第28話
翌朝早く、日が昇ってすぐの頃、戸締りを確認した2人は
ギルドの前を通り南門から街の外に出て歩き出した。
レンの出身の村はベルグードの街から南東方向に
約1週間ほど歩いたところにある
人口800人ほどの村、村の名前はウッドウォード。
ベルグードからは馬車の定期便もないので2人は砂を固めただけの
道を並んで歩いていく。
出てすぐにティエラが
「レン、探索の範囲が広くなってる」
というので確かめてみると、確かに以前よりも
範囲が広くなっていた
以前が100メートル範囲だったのが今は500メートル範囲
まで探索可能になっていた
「これも加護のおかげか」
「そうだね。能力がアップするってリヴァイアサンの
神獣も言っていたし、探索能力もアップしてたんだね」
広くなった探索スキルを使って進んでいく2人。
昼は道端で食事をし、夜になると道から少し離れた場所に
テントを張ってランクDまでの魔獣なら
入ってこられない結界も準備して夜を過ごす。
そうして6日目の夕方、目の前、
道の先にウッドウォード村が見えてきた
「あれがレンが生まれ育った村?」
木の柵に覆われた村の入り口が見えてくると
「そう、俺が育った村だ、あの入り口も全く変わってないや」
村の入り口に近づくと、門にいた衛兵がレンを見つけて
「レンか? 久しぶりじゃないかよ。元気にしてたのか?」
声をかけてくる
「ああ、元気だよ」
衛兵に声をかけて村の中に入ると、ティエラが周囲を見ながら
「私がいた村と同じくらいかちょっと大きいね。
それに家も木で作ってあって綺麗だね」
ログハウスの様に丸太を組んだ様な家が立ち並んでいるのを見ながら言うと
「この辺りはいい作物が取れるのと、近くの森で木を伐採できて、
定期的に商人が買い付けに来てくれるんでそれなりに皆裕福なんだよな。
辺鄙な場所ってこと以外ならすみやすい村だと思うよ」
レンが答え
「ここだ。ここが俺の家」
1軒の平屋の家、周囲と同じくらいの大きさの家の前に立って、
玄関の扉を開けて
「ただいま」
中に向かって叫ぶと、パタパタと音がして中から女性が出てきて
「おやまぁ、レン。おかえり。どうしたの?美人の彼女まで連れてきて、
とにかく中にお入り。
父さんも裏で薪を割ってるから声かけてくるわね」
「お邪魔します」
レンの後ろからティエラが続いて中に入ると大きめの居間に入り、
しばらくするとレンの両親が2人居間に入ってきて
「久しぶりだな、レン」
「父さん、ただいま。こっちがティエラ。一緒に住んでる」
ティエラを紹介すると、一礼しながら
「初めましてティエラと言います、レンと同じ赤魔道士で
今はベルグードで一緒に住んでいます。よろしくお願いします」
「ちゃんと挨拶できる礼儀正しい子ねぇ、私はマリエ、
レンの母親でレンを産むまでは冒険者だったのよ。」
「私はジグス。レンの父親だ。よろしく。」
勧められるままに居間のソファに腰掛けて、
ジュースを飲みながら マリエが
「積もる話しもあるだろうからあとでゆっくり聞かせてね。
とりあえず私は夕食の用意するから。
レンもティエラさんも今日は泊まっていくんでしょ?」
「ああ、明日には出ていくけど」
「じゃあ、先にお風呂に入ってきなさい
部屋はレンの部屋がそのまま使えるから」
その後勧められるままに風呂にはいり、
リラックスしたとこで夕食となった。
キッチンでの夕食、そしてその後は居間に移動して
ジュースを飲みながらレンとティエラで冒険者になってからの
日々のことや、ダンジョンでの出来事、二人の馴れ初め、
そして今回の旅行の目的などを両親に話しする。
長い話しを聞き終わると
「なるほど、神獣の加護か。初めて聞いたぞ。母さんも初めてだろう?」
「ええ、初めて聞いたわ。それにしても赤魔道士でレベル50、
ランクCなんて二人とも本当に頑張ってるわね」
「親としては剣術、魔法共に教えておいてよかったな」
「本当ね」
「それにしてもダンジョンがそういう訳で存在していたとはな。
ところでレン、不遇と言われている赤魔道士で本当によく頑張ってるな。
父さんも母さんも嬉しいぞ、それにこんないい奥さんまで連れてきて。
これに満足せず、もっと上を目指して頑張りなさい。ティエラさん、親からみると
まだまだな息子ですけど、よろしく頼みますよ」
「いえいえ、こちらこそ。落ち着いたら是非ベルグードの家に遊びにきてください」
顔の前で手を振りながらティエラが答えると、
「そうね、レンが南の国境から帰ったら私たちも
一度ベルグードに遊びに行こうかしら」
「南から帰ったら連絡するよ。とりあえず明日になったら出発する。
南の砦に寄ってから魔人の国との国境を目指して行ってくる」
「南の国境近くなんて、長い間誰も行ってない場所だから、
何があるか予想もつかないが領主様の依頼もあることだし、
気をつけて行ってくるんだぞ。」
レンの父親も母親も元冒険者だけあって、冒険することを否定はしないが、
親としてはやはり心配な部分があるので
「くれぐれも無理やしない様にね。あと、装備関係で
足りないものがあったら言いなさい。家にあるので持っていける物は
持っていって構わないから。薬とかはちゃんと持ってるの?」
母親のマリエが心配していうと
「アイテムボックスにたっぷりと入っている。
食料や水もかなり持ってきてるから大丈夫だよ」
「そう? でも本当に無理しちゃダメよ。もう一人じゃないんだから。
ちゃんとティエラさんのことも考えて行動しなさいよ」
「わかってるって」
夜遅くまで4人で話しをして、久しぶりにベッドで
ゆっくり寝て疲れをとった二人は翌日の朝、レンの両親と
朝食を食べてから家を出て南の砦に向かって出発していった。
「レンのお父さんもお母さんもいい人ね」
南への道を歩きながらティエラが何かを思い出した様に言うと
「そうか? でもティエラが気に入ってくれてよかったよ」
ティエラは昨夜寝る前に母親のマリエと二人で話しをしていて、
両親を亡くしているティエラはマリエから
「これからは私達のことをお父さん、お母さんと思っていいんですよ」
と言われてマリエの前で号泣していた…
南に向かうにつれてだんだんと道の状態も悪くなっていく、
途中で小さな村に寄ると、村人から「ここから南は領主様が
作られた砦があるだけで、もう人が住んでる村はここより南にはありませんよ」
と言われ、村を出て南に向かうと道の状態はますます悪くなって
いき、ほとんど道がない草原を二人ひたすらに南下していった。
ここまで来るとどういう魔獣が出てくるかも予想がつかないので
念のために夜は交代で眠って疲れを取りながら進むこと2週間。
昼前に視界の先に砦が姿を現した。
遠目に砦を見ながら
「あの砦ね」
「そうだな」
砦に向かって歩いていき、砦の門が見えてくると
大きな門の隣にある通用門の様な扉が開いて
中から騎士の格好をした2人組が出てきて
「お前達は冒険者か? 何をしにこの南の砦まで来たんだ?
この砦から先は一切人が住んでいない場所と知って来ているのか?」
槍を持った2人組みのうちの一人が聞いてきたので、
レンは冒険者カードと領主からの手紙を取り出して
「確かに俺たち二人は冒険者だ。領主のニコラス=ヴァンフィールド様から
この砦の責任者への
手紙を預かっている」
手紙は辺境伯の印で封印されており、それを見た騎士は急に態度を変えて
「それは失礼しました。少しここでお待ちください」
と1人を残して砦の中に走っていった。すぐに走っていった騎士と
その指揮官を思われる戦闘能力が高そうな騎士がやってきて
「領主様の手紙を受け取った。中に入ってくれ、長旅で疲れているだろう。
大したもてなしは出来ないが中で休んでくれて構わない」
中から新たにやってきた騎士の後に続いて砦の中に入り、
応接間と思われる部屋に案内される。しばらくすると
さっきの指揮官ともう1人の女性騎士の2人が部屋に入ってきて
「先ほどは失礼した。私はこの砦の司令官のガルシアだ、
こちらは副官のローズ」
「騎士団守護隊副官のローズよ、よろしく」
お互いに握手をしてからソファに座る。
「早速だが、君たちは領主様から国境の調査を依頼されているとのことだが、
2人で国境付近まで行くつもりなのかい? 見た所荷物も持っていない様だが」
ガルシアが不審がって言うと
「俺たちは2人ともアイテムボックス持ちなので、いつも手ぶらで活動している。
そうそう、領主様からこの砦の守護隊への荷物を預かっている」
レンとティエラがそれぞれのアイテムボックスから大きな木箱を
2箱床に出すと、2人ともびっくりしてその木箱を見て
「噂には聞いたことがあるが、アイテムボックスというのは本当に便利なものの様だな」
「2人とも結構入るから重宝している。この2箱が領主様からの差し入れ。
それとこれは俺たちからの差し入れ」
ティエラがアイテムボックスから取り出したのはベルグードの街の
屋台で売っている串焼きやクッキーやらの食料品。
それをテーブルの上に置いていく。
「うわぁ 懐かしい。これベルグードの屋台で売ってる食事よね。
こっちだと食べられないのよ。食べられないと思うと、
時々無性に食べたくなるのよ。」
副官のローズが目を輝かせて次々と出される屋台食を見ている
「これ全部差し上げますので、ここにいる方で召し上がってください」
テーブルの上に置かれていくベルグードの屋台食の数々を見ながら
指揮官のガルシアが
「これは守備隊の連中も喜ぶだろう。助かる」
ガルシアが扉に向かって声をかけると扉が開いて
下士官らしき騎士が部屋に入ってきて、テーブルの上に置いてある
ベルグードの土産を両手に抱えて出て行った。
「とりあえず、長旅で疲れたろうからゆっくりしてくれ。
ここには風呂もあるから旅の疲れを取るといい。
部屋はこれからローズが案内する。昼食には声を掛けよう」
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