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第31話



 そのまま亜人の村を出て山に向かっていく2人を見ながら、


「再び人間と共に暮らして、

生活できる日々が来るといいのだが…」


村長が2人の背中を見ながらポツリと漏らすと、


「村長、魔族の動きが気になりますか?」


 今まで黙っていた付き人の亜人の1人が話すと


「んむ。前の魔王が倒されてから時が経っておる、

おそらく山の向こうの魔族の国は次の魔王誕生と

その後の人間との戦闘に備えて準備を始めだした頃だろう。

魔族と人間との争いは避けられないもの、

故に我らは世間から身を隠してこのまま生き続けるのが

亜人の血を絶やさないことが最善の方法なのだ」


「いかにも。あの2人とはうまくやっていけそうな気がしましたが、

所詮叶わぬ願いということですな」


 付き人と村長はそんな話しをしながら柵の内側の戻っていった。

2人の探索には背中側に黄色い点が多数映っていて、

徐々にその点の集団が遠ざかっていくのがマップ上で見えていたが、

その中に亜人ではない二つの点があったことには気づかなかった。

その2つの点は、木の上から2人を見ていたが、

レンとティエラが視界から消えると、透明なまますっと消えて

無くなった。



 レンとティエラは亜人の村を出てから山を登っていた


「それにしても亜人なんていたんだね」


「そうだよな。魔族からも人間からも隠れる様にして暮らしていたし、

これからもそうやって

あの場所で隠れながら静かに暮らしていくんだろうな」


「何とか助けてあげたい気もするけど、私達がおせっかい焼いても

あの人たちの為にならないだろうね」


「ああ、そっとしておいてやろう」


 そうして3つ目の山の頂上あたりでキャンプを張って

その夜を過ごした。


 2人が寝静まった頃、ある洞窟の奥では、


『いい子達じゃないの、貴方が高く買うのもわかるわ』


『ふふ、そうじゃろう? わしだけじゃなく、

こいつも会ってからは彼らのことをずっと気にかけておる』


 フェンリルが答えながら首を龍に向けると、


『ああ、人間も捨てたもんじゃないと彼らを見て思ってな。で、

どうするつもりだ?加護を与えるに値するとみるか?』


 そう答えるリヴァイアサンの周囲には2匹の妖精が飛び回っている。


『そうね。貴方達2人が首ったけになるのもわかるし、

充分に私の加護を受ける資格はあるわよ。』


『そりゃよかった』


『生まれてくるのがもう少し遅かったら魔王退治の先頭に

立てたかもしれないわね』


『彼らは2人とも加護を受けておる、

その子供達に期待しようではないか』


『ふふ、私たちの加護を受けた2人の間に生まれる子供…

楽しみだわね。

それとも、あの子達に特別な加護を掛けちゃおうかしらね』


洞窟の奥で彼らは視界の先に、テントで眠る2人の

冒険者の姿を見ながら長い間話しあっていた。



 3つ目の山を越えると、いよいよ雪山が間近に迫ってきた


 相変わらず時折遭遇する魔獣はランクC程度が中心で

たまにランクBの魔獣もいるがそれとてレンとティエラの

敵ではなく、ほぼ瞬殺しながら進んでいく。


 4つ目の山の中腹でキャンプをした翌日、

山を降りていくとその前に雪を被った高い山の

山裾が見えてきた。


「やっと着いたわね」


 高い山を見上げながら言うティエラに


「さてと、これから洞窟探しだ。

山裾って言っていたから、そんなに高い場所には

ないはずだけど、山裾と言っても結構広いな」


「レン、とりあえずどっちから探していく?」


「どっちでもいいけど、まずは西から行ってみるか」


 西に向かって山肌を見ながらゆっくり進んでいく、

歩き出して陽が傾き出した頃になっても

目当ての洞窟は見つけられずにいた


「そう簡単には見つからないか。

簡単なら今まで誰かが見つけているよな」


「そうだよ。初日から見つかるなんて思ってないし、

時間はあるんだからゆっくり探しましょ」


 納得した2人は山裾にテントを張って野営の準備をしてから、

テントの外で夕食を食べ始めた。

夕食をとっていると突然二人の目の前の

木の枝が光ったと思うと、以前ダンジョンで

会ったのと同じ妖精が2匹現れた。


「…あの時の妖精さん?」


 ティエラが木の枝に座っている妖精に問いかけるが、

彼らはじっとこちらを見ているだけで話かけてこない


 しばらく二人を見ていた2匹の妖精は背中の羽根をぱたつかせて

枝から飛ぶとレンとティエラの周りをぐるぐると回ってから

東の方にゆっくりと進み出した


「ティエラ、行くぞ!」


「うん!」


 慌てて野営の火を消し、テントや食事をアイテムボックスに

放り込んだ二人は進んでいった妖精を追いかける様に駆け出した


 妖精は少し先で二人が来るのを待っていて、レンとティエラが

追いつくとまた前に進んでいく。

しばらく付いていくと妖精達は木々の間から山の斜面の方に方向を

変えると岩の間に洞窟の入り口が見えてきた。



「さっきこっちから来たのに何もなかったよね」


「そうだな。何か仕掛けがあるのかも」


 妖精が洞窟に入っていったのに続いて二人も洞窟に入る。

妖精の身体が光って灯りの代わりになって夜の洞窟でも

足元が明るく、妖精の後に続いて洞窟の中をしばらく進むと

先の方から明るい光が漏れてきた。


 洞窟内のカーブを曲がるとそこに開けた大きな空間が見え、

その奥には全身から光を放っている神獣が…


「…あれは氷の女王、シヴァ…だよね?」


 ティエラがレンの腕を掴み、シヴァを見ながら言うと


「そうだ。シヴァだ…やっと着いた。行こう」


 広間に降りて並んで歩きながらゆっくりと奥にいる

シヴァに近づいていく。近づくとシヴァが大きく光輝き、

その光がレンとティエラと包んだ。

ゆっくりと光が消えると、正面にいるシヴァが、


『よく来ましたね、冒険者の人間達よ。

貴方達が来るのを待っていました』


 レンとティエラを見下ろしながらシヴァは言葉を続ける


『貴方達が砦を出てからここに来るまで、

私はずっと見ていました。フェンリルやリヴァイアサンが

貴方達に加護を与えたその訳がわかりましたよ。

貴方達は立派な冒険者ですね。亜人と呼ばれている人を助け、

村に薬をあげて何も見返りを求めなかった。

わかっていてもなかなかできることではありませんよ』


「ありがとうございます。」


 ティエラが丁寧にお辞儀をする。レンは


「この洞窟の入り口、さっき通った時はなかった様な

気がしたんだが、隠していたのかな?」


『そうよ。普段は目の前に来てもそれとはわからない様に

隠蔽の魔法をかけているの。貴方達はくるのが

わかっていたから開けていてもよかったんだけど、

他の2体の神獣がね、昼間だし、一応隠しておけってね。

ほらっ、貴方達もいつまでも隠れていないで出て来なさいよ。

この二人に会いたがっていたくせに』


 シヴァが後ろを振り返って言うと、彼女の両側の地面が光って、

そこにフェンリルとリヴァイアサンが姿を現した。


『久しぶりじゃの。洞窟の入り口を隠していてすまなかったの。』


 フェンリルが二人を見ながら言う。レンとティエラの正面には

3体の神獣が並んで立っている。


『この人たちも貴方達が砦からここに来るまでの間、

ずっと見ていたのよ』


『シヴァが申しておったが、亜人達の村での出来事、

見事じゃぞ』


 リヴァイアサンも二人を見ながらいう。

レン達を案内してきた妖精達は今はフェンリルの背中に

座って羽根を休めてこちらを見ている。


「昔は亜人と言われる人と人間が交流があったなんて、

今じゃ誰も知らないんじゃないかな?聞いたことがなかったよ。

亜人の村では村長としか話ししてないけど、いい人だったよ。

出来れば昔みたいな関係になりたいと思ったけど、

彼らがそっとしておいてくれって言われると

こちらからは何もできないし」


「そんないい関係だったのが魔王や魔人によって壊されたなんて、

嫌な話だよね」


 レンとティエラが自分の感想を言うと


『亜人には亜人の生活があるしの。もう離れてかなりの年月が

立っておる。

今更一緒に生活してもお互いに気苦労が多いだけじゃろう』


「そうかも知れない。そっとしておいてあげるのが

一番いいんだろうな」


『その通りよ。それより、貴方達、

今の自分のステータスを見てごらんなさい』


 言われるままにステータスを見る二人


「レ、レン…ジョブが…」


「まほう… 魔法剣士。俺たち上位転生したのか?」


「それに、レン、レベルも60になってる」


「本当だ」


『ここに着いた時に私が貴方達のステータスを変えておいたの。

上位転生、おめでとう。貴方達二人には上位転生する

資格が十分あるわ。自信を持ちなさい』


 シヴァが優しい口調で二人に告げる


「上位転生って、神獣が決めていたのか」


 レンが独り言の様に呟くと、


『そうじゃ。上位転生するにはいくつか条件があっての』

フェンリルが応え、続ける。


『先ずはダンジョンに挑戦すること。

これはこの前に理由を話ししただろう?

ダンジョンが試練の場だということ。

ダンジョンに挑戦する冒険者は

ほとんど我ら神獣達がダンジョン内での冒険者の行動を見ておる。

そこで人間として正しい行動を取るものがその資格を得るのじゃ。


ただ、資格を得たからと言ってすぐに転生できる訳ではない。

我らは加護の元と呼んでおるが、それを冒険者の知らないところで

付与しておる。そしてその付与を受けた冒険者がその後も人として

正しい行動を続けることによって、その加護の元がだんだんと

大きくなって成長していき、

そして最後に加護が開いて冒険者の転生を行なっているのじゃ』


「じゃあ、加護の元をもらっても、

その後の行動がおかしかったらその人の持っている

加護の元は成長しなくて転生できないってこと?」


 ティエラの質問には


『その通りじゃ。今までも加護の元をもらい受けながら、

結局開花しなかった冒険者は山ほどおるぞ』


「そうなんだ」


「俺たちは、その…貰っていいのか?元じゃなくて

いきなり開花した加護そのものを」


『んむ。お主達はその資格が十分ある。シヴァも言っておるが、

自信を持って構わないぞ。それと、普通の冒険者が

付与されている我らの加護は上位転生の加護だけじゃ。

お主らの様に能力を上げる加護は与えておらんからの』


『それだけフェンリルが貴方達を気に入ったということよ。

もちろん、リヴァイサンも私も貴方達のこと

はすごく気に入ってるわ。だから、そうね、

貴方達は特別な人間ということになるわね』


「なんか、すごいことになり過ぎて実感がわかないんだけど」


「ティエラの言う通りだ、俺たちそんなに大した

冒険者じゃない気がするけどな」


 シヴァが二人を見ながら


『ふふ、そういうところも私達が貴方達を気に入っているところなのよ。

普段から決して驕らず、謙虚でどんな人にも亜人にも優しいところがね。

そうそう、転生すると、レベルアップの為の必要経験値は他のジョブと

同じになるわ。もう3倍苦労しなくても大丈夫よ。

それと、スカーフや武器、防具にももちろん、

私の加護をつけておいたから、能力がまた一段とアップしてるはずよ』


「そうなんだ。ありがとうございます」


『神獣の加護を受けた冒険者は数多いが、我ら3体の加護を受けたものは

お主らが初めてかも知れないな。少なくとも我は記憶にない』


『何事にも初めてというのはあるものよ、それが貴方達だったということ』


『さてと、もう夜もだいぶ更けてきた。

今宵はここにテントを張って泊まるがよい。

我ら3体がおるから安心して眠れるぞ。

今まで野営で交代で眠っていて充分な睡眠を取ってないだろう?

今宵は久しぶりに二人でゆっくりと休むがよい』


 リヴァイアサンが言うとティエラが


「そう言われれば眠たくなってきちゃった。

神獣さん達には申し訳ないけど、ここで休ませてもらおうよ」


「そうだな」


アイテムボックスからテントを出して野営の準備をすると


「本当にありがとう。遠慮なく休ませてもらう」


「おやすみなさい」


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