第47話
翌日二人でベルグードのギルドに出向いて
ギルマスに託けの手紙を私、王都での
一連の出来事を報告した
4体目の加護の話しをしたときは
またか…という顔をしていたがもう慣れたのか
それ以上突っ込まずに最後までレンとティエラの報告を
聞き終えると、
「いずれにしても領主の護衛、お疲れだったな。
しばらくはここで活動するんだろう?」
「ああ、今のところ遠出の予定はない」
そう言ってレンたちがソファから立ち上がろうとしたときに
「そうだ、お前らに客が来てるぞ」
「客?」
「ああ、東のアルゴナ公国から来たという冒険者達だ
なんでも上位転生した魔法剣士とお手合わせして
貰いたいって言ってたな。」
ロチェスター王国の東に隣接している国の1つである
アルゴナ公国。
ここロチェスター王国が人族の割合が多いのに対して
アルゴナは獣人族の割合が多い。
冒険者に限って言えば、ロチェスター王国で冒険者
をしている人族と獣人族との割合は約8:2
住民比率だと7:3程度であるのに対し、
アルゴナ公国に於いては冒険者に占める人族と獣人族
との割合は3:7と逆転する。
住民比率も同様の3:7と獣人が多く住む国として知られている。
ロチェスターとアルゴナは昔から交易が盛んで
両国の関係も良好であり、冒険者の行き来も多い。
もちろん、ロチェスターもアルゴナも種族による差別などなく
人族と獣人族が平等に暮らしている。
アルゴナからここに来たということは
恐らくその冒険者たちも獣人である可能性が高いだろう
とレンはギルマスの話しを聞きながら当たりをつけて
「お手合わせ願いたいってわざわざ来るものなのか?」
「まぁ、たぶん一番の目的はここの近くにあるダンジョンの
攻略だろうな。お前らとの手合わせはそのついでかなんか
じゃないのか?」
「それなら分かるわね。」
「模擬戦するならうちの修練場を使え、間違っても
外で本気武器でやるなよ。」
「わかってるって」
ギルドの応接を出てカウンターのあるエリアに戻ると
受付嬢のキャシーがレンとティエラを見つけて、
「レンさん、あそこのテーブルでお客様がお待ちですよ」
ティエラと二人、キャシーが指さす方を見ると
酒場兼打ち合わせの場所の奥のテーブルに座っていた
数人から手を振られた。
そのテーブルには4人の獣人が座っていた
大きな盾を酒場の壁に凭れさせている大柄で岩の様な
体つきをした狼族の男。
その横には戦士の防具を身に着けている同じ狼族の男
その後ろ側には犬族の白魔導士と猫族黒魔導士の二人
の女性が座っている。
他のテーブルに座っているレンやティエラの顔見知りの冒険者達に
挨拶しながらそのテーブルに近づいていくと、4人が席から立ち上がり
戦士の男が右手を差し出しながら話しかけてきた。
「やぁ、魔法剣士のレンさんとティエラさんだね。
僕らはここでダンジョン攻略しながら貴方達を待っていたんですよ。
僕はカッセル。このパーティのリーダーしている剣士。
この大男はギーセン。見ての通りパラディン。
それで後衛の二人はゲーラとリーザ ゲーラは僧侶、
リーザは精霊士をやってる」
「全員上位転生したランクAか しかもいい構成だな」
「ありがとう。そう。全員レベル64のランクAパーティです。」
勧められるままに彼らのテーブルに腰かける
「全員レベル64でランクAって凄いよね」
ティエラが素直に感心していると、
「いやいや魔法剣士に転生したレンさん達の方が
ずっとすごいでしょう?しかも神獣の加護まであるとか」
「それで俺たちを待っていたということだけど?」
テーブルに座って出された果実汁を飲みながら
彼らの話しを切る様にレンが聞くと
「正直に言うと、僕らはアルゴナ公国で1番の冒険者
ランクなんです。その僕らがロチェスター王国の中でも
冒険者のレベルが一番高いと言われているこの
ベルグードでNo.1の魔法剣士のレンさんとティエラさん
とで模擬戦をさせて貰って自分たちの今の立ち位置を
再確認させれもらおうかと思いまして」
「レン、私たちってここで一番なの?」
カッセルの話しを聞いたティエラがびっくりすると
「ティエラが言う通り、ここでは冒険者にランク付けは
していないので、俺たちが一番かどうかは分からないんだが」
「この街に来てからこの酒場でいろんな人と話をし
酒を飲みました。皆いい人たちですね。そんな彼らが一様に、
このギルドのNo.1は魔法剣士の二人組だと言ってましたので
ランク付けはなくても評価はNo.1なのでしょう」
カッセルは終始笑顔を絶やすことなく話かけてくる
そこには一切の悪意は感じられず、純粋にレン達と模擬戦を
したいという気持ちが伝わってきた。
「そこまで言って貰えるならこちらも是非お相手をお願いしたい
他国のランクAの冒険者と模擬戦する機会なんてそう無いしな」
レンが模擬戦を受けたのを聞いていた周囲の冒険者達が
「レンとティエラとアルゴナのランクAとの模擬戦だ!」
「早めにいい場所押さえないとな」
皆椅子から立ち上がって先に修練場に向かっていく。
それを苦笑いしながら見て
「じゃあ、早速行きましょうか」
ティエラもやる気になった様だ。
皆で立ち上がってギルドを出て奥にある修練場に向かう
そこにはいつの間にかギスマスのアンドリューもいて
「審判は俺が努めよう。いいな?」
どちらにも依存はなく頷きあう。
「こっちは二人だが、そっちはカッセルとギーセンの
二人ってことか?」
「そうしましょう。あえてパーティ戦にする必要も
ありませんからね。それで模擬戦のやり方ですが
1対1でお願いしたい」
「それはいいんだけど、ギーセンさんって盾ジョブでしょ?」
ティエラがギーセンの装備を見て言うと、
事前にカッセルと模擬戦の方法について打ち合わせを
していたのだろう。ギーセンは自前の盾を持って
「俺はこの通り盾ジョブで攻撃を一手に受けるのが仕事なので
できれば、そちらも本気武器を持って、それで俺の盾を
攻撃して欲しい。一定時間攻撃を受けて俺がこの場所から
1メートル以上下がったらそっちの勝ち。
1メートル以内で抑えたら俺の勝ちってのはどうだい?」
大柄でがっしりしていかにも盾ジョブ向きの体型をしている
ギーセン。実力も相当高そうだとその装備を見てティエラは感じ、
「じゃあ私がギーセンさんとやるわ。時間はそうね、
15秒でどうかしら?」
ティエラが手を挙げたのを聞いてカッセル以下のメンバーが
驚いた表情をする。
修練場で見ている他の冒険者達は大喜びして歓声をあげている。
「ティエラは俺と同じ実力があるから女性だって
気を使わなくても大丈夫だ。」
「それはいいんだが、時間は15秒でいいのかい?」
「うん。15秒で動かないならあといくらやっても無駄よ」
「なるほど。わかった。では15秒でいいだろう」
ギーセンも納得する。ギルマスの方を向いて、
「アンドリュー、そういう訳だから盾しか攻撃しないし、
彼らは本気武器と防具を使用して構わないよな」
「ああ、今の話しを聞いている限り大丈夫だろう。本気武器と
装備の使用を許可する」
「じゃあ、最初にこの二人の模擬戦からお願いします。僕と
レンさんはその後ということで」
「わかった」
修練場の中央で踏ん張る様に立つギーセン、その手には
上半身から下半身の一部まで隠れる大きくて頑丈そうな
盾が握られている。重心を落とし盾を構え、
「いつでもいいぜ」
そのギーセンから5メートル程離れた場所に立つティエラ
いつもの片手剣を両手に持って開始の合図を待っている。
「こっちもいつでもOK」
「始め!!」
アンドリューの開始の合図と同時にティエラが飛び出した
「ガシッ」
という音がしたと思うと次の瞬間には盾をもった狼族の
ギーセンの身体が居た場所から10メートルほど背後に吹っ飛んでいた。
「…」
シーンとする修練場。ほんのわずかな静寂のあとは
「うぉぉぉ」
と観客席から冒険者の声が上がった
「すげぇ」
「あの盾の男を一撃で吹っ飛ばしやがった」
ティエラが背後の壁際まで吹っ飛んだギーセンに駆け寄って
「大丈夫?」
ヒールを施していく
「あ、ああ。それにしても強烈だったぜ。俺の完敗だ」
ヒールを受けて立ち上がったギーセンが負けを認め
この戦いはティエラの勝利となった。
「ギーセンはランクAの魔獣の攻撃を正面から受けても
ビクともしない程の実力の持ち主なんですが、あんな姿は
始めて見た」
カッセルは模擬剣を手にとりながら
「僕も最初から全力でいかせてもらいます」
その言葉にうなずきつつ、レンも模擬剣を手に取る
「2戦目を行う。これはどちらかが参ったと言うか
片足の膝が地面に着いたらそこで終了だ。いいな?」
アンドリューの言葉に
「それで大丈夫です」
「OKだ」
「では、始め!」
合図と同時に今度はカッセルが飛び込んできた
狼族の身体能力の高さを生かして
次々と片手剣をレンに向けてくる
キン、キンと片手剣同士がぶつかりあう音が
修練場に響く
「あいつ凄いな」
「ああ、剣捌きが見えない」
「レン、防戦一方じゃないか」
冒険者達がそこかしこで試合を見ながら話している。
傍で審判をしながら二人を見ているアンドリューは
(レンの奴、わざと攻撃せずに受けてるな。しかも
相手の剣をすべて見切ってやがる。また一段と強く
なったか)
一方片手剣を振り続けている狼族のカッセルも
(何でだ?何でこうも簡単に躱されるんだ?)
自分の振る剣を剣で軽く捌き、いなし、最小限の動きで
躱していくレンの動きを見てカッセルは更に剣の速度を上げて
レンに切りかかるが簡単に躱されている。
しばらくその状態が続いたあと
「そろそろこちらから行かせてもらう」
そう言うなりレンが防御から攻撃にギアを切り替えた。
レンが言った直後、カッセルの片手剣が
手首から飛ばされ、気が付いた時には
レンの片手剣の剣先がカッセルの喉元に
突き出されていた。
「参りました。完敗です」
「そこまで、勝者レン!」
ギルマスの声でまた観客の冒険者達の歓声が上がる
模擬剣を元の場所に戻したレンにカッセルが
近づいて
「ありがとうございました。いや、想像以上でした。
僕の剣が一度も相手に当たらないなんて初めてでしたよ。」
「あんたたちは4人パーティだから4人が組んだら
もっと力を発揮できるんだろう? こういう個人戦って
実践の場ではほとんど無いから、余り気にする必要は
ないんじゃないかな。いい剣筋だったよ」
「でも完敗でしたよ」
「俺たちは二人組。こういう1対1や1対多の戦いに
慣れているだけさ。さて模擬戦も終わったし
酒場で飲み直そうぜ」
審判を務めたギルマスのアンドリューは模擬戦が終わり、
修練場からギルドの酒場に移動していくレン達の後ろ姿
を見ながら
(レベル64のランクAのパラディンと剣士を共に瞬殺か。
2人ともまた一段と強くなってるな。レベル62どころか
80は軽く超えてる感じだ。これが魔法剣士の真髄なのか。
こりゃ何年かぶりにベルグードからランクSが登場しそうだな)
レンはティエラと並んで酒場に向かいながら
指輪を使った念話で
(ティエラ、手抜いただろう? 50%位の力か?)
(そう、だいたい半分くらい。だって
全力で当たったらきっとあの人、盾を持ってる
手首が折れてるわよ。レンだって
最初ずっと様子見してて結局最後まで
軽く流してたじゃない)
(まぁな)
その後レン達はギルドの酒場で他の冒険者も一緒に
盛大に遅くまで飲んで騒いで親交を深めた
そしてレンとティエラが隣国アルゴナのNo.1を
倒したという話しは尾ひれもつきながら全土に
広まっていく。
そんなことは知らない2人は
いつもの様に朝起きると、自宅の庭で鍛錬を
してからギルドに顔を出し
差し障りのないクエストをこなしたり、
テレポリングで王都北西の山に飛んでランクAを
倒してレベル上げに勤しんだり、2勤1休の
ローテーションでベルグードの冒険者生活を
楽しんでいた。
ランクAを相手にレベル上げをしていたせいか
2人ともレベル63になっていた。
レベルが上がってから数日経ったある日の夕刻、
自宅でティエラが作った料理を食べながら、
「レン、今日友達に聞いたんだけどさ
最近新規ジョブで赤魔道士を選択する人が
ちょくちょくいるそうよ。」
レンは食べていた皿から顔を上げ、
「そうなのか。途中で挫折せずに最後まで
やり抜いてほしいな」
「赤魔導士同士で組みやすくなってるでしょうから
頑張れるかもしれないね」
「そうなるといいな。
ところでティエラ、そろそろ行くか?」
急に話題を変えたレンだが、それに
驚くこともなく、
「そうね。明日から行こうか」
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