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第30話


 ゆっくりと休んだ翌朝、砦の門まで指揮官のガルシアと

ローズが見送りに来てくれ


「正直ここから南は我々も調査していない未知のエリアだ。

くれぐれも気をつけて行ってくれ。」


 ガルシアと握手をすると、


「帰りにできたら寄ってね。その時までに少しは上達してるから」


 ローズもティエラと握手しながら言う


「どうもお世話になりました」


 ティエラが言い、2人で礼をして砦を出て南へと歩いていった。

その後ろ姿を見ながら


「あの2人はレベルの高い辺境領の冒険者の中でも

トップクラスの実力持ちらしい」


「道理で。見た感じは普通の若者だったけど、

模擬刀とは言え、武器を持って対峙した時は正直怖かったです」


 ガルシアの言葉にローズが答える



 レンとティエラは砦を出てから道の無い草原を探索スキルを

作動させながら歩いていく。


 リヴァイアサンの加護で探索スキルの範囲は広がったものの、

高い木のない草原ではスキルよりも目で見た方が

遠くまで見えるのだが、上空や背後の警戒の意味で探索スキルは

常時作動させていた。


「いよいよ未開の土地になったのね」


「ああ、どんな魔獣がいるのか、いないのか。

周囲に注意しながら進もう」


 草原は視界が広く見えるが、言い換えると敵からも2人が

よく見えるということで周囲を警戒しながら進んでいく2人。

視界の遠く先に目的地である万年雪を被った

南の山脈が見えているので方向を間違えることもなく歩いていく


 夕刻、ちょうど低木が少し固まって生えているのを見つけ、

今日はここで野営することにし、

テントを張って野営の準備をすることにした。


「それにしても、今日は全く魔獣や動物を見なかったね」


 焚いた火に向かい、夕食を食べながらティエラが言うと


「餌になる人間や動物がいないから魔獣もいないのかも?」


「そうだとしたら南の山の麓まで何もないってことになるね」


「どうだろう? そうだと楽でいいんだけど。

そう簡単に行くかな」


 その後は交代で睡眠をとって束の間の休息を取り、

陽が登る前に再び南に向かって歩き出していく。

その日も魔獣、動物に会わずに草原で野営をする2人。


 そうやって魔獣や動物には全く会わず、ただひたすら毎日

草原を歩き、野営してまた歩き、南の山が随分近くになったと

感じていた頃、草原が途切れ、小さな崖の上に出た。

その先は地面が陥没した様になっていて、そして草も生えていない

荒野の景色が目の前に現れた。


 崖(といっても高さ20メートル位だが)の上から

下に広がる荒野を見ながら


「これは… 一体何があったんだろう」


「大洪水の爪痕みたいだね。でもそれにしてはちょっと

広すぎる気もするけど…」


 ティエラが崖下を覗き込む様にしながら言うと、

レンは荒野の先を見ながら


「荒野の先が南の山脈の一番手前の山裾になってるな。

今日はここでキャンプして明日朝一番で荒野を渡って山にはいろう」


「うん、ようやくだね」


 目的地が見えてきたので2人とも元気になり、

草原の端にテントを張る


「あの雪山まで行くにはまだ山を3つ4つ超えないといけないね」


「ああ、山に入ったら魔獣もいるだろうし、ここから先は慎重に行こう」


 何日かめの草原での野営を終えた翌朝、

崖の凹凸を利用して下に降りて

そのまま荒野の中を早足で歩き出した。


 砂利の歩きにくい地面をあることと半日強、

夕方に荒野を渡り終えて南の山脈の山裾についた2人は

ようやく木が生えている場所に腰をおろした。

ホッとした表情で腰を下ろしたティエラを見ながら、


「いくら探索スキルがあるといっても、

やっぱり周囲から隠すものがない場所ってのは緊張するよな」


「そうね。高い木があると安心するね」


 明日からの山越えに備えてこの日は早めの野営にして

英気を養った2人は翌朝から山越えを開始。

山に入ると動物や魔獣もちらほらと見られるが

いずれもランクCクラスの狼や猿の魔獣達で、

レンとティエラは探索を使っては団体行動する魔獣を退治して

進んでいく。


 そうして1つ目の山を越え、谷間を流れる川の河原で休憩し、

キャンプを張り、2つ目の山を攻略していく。


 2つ目の山を越えて下っていってまもなく山あいの

谷間に出ると思ったころ探索に黄色の点が一つ現れた。

気を引き締めて進んでいくと、その方向から何かのうめき声が

聞こえてきた。


 木々の間を抜けて近づくと、そこにはどう見ても

オークにしか見えない、しかしどこかオークとは違う

雰囲気を持っている小さめのオークが1匹、

うーうーと唸りながら蹲っていた。よく見ると

足を挫いているみたいで、ティエラが近づいて足にヒールをかけると


「ありがとう 痛くなくなった」


「「えっ! オークが喋った??」」


 足をさすりながら立ち上がった小型のオークは2人を見て


「君達は魔人?」


「いや、魔人じゃないけど、君はオーク?」


レンが混乱したまま問いかける


「オークだけど魔獣のオークじゃないオークだよ」


「どういうことだ?」


 レンが困った顔で見ていると


「そうだ、助けてもらったお礼に村に来てくれよ。

村の長に助けてもらったお礼を言ってもらうからさ」


「村があるの?」


ティエラが言うと


「うん、ここから歩いてそこの谷底に流れている川を

渡った向う側だよ。付いてきて」


 言うなり歩き出したオークもどき(?)の後を付いていく2人、

探索スキルは依然として前を歩いているオークもどきは

黄色マークで敵ではないと表示されている。


 谷底の川を渡って2つ目の山に入ってしばらく歩くと

探索スキルで表示されている前方に密集した黄色の点が現れてきて、

そのまま歩いていると木の柵で囲まれた集落が見えてきた。


 門から中に入ると、そこにはオークの集団が住んでいたが、

普段敵対しているオークとは雰囲気が異なっていて、

レンもティエラも不思議な感覚で村の中を進んでいく。

周囲のオーク達はこちらを見るだけで攻撃してくる訳でもなく、

ただ2人を見ているだけで…


 そのまま村の中を進み、1軒の大きな建物の前に着いた2人に

さっきのオークが


「ここが村長の家。村長を呼んでくる」


 家に入っていってしばらくすると、助けたオークと

もう1人大柄なオークとその御付きの様なオークが2体、

家から出てきた。中央にいた村長と思えるオークがレンと

ティエラを見ながら


「人間か… 村の子供を助けてくれたそうで、礼を言う。

まぁ上がってくれ」


 後について家の中に入る。床の上に藁で作った敷物が

敷かれていて、その奥に村長と言われているオークが座り、

その隣には御付きの2匹が座り、その向かいにレンと

ティエラが座った。


「人間よ。我らが言葉を話せることに驚いているな」


 正面に座ったオークの村長と言われている男がレンを

見ながら話しかけてくる。


「ああ、正直まだ今でも信じられないくらいだ」


「我らのことを話ししてやろう。まず、我らはオークと似た

外見をしているが、厳密にはオークから派生した種族と

言われておる。人間は我らのことを『亜人』と呼んでおった」


「亜人?」


「以前は人と付き合いがあったの?」


 レンとティエラが口にすると


「今から2つ前の魔王と人間の戦い、その前までは我らと

人間は共に住んで、共に働いていたと聞いておる」


 レンとティエラは黙って村長の話しを聞いている。

村長は続けて


「お主らは北からここのやってきたのだろう?」


 2人がが頷くと


「この山脈の麓から北にかけて全く木や草が生えていない荒野の

場所があっただろう。昔はそこにも木がたくさん生えていて、

人間と我らが共同で住んでいる村がいくつもあったのだ。


その頃は我らが森の木を切り、それを人間が加工して家具や

家の部材にして北にある大きな街に売っていたと聞いている。


だが、魔王との戦いが始まると、魔王や魔族はその一帯を

魔法や毒で荒野にしてしまったのだ。その戦いで多くの人間や

我ら亜人も殺された。生き残った亜人は南のこの山に逃げ込んで、

そこでこうやって生活する様になったのだ。


その時の人間がどうなったのかは知らないが、

人間とはそれ以来会うことがなく今に至っておる」


「そんな歴史があったのね。この村に来てから

人間は来ていないことはわかったけど、魔人や魔獣は来なかったの?」


「我らがここに移り住んでから2度、人間と魔族との戦争が

起こっておるが、2度とも魔族は山から一気に北に向かって

攻めていったのでこのあたりは素通りしておった。

なので戦争があったのは知っておるが、この村は幸いにして無傷だ。

魔獣は今でも時々現れておるが、

それほど強くないので村の連中で倒しておるよ。」


「じゃあ、今はここで静かな生活をされているんですね」


「今、村には500人ほどの我らの仲間が住んでおる。

決して裕福とは言えんが明日の食べ物もない程貧しくもない、

川には魚もおるし、山には野生の動物もおる。

慎ましやかな生活をしている分にはいい場所だ」


「じゃあ、ここから出ていくつもりは無いってことか。

もう一度人間と一緒に住んだり、仕事をしたりする気はないのかい?」


 レンが村長の顔を見ながら言うと、


「今の我らの望みは、そっとしておいて欲しいということだ。

当時の人間と今の人間は多分同じじゃないだろう?

お主らは我らに対しても偏見なく見てくれておるし、

現に村の子供の怪我も直してくれておるが、全ての人間が

お主らみたいだとは限らない。それにさっきの子供もそうだが

もう人間と会ったことの無い村人ばかりでな、


今更彼らに知らない人間と付き合えというのも酷な話しだと思うのだ。

さっきも言ったが今は皆それなりに満足した生活を送っておるしの。

せっかく薬をもらってこんな事を言うのは心苦しいのだが、

わかってくれると嬉しい。」


「わかった」


 レンは端的に答える。


「ところでお主らはどこへ向かうつもりなのだ?

山の向こうの魔人の国を目指しているのか?」


 村長に逆に質問され、レンとティエラは顔を見合わせてからティエラが


「私たちはここから南にある雪をかぶっている山の麓に

用事があるんです」


「雪山の麓まで行くのか…あと2つ山を越えないといけないな。

我らもそれほど活動範囲が広くはないので雪山の麓までは

行ったことがないのでどういう風になってるか、何の助言も

できないが、まぁ気をつけて行くがいい」


「ありがとう。そうだレン。ここの人に薬置いていこうよ。

私たちはもう要らないだろうし」


「そうだな」


 レンも同意するとレンとティエラのアイテムボックスから

ポーションや毒消しをいくつも取り出して村長の前に置いていく。


「これはポーションと毒消し。俺たちはもう使わないから

ここに置いていくよ。よかったら使ってくれないか?」


「いいのか?こういう薬は非常に助かる。

何もお返しができないがいいのか?」


「お返しなんて要らないですよ、それよりもこの村の人が

元気で暮らせる様に使ってください」


 ティエラの言葉に村長とそのお付きの亜人達が礼をして薬を受け取ると


「じゃあ、俺たちはそろそろ南に向かっていくよ」


 2人立ちあがって家の門に向かう。そのあとを村長と付き人が続き

家の門から出て村のでいり口まで一緒に移動し、柵を出たところで、


「お主らが雪山に向かう目的は知らないが、気をつけていきなさい」


「ああ、ありがとう」


「みなさんも元気で」


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