箇所を攻撃していくが
フェンリルには殆ど傷をつけられない。
それでも二人とも一心不乱に同じ場所に
剣と魔法を当てていく
「レン、貴方何よそれ、私よりずっと剣の
動きがいいじゃないの」
「一応この剣、ランクAなんだよな それでも削れないぞ」
最後までお読みいただきありがとうございます