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1話 無能な魔術師

突然だが俺─ニック─は今、大変ピンチな状況にある。


「と、言うわけで今日から俺らとお前はただの知り合いってことで」


「や、ちょっと待って。それどう言う…」


「だーかーらー、お前みたい無能はパーティーに要らないってこと」


「ちょ、待っ」


「じゃあな、元気でやれよ」


そう言って男達が去っていく。後に残されたのは俺と食べ散らかされた昼飯だけだった。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


俺は冒険者、その中でも魔術師という職についている。前衛の剣士と同じぐらい人気がある、華がある職業で自分に魔力があるとわかった時からずっと魔術師になりたいと思って生活をしてきた。一人でこっそり魔法の訓練をし、魔術師になったはいいのだが……


「あれ?また捨てられちゃったの?」


「ハハッ、何も言い返せないよ…」


黄昏ている俺にクスクス笑いながら近づいてきたのはこの食堂の看板娘のアンだ。明るい茶髪のショートカットとエプロンが良く似合う彼女は既にこの食堂の人気者である。アンは俺の幼なじみでもある。


「もうこれで3回目じゃない?いい加減諦めたらいいのに」


そう、せっかく魔術師になったはいいが俺の魔力量は致命的に少なかったのだ。そのせいで敵を仕留め損なったりダンジョン内で魔力切れになったり…

そのせいでパーティーを追い出されること2度。そして今回は…


「あいつらに守ってもらってるってのに魔法暴発させて巻き込んで自滅しかけたんだろ?そりゃ追い出されて当然だろ」


そう言いながらガタンと食器を置いたのは俺のもう1人の幼なじみのジェイク。ジェイクも冒険者で壁職の大剣士についているが俺とは違って無事パーティー内での立場を確立している。


「やっぱり冒険者なんてお前にはむりだったんじゃねえか?」


「そうだよ!ニックは大人しくおじさんの職を継ぐべきだよ!」


俺の父親はこの食堂の料理長をしている。昔は俺とアンで、この店をどちらが継ぐか料理勝負をしていたこともあった。


「そうかもね…2人はそれぞれ自分の道をちゃんと進んでるってのに俺はその場で足踏みしてばかりだし…」


思わずため息が出る。

その言葉にアンは目を光らせた。


「ね?私と一緒にこの食堂で働こう?せっかく才能があるんだし、その方がきっとニックのためになるよ!」


ジェイクは何も言わないが、きっと俺が冒険者を続けることを賛成はしないだろう。ぶっきらぼうに見えてジェイクは友達思いなところがある。実は心配しているのも知っている。

ただでさえ冒険者としての自信が無くなっていた所に幼なじみ2人からこんな言葉を聞くといよいよ辞めた方がいいんじゃないかと思えてきた。だが…


「ごめん、ちょっと外出てくる」


「ちょっとニック?」


アンの静止を振り切り食堂から逃げるように飛び出した。自分の実力を考えれば魔術師を辞めた方がいいのははっきり分かっている。でもどうしても辞めるわけにはいかない。なぜなら…


「母さんと約束したからな」


詳しい内容も、母さんの姿さえもハッキリとは思い出せない。でも確かに一流の魔術師になると約束したことだけははっきりと覚えている。だからこんな所で挫ける訳にはいかない。いかないのだが本当になれるのか、不安は常に付きまとっていた。


少し歩いて街の南の方に着いた。この街は王都の近くの街で、商業や工業が盛んな街でもある。その中でも北部や東部は工業地帯、中央にさっきの食堂や、宿屋など、商業施設が集まっている。そして南部はと言うと住宅街になっていて、この街の半分以上がここに住んでいるという。子供たちが無邪気に遊んでいるのを見ると昔3人で遊んでいた時のことを思い出し、気を晴らしに来たはずなのに今との落差に落ち込んでしまった。


「そう言えば、お金も払わずに出てきちゃったっけ」


いくら幼なじみとはいえ、後日持っていくのは不誠実だろう。かと言って今から帰るのもばつが悪い。どうしようかと考えていた時、視界の隅に誰かが映ったような気がした。流れるような黒髪の先が視界から消えた時思わず振り返ったがそこには誰もいなかった。


「見間違え、だよな?」


もう一度周りを見渡すが子供たちしかいない。気のせいか、と気の進まないまま食堂に向かった。

頭の中にさっきの人影をちらつかせたまま。

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