極ちゃんは人見知り
休み時間になったので実花ちゃんと彼氏の教室に向かう。他のクラスってなんとなく入りづらい。実花ちゃんはまったく気にならないみたいみたいで、ドアを開けて彼氏を探している。
いた。可愛い女の子と楽しそうに話している。私というものがありながら、デレデレしちゃって…と思って腹が立ったけど、よく考えたらいままでまったく連絡とらずに、存在すら忘れかけていたことを思い出して冷静になる。落ち着け、私。これから私のことしか考えられないように教育していけばいいのだ。そう考えるとなんか楽しくなってきた。将来的には、休み時間になるとダッシュで私のクラスまで来るようになるのだ。
「なにニヤニヤしてんの?キモいよ。」
「あ、うん。なんでもない。」
顔に出てたみたいだ。私は思っていることがすぐ顔にでてしまうのだ。気を付けよう。
「あの子でしょ。早く行ってきなよ。」
「え?実花ちゃんは?」
「あんたの彼氏でしょ。ここで見守っててあげるから。」
「無理だよ。一緒に来て。」
妄想なら楽勝なんだけど、現実はきつい。
「甘えてないで行ってきなさい。大丈夫、失敗したら笑ってあげるから。」
「ひどい。ねえ、最初なんて声かければいい?」
「なんでもいいでしょ、そんなの。おはよう、とかでいいんじゃない?」
「いままであいさつしなかったけど、いきなりそんなこと言って大丈夫?」
変な女だと思われたらどうしよう。ていうか、私も忘れかけてたし、向こうも忘れてるかもしれない。忘れて新しい女とイチャイチャしてやがるんだ。きっとそうだ。告白しといて失礼なやつだな。こうなったら鉄拳制裁しかないか。うん、乙女の純情を弄んだ償いはしてもらわないとね。
「ちょっとあんた、なに拳握りしめてんの?ケンカしに行くんじゃないんだから。」
「え?ああそうだね。てかやっぱり実花ちゃん一緒に来て。あとでジュースおごるから。このまま一人でいくと殴ってしまいそう。」
「なんでそうなるの?仕方ない、今回だけだぞ。」
「ありがとう、実花ちゃん、愛してる。」
「はいはい、ジュース忘れるなよ。あと、それを彼氏に言えよ。」
「おはよう、えーっと誰だっけ?」
名前も知らないのに平気で話しかけられる実花ちゃんまじすげー。
「え?おはよう、川原田光一郎といいます。」
「うん、こうちゃんね。極と付き合ってるんだよね?」
いきなりちゃん付け。レベルたけー。
「うん、たぶん。」
「なによ、あいまいねー。」
「オーケーもらってすぐ走って行っちゃって、それから会ってないから…。」
そういやそうだった。麗華ちゃんの視線が怖かったから仕方ない。
「ふーん、まあいいや。極がお昼ご飯一緒に食べたいんだって。」
「あ、ああそうなのか。」
あれ?なんか微妙な反応。
「何?うれしくないの?」
「いや、そういうわけじゃなくて。なんていうか…。その、極さんって弁当?」
うん、お弁当持ってきてるよ。さあ、実花ちゃん言ってあげて。
「…」
「…」
「極?聞いてなかったの?」
「え?私が答えるの?」
「それぐらい答えろよ。」
「そ、そんなこと言われてもまだ心の準備が…。」
急に振られても困る。こっちは実花ちゃんにすべてまかせてたのに。この裏切り者め。
「う、うん。お弁当持ってきてるよ。」
「そうだよね。まあいいか。じゃあ昼休みに駐車場で待ってるから。」
「駐車場で食べるの?」
「いや、そういうわけじゃないよ。」
「う、うんわかった。駐車場だね。実花ちゃんもそれでいいよね?」
「え?私は関係ないでしょ。」
「あるよ。実花ちゃんがいないと始まらないよ。」
一人にしないで。緊張で死んでしまう。
「ごはん食べるだけでしょ。私いらないじゃん。」
「いるよ。私の思いを伝える係だよ。」
「なんだよ、その係。」
「かっこよく言うと通訳だよ。」
「別にかっこよくないし、お互い日本語だから通訳いらないでしょ。」
「いるよ。日本語は難しいんだよ。同音異義語とかあるんだよ。」
「あんたねえ…。」
必死で説得しているとこうちゃんが助けてくれた。さすが私の彼氏。優しい。
「実花ちゃんだっけ?よかったら君も一緒に来てよ。大勢のほうが楽しいし。」
「うーん、まあいいか。じゃあお言葉に甘えてご一緒させていただきます。」
「わーい、実花ちゃん大好き。」
「はいはい、私も大好きですよ、ジュース追加ね。」
こうして三人一緒にお昼ごはんを食べることになった。ああ、緊張する。