第38話
翌日からはいつもの日々が戻ってきた。
朝はゆっくりと起きて朝食を食べ、
空いた頃にギルドに顔を出して、受付のキャシーと話しをし、
特に急ぎのクエストがなければそのまま二人で
街の外に出て魔獣を倒して間引きしたり、ギルドの訓練場で
二人で模擬戦をしたりと過ごしていた。
相変わらず二人が模擬戦をすると、その事がいつの間にか
冒険者の中で広まって練習場には普段より多い
見学者が集まってきていたが…
「魔法剣士になってさらに動きが早くなったと思わないか?」
「ああ、魔法剣士でランクAだろう?間違いなく
ベルグードNo.1の冒険者になっちまったよな」
レンとティエラの模擬戦はお互いに木刀を
使用しているとはいえ、どちらも二刀流で
その動きは熟練の冒険者でさえも目で追うのが
精一杯というほどの速さで木刀同士がぶつかり合う音、
地面を這う靴の音が絶え間なく続く
いつもの様に3本に1本ティエラがレンの木刀を弾き飛ばし、
残りの2本はレンがティエラの木刀を弾き飛ばす…
その度に見学している冒険者からは感嘆の声が聞こえてくる。
たっぷりと30分、汗を流して家に戻って休んでいると、
玄関の呼び鈴の鳴る音がティエラが出ると
そこには武器屋で働いている犬族の店員の姿が…
「こんにちは。店長がお二人の武器ができたので
見に来てくれって」
「わかったわ。すぐに行く。レン、
武器屋のズームが私たちの武器が出来から見に来てくれって」
家の中に声をかけると、返事とともにレンが玄関にやってきた。
犬族の、武器屋の店員の後をついて二人でズームの武器屋に入ると、
中からドワーフの店長が手に箱を2つ持って出てきて
「おお、待っとったぞ。」
言いながらテーブルの上に箱を置いて、その蓋を開けた
「こっちがレンので、そっちがティエラのだ」
それは彼らが2刀流の武器の左手に持つ、短めも片手剣で
ミスリルの青みがかった色が鮮やかに輝いている
「どうだ? 俺の自信作だ。今のやつより魔法の電動率も、
剣の硬度もどちらも格段に上がってるぞ。手にとってみてくれよ」
「こりゃ凄いな。手に持ってもしっくりくるし、
重さもちょうどいい感じだ」
レンが自分用の片手剣を左手に持って掲げると、
隣で同じ仕草をしていたティエラも
「今使ってるのより持ちやすいわね。 ヒール!」
詠唱すると即ティエラの体がふんわり輝いて、
「詠唱スピードも、魔法の威力も完璧じゃないの、ズームさん、
これ材料は今のと同じなの?」
「ああ、基本はミスリルとアダマンタイトの組み合わせなんだが、
この剣はアダマンタイトを均等に剣に振り分けて硬度を
保ちながらミスリルの特性を最大限まで生かせる様に配合を
ちょっと変えて、それと鋳造してから剣を打ち込む回数を今までより
多くしたものだ。おかげで硬度だけじゃなくしなやかさも生まれておるぞ」
剣を持ったままじっとそれを見ていたレンが
「惚れ惚れする出来栄えだ。ズーム、これ本当に貰ってもいいのか?」
「構わん構わん、この街の最強冒険者に使って貰えるのなら
ワシも本望だしの、それにこの剣、
あんたら以外に使いこなせる奴はいないさ」
どうだとばかりに胸を張りながら話すドワーフに
「いや、本当にありがとう。大事にするよ」
「うん、ありがとうございます。すごく気に入りました」
二人で御礼を言うと、照れを隠す様に
「俺が作った剣だ、大事に使ってくれよ」
その場で今まで使っていた剣と新しい剣を
取り替えて装備し、
「せっかくだからこのままちょっと街の外に出て使ってみてくるよ」
「ああ、そうしろ。何かあったら直すからな」
ズームの声を背中に聞きながら街からフィールドに出た二人
お互いに両手に片手剣を持ちながら森に向かってのんびりと歩いていく。
本当はダンジョンで試すのが効率的なのだろうが、
最近は神獣の加護の条件や転生条件がギルドより発表されて以来、
低レベルから高レベルの冒険者達がこぞってダンジョンに
潜っているので、彼らの邪魔をしたくないという
レンとティエラの思いから、少し離れた森に向かっていた。
探索スキルを使いながら森に入って奥に進んでいくと、
ウォーウルフの群れを発見。最初にティエラが <<サンダー>> を
撃って1匹を倒すと同時にレンは <<ファイア>>
でその隣のを倒す、残りの魔獣が向かってきたが、再度精霊魔法で倒し
残りは左手に持った新しい片手剣でバッサリと切り捨てていった
「軽いし、魔法の伝達のスピードと魔力の威力も増えている気がする」
「それに、剣自体の威力も上がってるよな、スッと切れた」
お互いに新しい剣の出来具合に満足し、その後も森の中で
ゴブリンやウォーウルフを退治して街に戻り、
ズームの武器屋に顔を出して
「確かにいい出来だ。切れ味も魔力もアップしてるし、
これは助かるよ、ありがとう」
「そう言って貰えると武器職人冥利に尽きるぜ。
これでまた上を目指してくれよな」
その数日後、いつもの様に遅めの時間にギルドに顔を出すと、
受付のキャシーが二人を見つけて
「ギルドマスターが話しがあるそうなんで
来ていただけますか?」
案内されるままにいつもの応接室で待っていると
ギルマスのアンドリューが部屋に入ってきた
「待たせてすまない。早速だが、二人に指名クエストが来ている」
「指名クエスト? 今度は誰なんだい?」
前回のルフィーを思い出しながらレンが問うと、ギルマスは
「今回は領主様だよ」
「領主?」
「ああ、領主は最低2年に1度は王都に行くんだが、
その時期が今でな、それで今回その護衛をお前らに
頼みたいと依頼が来ている」
テーブルの上に置かれたジュースを一気に飲み干すと
二人の顔を見ながら説明していくギルドマスター
「でも、領主様の護衛って騎士の方がやるんじゃ?」
ティエラがギルマスに聞き返す
「もちろん、騎士の連中も同行するさ、彼らの仕事は
領主の馬車の周囲で護衛すること、お前らの仕事は
先頭でその探索スキルを使って
領主に魔獣や盗賊を近づけない事さ」
「なるほど、それなら理解できるな。」
「領主の護衛だが、往路だけでいいらしい。
向こうでの滞在日数がよめないからいつ戻れるか、
ここを出発する時点ではわからないそうだ。
復路は騎士の連中の他に王都で冒険者に護衛クエストを
依頼するそうだ。なのでお前らは領主を王都に無事届けたら、
あとは好きにしていいぞ。一応王都のギルドには俺から
連絡しておくから一度は顔を出してやってくれ」
一気にまくし立てたギルドマスターの顔を見ながら
「わかった。行きだけでいいんだな。ところで今盗賊を
近づけないって言ってたけど盗賊なんているのか?」
ギルマスのアンドリューはレンの顔を見ながら
「この辺境領内にはいないが、ここを抜けて王都までの間に
2つ他の貴族の領内を通るんだが、その領内には盗賊が
いるって話しだ。辺境領はお前らの様な冒険者が多数いるから
盗賊は根絶やしになってるけどな、
他の領地はまだまだ未開の地が多いんだよ」
「なるほど。で、その盗賊は見つけたらどうするんだ?」
「捕まえて近くの村の衛兵に渡せばいいし、
無理なら殺しても構わん。」
殺してもいいとあっさり言うギルマスを見ながらティエラが
「本当にいいの?」
思わず確認すると、
「どっちにしても衛兵に突き出したあとは
死刑って決まっているのさ。
ただ、奴らも捕まったら死刑になるって知ってるから
死に物狂いで来るからな。そんな相手を捕まえるのは
そう簡単じゃないだろう?なので無理だと思ったら
その場で殺しても構わん」
「わかった。」
「出発は明後日の朝。朝に領主の屋敷の前に行ってくれ。
俺も見送りに行く」
ギルマスとの会談が終わって家に戻りながら
「盗賊か… 確かに捕まえるのは難しいかもしれないな」
「でも、とりあえず捕まえる方向で対処しようよ。
どうしても無理だったら仕方ないけど」
「そうだな」
レンもティエラも無闇に人を諌めるのは好きじゃない
タイプの人間なので人を殺すのは抵抗があるが…
とは言え領主の命との引き換えであれば
その時は躊躇なく相手に止めを刺すという気概は持っていた。
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