第34話
その後二人はギルドの1Fで新しいカードをもらい、
外に出て、久しぶりに街中をブラブラして屋台飯を食べたり、
野菜や肉やパンを市場で買ったりしてから自分たちの家に戻った。
二人のランクが上がり、またジョブが上位転生したことは
この日はまだ外部に漏れておらず、後日経緯を知った王国中の
冒険者が驚愕したのは言うまでもない。
久しぶりに家に戻って、二人でゆっくり風呂につかり、
自分たちのベッドで身体を休めた翌日、朝二人でギルドに行くと、
この前と同じ様にギルド前には馬車が準備されていた
それに乗って城内を移動し、貴族街の一番奥の領主の館の前について、
ギルマスとレンとティエラの3人で屋敷に入っていく。
この前と同じ一番奥の領主の執務室に案内され、開かれたドアから
中に入って行くと、領主のヴァンフィールドが机からこちらに回ってきて
「よう、帰ってきたな。昨日は済まなかった。
どうしても外せない用事があってな。まぁ座ってくれ」
いつもの様に豪快な領主に勧められるままにソファに座る二人、
ギルマスのアンドリューは領主と並んで座った
「そうだな、時間を追って話ししてもらおうか」
領主の提案に頷くとレンがテーブルの上にマッピングをした
地図を広げて説明していく。南の砦での模擬戦、
それから砦を出て南に向かっていった時の様子。
南の山裾につくまで魔獣に合わなかったとか、
崖があってそこから山裾までは荒野だったとか
地図を指差しながら詳しく説明していった。
マップの説明が終わるとそこで一旦顔を上げ、
向かいに座っている二人を見ながら
「ここから先は領主様とギルマス止まりにしてもらいたい
情報があります」
言われた領主とギルマスはお互いに顔を見合わせて、
わかったと頷くと、
「ここ、2つ目の山を越えたこの谷間に
人間の言葉を話すオークが住んでいる村がある」
「「何だって?!」」
思わず二人が口にすると、
「彼らは自分たちのことを亜人と呼んでいた。
2つ前の魔王軍と人間との戦争の前までは
この荒野の部分には木が沢山生えていて、
そこで人間と亜人が共に同じ村で暮らしていたが
魔王軍との戦闘で住んでいた土地は焼き払われ、
人間とは散り散りになり、逃げる様にこの場所に移動し、
それ以来この場所でひっそり暮らし続けているらしい」
「オークの亜人といってもこの辺りで見るオークとは少し違っていたわ。
何と言うか落ち着いているというか、知性があるというか。
よく見るとオークであってオークじゃない感じ。
その亜人たちは私たちに、彼らが今いるこの場所のことは
言わずにこれからもそっとしておいて欲しいって言ってました。」
ティエラが補足する。
「う〜ん、亜人とは。2つ前の戦争っていうと
200年以上前の話しになるのか。流石にここには
古い文章が残っていないかもしれないな。
王都に行けばあるかもしれないが、
そうなると彼らの存在が明るみになっちまうし」
領主のヴァンフィールドは腕組みしながら考えているが、
しばらくすると
「わかった。このことはここにいる4人止まりとする。
彼らが静かに暮らしているのをかき乱す権利は我々人間にはないしな」
頷くギルドマスターのアンドリューを横目に見ながらレンは
「そうして頂くと助かります。俺たちはテレポリングで
この村にはすぐに飛んでいけるので、
今後も時々薬やポーションを渡しに行くつもりだけど、
他言無用にてお願いします。」
「もし、亜人が何か助けを求めてきたときは俺に言ってくれ、
それまではこちらからは動かない」
レンとティエラも頷き、再び地図を見ながら説明を続け、
「この山の山裾に洞窟がありました。
普段は入り口が見えません。俺たちは、キャンプの場所に
現れた妖精が洞窟まで案内してくれたから中に入れたけど」
「妖精がお前たちを案内したのか?」
「ええ、この妖精、実はリヴァイアサンの神獣がいる
ダンジョンで一度会っているんです。」
「お前たち、本当に神獣や妖精に愛されてるんだな」
領主とギルマスが感心して言う。
レンは続けて、
「中に入ると洞窟の奥にシヴァがいて、俺たちを出迎え、
そしてすぐにフェンリルとリヴァイアサンも姿を見せて、
都合3体の神獣が現れた」
「なるほど、その洞窟はシヴァの洞窟だったんだな」
領主の言葉に頷くレン、ティエラが続けて、
「そこで、シヴァから加護をもらい、
その際にレベルを60にしてもらい、そして
上位転生してもらいました」
ティエラの言葉に領主がびっくりして反応する
「赤魔道士のお前たちが上位転生出来たのか?!」
はい。とティエラとレンがお互いのギルドカードを
領主に見せる。そこには確かにジョブ欄に”魔法剣士”
と書いてあり、レベル60になっている。
そのカードを見ながら、
「赤魔道士が上位転生したって、こりゃ大ニュースじゃないのか?
アンドリュー?」
「もちろん、ギルドとして正式に発表するつもりだ」
そこでレンが、
「もう一つ、シヴァからジョブの上位転生条件を聞いてきた」
「なんだって?」
「今まで不明だった上位転生の条件をシヴァが教えてくれたのか?」
今度はティエラがレンに変わってシヴァから聞いた
上位転生の条件を詳しく説明していく。ダンジョンのこと、
神の加護の元を成長させてそれを開花させないといけないなど。
話しを聞いた領主は
「俺たちもダンジョンに潜っていた時に知らぬ間に
加護の元を付与されていたって訳か」
「そうなるな。いや、これも大ニュースだ。ティエラ、
このことは公開してもいいって神獣は言っていたのか?」
ギルドマスターのアンドリューがティエラを見ながら聞くと、
「ええ、公開しても構わない。それによって冒険者の
質が上がるなら問題ないって言っていました。
あと、赤魔道士が転生して魔法剣士になると、
それ以降はレベルアップに必要となる経験値は今までの
3倍じゃなくて、他のジョブと同じになるってことも言っていました」
「これを発表したらまた国中が大騒ぎになるな」
領主の言葉に頷きながら、
「タチの悪い冒険者は転生出来ないってことがわかったから、
冒険者の質の向上は見込めそうだな。」
ギルマスのアンドリューも納得する。
「レンとティエラの話しを書類にまとめて王国中のギルドで
同時に発表する様に手配しよう。
発表日が決まったらお前たちには事前に連絡する。
おそらく大勢の冒険者がお前たちに寄ってくるぞ」
「それは困るな。俺たち大したことしてないのに」
「そうだよね、じゃあ、レン。発表日が決まったら
その前の日からレンの田舎にでも逃げておこうか」
ティエラが笑いながら言うが、その案はまんざらでもないなと
レンも思った。
「そして、最後に領主様に見てもらいたいものがあります」
改まってレンがアイテムボックスから”シヴァの涙”を
1つ取り出してテーブルの上に置く。
身を乗り出してそれをしばらく見ていた領主の
ヴァンフィールドは突然目を見開きながら
「これは?ひょっとして”シヴァの涙”と
言われているものじゃないのか?」
「その通りです、洞窟での別れ際にシヴァが持っていきなさいと
2つくれました。このシヴァの涙には神獣の加護が宿っていて、
持っている人とその周囲の人を幸せにしてくれるそうです。」
「お前ら、これがどれほどの価値のあるアイテムなのか
知っているのか?」
じっとシヴァの涙を見ながら領主が聞くと
「昨日ギルドマスターから話を聞きました。
2つ貰って、1つは私達のものにしたいのですが、
もう1つは領主様がお持ちになるのがいいんじゃないかと思って」
領主は食い入る様に”シヴァの涙”を見ていて
「本当にこれを俺に売ってくれるのか?」
「ええ、価値はよくわからないので買取のお値段はお任せします」
「お前ら、ギルドマスターから聞いたかも知れないが、
このシヴァの涙は国宝級のアイテムで、
俺の知ってる限りこの王国では王家と、王国内での最大貴族の2家しか
持ってないはずだ。それがここに…わかった、ちょっと待て」
ヴァンフィールドが腕組みしてじっと考えていて、しばらくしてから
「わかった。金貨3,000枚で買い取ろう。どうだ?」
「えっ!! 金貨3,000枚? それって多すぎないです?」
レンとティエラが想像以上の金額を提示されてびっくりしていると、
「いや、これはそれほどの価値がある。さっきも言った様に
このシヴァの涙は値段なんてあってない様なものなんだ。
俺が出せる精一杯の価格が金貨3,000枚なんだ。
し、か、も、だ」
そこで領主のヴァンフィールドは一旦言葉を切って二人を見ながら、
「これはお前達がシヴァから直接貰ったものだ。
つまり100%本物のシヴァの涙ってことだ。
ここまで間違いない本物なんて絶対に手に入らないからな。
なので本当は3,000枚じゃあ少ないかもしれないが、
俺としては精一杯出せる上限の金額がそれなんだよ。
何とか金貨3,000枚で頼む」
レンとティエラを見ながら領主が頭を下げながら
お願いしていると、横から
ギルドマスターがフォローする様に
「昨日も言ったが、このシヴァの涙を得る為に全財産を
出してもいいっていう貴族もいる。
あまりに希少価値が高すぎて、いくらが妥当かどうかなんて
誰にもわからないんだよ。領主も頭を下げてることだし
遠慮なくもらっておけ。」
「ギルマスがそこまで言うなら金貨3,000枚でお売りします」
「そうか! 金はあとでお前たちの家に届けさせる」
大事そうにシヴァの涙を両手で抱える領主を見ながら、
「ありがとうございます」
「それにしても…」
シヴァの涙を手にとってしばらくうっとり眺めていた
ヴァンフィールドが改めて椅子に深く座って
レンとティエラを交互に見ながら
「不遇ジョブと言われて、誰も選択しなかった赤魔道士を
選んでここまで成長させて、いやぁ大したものだ。」
「私達自身は大したことをやってるって感じはないんです。
周囲の人や神獣が結構助けてくれているだけですよ」
ティエラが言い、レンも隣で頷いている。
「神獣にそこまで愛される冒険者なんて聞いたことがないぞ、
なぁアンドリュー」
「ああ、お前達のその性格と行動が神獣の心に響いたんだろう。
周囲から大事にされているってのも必要なことだと思うぞ。
ランクもAになったんだし、引き続きギルドのために
頑張ってくれよな」
領主との会談が終わり、来た時と同じ様に馬車にのって
商業区に戻ってきたギルマスが気をきかせて
レン達の家の近くで馬車を止めて
「それじゃあ正式に発表する日が決まったら連絡する。
しばらくはのんびりしているんだろう?」
「結構長旅だったし、当分ゆっくりさせてもらうよ」
「わかった。じゃあな」
馬車の扉が締まり、ギルドに向かって進んでいく
馬車を見送りながら、
「それにしても、金貨3,000枚だって」
「多すぎて俺には全く実感がわかないよ」
「本当だよね」
言いながら自分の家に入っていった。
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