第49話
次の日は完全休養日としてゆっくり休んだ翌日
2人は25階にある転送板のある場所からフロアを
見回していた。
「ここもいやらしい造りになってるわね」
ティエラの視線の先は木々がほとんど生えていない
荒野の様な場所で、大きな岩がゴロゴロしており
その岩の間を抜ける様に細い道が続いている。
地面もあちこち隆起していて前方視界も悪い。
「俺たちは探索スキルがあるからいいが、
無いと、岩陰やら隆起している向こうから
敵が近づいてきてもほとんど直前まで見つけること
出来ないな」
2人の探索スキルには岩陰に隠れているトロルや
オーク、それに岩に擬態しているロックゴーレム等が
見えている。地形の隆起によって死角を増やすフロアは
確かに探索スキル持ちじゃないと厳しいだろう。
「一本道か…この道を行けば次の階段に出られる
んだろうけど、この道をまともに進むよりも
左からぐるっと回った方が魔獣は少なそうだ」
「そうね、まだ25階だしスピード重視で移動しましょ」
レンの指差すフロアの左の方を見ながらティエラが先に
歩き出す。
可能な限り戦闘を避ける方針とは言え、全く戦闘無し
という訳にもいかず、ランクCやBのトロルやオークを
倒しながら下に降りる階段を目指していく。
隆起のある地形をしたフロアは結局29階まで続き
極力戦闘を避けながら29階もクリアして30階に到達。
30階になると魔獣は全てランクBとなり
またフロアの広さもさらに一段と広くなっていた。
レンとティエラが魔獣を蹴散らしながら進んでも
1日にせいぜい2フロア程度しか進めなくなっている。
それでも2勤1休のローテーションで攻略を
進め、南のダンジョンの攻略を開始してから
2週間で40階に到達。
ギルドではレンとティエラが南のダンジョンを1階から
攻略していることは有名になっていて、
その日も40階に到達して倒した魔獣を清算しようと
ギルドに戻ると、そこにいた冒険者達から
「40階到達だって? あっという間に一番攻略が
進んでいるパーティになっちまったよな」
「一杯おごるから20階の最適ルート教えてくれよ」
等と声を掛けられる。
二人ともベルグードNo.1のパーティの評価を得ていても
それを自慢することなく、上位転送する前と変わらない態度で
普段から接しているので、周囲の冒険者達からの
人気も高く、こうやっていつも囲まれては雑談をし、
差支えのない範囲でアドバイスしている。
40階は以前のリヴァイアサンのダンジョンでも登場した
砂漠フロアだった。
探索スキルと視界に捉えられる風景を見ると
リヴァイアサンのいたダンジョンとそう違わない様に見えるが
ここはフェンリルのいる最新で、最難関のダンジョンだ。
80階の内半分の40階に来て、これから徐々に難易度が
上がっていくだろうことを考えると、前回の砂漠の
ダンジョンと同じ様に思っていくと痛い目に合いそうな
気がする。
レンとティエラは無言で顔を見合わせてから砂地に
一歩踏み出していった。
炎天下の砂漠を歩き始めてしばらくすると前方から
真っ黒な体色の体長3メートル程のスコーピオンが
現れ、尾を振り回して威嚇しながらこちらに向かって突進してくる。
尾の先には毒針があり、それに刺されると
普通の人間なら即死に至る協力な毒だ。
レンとティエラはスコーピオンを見ても速度を
落とさずに歩きながら、ティエラが左手に片手剣を
もってその先から <<フリーズ>>をスコーピオンに
撃つ。ティエラの精霊魔法をまともに受けた
スコーピオンはその場で一瞬氷漬けの様に固まると
次の瞬間にはその身体がバラバラに飛び散った。
「所詮ランクBの魔獣ね」
何事もなかった様に砂漠を歩いていく二人
砂漠の魔獣は氷系が弱点のものが多い。
今度は前方で複数の赤い点が現れた
「サンドイーターだ」
「3匹か、魔法でやっちゃう?」
「そうしよう」
サンドイーターはミミズの様な形状をしている
体調2メートル前後の魔獣で、
普段は地面の中にいて外敵が近づく音や振動を感じると
地面から真っすぐに立つ様に身体を出して
敵に<<ストーン>>の土魔法を連続で撃ってくる魔獣である。
自分ではほとんど移動できないが、その代わりに
豊富な魔力量を背景にひたすら<<ストーン>>を
撃ち続ける。
またたいてい複数で出現するので、対魔法防御装備を
していない場合には近づくことが難しいと言われている。
二人は土魔法を唱え始めたサンドイーターに無詠唱で
<<フリーズ>>を撃つ
サンドイーターの<<ストーン>>が発動する前に
二人の<<フリーズ>>が2匹のサンドイーターを
直撃して絶命させる
残りの1匹のサンドイーターの<<ストーン>>は発動したものの
二人には殆どダメージを与えることができ無い。
精霊魔法は武器を同じ様に相手とのレベル差が
あればあるほど、つまり相手の方が
高レベルであればあるほど与ダメが低くなる。
ランクA、実質レベル80台と言われている二人に
とってはランクBクラスの魔法は普通に
受けてもほぼノーダメ状態で、しかも世界樹の
葉の加護があるので、仮に少ないとはいえダメージを
喰らったとしても即回復するので、実質
何のダメージも受けていないのと同じ状態であった。
ティエラは1度 <<ストーン>> を受けてから残りの
1匹に <<フリーズ>> を撃って相手をその場で絶命させて
「遠隔攻撃の手段がないパーティだときつい相手かもね」
「それとレベルが近いとストーンのダメも半端ないだろうな」
そんな話しをしながら砂漠を進み、その間にも
スコーピオンやサンドイーターを倒しながら3時間程歩くと
前方にオアシスが見えてきた。
リヴァイアサンのダンジョンと同じ様に、オアシスの入り口には
右の両側に岩に擬態しているロックゴーレムがいたが
さっくり倒して安全地帯となっているオアシスに着いた二人は
椰子の木々の日陰に腰を落として休息を取る。
「今までの例でいうと、ここが行程の約半分程かな」
アイテムボックスから取り出した冷たい水を飲みながらレンが
言うと、同じ様に水を飲んでいるティエラが頷きながら
「となると、今日はこのフロアをクリアして終わりだね。
あ〜あこの下の階層も多分同じ様な砂漠なんだろうなぁ
砂が纏わりついて気持ち悪いのよね」
「でもゾンビフロアよりはずっといいだろう?」
「そりゃもう、あれに比べたら砂漠なんて天国よ」
「じゃあ、ぶーたれずにサクッと砂漠を攻略しようぜ」
しっかり休憩を取ってから再び灼熱の砂漠に踏み出し
その後約4時間後に下に降りる階段を見つけた。
「やっぱり次の41階も砂漠だったね」
というティエラの声を最後に二人は転送版を使って
地上に戻った。
ローブに片手剣二刀流、首はお揃いの真っ青なスカーフ。
赤魔導士から魔法剣士に上位転生したレンとティエラは
ベルグードの冒険者のみならず市内でも有名に
なっており、ダンジョンから戻って外食しようと
街の中を歩くとあちこちから声が掛かる。
「ティエラちゃん、今日は外食かい?帰りにうちで
果物買っていきなよ。いいのが入ったから安くしといて
あげるよ」
「おばさん、いつもありがと。じゃあ2つちょうだい」
「レン、うちの串カツ最近余り買ってくれないじゃないかよ
冒険のお供に最高なうちの串カツ、よろしく頼むぜ」
商店の売り子から声を掛けれれ、
すれ違う冒険者や町の住人からも声を掛けられ
それに応えながら二人で市内商業区の中にある
レストランに入った。
奥の壁際にある4人掛けのテーブルに案内されて座ると
「なんか有名になっちゃったね」
「仕方ないとあきらめるしかないか」
「そうだよね。それだけ期待されてるってことだしね」
「魔王の登場はまだ先だって話しだけど、この街の周辺にだって
毎日の様に魔獣は出てるしな、住んでいる人から見りゃ
強い冒険者に頼りたくなる気持ちもわかるよ」
「おっ、自分で強いって言いましたね」
茶化してくるティエラに
「ここまで来て俺たち強くないですよ。って言う方が
嫌味だろ?」
「そりゃそうよね。こういのにも慣れなくちゃいけないのかな」
レンはティエラの顔を見ながら、
「本当に慣れなくて辛くなったらこの街出て俺の田舎の村に
行ったらのんびり暮らせるよ?」
「そうだね。田舎の村暮らしも全然悪く無いよね」
2人が食事している最中も同じレストランで食事を取っている
他の客が2人に気づいてチラチラと見てくる。
そんな視線を感じながらも食事を続け、
「魔王ってさ、だいたい100年周期で復活するって
言うじゃ無い? 何で100年なんだろうね」
食事を終えて食後のアイスを食べながら
ティエラが言う。
「俺も不思議に思ってたんだよな、てかさ
魔王ってどうやって誕生するんだろう?
やっぱ勇者みたいに突然生まれてくるものなのか?」
「80階到達したらフェンリルに聞いてみましょうか」
「そうだな。神獣ならその辺の事情も知ってるだろう」
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