第四章 第二十話 「決着と裏話」
投稿が遅くなりました…。原因はモンハンですが私の意志が弱いのも原因ですね‥‥。
相対する人間の男。その実力を直感的に感じ取っていたクラウディア。故に手綱(理性)を手放すことで内に秘めていた獣性の赴くままに戦う事を選択し。
そして、蹴り落とされた時にクラウディアの理性(意識)は戻っていたのだが。その手法にもクラウディアは驚いていた。
(まさか、強引に私の目を覚まさせられるなんてね…)
流石のクラウディアも自身の獣性の赴くままにというのは危険が多いことを見越して、手放した手綱を手繰り寄せる手段を有している。
その内の一つが、獣性を揺るがすほどの強烈な一撃を受ける事で意識(理性)が再び戻るのだが。今回のが、まさしくそれだった。
(それにしても、予想はしていたけど実際に戦って分かった。これは私以上の怪物を飼っているわね)
今も手綱を握っているだけでクラウディアは獣性を抑えていない。むしろ力を制御出来ている事でより無駄なく力を発揮している状態だ。だというのに今も自分と拮抗している人間が纏う魔力。
クラウディアの直感が告げる。その魔力は、決して人の身で纏うべきではない、いや纏う事、制御する事すら不可能と言えるほどのもので。そんな魔力を纏った状態でそれを攻撃に転化されれば結果は言うに及ばずで。
(全く、なんて面白い男のかしら!)
本来であれば恐怖するべきであろう存在。だというのにクラウディアは目の前の人間に興味を抱いたというのもあるが、どこか惹かれ始めている自分がいると感じてもいた。
だが、今は何よりもこの至福ともいえる時間を終わらせるのが惜しかった。
「やああぁぁっ!」
「ぐおっ!?」
確かに拮抗しているが力ではクラウディアは負けている。だが一瞬の爆発力ではクラウディアに軍配が上がり押し込まれた颯天は足を踏み外したかのように姿勢を崩す。
(今っ!)
恐らく、強すぎる力を制御しているからこそ生まれる、隙。この後にないであろう千載一遇のチャンスをものにするためにクラウディアは上空に用意していた切り札を切った。
「【細氷流晶群】!」
それは、クラウディアが意識、無意識で戦闘の最中に漏れ出たクラウディアの魔力を上空へ流したことによって作り出された現象。
凍り作り出されるは一つ一つが一メートルに迫る氷の結晶。見るだけであれば幻想的であるそれはしかし
その数は千に迫るほどで。さらに言えばその範囲は王城のみならず城下町まで巻き込む超広範囲技で。
「マジか!?」
「あ~…、範囲失敗しちゃった‥‥。ごめん、なんとかして?」
「いや、お前の魔法だろうが!?」
「いや、そうなんだけど‥‥。加減を間違えて暴走気味かのよ。だから流石にこれは解除しても駄目だろうし…。何とかして?」
と茶目っ気たっぷりに笑うクラウディアに颯天は即座に十個ほど文句を言いたくなったが。それよりもまずは目の前の迫る事態を如何にかすることが先決だった。
(にしても、範囲が広すぎるし、何より人に向かって使う魔法じゃないだろうが!)
クラウディアが繰り出した【細氷流晶群】は一つ一つは颯天でも対処できる。だが数と範囲がトンデモナイもので。そして、この状況でもう一つ、困ったことがあった。
(下手な火の術は使えないのが痛いな…)
そう。サウスザーランド海王国に入ったあたりから何度か試していたのだが、水の精霊の領域という事もあってか火の忍術が使えない。いや、使えるがその威力が大きく減衰してしまっていたのだった。
そして、もう一つ。これは確認する事を控えながらある予想から「斬る」という事を選択肢から外した颯天が選んだ手段。
それを実行する為に手を上空の【細氷流晶群】に向けて掲げ、魔力で包み込む。
「【分解】」
手を閉じると同時に颯天の魔力に包み込まれた状態の【細氷流晶群】を錬金術「分解」でクラウディアの魔力が分解され。
「散れ」
そして、二度目の分解は氷同士の結合が断たれると巨大な氷塊群は溶け消えるようにその体積をあっという間に縮小させていき、まるで初めから存在していなかったかのように消滅した。
「‥‥‥‥あはっ」
そして、目の前でその光景を目撃したクラウディアはもはや笑うしかなかった。何せただの【分解】だけでクラウディアの必殺の威力を誇る【細氷流晶群】を容易く無効化されたのだから無理もない事だが、その眼の色と笑みは先程のとはまた違った肉食獣のものになっていたが。
「…はあ、やれやれだ」
そんなことは他露知らずの颯天はといえば、取り敢えず惨事を免れたことにそっと溜息を吐いたのだった。
そして、その様子を窓から観ていた2つの影があった。
「どうやら、何事もなく終わったようですね」
「終わりよければすべて良し、とはならんと思うが…?」
ごく自然にそう口にしたメイド長のアルマの反応にネプチューン一歩間違えれば惨事となっていたであろう出来事に悲鳴を上げる胃を宥めながら窓から離れ近くの椅子へと腰を下ろす。
「全く、俺の胃をもっと労ってほしいものだ…」
「それは仕方ないでしょう。彼女のうちに宿る獣は、ひとたび鎖が外れればあの程度の事はやらかします。むしろ今回のはまだ自制が効いていたと思いますよ?」
「‥‥むぅ」
自分だけではなく、クラウディアの乳母も務めていたアルマの言葉にネプチューンはそれ以上何も言えなかった。それほどまでにアルマの言葉にも、そして十歳にも満たない年齢で既に城の兵士を相手に圧勝したという過去も相まって何とも言えない表情をしていたネプチューンにお茶の注がれたカップが差し出された。
「お飲みください。少しは効きます」
「‥‥すまんな」
「いえ、貴方の王としての姿をこの眼で見届ける事。それが、王妃様から託された私の大切な仕事ですから」
アルマから差し出されたお茶を飲むとスッキリとした風味が心なしか痛んでいた胃の痛みが軽くなったようで。飲み終えるとネプチューンは椅子から立ち上がる。
「戻られますか?」
「ああ。少しでも戦いを楽にしてやるのが今の私に出来る事だからな」
ご馳走様。そうお茶のお礼を言うとネプチューンは部屋から出ようとした足を止め頭を下げるアルマを見る。
「一応聞くが、今回のこれはお前が視た未来を変えるためにしたのか?」
「無礼を承知で申し上げれば、半分はその通りです」
「…半分だと?」
予想が外れたことに聞き返したネプチューンの問いに対し、頭を上げたアルマの瞳は先程までの知性を感じさせる翡翠の瞳は、まるで先を見通すかのような神秘的な玻璃色へと変わっていた事に、ネプチューンは喉元まで出かかった言葉を飲み込む。頭ごなしに否定することは出来るが、アルマの覚悟はネプチューンも知っている。だからこそ半分がその通りだとして、残りの半分の理由を聞いてからでも遅くないと、続きを促す。
「じゃあ、残り半分は、なんだ?」
「使用人である私がおこがましい事は承知の上で申しますとカリア様から託され、先が短い今の私が出来るあの子を心配するが故の親心です」
「‥‥そうか」
そう答えるアルマと視線を数秒交わし、その瞳の覚悟を見てネプチューンはアルマに背を向ける。喉から出かかる言葉も、荒ぶる感情がネプチューンの中に渦巻く。
だがアルマは自分たちの声を聴いたとしても既に止まるつもりはないという事を。いや。もはや止めることが出来る存在が既にいないだけではなく、もはや長くはないという事実からネプチューンは拳を強く握りしめる事しかできなくて。
「なら、せめてクラウディア、いや妹たちの前では決してその眼を見せるな。いいか?」
「‥‥はい。ありがとう、ネプチューン。私たちの愛しい我が子」
「ッ」
そう呼ばれたのは、いつ以来だったか。胸に胸に湧き上がる嬉しくもしかし悲しく泣きたくなるような二つの感情、しかしアルマはそう望まないとネプチューンは必死に抑え込み、歩き始める。
「‥‥‥先に戻る」
「はい、では後ほどお伺いします」
そう言うとネプチューンは部屋を後にし、ネプチューンの気配を感じなくなった頃にアルマは頭を上げると瞳は元の翡翠へと戻っており。もう一度窓辺に近づくとそこから人間の男に抱き着くクラウディアの姿があり。その様子を目に焼き付けるように見た後、カーテンと戸締りをして窓辺から離れたアルマは茶器を以て部屋を出ていった。
さて、次の話はどうするか考え中ですが、何とか誘惑を断ち切れたらいいなと思いながら執筆頑張ります。目標は今月にもう一話なんですが‥‥。如何にか頑張ります。
どうか、次話を楽しみにしていただけると嬉しいです。では皆様、また次話にて。