第20話
階段を上がると廊下が先に伸びていて、その先が
大きな広間になっているのが見えた。その中央に
今までの魔人より2まわり程大きい魔人が1体
立っている。
「あれが…魔王」
「でかいな」
ライアンとジミーが呟くと、
「でかいだけさ。相手が大きくても
俺たちのやることは変わらないぜ」
「キースの言う通りだ。今まで
やってきたことをそのままぶつければいい」
「貴方達ならできるわよ。魔王に集中して
攻撃して。私とレンがしっかりフォローするから」
レンとティエラが一行に最後の活を入れる。
「ややこしいのはレンとティエラに任せて、
俺たちは魔王を倒すぞ!」
ニックが一行を見渡していい、その後に
レンとティエラの方を振り返り、
「教えてもらったこと、しっかり体現しますから
安心して見ていてください」
黙って頷くレンとティエラ。
ニックを先頭に廊下を魔王に向かって
歩いていく。
魔王に近づいていくと、その広間には
天井がなく、空が見えているのが見えてきた。
(なるほど、そこに立って空から
瘴気を集めているのか)
(逆に言うと、あそこから動かないってことね)
(そうなるな)
魔王の表情が見えるほどに近くなると、
「人間ゴトキニ我ガ倒セルトデモ思ッテイルノカ
愚カナ奴メガ」
魔王の挑発にも乗らず、ペドロはルーティーンの
強化魔法をかけていく。
「イツデモカカッテ来イ。カ弱キ人間ドモ」
無言で大きな広間に入っていく一行。
レンとティエラもその後から広間に入る。
そうしてその全景を見て頭に記憶させる。
「行くぞ!」
ニックが声を出して魔王に向かっていき
戦闘が開始された。
魔王は両手を左右に
広げると、魔王の左右に魔人が召喚されてきた。
即座にレンとティエラが精霊魔法で召喚された
魔人を倒す。
「コシャクナ」
そう言っている間にニックが魔王の背後にまわり
キースが正面に立って片手剣を突き出す。
魔王は右手にもった大きな片手剣を
振り下ろすがキースが盾でそれを受け流す。
ジミーも背後にまわり、ニックと二人で
魔王の背中側から剣を振るっていく。
攻撃を受けながら再び魔人を召喚するが
それもレンとティエラの精霊魔法が瞬時に
倒していく。
ペドロは絶え間なくキースに回復魔法を
掛け、強化魔法が切れる前に上書きしていく。
ライアンは魔王の動きを見ながら目や手首に
精霊魔法を撃ちこむと、その度に魔王の攻撃が
一瞬遅れ、その好きにニックとジミーの剣が
魔王の背中や脚にダメージを与える
「いい連携だ」
「その調子よ」
背後から勇者の戦闘を見ながら声を掛ける二人。
その間にも魔王が召喚する魔人は湧くと同時に
精霊魔法で瞬殺していく。
魔王と召喚された複数の魔人相手なら勇者一行の
勝ち目はなかったかもしれないが、二人が召喚
される魔人を瞬時に倒していくので、一行は
魔王との戦闘に集中できていた。
とは言え、流石に魔王だけあって相当
攻撃を受けても動きが鈍ってこない。
ニックやキース、ジミーは魔王の攻撃を
躱しながら剣で魔王の身体に傷をつけていくが
自分達も傷を多少受けている。
その度にペドロの回復魔法がメンバーの傷を
回復していく。
戦闘が始まってしばらくしても魔王の動きは
戦闘開始当初とほとんど変わっていなかった。
ライアンとペドロは魔法の合間に
MPポーションを飲んでは再び精霊、回復、強化
魔法をかけていく。
「根比べだ。剣は間違いなく相手に傷をつけている。
それを続けるんだ、そうすれば勝てる」
再び湧いた魔人を倒してからレンが
一行に声を掛ける。そして
「ティエラ、背後から階段を登ってきた魔人達がいる
そっちは任せた」
「了解」
そういうとティエラは広間に背を向けて廊下に出ていった。
魔王が呼んだのか4体のランクSSの魔人が廊下を広間に
向かって雄叫びをあげながら走ってくる。
それを迎え撃つティエラは両手に片手剣を持ち、
精霊で2体を遠隔で倒すと残り2体を2本の片手剣で
あっという間に切り裂いた。
「背後はオッケーよ」
再び広間に戻ってきたティエラ。息一つ乱さずに
レンの隣に立つ。
全く援軍の得られない魔王は5人の人間相手に
剣を振り回しているが、ことごとく勇者と一行に
躱されている。
そうしている内にだんだんと魔王の剣が大振りに
なってきたのを見たレンが、
「続けるんだ。今が一番苦しい時だけど続けるんだ。
魔王もヘタってきてるぞ」
戦闘が始まって何分、いや何十分経ったのかも
わからない程時間が過ぎていく。
そしてニックの剣が背中を切ると、ついに魔王が
広間の床に膝をついた。
それを見て勇者と一行の攻撃のギアが一段上がり
さらに激しく切りかかっていく。
「ウウ、何故ダ。何故だ。我ガ人間ゴトキニ、何故ダ」
片足をついて剣を振り回す魔王には先ほどなかった
隙が見えてきていて、そこを集中的に攻撃されている。
「ウォォォ」
大きな雄叫びを上げると膝をついた魔王が片手剣を
両手で持って大上段に構えた。
あれを振り下ろされるてまともに食らうと
パラディンのキースも持たないだろうと
誰もが思ったその時にライアンの精霊魔法が
魔王の手首に命中し、一瞬振り下ろす間が空いた。
そのタイミングで背後にいたニックが
「うぉぉぉ」
叫びながら剣を持っている魔王の両手首を
剣を横払いして見事に切り裂いた!
「ギャアアア」
両手首から先を切り飛ばされた魔王が
城中に聞こえるのではないかと思える程の
大声で絶叫する。
そこでニックとジミーが背後から同時に
膝をついている魔王の背中に剣を一閃!
「グアアアアア」
再びの雄叫びを上げる魔王
それでも一行は攻撃を止めることなく
今や両膝まで広間についている魔王に
容赦無く剣を突き刺していき、
そうして、ついに
「我ガ、我ガ人間ゴトキニ負ケルトハ」
そう言うとガックリ首を落とした時、
ニックの剣が魔王の首と胴体とを
2つに切断して魔王を絶命させた。
「「うぉぉぉ やったぜ」」
「「魔王を倒したぞ!」」
勝利の雄叫びを上げる勇者とその一行。
その雄叫びの先の空を見れば
どす黒く渦を巻いていた雲、その渦が
どんどん小さくなっていった。
それと同時に辺りに漂っていた瘴気も
徐々に薄くなっていった。
「あれ?レンとティエラは?」
ニックがキョロキョロしながら言う。
魔王討伐の歓喜の雄叫びを上げていた
他のメンバーもその言葉を聞いて
広間をぐるりと見渡すが、
そこには二人の姿はなかった。
「あそこだ!」
広間の奥にあるバルコニーに出た
ペドロが声を出す。
皆バルコニーに出てそこから地上の
荒野を見ると見慣れた真っ青なスカーフを
首に巻いた魔法剣士の二人の姿が…
いつもの様にレンの左手を両手で抱きしめ、
二人寄り添う様に歩いて魔王城を後にする
レンとティエラの後ろ姿をじっと見るニック達。
「ありがとう…レンとティエラがいなかったら
俺たちは絶対に倒せなかっただろう。
本当にありがとう」
魔王城を後に荒野を歩いていく二人の
後ろ姿にニックが呟く。
「本当に凄いよな、あの二人」
ライアンの呟きにキースや他のメンバも頷く。
それ以上は誰も何も言わない。
言葉にすればいくらあっても足りない程の
感謝の気持ちを各自が目に映る二人に注いでいた。
そうして二人の姿が見えなくなるまでじっと
バルコニーから地上を見ていた。




