【成長の章】 第1話
レベルアップするためには他のジョブの3倍の経験値が必要となるため、長い間誰も選択しなかった不遇ジョブと言われた赤魔道士を選んだ二人。魔王の死亡と次の魔王の誕生の間の束の間の安寧の時、神獣の加護を受けて成長していった二人の赤魔道士の物語。
広大な広さのオールバニー大陸
その大陸の中央部から西部にかけて存在しているロチェスター王国。
北はオムスク王国と山脈を境に接し
南も高い山脈で向こう側の魔人の国と国境を接している
西は海岸線で、東はまた別の国々と接している
このオールバニー大陸で最大の国家、それがロチェスター王国である
◇ ◇ ◇
「本当にこのジョブでいいんじゃな?」
「ええ、お願いします」
「ではそのジョブのことを強く思いながら、これに触れるがよい」
台の上に置かれた水晶玉に手のひらを当てると、玉が光り輝いてそして光が消え…
「これで今からそなたは赤魔道士だ。厳しい道のりだが頑張るのじゃぞ」
街の教会でジョブを選定したレンはそのままの足で今度は冒険者ギルドに向かう。
レン、17歳。田舎の村から冒険者になるために出てきたばかりの人族の男
現在のレベルは10
この世界にはレベルというものが存在している。
冒険をしない村人や商人でも訓練次第ではレベルを上げることができるが
その上限はLV10となっており、それ以上にレベルを上げるには、国や地方貴族の
軍隊にはいり兵士や騎士となって上を目指すか、あるいは冒険者になる必要がある。
冒険者は種族、出生、出身地にとらわれずに誰でもなることができるが
国や貴族の後ろ盾がないので全て自己責任となりハイリスクハイリターン
ではあるが、強くなれば稼げる上に国や貴族とも対等に付き合えることもあり
冒険者を志すものは多い。
この世界では冒険者になるにはジョブを選択してから
冒険者ギルドで、冒険者登録をするシステムとなっている
ジョブとは冒険者が選択できる職業であり、
次のジョブが存在している
戦士、ナイト、狩人、黒魔道士、白魔道士、赤魔道士
戦士は各種武器を持って攻撃に特化している前衛ジョブ
ナイトは盾と剣を持ち、敵の攻撃を止めながら攻撃するジョブ
(攻撃力は戦士より劣るが盾としての防御力は極めて高い)
狩人は遠隔攻撃のスペシャリスト
黒魔道士は精霊魔法に特化
白魔道士は回復、強化魔法に特化している
赤魔道士は剣と精霊、回復魔法の両方が使える
そしてそれぞれのジョブには一つのジョブを除いて、上位転生ジョブの存在が
確認されている。
戦士から剣士、ナイトからパラディン、狩人からハンター、黒魔道士から精霊師、
白魔道士から僧侶という風に。
この上位転生の条件は未だ不明だが、ジョブのレベルを上げるだけではなく
数多くの戦闘経験をを得ることだと言われているが、
どうやらそれだけでは無いらしいということが最近冒険者ギルドから
発表されたばかりだ。
いずれにしてもまだまだ不明な転生システムであるが、今の時点で
わかっていることは上位転生のタイミングはジョブ、個人
で完全にアットランダムだということ。
今まで上位転生した冒険者(転生するとAランク昇格の権利を得ることができる。
従い、ランクA以上は全ての冒険者が上位転生者となっている)に聞いても、
転生したタイミングは皆バラバラであり、上位転生のトリガーが何なのかは
まだ解明されていない。
一方、赤魔道士だが、このジョブだけは上位転生がないのではと言われ続けている
それが故に赤魔道士を不遇ジョブと呼ぶ人は多い。
それはこのジョブの持つ特殊性が大いに影響していて…
赤魔道士は武器と魔法の両方が使えるハイブリッドジョブであり、
いわゆる前衛職、後衛職の様にそれに特化しているジョブではない。
と聞くと非常にオールマイティのジョブの様な気がするが実は大きな落とし穴…
いや非常に大きな壁が存在している。それはすなわち、
赤魔道士は自身がレベルアップするために必要な経験値は他のジョブの3倍必要
ということである。
これは赤魔道士というジョブが黒魔道士、白魔道士、戦士という
3つのジョブの特性を取り込めるために必要経験値が他ジョブと比して
3倍になっているのではと言われている。
この他より3倍の経験値が必要ということは固定パーティにおいては
レベルが上がるほど他のメンバーとのレベル差が広がって、いわゆる”いらない子”
になっていくことであり、であれば最初からメンバーに入れないという流れに
なっているのはやむを得ない話しだろう。
結果、赤魔道士を選ぶ冒険者は基本ソロプレーヤーということになるが、
ソロにおいても、レベルの上がりが遅いことや上位転生した例が未だかつて無い
ことから途中で挫折したり、またソロで格上と戦い、
倒されてそのまま死亡した者が多くいつの間にかこのジョブは存在するものの、
このジョブを選択する者がいなくなって久しい
経験値をより多く得るためには自分より格上の魔獣を倒すのが
一番だが赤魔道士の場合、格上の魔獣にソロで挑むのは失敗即死亡となる
リスクが高いと言って自分と同じかあるいは格下の魔獣相手では得られる
経験値が少なくなり、そうでなくてもレベルアップに必要な経験値が他ジョブ
より多い中、レベルをあげて強くなるのが茨の道となるのは
疑いのないところだろう。
教会から大通りを歩いて冒険者ギルドの扉を開けたレンはそのまままっすぐ
奥のカウンターに向かう。
昼間の時間のせいか、ギルドの中にいる冒険者の数はそれほどでもないが、
それでもギルド内にある酒場にはクエストを終えたのか昼間から飲んでいる
パーティがいた。彼らはギルドに入ってきて冒険者受付窓口に向かう
レンを見ながら
「新人さんだぜ…」
「剣を持ってるところを見ると戦士かナイトか…」
そんな声を背中に聞きながらカウンターに着いたレンは
<冒険者新規受付>という場所に座っている受付嬢を見ながら
「冒険者登録をしたい」
「わかりました。新規登録ですね。ではこの紙に名前、ジョブ、
年齢を書いてください」
ギルドのカウンターには人族、猫族、犬族の受付嬢が座っているが、
<冒険者新規受付>と書かれているところに座っていた可愛らしい制服を
着ている人族の受付の女性が出してきた用紙に必要事項を記入する。
受け取った女性がレンが書いた用紙のジョブ欄を見て
一瞬驚いた様に用紙とレンを交互に見るが、流石にギルドの受付嬢、
その場で個人情報を開示する様なことはせずに、
「これで結構です、えっと名前は…レン君ね。じゃあ今からギルドカードを
作りますので登録料として銀貨1枚をお願いします。
あとこの冊子は冒険者心得ですのであとで読んでおいてください」
フレンドリーに話かけてくる受付嬢にレンは言われた通りに銀貨1枚を渡す
カウンターの前でしばらく待っているとさっきの受付嬢が戻ってきて
「これがレン君のギルドカードになります。最初なのでランクFからの
スタートとなります。このギルドカードは無くすと再発行でお金が
必要になるので無くさない様にしてくださいね。あと、
持ち帰ってきたモンスターの解体やアイテムの買取りもギルドで行えますよ。
買取り金額は街中よりは少し安いかもしれませんが、その代わりにギルドに
持ち込むとポイントが溜まって、それが冒険者のランクアップの時に
有利になるから。」
「わかった、ありがとう」
「じゃあ頑張ってね。早速だけどクエスト受ける?受けるならそこの掲示板から
ランクFのクエストを取ってきてくれたらこっちで手続きするわよ」
受付嬢からギルドカードを受け取ったレンは早速受付カウンターの横にある
掲示板に移動して受けられるクエストを探す。
と言っても所詮ランクFの超初心者。受けられるクエストは限られているが、
掲示板を見ていたレンは1枚の用紙を取って受付に持ち込み
「このクエストを受けたい」
「薬草取りね。薬草は根は取らずに採取してきてください。
状態がいいと買取金額も上がりますので頑張ってね」
受付嬢の声を背中に聞きながらレンは冒険者ギルドの扉を開けて
そのまま城の通用門にそこでカードを見せてから外に飛び出していった。
レンが外に出るのを見た受付嬢のキャシーは
(これはギルドマスターに報告しておいた方がいいわね、
赤魔道士なんてここ何年、いや十年以上いなかったんじゃないかしら)
そんなことを思いながらギルドの奥にあるギルドマスター室に向かった。
冒険者にはランクがあり、FからSまで存在している
ランクとレベルとのざっくりとした相関関係は以下の通り
F冒険者成り立て LV10
E冒険者初心者 LV10ー20
D冒険者初心者(ダンジョン攻略可能)LV21ー30
C中級冒険者(冒険者として一人前)LV31ー50
B上級冒険者 LV51ー
A最上級冒険者 LV60ー
S過去より今まで世界で数名? LV??ー
ランクA、Sは上位転生者でないとなれない
ランクFからEへはお使いクエをこなすと昇格できるのでレベル差がない
レンが生まれたのは今いる地方の辺境都領の中心都市のベルグードから
徒歩で1週間ほど歩いたところにある村。両親は健在で元冒険者。
レンが物心ついた頃から両親に武器と魔法の使い方を学んできた。
元剣士の父親からは武器を、元精霊士の母親からは魔法をそれぞれ教えられた。
両親は冒険者ランクAの上位転生者。当時はそれなりに有名だったが、
レンが生まれたのを期に冒険者をやめて母親の出身の村に戻って畑仕事や
たまに村に入ってくるモンスターを倒したりしてのんびりと過ごしている。
冒険者時代の蓄えがあるので生活には困ってなく
レンも貧乏とは無縁で育ってきた。
レンが不遇ジョブと言われる赤魔道士を選んだのも、
両親から教えてもらった武器、魔法を生かしたいという
それだけの理由だったりする。
赤魔道士なると言った時、両親は最初はうーんと唸ったものの、
最終的には二人とも認めてくれて
「やるからには途中でやめずに最後までやり抜いてこい」
「レンが赤魔道士として初めて上位転生するのを楽しみにしてるわ」
と快く送り出してくれた。
城門から外に出たレンは街道を歩いて街からそう遠くない指定の薬草の
生えている地域に着くと街道から脇道にそれて足元を見ながら探していく。
「おっ、これだな」
歩いていると脇道の近くに指定の薬草が生えているのを見つけて、
身につけているナイフで慎重に茎から切り取っていく。
採った薬草をポーチに入れてまた歩いてまた切り取るこういう作業を
何度か繰り返していると指定数量を超えたので
「これくらいでいいか」
日が傾いてきた中を歩いて城まで戻ってギルドカウンターに薬草を出すと
先ほどの受付嬢が
「あら、早かったのね、レン君。早速見せてくれる? どれどれ」
しばらくチェックをしてから
「うん、これなら問題ないわね。クエスト達成ね。おめでとう。
最初のクエストにしては丁寧な仕事ね。今後が楽しみよ。で、
これはこのクエストの報酬。銅貨40枚よ」
こうして冒険者最初のクエストは無事終了し、
生まれて初めて自分で稼いだレンは
そのまま街の中にある安宿に戻っていった。
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