第四章 第十八話 「戦狂い、舞い踊る1」
出来ましたので、投稿です。
クレーブルスから愛馬であるケイロスでの単騎駆けでクロウディアが王城に戻ったのは、朝日が昇った頃だった。
「ブルルッ!」
「あはは、ありがとうケイロス」
王都到着したクロウディアはケイロスの手綱を引きながら王城内にある厩舎へと向い馬留め(うまとどめ)をした後、汽水と好物の青黒海苔を用意した桶を準備すると主人との久々の遠駆けも合わさり嬉しそうケイロスは鼻を鳴らすと美味しそうに汽水を飲んでいく。その間にケイロスの体と足先のヒレを丁寧に拭いていく。
「ん~、相変わらずこの空気は肌に合わないのよね…」
ケイロスの体を綺麗にしながら城へと視線を向けるそこには日の光を受けて輝く珊瑚の城。堅牢な城に見えるがクロウディアから見ればそれは牢獄のように感じられた。
故に城にはあまり帰る事がないのだが、今回はそんなことは一時的に気にしない事にした。
「さて、それじゃあケイロスはここで休んでてね?」
「ブルっ!」
クロウディアの言葉をまるで理解しているかのようにケイロスは水桶から顔を上げて鼻を鳴らすと今度は隣の木桶の中へと頭を突っ込み青黒海苔を食べ始めたのを確認してクロウディスは厩舎を後にして王城の主が頑張っているであろう執務室へと向かった。
そして突然のクロウディアの帰還に城の使用人たちは驚いた表情を浮かべた事を特に気にすることなく、やがて目的の執務室へと到着して。ノックもなしに扉を開けるとそこには書類と格闘するネプチューンの姿があった。
「おはよう、兄さま。朝から勤勉だね?」
「お前こそ帰ってくるのが早すぎないか、わが妹よ?」
そう答えたネプチューンは、ただ嬉しそうにそう答えた。
「なるほど。じゃあそれを泉に流せばローレライ様からの加護を受けることが出来るという事ね?」
「ああ。だが分かっていると思うがあの神獣は我らの手で解放せねばならない」
「‥‥今くらいその口調は止めてくれない? こっちまで肩が凝っちゃうわ」
「‥‥そうか? いや、確かにそうだな。悪い」
そう言うとネプチューンは来ていた服の首元を緩めるとそのまま背もたれに背中を預ける。
「はあ…。さて、アイスからお前に情報が伝わったのが昨日の夜だとして。その翼時の朝早くに帰ってきたようだが何をするつもりだ?」
「あら、なら当然分かっているんじゃない?私が何をしようとしているかなんて。だからアイスを通じて私に教えたんでしょ?」
「ああ。教えなければお前は戦場で嬉々として戦いを挑んだだろう?」
「あら、流石は兄上。良く分かっているわね?けど、一つだけ訂正ね。流石の私も戦いの最中じゃ襲わないわよ?」
「…どうだかな?」
そう笑うクロウディアの笑みは艶やかなものだがその裏に隠された、いや隠し切れない獣性を感じ取りネプチューンは苦い顔をした。
「アイスから聞いていると思うが、彼らはローレライ様の盟友。そしてお前は王族。そんな二人を公衆の最中で戦わせるわけにはいかない」
「まあ、それはそうよね。下手をすればローレライ様の怒りを買う可能性すらあるんだし」
「それだけじゃないのは、お前も分かっているだろう?」
「え~、何のことかな~♪」
ネプチューンの言葉にクロウディスは鼻歌を歌いながら視線を逸らす。
もちろん、その事はクロウディアも理解していた。だが、理解していたとしてもクロウディアの中にいる獣を何時までも押さえつける訳にもいかない。そして、現状クロウディアを戦いの最前線から下げるという事は不可能。
であるなら用いれる状況は一つしかなかった。
「幸い、あちらはお前との立ち合いを了承してくれた。故に俺の目が届く範囲での場を用意した。そして俺の見立てだとお前の全力にも応えられる男だと感じている。だからまあ、全力で楽しめばいい。もちろん死合う事だけは許さないがな?」
「十分よ。ありがとう兄さん」
「はあ、戦闘狂の妹がいると本当に苦労するよ‥‥」
はぁ~、と思いため息をネプチューン。だがそれでも妹の為に行動を起こすあたりちゃんと妹想いの良い兄であることをクロウディアを含め家族全員、いや城のみんなが知っていた。
「取り敢えず、どうする?」
「そうね…じゃあ今から」
「分かった。部屋にはメイドを向かわせる。だからその間に戦いやすい服に着替えろ」
「分かったわ。ありがとう、兄さん」
兄にお礼を言い部屋を出て行ったクロウディアは部屋の前で待機していたメイドたちに先導されて服を着替えるために部屋を離れていき。足音が遠のいていくのを感じながらネプチューンは天井を見上げる。
「はぁ~。まさかあそこまで堪っているとはな…」
クロウディアの症状は、ネプチューンが予想していた以上の末期状態。であればおのずとこの後の戦いがどれだけのものになるかネプチューンは分からなかったが。
「ああ‥‥、胃が痛い」
ただ、無事にはすまないだろうという事だけは分かるだけに、胃が痛かった。だがそれ以上に妹が抱える衝動が少しでも晴れる事を願うのみだった。そして、今日この場にて龍と虎は相対する事となる。
「貴方が、久方ぶりに来た来客かしら?」
「ああ。そういうあんたは俺をこの場に招待した王女様でいいのか?」
「王女様はやめて。クラウディア、私の事はそう呼びなさい」
「そうか? ならクラウディアと呼ばせてもらおうか」
有無を言わさぬ圧力を受け流し簡単に名前を呼んだ目の前の人に対してクラウディアは純粋な笑みを浮かべた。
「貴方、いい度胸ね。誰が聞いているかもしれない中で臆さずに私の名前を呼ぶなんて」
「あんたが良いって言ったんだ。それに対して文句を言うやつの事なんて気にするだけ無駄と俺は思うが?」
「アハハッ! 良いわね。もし貴方が人じゃなくて人魚か魚人だったら私の夫にしたいくらいよ?」
「それは光栄だったかもしれないな」
そう言いながら颯天とクラウディアはそれぞれ剣を構える。颯天が構えるのは黒い刀身の刀【黒鴉】。対してクロウディアが構える剣は装飾が施されているが刀身は武骨な直剣。
「一応聞くが、それがアンタの戦装束か?」
「ええ。鎧や盾なんて私には必要ないわ。最低限の守りで十分よ」
そう言うクロウディアが身に着けていた戦装束。颯天はいつもの忍者の装束だが颯天から見てクラウディアの装束はとても戦に向いているとは思えない装束だった。腕に関しては手首から肘にかけて申し訳程度の布と手甲で覆われ、スリットの深いドレスの随所に鱗が縫い込まれたを施されてはいるがそれ以外では露出が多い装束だった。
だが、そんな事で警戒を緩めるほど颯天は相手の力量を見誤ることはなかった。
「さあ、殺り合いましょうか!」
クロウディアは尻尾で水を蹴り颯天との距離を詰めていく。水を蹴る際に、僅かに体を捻る事で生み出された力による加速。それによって得た貫通力は岩であれば破壊しうる威力を載せた剣を迎え撃つために颯天は腰を落とす。
放とうとするは剣先に全ての力を収束させた刺突。その切っ先が捉えんとするはクラウディアの持つ剣の剣先へ目掛け放つ。
「【逆雷】!」
刺突の剣の軌跡はまるで地より天へと駆け上る雷の如き軌跡を描きクラウディアの剣と衝突する。片や全身を以て作り出した螺旋やり、片や全身をバネに収縮し放たれた矢。
互いに互いを打ち落とし、または打ち砕かんと火花を散らし。されどその結果はあっけない物で。
「「ッッ!!」」
ギャアアンンッ!。ぶつかり合うのは刀剣だというのに辺りに響いた音はまるで大きく硬く、重いもの同士をぶつけたかのような音が響くと同時にクラウディアは上へと弾き飛ばされながらも態勢を立て直し。一方の颯天の足元は受けた衝撃を物語るかのように陥没した地面からクラウディアをその眼で捉えていた。
戦闘は次回に持ち越しです。‥‥頑張ります。