第25話
レンとティエラはその後2人で山花亭をチェックアウトし、
家で着る服や下着、日用品を買いに商業区に繰り出して
買い物と食事を済ませて家に戻ってきた。アイテムボックス持ちなので
2人とも買い物しても手ぶら状態で街を歩いていた。
ティエラ曰く料理は嫌いじゃないので明日からはティエラが料理を作ってくれるらしい。
家に戻るとレンは風呂場にいって浴槽に水を貯めていく。
大きめの浴槽は2人くらいなら余裕で浸かれるほどの広さがあり、
川の水を魔石で浄化させる浄水器を通して綺麗な水を湯船に貯めると、
片手を水につけて魔力を放出して水を温めていく。
浄水器についている魔石も定期的に魔力を注ぎ込むと
反永久的に使える様で魔法が使えるレンとティエラにとっては
ありがたい仕様になっていた。充分に湯が温まると、手を抜いて
「ティエラ、風呂ができたぞ」
声をかけて先に風呂にはいって湯船に浸かっていると、
「私も一緒に入る」
ティエラが風呂に入ってきた、先に湯に浸かっていたレンが
横にずれるとその場所にティエラが
浸かって、湯船の縁に凭れながら2人並んで湯に浸かる。
湯の中で、レンの左腕を両手で掴み、レンの肩に自分の頭を置いたティエラが
「私、こうして自分の家でゆっくりとお風呂に入るのが夢だったの。
これから毎日こうやって好きな時にお風呂にはいったり、
好きな時にベッドで横になってのんびりしたりできるんだよね。
なんか夢みたい」
「ティエラの好きな時に好きな事すればいいよ。
誰にも文句言われないしさ。」
「うん」
「しばらくはダンジョン疲れを取って、それから南に探検に行こう。
慌てなくてもいいよな競争じゃないし、自分たちのペースでいいよな」
「うん、のんびり行こ」
2人が風呂でのんびりしている時、ギルドを出たギルマスの
アンドリューは領主の館で旧友であり、領主であるヴァンフィールドと
応接で2人で話しあっていた。
「そうか、赤魔道士ペアが家を買ったか。これで当面は安心だな。
それにしても2匹目の神獣の加護をもらったって。
そんな冒険者、今まで聞いたことないぞ」
「ああ、俺もない。相当神獣に好かれてる様だ。それと、
今回のダンジョンクリア中に2人とも
レベル50になってたぞ。ランクBにあげといた。」
アンドリューがジュースをグイッと飲みながら領主に言うと
「レベル50のランクBか。赤魔道士は40過ぎたら大化けするっていう
話しだったが本当だったんだな。」
「そうだな。2人とも相当強くなってる。この前王都からきたレベル55、
ランクBの戦士ら3名がレベル47の時のレンに絡んでギルドの修練場で
模擬戦やったけど、レンの奴、3人をあっという間にのしちまいやがったよ
俺ですらレンの模擬刀の動きを追うのが精一杯だった」
「ほう、そりゃ相当じゃないか、王都のひよっこ連中とはいえ
レベル55の奴らを黙らせたのかよ、それで今はレベル50か、
多分また一皮むけて強くなってるな」
「俺もそう思う。おそらくうちのギルドでも実力的には
トップクラスなのは間違いない。レンのみならず、
相方のティエラも強いしな。それでしばらく休んでから南の魔族との
国境沿いにある山の麓にある洞窟に向かうそうだ。
そこに行けって神獣に言われたらしい」
「南の国境沿いの山脈か、あそこはまだ未調査エリアで
どんな魔獣がいるかギルドも掴んでいないんだよな?」
「まだだ。前の魔王が倒されて以来、国境は静かだから、
あちら方面の探索はしていない。というかあんたの兵隊さんがいる
砦以南は未調査だぜ」
それを聞いたヴァンフィールドはぱんと手を叩いて、
「そうだ。砦に俺の手紙を持って行かせるってことでここに
呼ぶついでに差し入れも持たせたいけどそれは荷物になるから酷な話しか」
「いや、あいつらは2人ともアイテムボックス持ちだ。基本手ぶらだよ」
「じゃあ問題ないな。アンドリュー、その2人をここに呼んでくれるか?」
「わかった。奴ら出発が決まったらここに顔をだす様に言っておく」
「ただ、奴らが南の国境沿いの洞窟が次の目的地ってことは
誰にも言ってないからな、俺とあんただけの秘密だ。
砦の連中には奴らの行き先、行動は詮索するなって
手紙に書いておいてもらうと助かる。」
「わかった。そうしよう。余計な奴らが行ってもろくなことにならんだろうし」
領主の発言にギルマスも頷く。
「それにしても神獣の加護か…」
領主のヴァンフィールドは顔をあげて、何もない天井を見ながら呟き、
アンドリューの方を向いて、
「神獣はどういう基準で加護を与えてるんだろうか。
あいつらが上位転生でもしたらギルド始まって以来の事件になるぞ。」
「そうなったら自動的にランクAに昇格させるさ
ギルドに取って損はないしな。」
「ランクAか…魔王がいた時なら間違いなく2人は勇者パーティに入ってただろうな」
「それは間違いない。下手すりゃ2人とも勇者になってたかもしれん」
「それほどの強さか…」
領主のヴァンフィールドとギルマスのアンドリューの話しは夜遅くまで続いていた。
翌日の朝、普段より遅い目覚めの2人は普段着で下に降りてきた。
ティエラが朝食の準備をする間にレンは庭に出て日課になっている
木刀で素振りをはじめるが、
「これは…加護とレベルアップのせいなのか、
以前より身体が軽いし振りのスピードも段違いだ」
何度か素振りをして昨日までとは全く違う自分にびっくりしていると、
ティエラから声がかかってレンは家に入っていった。
キッチンのテーブルで向かいあって朝食を食べながら
「ん?このシチュー、美味いな」
レンがシチューを一口食べてティエラを見ながら言うと、
「そう?ありがとう。こう見えても私、結構料理得意なのよ。
教会に住んでいた時はいつもシスターの料理の手伝いをしてたしね」
「なるほど。」
頷きつつパンをシチューにつけて食べながら
「さっき庭で素振りしたけど、レベルが上がったのと
神獣の加護のおかげか、体の動きが一段と早くなってたよ。
あとでローブにズボンのいつもの格好でもう一度やってみるけど。
これなら…出来るかもしれない」
「出来るかも?って何が?」
パンを持つ手を止めてティエラがレンを見ると
「うん、前から考えてたんだけど、二刀流が出来るかもしれない」
「二刀流?片手剣2本持つってこと?」
「厳密にはちょっと違う。左手に持つのは今の片手剣の2/3か
半分の長さの剣にしてあくまで右手の補助的に使う感じかな」
「魔法はどうするの?」
「なので、左手に持つ剣は魔法の流れが良いのを材質に
したのを使おうと思ってる」
それが何かわかるだろう?という目でティエラを見ると、
彼女もすぐに理解して
「ミスリルね」
「そう。ミスリル。材料がそれだけで良いかどうかはわからないけどね。
あとでドワーフのズームの武器屋に行って相談してみるつもり」
ミスリルは鉱山で採れる鉱石の1種で、
硬くて魔力の伝導力に優れていると言われていて
冒険者の中でもミスリルを使った武器や杖を持っている者は多い。
「食事終わったら私も着替えて素振りしてみる」
「そうだな、ティエラの感想も聞かせてくれると助かる」
食事を終えると2人とも冒険着に着替えて庭に出て
片手剣を持って素振りをしてみる
「本当ね、身体が軽いし、腕の振りも昨日よりずっと早いわよ」
「だろう? 力も増してる感じもするだろう?」
「うん。するする」
庭で素振りをして自分たちの身体の感覚を覚えてから、
2人で家を出てドワーフの武器屋に向かう。
「俺は片手剣もう1本持つつもりだけど、ティエラはどうする?」
「そうね、持ってもいいかもね。左手の剣で相手の攻撃を受け止められるしね」
話しをしながら歩いていると目的の武器屋について
「こんにちは」
扉を開けて中に入ると、この前もいた犬族の店員が2人を見て
「いらっしゃいませ。店長に御用ですか?」
「ああ。いるかな?」
お待ちくださいと言ってから店の奥に店長を呼びにいって、しばらくすると
鍛治でもしていたのか作業着のズームが奥からやってきた
「レンとティエラか。今日はどうしたんだい?」
「二刀流をしようと思って、
左手に持つ短めの片手剣がないかなと探しに来たんだよ」
「二刀流か… お主らレベル幾つになったんだ?」
「レベル50になったところ」
ティエラが店の中の陳列物を見ながら答えると
「50か、なら使えるかもしれないな。
それでどういう片手剣がいいんだい?」
「うーん、長さは今持ってる片手剣の半分か2/3くらいの長さで、
魔力の伝導率が高い素材を使っていて、かつ、硬くて強くて、
自動修復機能が付与されているものかな」
「短剣じゃだめなんだな?」
「短剣じゃ短すぎる気がするんだ。短剣と片手剣の中間位の
長さのがいいかなと」
「となると特注になるかの。材料はミスリルをベースに
アダマンを混ぜて硬度を出すか。
自動修復機能は問題ないな。悪いが今の片手剣をこの
テーブルの上に置いてくれんか?」
言われるままにレンとティエラがそれぞれの片手剣をテーブルに置くと
その刃の寸法を測り、柄の部分のサイズを測り、
その後はブツブツと独り言を言いながらあらゆる角度から片手剣を見て、
「よし、材料は今店にあるので大丈夫そうだ。2本作ったらいいのかい?」
「ああ、俺とティエラの分、2本頼む」
「わかった、それじゃあ特注で作ってやろう。10日後に取りに来てくれ」
「そんなに早くできるの?」
ティエラがびっくりして言うと
「ふふ、わしに任しておけ」
「じゃあ10日後に取りに来るよ。」
「よろしくお願いします」
ズームに依頼して店を出て、ギルドに向かう。
毎日ギルドに顔を出すのは日課の様なもので、
依頼を受ける気はなくてもギルドに行けば知り合いもいるし、
冒険者である限り1日に1度はギルドに顔を出さないと落ち着かない
というのが2人の間での共通の認識であった。
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