第42話
森を超えてからは人通りの多い草原の道を
順調に進んで行き、
辺境領を出発して4週間後、視界に王都が見えてきた
「あれが王都か、遠目に見ても大きい街ってわかるよね」
「ベルグードも大きいと思ったけど、流石に王都は
それ以上だよな」
田舎者のレンとティエラが馬車の上から道の先に見えている
王都の城壁と、その中で一際高い王族の城を見ていると、
「王都は初めてかい? ベルグードも大きな街だったけど
王都はもっとでかい街だよ」
御者が振り返って話しかけてくるのを聞きながらも2人は
王都の方をずっと見ていた。
王都を視界に捉えてからしばらくしてようやく馬車群は
王都の城壁にたどり着いた。
一般の人々とは異なる門に案内され、そこで通行許可をえると
扉が開いて中に入っていく。
どうやらこの門は貴族専用らしく、中に入ると大きな屋敷が
立ち並ぶエリアになっていた。
そのまま馬車は貴族街の中を進み、一軒の大きな屋敷の
前で立ち止まる。
レンとティエラが幌馬車を降りて後ろの馬車に移動すると
窓が開いて領主のヴァンフィールドが顔をだしてきた
「ここが俺の王都での住まいだ。予定通り到着したのも
騎士やレン達のおかげだな。これが護衛クエストの
終了証明書だ。ここのギルドに報告に行くといい」
領主から証明書を受け取り一礼する2人
「これで終了だが、お前達はこれからどうするんだ?
「せっかく王都に来たから観光でもしてから帰りますよ」
「そうか。せいぜい楽しんできてくれよ。ただしここに住む
なんて言わないでくれよな」
領主とレン達が笑っていると、ローズがそばにやってきて
「護衛ありがとう。無事到着できたのもレン達のおかげね
私もこれで肩の荷が半分降りたわ」
「まだ帰りがあるんだよな」
「そう、でも盗賊を退治してくれたのと、道路の事情が
わかったので行きよりは楽よ」
「なるほど」
「じゃあ、私たちはこれで。お疲れ様」
馬車が領主の館に入っていくのを見送ってから
「終わった終わった」
大きく伸びをするティエラ
「とりあえず宿を探しましょ。私お風呂に入りたい」
貴族街を時間をかけて歩き、公園や屋台のあるエリアを
通り抜けるとようやく商業地区に入っていった
2人は通りを歩きながら宿屋を探しているが
なかなか見つからない
「ついでだし、ギルドで聞くか」
レンの言葉にティエラも同意して2人で商業区の通りを
しばらく歩いていると見慣れたギルドのマークがある
建物が見えてきた。
建物自体がベルグードのより2回りほど大きくて、
それに3階建になっている。
扉を開けて中にはいると、1階のフロアもかなり大きい
正面に受付カウンター、その隣の壁には
クエスト掲示板があり、カウンターを見て左側は
打ち合わせ兼酒場の様に椅子とテーブルが相当数
置いてあり、そこいは何組かのパーティが打ち合わせや
あるいは食事、酒を飲んでいた。
中をグルッと見たティエラが
「やっぱり大きいね」
「そうだな」
レンも周囲を見回してから受付カウンターに歩いていき
受付嬢と話をすると、そのまま受付嬢に案内される様に
奥の応接室にはいっていった。
レンとティエラが入ったときからその酒場にいた冒険者達は
受付嬢と一緒に奥に歩いていく2人を見て
「珍しい格好をしてたな」
「ここの街のやつじゃないだろう?見慣れない顔だし」
などと話し合っていると一番奥のテーブルに座って
酒を飲んでいた3人組の中のリーダー格の男が
「お前ら間違ってもあの2人に手を出すなよ。
こっぴどくやられちまうぜ」
「シール、あいつらの事知ってるのか?」
1人の冒険者がリーダー格の男に聞くと、
「ああ、知ってる、ジムとエルスも知ってるぜ。なぁ」
振られた2人も
「あの外見に惑わされちゃいけねぇ」
「もう2度とあんな思いはしたくねぇ」
「一体何者なんだよ?シール」
グイッとエールを飲んでからシールを見ている酒場にいる
冒険者達に聞こえる様に、
「あいつらだよ、初めて赤魔道士から魔法剣士に上位転生して
今ではベルグードの冒険者ギルドのランクA、あの荒くれギルドの
中でもトッププレーヤー。神獣の加護をいくつも持ってるっていう
レンとティエラだよ。」
その言葉を聞いて冒険者がどよめく
「マジかよ」
「ダンジョンの秘密や上位転生条件を神獣から聞き出したという
凄腕の冒険者って話しは聞いてたが、あいつらなのか」
「2人ともまだ若いよな」
「とても強そうには見えないわね」
他の冒険者が口々に思ったことを言っている
「あの見てくれに惑わされちゃいけねぇ。
俺がしばらく前にベルグードに行ってたのは知ってるだろ?
その時俺はレベル55のランクB、レンは確か当時は
ランクCのレベル47だったかな。で、俺がレンにちょっかいを
出して模擬戦をしたのさ、ギルマス立会いで」
シールの話しに酒場にいる冒険者達は耳を澄まして聞いている
「あの野郎、1対3でいいってぬかしやがって、俺とこのジムと
エリスの3人とレンとで模擬戦になった」
「シールのパーティ3人とあいつ1人? しかもランクCで
レベル47なら勝負にならないじゃないかよ」
1人の冒険者が口を挟むと、
「その通り、勝負にならなかったんだよ。始まって10秒ほどで
俺たち3人は地べたに這いつくばされちまった」
「「えええっ」」
「シールが10秒でランクCに負けた?」
ジムがシールの言葉を引き取って
「ああ、俺たちがあっという間に倒されちまったのさ。
正直今でもどうやって倒されたのかわからない、
それくらいあのレンの動きは早くて見えなかった」
そこでシールがビールを飲んでから、
「赤魔道士ってのはレベルをあげればあげるほど
能力の伸びしろが半端ないって実感したぜ。あの当時で
実質レベル70近くの実力はあったんじゃないかと思ってる。
その後俺たちはこっちに戻ってきたが、
あとはお前達も知ってる通り、さらにレベルは上がるわ、
神獣の加護は2つだか3つだか持ってるわ、
ついに上位転生までしちまいやがった。」
酒場の中でこんな話しをされているとは露知らず
レンとティエラは受付嬢にギルドカードを見せながら
ギルマスと話しをしたいと申し入れると、そのカードを見た
受付嬢がすぐに奥にかけていき、2人をギルドの応接室に
案内してくれた。
しばらくすると応接室の扉が開いていかにも元冒険者といった
風情の大柄な男が部屋に入ってきた
「待たせたな、俺がこのギルドのマスターをやっている
オースティンだ。よろしく」
差し出された手を握りながら
「レン、魔法剣士。ベルグードで冒険者をやっている」
「ティエラです。同じく魔法剣士、レンと組んでベルグードで
冒険者をしています」
ギルマスのオースティンは2人を座らせて、
「お前達のことは王国中のギルドの連中は知ってるよ。
ダンジョンの秘密や転生条件を神獣から聞き出し、当人も
初めての魔法剣士に上位転生。今じゃベルグードギルドの
エースらしいじゃないか」
「はぁ、どうも」
レンが気の抜けた返事をすると
「まぁ、当人達が思っているよりお前さんたちは
有名だってことだ。そんな事より、
今回は辺境伯の護衛クエで王都に来たんだろう?」
「そうそう、これ、クエストの終了証明書です、
それとこれが途中で討伐した盗賊の討伐証明書」
ティエラが2通の証明書をギルマスに出し、
中身を確認すると
「オーケーだ。2人のギルドカードを出してくれ、
こっちで入金手続きをしておく」
ギルマスに言われるままにギルドカードを出す2人、
それを見て
「魔法剣士か… 恐らく赤魔道士のジョブができて初めての
上位転生者だと思う。ランクもAか、まぁこれは当然だな」
独り言を言ってから2人分のカードを職員に渡し、
「それでクエストが終わって、これからどうするんだ?」
「せっかく王都に来たのでちょっと王都観光と、王都周辺を
探索してみようかと思ってる」
北の火山に行くとは言わずにぼかして言うレン
「わかった。ベルグードのアンドリューからは2人に
便宜を図ってくれって頼まれてるが、
何か手伝うことはあるか?」
レンとティエラは顔を見合わせてから
「そうだな、2つほどお願いしてもいいかな?
まずは王都での宿でいいところを紹介してもらいたい。」
「宿か。それは問題ない。ランクAにふさわしい宿があるぞ。
このギルドを出て前の大通りを城に向かって歩いて2つ目の
辻を右に入るとすぐに ”いぶき亭”という宿屋がある。
部屋も広いし、綺麗だし、飯も美味い。
俺から紹介を受けたと言えば便宜を図ってくれるはずだ。」
「それは助かる」
「で、もう1つは何だ?」
「ああ、実はこの国の地図が見たい、王都の地図と
王国の詳しい地図を見せて貰えないだろうか?」
「地図か…目的がない限り閲覧させないのが原則だが
お前達は、まぁ、特別だしな。わかった準備しよう。
これから見るんだろう?」
「ありがとうございます。」
一旦部屋を出たギルマスがすぐに大きな筒を持って
戻ってきた。
「この中に地図が入っている。俺は自分の部屋に戻るから
ゆっくりと見てくれ、見終わったら声をかけてくれるか」
レンとティエラが礼を言うと、ギルマスは一旦部屋から
出ていった。
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