第21話 <エピローグ>
勇者とその一行が魔王を倒したという事実は
さざ波の様に大陸中に広まっていった。
と言うのは魔人が急に組織だった活動を止め、
また瘴気溜まりから湧き出す獣人のランクが一気に
下がったからだ。
最初はひょっとして?という感じであったが
あちこちの瘴気溜まりから同じ情報が集まって来た
ことにより間違いなく魔王は倒されたと皆が
理解し、それは確信となった。
ミッドランド南部では魔人が消え、ランクの
落ちた魔獣が現れたことにより、騎士達と
冒険者達が一斉に失った領土を取り戻すべく
南進を開始し、無事以前の国境線まで
領土を取り戻すことに成功する。
そうして領土を取り戻した数日後
南の山を越えて勇者と一行がミッドランドの
領内に入って来て、そこにいた人々から
熱狂的な歓迎を受けた。
勇者の口から魔王討伐の報を聞き、
その魔石を見せられた人々は歓喜し、
そしてそのニュースはあっという間に
大陸中に広まっていった。
大陸中が魔王討伐成功の報に湧いて
いる頃、レンとティエラの姿は
ベルグードの南の山脈の中にある
亜人の村の中にあった。
「そうか。見事魔王を倒してくれたか。
これでまたしばらくは安寧な日々が送れる。
人間よ心より礼を言う」
亜人の村長がレンとティエラに頭を下げる。
「魔王は倒したけど、魔獣がいなくなった
訳じゃない。これからも定期的に
薬を持ってくるのでここで静かに
暮らしてください」
ティエラが村長に言うと
「そう言って頂くと助かる。
ずっともらってばかりで何もお返しが
できないのが辛いのだが」
「いやいや、お返しなんて気を使わなくても
大丈夫。俺たちが好きでやってることだから
気にしないで欲しい」
レンは相変わらずのぶっきらぼうな言い方だが
その言葉には心がこもっているのは亜人の村長も
知っているので、
「そう言うことなら遠慮なくこれからも頂こう」
微笑みながらレンに応える。
そうして亜人の村を出た二人はそのまま
テレポリングで南のシヴァの洞窟に飛んでいった。
洞窟の奥にはいつものシヴァ、フェンリル、
リヴァイアサン、そしてイフリートの神獣達が
二人を待っていた。
『レン、ティエラ。魔王討伐見事であったぞ』
イフリートの言葉にリヴァイアサンが続け、
『よくぞ勇者一行をあのレベルまで高めたな』
「勇者の加護。俺たちの想像以上の加護だったよ。
まるで水を吸う布の様に俺たちの教えを
瞬時に吸収していった。教えていたこっちが
びっくりするくらいだったよ」
レンが神獣を見ながら率直な気持ちを
言葉にしていく。
『お主達が頑張ったから勇者とその一行が
魔王を倒すことができた。我らがお主達に
託したのは間違いじゃなかったということだ』
フェンリルが二人を交互に見ながら言うと、
「今のこの大陸の人の喜びを見ていると、
やっぱり勇者が魔王を倒してよかったと
思っています。
皆さんから頂いた加護をこういう形で
使ってしまって気分を害されてるなら
謝ります。ごめんなさい」
ティエラが4体の神獣に頭を下げると、
レンも同じ様に頭を下げる。
『ティエラ、そしてレン。私達は
全然気分を害してないわよ。むしろ私達の
思いもつかなかった加護の使い方だったわ。
自分達のためじゃなくここまで周囲の為に
加護を使ってくれたのはあなた達が初めてよ。
本来加護とはそう言うもの、得た力を
自分の為だけに使うのではなく、
周囲に還元していくもの。
そう言う意味では二人のやったことは
本当に凄いことなのよ。さぁ、顔を上げて』
言われるがままに顔を上げる二人。
『貴方達が魔王を倒せば名声や地位、
欲しいものが全て手に入ったでしょう。
でも敢えてそれをせずに黒子に徹しきって
事を成し遂げた。人間というものを
見直したわ』
シヴァがそう言った直後、洞窟に
魔法陣が現れた。
そしてその魔法陣から出て来たのは、
大きさはリスに似ているがリスよりは
大きい。特徴的な大きな耳、そして鮮やかな
水色をした神獣だった。
「…カーバンクル?」
ティエラが呟くと、その神獣はその場で
光だし、光が消えるとそこには女性の天使が…
ふと見ると4体の神獣が全てその天使に
頭を垂れている。
カーバンクルから変化した天使は
最初に4体の神獣を見、それから視線を
レンとティエラに移して、
『私は天上界を治めし者。
レン、ティエラ、この度の活躍は見事でした。
貴方達がフェンリルの加護を受けてからずっと
私は天上界から貴方達を見ていました。
ここにいる神獣達からもらった加護を
私利私欲に使わず、神獣に感謝し、
得た力を周りの人達に還元する。
常に周囲に気を使い、華美な生活とも無縁で
本来の冒険者として成すべきことを淡々と行う。
わかっていても簡単にできることではありません。
そして魔王討伐。勇者一行に惜しげもなく
知識、経験を与え、自分たちは黒子に徹し切って
最後までやり遂げた。
ここにいる神獣達も言っていましたが
その姿勢たるや、見事です』
ここで一旦言葉を切ると、首を垂れている
4体の神獣の方を向き、
『シヴァ、フェンリル、リヴァイアサン、そして
イフリート。貴方達のこの度の働きも見事でした』
そう言って手を振ると頭を垂れている4体の
神獣が光に包まれた。
再びレンとティエラを向くと、
『私が今神獣にしたのは女神の祝福という加護です。
貴方達にもこの加護をかけてあげましょう』
二人の身体が光に包まれ、そしてゆっくりと光が
消えていった。
『私は普段天上界から出ることはありません。
ただ、今回はどうしても直接貴方達にお礼が
言いたかった。これからも今まで通りに
生活すればきっと加護が貴方達を
守り続けるでしょう。
さて、そろそろ私は天上界に戻らねば。
シヴァ、そして他の神獣達よ、
あとは頼みますよ』
シヴァをはじめ神獣4体が再度頭を
大きく下げる。
天使は再びカーバンクルの姿になると
ジャンプをしてレンの肩にのり、
それからティエラの肩にも乗り、それから
魔法陣に飛び、そして消えていった。
魔法陣が消えてしばらく神獣もレン達も
言葉を発することができなかった。
今のは夢だったのか?とレンが思っていると、
『あの方が来られるとは…』
フェンリルが言葉を絞り出す。
「女神の祝福…って?」
ティエラが自分の体を見ながら呟くと、
『女神の祝福。それは私達神獣でさえ
滅多に頂けない加護。一言で言えば
私達神獣の加護の何倍も、いや何十倍も
強い加護よ』
シヴァが二人を見ていい、
『私達には見える。レンとティエラの二人に
女神の祝福の加護が掛かっているのが。
二人はあの方に認められたのよ』
その言葉に他の神獣達も頷く。
「そう言われてもまだピンと来ない。
俺たちは当たり前のことをしただけで
特段凄いことをやったという実感が
無いんだよな」
レンの言葉に隣のティエラも頷いている。
『当たり前のことをすることが
意外と難しいものだということを
我々は知っている。
あの方も言っておられたが、お主らは
今まで通りの生活をするが良い』
フェンリルの言葉に「わかった」
と頷く二人。
『魔王が倒されたのでしばらくは
安寧な日々が続くでしょう。レンと
ティエラはこれからどうするつもり?』
シヴァの問いに二人顔を見合わせてから
ティエラが口を開いて、
「今までと同じですね。レンの両親の
面倒を見ながら冒険者として仕事をし
休みの日は家でゴロゴロしたり
畑仕事や木こりの仕事をしたり…です」
その言葉に神獣の表情が緩んだ。
フェンリルはティエラの言葉にうなずきながら
『それでよい。自然体が一番じゃ。
まぁ、たまには我ら神獣のところにも顔を
出してくれると嬉しいがの』
「それはもちろんです。時間があるとき
お邪魔するつもりです」
ティエラが即答すると
『二人はいつでも歓迎するわよ。
時間ができたら来て頂戴。
貴方達と過ごす時間は私達にとっても
楽しい時間なのだから』
「そう言って貰えると来やすいな。
またちょくちょく顔をだすよ」
そのままレンが続けて、
「じゃあ、俺たちはそろそろ行くよ。
俺の両親にも事の顛末を報告
しないといけないし。
ここにはまた来る」
『ああ、待っておるぞ。いつでも
歓迎じゃ』
リヴァイアサンの言葉を聞き、
最後に二人で神獣に頭を下げてから
テレポリングで飛んでいった。
二人が消えた地面を見ながら、
『女神の加護まで授かったか』
『一番最初ダンジョンの最下層で見た時から
今まで、彼らは何も変わってない』
『だからあの方もわざわざここまで
来られたのだろう』
『私達もあの方の加護を頂いた。
頂いたからには周囲に還元しないとね』
洞窟の中で4体の神獣はいつまでも
レンとティエラが立っていた地面を見ながら
話しをしていた。
【魔王復活の章 完】
【魔王の章】 完結です。
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