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第15話


 レンとティエラの2人がダンジョンに潜っている頃、

辺境領の中心都市ベルグード。


 1台の荷馬車が市内の大通りを進んでいる。貴族が使う様な

華美なものではなくがっしりとした丈夫な作りの馬車が通りを進み、

やがて周囲が大きな屋敷ばかりになる貴族街に入っていき 

その貴族街の中の一番奥にある最も大きな屋敷の前で止まる。


 降りてきたのは1人の男、大きな屋敷の前に立つ門衛に

挨拶をしてから敷地にはいり扉の前に立つと待っていた様に

扉が内側から開き


「いらっしゃいませ、領主様がお待ちでございます」


 出迎えたメイドの後について屋敷にはいり、

長い廊下を歩いた奥の部屋の前で立ち止まり、ドアの中に向かって


「アンドリュー様がお見えになりました」


「通せ」


 扉が開いてギルドマスターが1人で部屋に入る


 入った部屋は煌びやかではなく、無駄なもの、高価な装飾品などなく、

どちらかといえば質実剛健、機能性を重視した部屋の中央に

大きなソファとテーブルが、壁際にはひときわ大きな机があり

それに座って1人の男が書類の山と格闘していて、顔をあげると


「よく来たな。ここに来るのも久しぶりだろう?」


 がっしりとした体躯、大柄で金髪の男、この男が辺境領の現領主の

ニコラス=ヴァンフィールド伯爵だ


「ご無沙汰しております」


 挨拶をしてから勧められたソファに座ったギルドマスターの

アンドリューを見て伯爵はメイドに飲み物を頼み、

自分が執務していた机から移動してアンドリューの向かいのソファに腰掛ける


 領主は鷹揚に頷くと、


「オーケー 格式張った挨拶は終わった。これからはいつもの通り、

昔の仲間の口調でいこうや。かたっ苦しいのは苦手だって知ってるだろう?」


「じゃあ遠慮なくそうさせてもらおう」


 アンドリューも砕けた口調になって答える


 この2人、以前は共に冒険者で同じパーティを組んでいた仲間で、

ヴァンフィールドがナイトからパラディン、アンドリューは戦士から

剣士と共に上位転生までできた元ランクAの猛者である。


 ヴァンフィールドの父親、元領主が病気で急死し、当時30歳だった

長男の彼が急遽後を継ぐことになってパーティを抜けたが、

元々政治の才能もあったのか、父親の後を継いでからは父親以上に

この広大な辺境の領地をうまく管理、運営しており、また、

自分が冒険者であったこともあり冒険者を優遇する方針を打ち出している。


 領内には多数のダンジョンがあり、それ目当てで結構な冒険者が

常時来訪しており、彼らが使うお金も領地の運営に大きく貢献している。


「で、見てくれたか?ギルドが作ったレポート」


 テーブルに置かれたジュースを飲みながらギルマスのアンドリューが問うと、


「見た。にわかには信じられない話しだな。

とはいえ頭から否定するには状況証拠が揃いすぎている。」


「俺も最初に話を聞いた時は正直信じられなかったよ。」


「報告してきた奴らは信用できるのか?」


「そこは問題ない。今時珍しい赤魔道士の2人組でな。

2日でレベルが20以上上がるなんて普通のジョブでも不可能だしな。

ましてそれが赤魔道士なら100%無理だと断言できる。


まだランクCだが、あいつらはいずれ強くなって

内のギルドのエースになるかもしれん。俺も長いあいだ冒険者をして

今はギルドマスターとしていろんな冒険者を見てるけど、

神獣と話したなんて聞いたことない。神獣から認められた冒険者、

強くならないはずがないと思わないかい?」


 力説するアンドリューの話を聴きながら、ヴァンフィールドは、


「お前がそこまで褒めるなんて、相当だな。赤魔道士のペアか、

お前がギルマスになってから初めてじゃないのか?赤魔道士なんて、

それも2人」


「確かに、ジョブの存在自体を忘れるくらいにレアな扱いになってたな」


 ソファに向かい合って座りながら気心の知れている者同士の会話は続く。


「で、ギルドはどうするんだ? この件。

ギルドマスターの会議で発表するのか?」


「しない訳にはいかないだろう。来月王都であるギルマス会議で

報告するつもりだ」


 ヴァンフィールドはちょっと考える風に目を閉じてからアンドリューを見て、


「報告したら、どうなると思う?」


「おそらくギルドは公には冒険者にダンジョン攻略を勧めることは

しないだろうが、冒険者の方でダンジョン攻略がブームになるかもしれん。

そうなるとこの辺境領に今以上の冒険者が流れこんでくるな。

その結果、地上の魔獣の駆除に支障が出るかもしれん。


なので、ギルドとしては地上の魔獣退治に対する報酬を上げざるを

得なくなるだろうな。理想は低ランクから中ランクは地上の魔獣退治、

中ランクから高ランクはダンジョン攻略と住み分けしたいところだが、

そううまく行くとも思えん。冒険者から見ればダンジョンに行くのも自由、

フィールドで魔獣退治をするのも自由。


しかも元々冒険者の行動はよっぽどでないと制限しないってのが

ギルドの方針だからな。

それよりもこの話を聞いて国軍や貴族お抱えの兵隊たちはどうするんだ?」


 逆にアンドリューが領主に質問すると、


「あいつらがこの話を聞いて、はい、わかりました。他国との争いを

やめて魔族の侵攻に備えて訓練しますって考え方を変えると思うか? 

自分の保身と出世しか考えてない奴ばかりだぜ。

国軍は国王を守るって命があるから普段からそれなりの

訓練はしてるらしいが、それ以外の奴らは今まで通りで何も変わらないさ。」


 ここで一息ついて、再び口を開く。


「ただ、俺の領地の兵隊は違うぜ、彼らにはダンジョンに

潜ってもらおうと思ってる 兵隊のレベルアップは必要だからな。

地元に鍛錬の場があるならこっちも有効利用しないとな」


「なるほど。備えあれば憂いなしってことだな」


 ヴァンフィールドはグラスに入ったジュースをグイッと飲み干し、


「そういうこと。俺にはこの領地を守る責務があるからな、

そこはしっかりやらせてもらう。それにしても魔王が倒れて80年か、

そろそろ何かが起こり始めてもおかしくないタイミングではあるな」


 ヴァンフィールドはメイドに飲み物のおかわりを頼む。

アンドリューも同じもののお代わりを頼んでから


「ああ、魔王復活はまだ先の事だとしても、

ここしばらく姿を見ていない魔族の動きも気になってくる頃だな」


「地上の魔獣に変化はあるのか?」


「いや、そういう報告は受けていない。ある意味通常通りだ」


「そうか。じゃあ準備できることから準備していくか。

俺としてはとりあえずは冒険者用の宿の増設か。

これはまぁ空いてる土地がまだあるから対応可能だろう。

冒険者が落とす金は領地にとっても重要な収入源だからな、

しっかり準備しないと」


「治安面については今まで通り、領地の衛兵とギルド有志の

対応で構わないよな」


「ああ、それで頼む。最近は大きな事件もないので

住民も安心してるし、俺としてはこの状態をずっと続けたい」


 常に領民のことを考えるところがこの男の良いところであり、

領民から絶大な支持を得ている理由でもあることを知っている

アンドリューは頷きながら



「ギルド間である程度の冒険者の情報を共有しているのは知ってるだろう?

一応来月王都にいった際に、その辺りの情報交換もしてくるつもりだ」


「頼む。まぁ、この国で冒険者の実力が一番高いのはお前のギルドに

所属している冒険者達だろうから、外から変なのが紛れ込んできても

ここにいる冒険者からガツンとやられちゃうんじゃないのか?」


 ヴァンフィールドの言葉に笑いながらアンドリューも同意する


「ところで今回フェンリルと話ししたっていう神獣の加護持ちの

赤魔道士のペアは今でもうちの領地にいるのか?」


「いる。今は確か西のダンジョンに潜ってるはずだ」


「そうか、一度会ってみたいな。滅多に冒険者を褒めない

お前さんの一押しだろう?俺も一度顔を見てみたいものだぜ」


「わかった。まぁ俺としては奴らが他の領地、

国に行かれない様になんとか引き止める方法を考えてるところさ。」


 アンドリューの言葉にその通りだと言わんばかりに頷きながら、


「ちゃんと捕まえておけよ。金でも何でも使って」


 領主とギルドマスターの話し合いはその後も続いて、

今後の方針の大筋がこの話し合いで決定された。




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