第27話
翌日からは南への探検というか遠征というかに備えて
2人で装備や食料、薬品を買って準備していった。
アイテムボックスがあるとは言え、何が起こるか
予測もつかないので、野営用のテントをもう1組買ったり、
ポーション、毒消しなども十分に数を揃えていく。
もちろん、その間にもギルドの修練場で戦闘の感(勘)を失わない様に
模擬戦もしていた2人であった。
そうして準備している間に、言われていた期限が来たので武器屋に出向いていく
「おお、レン達か。出来てるぞ」
店に入ると店長のドワーフのズームが奥から2本の剣を持ってきた
「こっちがレンのでそっちのがティエラのだ。持ってみてくれ」
2人がそれぞれ左手に剣を持って軽く振ってみる
「おっ、振りやすいな、これ。それに長さもぴったりだ」
「いいね、これ、ミスリルだから魔力の通りも良さそうだし、それに軽い」
ティエラも剣を振りながら感想を言うと、
「そうだろう? その2本は俺の自信作だ。
ミスリルとアダマンタイトを粉末にしてかき混ぜてから型に流しこんで
作ってある。魔力の伝導率の良さと剣自体の強さを両立させた一本だ」
早速鞘に入れて自身の右側に新しい片手剣を装備する2人を見ながら
「2人とも似合ってるぜ。うん、お前らなら二刀流、十分使いこなせそうだ。
いや、俺も作った甲斐があったってもんだ」
「流石にドワーフの親方だ。良い物を作ってくれてありがとう」
レンがお礼を言うのに合わせてティエラも頭を下げる
「気にするなって、こっちも商売だから。またなんか欲しい武器が出来たらいつでも
言ってくれや。ばっちり作ってやるからさ」
片手剣の代金を支払って店から家に戻り
「剣も来た、アイテムボックスにもしっかり食料、水、薬品、
備品もだいたい揃ってきた。あと2、3日後くらいに出発しようか」
「そうだね。じゃあギルドマスターに言わないとだね。」
2人でギルドに出向いてだいたい準備が整ってきたので
あと2、3日くらいでここを出発できる予定だとギルドマスターに言うと
「わかった。領主には俺から言っておく、今日か明日くらいに
挨拶に行くことになると思うから街から出ないでくれ。
ああ、挨拶は俺も一緒に行くから。それと格好だが、
冒険者の格好でいいからな、変に気を使う必要はないぞ。
お前らは知ってるかどうか、今の領主は以前は冒険者で
俺とパーティを組んでたから。冒険者のことはよく知ってるし、
本人も格式にこだわらない気さくな人だよ。」
「そりゃ助かるな」
そのまま家に戻ってのんびりしていると、
その日の夕方にギルドから使いの者がきて領主との面談が
明日の午後になった。
昼食が終わったころにギルドに来て欲しいと。
承諾の返事をしてその日はそのまま家を出ずに
のんびりと過ごす2人であった。
翌日、昼過ぎにギルドに出向くと、すでにギルドの馬車が
前に止まっていて、レン達を見つけると
中からギルマスのアンドリューが出てきた。
「ちょうどいい時間だ、これに乗って行こう」
レン、ティエラ、そしてギルマスが馬車に乗り込むと
馬車は大通りから商業区、住宅区を抜けて貴族街にはいっていく。
事前に領主かギルマスが言っていたのだろう、
どこもノーチェックで進み貴族街の一番奥にある
大きな屋敷の前で馬車が止まり
「ここだ、武器だけはアイテムボックスに入れておいてくれ」
門に近づくと中から扉が開いて執事が3人を出迎え、
そのまま屋敷内の長い廊下を歩いて奥の部屋の前に…扉の前で執事が
「お客様がお見えになりました」
「通せ」
中から声がすると執事が扉を開き、ギルマスの後に続いてレン、
ティエラと部屋に入っていく領主の執務室らしく、
広い部屋の奥の大きな机に座って書類を見ていた領主が顔を上げて
「よく来てくれた。まぁ座ってくれ」
声をかけながら机の向こうからこちらに回ってくる大柄で
精悍な表情をした男。
服の上からでも筋肉質の体型がわかるほどで。
3人ともソファに座らずに待っていると
ソファに来た領主がレンとティエラを見ながら
「この辺境領の領主をしているニコラス=ヴァンフィールドだ。
ここにいるギルドマスターのアンドリューとは冒険者時代に
同じパーティに所属して結構魔獣を倒したものさ」
ヴァンフィールドが座ってから3人もソファに座ると
メイドが果実汁を持ってきてテーブルに置いて部屋から出て行く。
果実汁に口をつけてから、
「君らが噂の赤魔道士ペアか。いや、アンドリューから話は聞いている。
一度会いたいと思ってたんだよ。なんでも神獣の加護を
2つ持ってるんだってな。
しかも赤魔道士で2人ともレベル50っていうじゃないか。」
話しかけられてレンは
「まぁ、俺たち…いや、私達はそこまで
大したことはしてないですよ」
ヴァンフィールドは笑いながら
「普段の口調で全然構わないぜ。こっちもこんな調子だしな。
少し前まで貴族とやらと付き合うなんて思ってもみなかったから
今でも貴族連中からは品がないとか言われまくってるし」
豪快に笑いながらいう領主をフォローするかの様にギルドマスターも
「正式な場所では貴族のしきたりに添って話しするらしいが、
今日は個人的な会合だ。
レンもティエラもガチガチに気を使う必要はないからな」
それを聞いて少しはリラックスできたのか
「あまり、貴族の人なんかと接する機会がないので、
無作法があったらすみません」
前置きしてから
「2人とも加護が欲しくて冒険者になったわけじゃないし、
今でもどうして俺たちに加護がついたのか全くわかってないってのが本音です。
赤魔道士のジョブも好きでやってるだけだし」
横でティエラがうんうんと頷いている。
「とは言え、神獣から直接加護を受けたって話しは最近聞いてないしな。
それにダンジョンの秘密まで教えてくれたっていうじゃないか。
2人とも相当神獣に好かれたみたいだな」
ヴァンフィールドは2人を交互に見ながら話しをする。
領主の隣に座っているギルマスのアンドリューも領主の言葉に続いて、
「レン達のおかげでダンジョンが存在する理由がわかったし、
その後結構な冒険者がいろんなダンジョンに潜って攻略しているぞ。
皆神獣の加護を狙ってるらしい。」
ティエラが果実汁を飲んでから
「大勢の冒険者が神獣の加護を受けたら、
いつ魔族が襲ってきても対抗できますね」
「ああ、尤も魔族が襲ってこないのが一番いいんだがな。
いつでも対応できる準備は常日頃からしておかないとな」
ティエラの発言に領主も同意する。
「それでお前らは今度は南の国境沿いに出向くんだって?
それも神獣の言葉なんだろう?」
ちらっとギルマスを見ると頷いたので話を続ける
「ただ南の国境沿いの山脈の麓にある洞窟に行けと言われただけで、
何があるのか全く知らないんですけど、神獣の言葉なので、
レンと2人で行くつもりです。」
「わかった。実はこの広い辺境領も南の方はほとんど未開拓でな。
魔族の国との国境が近いということもあって南にある砦から先は
国境まで村もないし人も住んでない、実は俺たちも殆ど調査も
出来ていない未知のエリアなんだよ。
なので、せっかく2人が南の国境に向かうのなら
俺がギルドに指名クエスト出しておく。
クエスト内容は砦への荷物運びと辺境領南の調査だ。
報酬も出すから、戻ってきたら見た事、気づいた事を俺に報告してくれれば良い」
領主の発言にギルマスも
「報告ったって書面で出す必要はないからな、
2人が戻ってきたら又こうしてこの屋敷で見た事や気づいた事を
口頭で報告するだけでいいからな。それと、お前らが南に向かうことは
他の冒険者には言ってないから。知ってるのは今ここにいる4人だけだ」
アンドリューが安心しろとばかりに言う。
「わかりました。それで俺たちは明日か明後日にでも
南に向かって出発しようと思っているんですが」
レンが領主に向かって言うと、
「大丈夫だ。手紙はここに用意してある、
荷物はあとでそちらの家に届けさせよう。2人ともアイテムボックス
持ちだから少々多くても大丈夫って聞いているけどその理解でいいか?」
「ええ、大丈夫です。ただ途中でレンの実家の村に寄ってから
砦に向かうので若干遅くなるかもわかりませんが」
「それは全く問題ない。砦の連中にはお前らの事は何も知らせていないからな。
砦についたらまずは砦の指揮官に俺のこの手紙を見せてくれたらいい。
中身はこれから南に向かうお前ら2人の行動は領主の俺の
指名クエストの為であり、その行動については協力も詮索も不要だ…
てなことが書いてある。こうしとけば洞窟の話しなどしなくて済むだろう?」
領主のヴァンフィールドは片目をつむりながら、
いたずらっ子の様な表情をする。
つられて2人も顔をほころばせながら
「いろいろお気遣いいただいて助かります」
ソファに座ったまま礼をすると
「いやいや、それより帰ってきたらちゃんと報告を頼むぜ」
こうして領主との会談は終わった。
再び馬車にのってギルドまでもどり、そのまま家に帰るとすぐに
領主からの行者が家にきて木箱ケースを2つほど玄関に置いて帰っていった。
レンとティエラで1つずつアイテムボックスに収納し、
「これでだいたい揃ったな、領主の手紙も俺のアイテムボックスに入ってるし」
「じゃあ明日でも出発する?」
「そうしよう」
その後2人で最終の装備チェックをしてから当分の間は味わえない
ふかふかのベッドの感触を感じながら眠りについた。
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