第14話
鞘から片手剣を抜いて幅10メートルほどの小川の浅い部分を
歩いて川を渡って、探索で表示されている黄色の点に向かって歩いていく
二人並んでしばらく歩いて
「この木だ」
1本の大きな木を見上げてみるも、
「でも何もいないよ?」
隣でティエラが言うのを聞きながら、じっと木を見ていたレンは
「見えないけど、何かいる」
レンが剣を構えた所で、突然
『君達、僕らが見えるの?』
脳内に何かの声がした
「いや、見えないけどそこにいるのはわかる」
『そうなんだ。普通なら存在すら気づかないはずだけどさ。そうそう僕らは魔獣じゃないから
安心して。今姿を見せるからさ』
じっと見ていると木の枝の部分が白く光ったかと思うと
身長は人間の頭位、背中に羽が生えている真っ白の
人型の生き物(?)が2体現れた
「ひょっとして妖精 ”ピクシー”?」
ティエラがその姿を見ながらいうと
『そう、僕らは妖精。神獣の妖精だよ』
2体の妖精のうち1体が答える
「「神獣の妖精?」」
2人しておうむ返しに言うと
『そう、神獣に仕えている妖精』
「このダンジョンの神獣の妖精か。
なぜボス部屋じゃなくてここにいるんだい?」
剣を鞘に収めたレンが問うと
『普段から時々こうやってダンジョンの中を散歩してるんだ。
ずっとボスの部屋ばかりだと気が滅入るからさ、
気分転換みたいなものだよ 2人で時々散歩してるんだ。
まさか僕らの姿を見つける人間がいるとは思わなかったけど、
でも、よく見たら君達、神獣の加護を受けてるね それはフェンリルかな?』
「わかるの?」
ティエラが思わず自分の身体を見ながら言う
『わかるよ、神獣に仕えている僕らにはわかる。へぇ
フェンリルの加護か。あのフェンリルがねぇ
結構気難しい神獣なんだけど。よっぽど気に入られちゃったみたいだね』
「そ、そうなの? 気難しいんだ」
『あっ 僕らが言ったって言わないでね』
「言わないわよ。ところで、あなた達妖精がいるってことは
このダンジョンの最深部のボス部屋のボスは神獣ってことでいいの?」
『そう。それであってる。どんな神獣かは会った時のお楽しみ』
「あら、意外とケチなのね」
ティエラが半分笑いながら言うと、
『先に言っちゃうと楽しみがなくなっちゃうでしょ?』
レンが妖精に頷き、
「その通りだ。ここは妖精達が正しい。会うまでのお楽しみってことにしとこうぜ」
「そうね。私も半分冗談で言ってみただけだから。気にしないで」
『ところで、さっきはトレントの森で他の冒険者の人を助けてたね。見てたよ』
「見てたのか」
『でも僕らはどんな場面でも助けたり手を差し伸べたりしてはいけないんだ。
見てるだけ』
「そうだろうな 普段は見つけられない存在だしな。
それに冒険者は全て自己責任だしな」
妖精の言葉にレンが同意する
『その通り。僕たちが一度でも戦闘の手助けをすると
鍛錬じゃなくなっちゃう』
「そうよね。ダンジョンは鍛錬の場 ですものね」
ティエラも同意する
『あなた達はちゃんと彼らを助けてあげた。
当たり前でもできない人間は結構多いんだよ。
しかも僕らを見つけたし、本当に凄いよ
流石にフェンリルの加護を付与されてるだけはある』
妖精は感心して言い、背中の羽根をパタパタさせて枝から
離れて二人の前に向かい、
『僕らを見つけた初めての人間にお祝いのプレゼントをあげるから受け取って』
そういうと、もう1体の妖精が軽く手を振るとレンの前に光ができてその中から
指輪が出てきた。 指輪を受け取ったレンに
『その指輪が僕たちからのプレゼント。テレポリングだよ』
「「テレポリング?」」
『そう、その指輪をつけた人が指輪に触れながら過去に行ったことの
ある場所を思い出すと、一瞬でパーティメンバー全員がその場所に
ワープできる指輪。使用制限はないから何度でも使えるよ』
「それってまた凄い指輪じゃない」
「本当なだ。ティエラ、この指輪、ティエラがしておいてくれるかな」
「えっ、レンじゃなくて私?」
「うん、戦闘中どっちかというと俺が前でティエラが後ろの
位置どりすることが多いだろう? 万が一やばいと思ったら
ティエラの方が状況を見てテレポリングを使いやすいから」
「そういうことなら私がしておくね。」
レンが持っている指輪をティエラが受け取り、自分の指にはめると
自動でサイズが調整されてピタッと指にはまった
「綺麗な指輪 妖精さん、ありがとう 大事にするね」
ティエラがお礼を言って一礼する
『神獣の加護を受けてる人達だからね。僕らも応援するよ』
「ありがとう。ところでもう日も暮れてきたし、
今日はこのフロアでキャンプしたいんだけどどこかいい場所知ってる?」
ティエラが妖精に聞くと
『じゃあこの場所でキャンプすればいいじゃない。
僕らがいる場所は基本魔獣がこない場所になってるから、
ここなら安心して眠れるよ』
「そうか。そりゃ助かるな」
「ゆっくり眠れそうだね」
「そうだな じゃあ」
アイテムボックスからテントを取り出して設営する2人を
妖精達は戻った木の枝の上から見ていて
「これから食事するけど、妖精は食事しなくてもいいんだっけ?
何なら一緒に食べるかい?」
アイテムボックスから水や温かい食料を取り出しながらレンが言うと
『僕らは空気中の魔素を取り込んで生きてるから食事はしないんだけど、
その美味しそうなジュースは飲みたいかも』
「これ? いいわよ。コップに入れてあげるから一緒に飲も」
ティエラが小さなコップに2杯、果実ジュースを入れてテーブルの上に置くと
2体の妖精が木の枝から飛んできてテーブルの上に降りて
両手でカップを掴んでジュースを口に入れて
『美味しいね、このジュース』
「味がわかるんだ」
『うん。美味しいってのはわかる。』
「いっぱいあるから遠慮なく飲んでね。私たちはご飯食べるから」
妖精達がゆっくりとジュースを飲んでいる間にレンとティエラは持参してきた
料理を食べて、食後のジュースを飲んで
『すごく美味しかった。ありがとう』
「いえいえ、こちらこそ欲しかったらいつでもあげるから遠慮しないで」
『本当? じゃあまたもらいに行くかも』
「いつでも歓迎するよ」
妖精達はジュースを飲むと再び元いた木の枝の上に戻っていった
それを見ながら
「じゃあ俺たちもそろそろ休むか。今日は結構進んだし、
寝られる時にしっかり寝ておかないとな」
「そうね じゃあ私達はテントの中で寝るね。今日は妖精さんがいるから
安心して眠れるね、おやすみ」
『おやすみなさい』
レンとティエラがテントの中に入っても妖精達はじっと木の枝の上に座っていた
テントの中はしばらく灯りがついていたがそれも消えると
ダンジョンの中も星の灯りだけの暗い夜になった。
レンとティエラが寝てからしばらくたったころ、
テントの隣の地面がうっすらと輝いてその光の中から一頭の大きな
フェンリルが音もなく姿を現した。
フェンリルは周囲を一瞥すると隣にあるテントの方に顔を向けてテントを見る。
神獣の目にはテントの中で眠る2人の姿が見えている。
片手剣こそ体から離して横に置いて、服を着たまま仰向けに寝ているレン、
その左側に寄り添って寝ているティエラの姿をじっと見ていた。
しばらくすると安心したのかテントから目を離すと最後にもう一度
周囲を見回してからフェンリルはその場で体を地面に横たえ、
頭も地面に置いて目を閉じた。目を閉じたフェンリルの周囲を
2体の妖精が飛び回り、最後はフェンリルの背中の上に座って
同じ様に目を閉じていった。
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