第36話
その後数日レンとティエラは1日に1度はギルドに顔を出し、
クエストの確認をしてから適当に街の周囲を巡回して
低ランク冒険者に邪魔にならない程度で魔獣を
退治していた。
ギルドの発表直後には興奮していたベルグードの冒険ギルドも
ここ数日でようやく落ち着いてきて中ランク以上の冒険者の
多くが街の周囲にあるダンジョンに潜って
レベル上げをする日常が戻ってきた。
そんな時、今日もギルドに顔を出した二人を見つけた
受付のキャシーが
「あっ、レンさんとティエラさん、ちょうどよかった。
お二人に指名依頼が来てますよ」
「指名依頼?誰からだ?」
レンがキャシーからクエスト用紙を受け取って見てみると
「防具屋のルフィーだ。護衛クエスト?」
「詳細は本人から説明するって言ってましたので、
防具屋さんに行ってもらえますか?」
二人が防具屋に着くと、中からルフィーが出てきて
「ギルドの指名依頼を見てくれたんだろう?」
「ああ。でも護衛クエストってなんだい?」
「ちょっとエルフの里に帰ろうと思ってね。
そこまでの護衛をあんたら二人にお願いしたいんだよ。」
「エルフの里ってここから北東にある森の奥にあると
言われている場所?あそこって
人間族は入れないんじゃ?」
ティエラがルフィーの顔を見ながら言うと
「だから私が行くんだよ。あんたら二人じゃ
無理だけど、私がいれば大丈夫さ。
そういう訳で明日の朝一番で店の前に
来てくれるかい?歩いて行くから。そうさな
片道5日くらいかな。こっちはこっちで
宿泊の準備するから気遣い無用だよ」
一方的にまくし立てられたが二人とも今すぐに
他の用事がある訳でもなく、むしろそれ以上に
普段は立ち入りすることができないエルフの里に
興味があったのでルフィーの申し出を受けて
ギルドにクエスト受領の話しと明日から2週間ほど
留守にすると伝えてから旅行の準備
…と言っても食料品を屋台でたっぷりと
買い込むだけだが…を終えた。
翌朝、日が昇ると同時に防具屋の前にいくと、
旅の装いをしたルフィーが見せの前にすでに
立っていた。店の看板には”当分の間休業します”と
札がかけられていて
「さて、じゃ行くかね」
ルフィーの格好を見て気づいた。
彼女もアイテムボックス持ちなのだと。
身軽な3人は街を出て道沿いに北東を目指す。
「エルフの里って普通の人が行こうとしても
辿り着かないって聞いてるんですけど本当?」
「ああ、本当さ。道に迷って辿りつかない様に
なってるよ。今日は私と一緒だから問題ないけど、
あんたら二人だけじゃ絶対にエルフの里には行けないね」
「何でそこまでして自分達の里を隠してるんだい?」
ティエラとルフィーのやりとりを聞いていた
彼らの前を歩いていたレンが振り返って聞くと
「自分たちの里と隠すっていうよりも、エルフはね、
世界樹の守人という使命があると信じてるのさ。
世界樹を守るには、知らない人を寄せ付けないのが
一番安全だろ?エルフの里は世界樹を中心にして
作られているからね」
「そうなんだ。世界樹か…見てみたいわ」
「大丈夫さ、ちゃんと見られるよ」
その日は草原の道の横、大きな木の下での
野営となった。ルフィーが用意したテントは
レン達のよりも豪華で魔物避けの結界も
強力そうだった。
それでも護衛クエストを受けている二人なので
交代で睡眠をとりながら周囲を警戒して夜を過ごした
翌日も草原を歩いて、3日目から森の中に続く
細い道に入って行く。
森の中に進むにつれて魔獣の姿がチラホラしだすが、
所詮ランクCクラスの魔獣なので
レンとティエラの敵ではなく、適当に処理しなが
ら進んでいく。夜も交代で睡眠をとり近づいてくる魔獣は
さっくり倒して翌朝は何もなかったかの様に
テントをしまってエルフの里に向かう。
4日目の昼間、細い道の先にログハウスの様な
平屋の建物が見えてきた
「あれはエルフと他の種族との交易所だね。
人間や他の種族の商人達はエルフの里には
入れないので、このログハウスの中でエルフが
持ち込んできたものを買ったり、
エルフに売ったりしているんだよ」
「なるほど。ということはここから先は
エルフ以外の人は行けないってこと?」
「もうすこし先から結界が張ってあって、
用もなくきた人は迷う様になっているのさ。
さぁ、この小屋まで来たらエルフの里までは
もう直ぐだよ。」
小屋を横目に見ながら森の中を進んでいくと突然ティエラが
「レン、後ろを見て」
振り返ると今まで歩いてきた道が直ぐに周囲の草や
低木の枝で隠れていく
「こうやって歩いてきた道を消しているのか」
「この仕掛けと結界とで、エルフの里は魔獣や
他の種族から身を守っているのさ」
「でもどうしてそこまでして他の種族と
積極的に交流しないのかしら?」
「それはエルフこそが世界樹の守り人という
考え方があるからだよ。世界樹を守るためには
余所者をそこに近づけないのが一番安全だからね。
決してエルフが排他的な人種って訳じゃないんだよ。
現に私も里を出て人族の街で暮らしているし
他にも里を出ているエルフは結構いるしね。
あくまで世界樹を守るためにそうやっているのさ」
道無き道を歩きながらルフィーが説明する。
その彼女はしばらく歩いたところで突然立ち止まって、
その場で呪文の様なものを唱えてから
「さてと行こうかね。ここに結界が張ってあるので、
今その結界の一部を無効にして人が通れる様にしたのさ」
「結界に全く気づかなかったな」
レンが言いながら、ルフィーとティエラに続いて
再び歩き始める。
結界を抜けて歩き続けて夕方ごろに、
ようやく森の中に道が見え、その先に木々に
寄り添う様な様々な家と、その奥に天にも届きそうな
大きな木が見えてきた。木の先の部分は
雲にでも隠れているのか見えないほどの高さで…
「あれがエルフの里で、その奥のが世界樹なのね」
「想像以上にでかい樹だ」
感心しながらティエラとレンが言うと
「ふふ、我らエルフのご神木だよ。さて、
やっと里に着いた。先に里長に挨拶するから
あんた達も一緒についておいで」
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