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生産職ですが最強です  作者: シウ
第四章 女神の迷宮編
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第四章 第十七話 「戦狂いの帰還0」

半年かかりましたが、ようやくですが話の続きを書いていきます!

 サウザーランド海王国、北方クレーブルス。そこにあるのはゴツゴツした岩と反対側が霞に覆われ見ることができない程に大きい巨大な穴と砦。それ以外は何ら特徴のない場所だったが。現在その穴の中央には城かそれ以上に匹敵する大きさの黒い卵型の繭が浮かんでいた。


「いいわねぇ。いつ火蓋が落とされるか分からない緊張感」


 砦の中でも、最も黒い繭が見える砦の天辺。そこに腰掛けるのは腰に剣を佩き、桃色の長髪が波に揺れるに任せ酒を器に注ぐ一人の美女の姿があった。

 その美女の視線の先には穴の中心で不吉な気配を感じさせる繭の卵。


「本来は、外神に対抗するために女神から与えられた、国と世界を守護せし神の獣。けれど今の姿はそれには程遠い存在」


 そう言いながら女は器に注いだ酒を、瞳に悲しげな色を讃えながら口にする。


「まさか、伝承にのみ記されていた【外神の糸】。それをこの目にするとは。さすがの私も予想外だったよ」


 そう言いながら女の後ろに眼鏡を掛けた知性的な瞳の女が立っていた。


「あら、アイス。仕事はもういいの?」


「ああ。何処かの誰かさんのお陰で余分な仕事もしたがな、クゥ?」


「もう、そう言わないの。出来る人がやったほうが問題も起きないし早く終わるでしょ?」


 そう言いながら空いていたもう一つの器に酒を注ぐと背後に立つアイスへと振り向き、差し出す。


「はい。駆けつけ一杯ね?」


「…はぁ、今日はそこまで付き合わないぞ?」


「あはは、そう言いながら付き合ってくれるアイスの事、私は好きよ?」


「やれやれ、困った奴に出会ってしまったものだな…」


 そう言いながら、口元では笑みを浮かべながら器を受け取るとクゥディアの隣へと腰を下ろす。


「…ほう、案外と飲みやすい」


「でしょ? 南方の国から取り寄せたものよ。何でも透水って言う水を使って作られた逸品でね。酒精もあるけど水のようにほんのり甘くてスッと飲めるのよ」


「ああ。確かにこれは良い一品だ」


 そこから少しの間は互いに言葉を交わす事なく時間が過ぎたが。アイスの器が空になったタイミングで口を開く。


「クゥ、ネプチューン国王が戻られた」


「あら、兄さんにしてはやるじゃない。てことはそろそろなの?」


 クゥは高揚を隠そうともせずにウキウキしていて、その様子にアイスは額に手を当てため息を吐いた。


「なによ、そのため息は?」


「いや、気にしないでくれ。それにしても、お前は国王が失敗されたとは思わないのだな?」


「当たり前でしょ?仮にも兄さんは国王。国王が失敗したまま戻ってくるわけ、ないでしょ?」


 そう言いながら口の端に零れた酒を手で拭う。その仕草はとても貴族とはあるまじきもの。だが、だというのにクゥディアのそれはそうとは言えない美しさがあった。


「それより、何か面白い事でもあったんでしょ。目が笑っているわよ?」


「…やれやれ、お前には敵わんな」


 そう言いながら目元を手で触った後、アイスはその内容を教えるために口を開く。


「実はな、国王陛下がお戻りになられた際に同時に来客も来られたんだ」


「あら、この国に来客だなんて珍しいこともあるものね」


 現在、サウスザーランド海王国の領内に人魚と魚人以外の種族が入ることが出来ないようになっている。例外として国王の許可か、あるいは国王よりも上の存在。水の大精霊であるローレライ様の許可がなければ侵入することは不可能。

 そんな中での来客という事は、認められたという事に他になかった。


「それで、誰が来たの?」


 その目には、王こ資質を感じさせる嘘を見抜く眼差しで。しかし、そんな眼差しを受けてながらアイスは自然体だった。


「私は既に知っているが、私が教えるより自分の目で直接確かめた方がいいだろう。幸い、お前には一度城に戻ってもらわなければならなかったしな?」


「へぇ~、なら私がかなり楽めるほどの事?」


「秘密だ。だが楽しめるだろうという事は私も保証しよう。だからクゥディア、一度王城に戻ってもらえないか?ここは私が如何にかしておく」


「そうね…」


 アイスの言葉に嘘はない。長年の付き合いでクゥディアにはそれがわかった。そして、あの黒い繭が出現して以降、特に変わったことのない日々に加えて、このままでは勝つための手札が足りない。

 故に仕掛けるわけにもいかず手をこまねいている状況にクゥディアは退屈していた。なのでその気分転換も兼ねての王城への帰還はいい選択肢だと思った。


「分かったわ。それじゃあ明日の早朝に出るわ」


「分かった。委細整えておこう」


 話が終わると二人は器の中に残っていた酒を飲み干し立ち上がる。空を見上げれば月が二人を照らす。


「じゃあ、明日を楽しみにしていてくれ」


「ええ。楽しみにさせてもらうわ。あ、付きはいらないわ」


「ああ、分かっている」


 それじゃあ明日ね。とそう言うとクゥディアは部屋へと戻っていき、その背中を見送った後アイスは月を見上げるとそこには綺麗な半月があった。そんな月を少しの間見つめた後、アイスも眠る為に自分の部屋へと足を向けたのだった。




 サウザーランド海王国、王宮の貴賓室にて颯天達は朝食を取っていた。

 メイドからは食堂でも大丈夫と言われたが昨日の事もありこれ以上目立つの避けるために颯天が固辞したのだった。


「取り敢えず、襲撃するほどの能無しの連中じゃなかったみたいだな」


 そう言いながら口に運ぶのは赤身の魚を蒸したもので。口にいれると身がホロホロと崩れ、更に薄緑色の海藻はまるでタマネギのような食感でまた口を楽しませる。


「そうじゃの。じゃがわしとしてはローレライの盟友である部分が大きいと思うぞ?」


 そう言いながら白夜はシャボン玉のような透けた果実を齧ると梨に似た香りが微かに香る。


「ああ。そうでなければ襲ってきたかもしれないな」


 部屋で食事を取りながらその事を否定せず、ただ面白そうに笑いながら言葉を返す颯天だがその眼は決して笑っていなかった。もし、襲ってきたのであれば颯天は容赦なく半殺しにしてネプチューンに突き出しただろう。


「全く、男の嫉妬というのは怖いものよな?」


「ほっとけ」


 少し恥ずかしそうに笑う颯天と嬉しそうに笑う白夜その様子はまるで長年の親友のように軽口を言い合うのはお互いを信頼している証で。


「はい」


「!」


 そんな話をしている横で伏見はフランに食べやすい大きさにした魚の切り身を上げていて。そんな中で貴賓室の扉が開いた。


「おはよう。昨夜は多少は眠れたか?」


「ああ。少なくともベットは快適だったぞ?」


「そうか」


 颯天の嫌味にネプチューンは苦笑を浮かべながらメイドに飲み物を頼むとメイドは退出して部屋には颯天達とネプチューンだけとなる。


「さて、早速だがいきなり来たのは実はお前達に、というよりも颯天。君に頼みがあるのだ」


「…俺に?」


「ああ。正直、君以外に頼めない」


「一応聞くが、それは断っても問題ないか?」


「それは‥‥無理だろう」


 何となく、面倒ごとの気配を感じ取った颯天だが、それに対してネプチューンは申し訳なさそうに首を横に振った。


「どうしてだ?」


「君が拒んだとしても、恐らく君は必ず一度は戦う羽目になるだろう」


 颯天としては出来れば戦うなどの面倒ごとを避けたいが、それでも降り掛かるというのならせめてそれが何と戦うのかは知っておきたくて颯天はネプチューンに尋ねた。


「戦う事になるって、いったい誰と戦うっていうんだ?」


「‥‥私の妹、クラウディアだ」



 絶対に爆発する時限爆弾を置いたネプチューンが部屋を退出した後、特にやることのなかった伏見は気が抜けているようで普段は引っ込めているはずの猫耳と尻尾がピョコピョコ、ユラユラと揺れていた。


「ふああぁぁ‥‥んにゅ」


「…、…zzz」


 伏見の頭の上で船をこいでいるフランは何度か瞼をこすっていて。そうしている間に颯天に近づいてきた伏見はまさに猫のようにしゅるりとソファに来たと思うとそのまま頭を颯天の膝の上に乗せた。


「おっと」


 そして、その動きで伏見の頭で既に丸くなっていた状態で放り出されたフランを颯天は片手で受け止めるともぞもぞと少し動いた後はフランは目覚めることなく二人そろって颯天の足と手をそれぞれ枕に寝始めてしまった。


「やれやれ、困った二人じゃの」


「そう言ってやるな。慣れなくて疲れてるんだろう」


「まあ、それもそうじゃの…なんじゃ?」


「隣に来てもいいぞ?」


 そう言う白夜の表情も颯天と同じく幼子を見るように温かなもので。だが、そこに微かに羨望の想いが混じっている事に気が付いていた。


「いや、しかし…」


「大丈夫だ。二人とも寝ているから気が付かないさ」


「そ、そうかの?」


 そう言うと白夜は先程とは打って変わっておずおずと颯天の隣に座るとそのまま幼子が抱き着くかのように颯天に抱き着いた。


「わ、悪くないの」


「そうか、それはよかった」


 本当に悪くないようで、白夜の耳と尻尾がピョコピョコ、ユラユラと動くのを感じながらその頭に手を乗せ耳の付け根を指で優しく掻くと嬉しそうに耳が動く。そんな穏やかな時間をしばらく過ごしていると部屋の扉がノックされる。


「失礼いたします、カゲナシさま。クロウディア王女が練兵場にて会いたいと言われているのですが…」


「‥‥分かりました。ほら、二人とも起きてくれ」


「‥‥来たのか?」


「ああ。件の王女様からの招待状だ」


 目を覚ました白夜が離れると颯天はまだ眠たげな伏見たちをそれぞれソファへと横にさせると立ち上がる。


「まあ、暴れすぎないようにの?」


「それは相手に言ってくれ」


 白夜の忠告に颯天は苦笑しながらそう返す他なかった。

 相手にするのは、この国の第一王女にして”もし”この国が戦時中であればネプチューンを凌ぐ王となっただろうという事から渾名された”戦王"、またの名を”血塗れ王女スカーレット・プリンセス”からの招待。


「よし、取り敢えず行ってくる」


「気を付けての」


「いってらっしゃい」


 白夜と寝ぼけている伏見の見送りを受けて、その舞踏会の会場へと向かうために颯天は部屋を出るとメイドの案内の元会場へと向かった。

今年も、一年よろしくお願いします。


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