第四章 第十四話 「人魚の国」
また、突貫気味ですが、書けましたので投稿します。
「‥‥念の為に、伝えておく。何が起きても、驚かないでくれ」
「‥‥なるほど」
ネプチューンの言葉に真剣な表情で颯天は短くそう答え、互いに握っていた手を解くと颯天はまるで真剣な表情は嘘だったかのように軽い調子でネプチューンに尋ねる。
「さて、と。俺たちはこのまま行けるが、どうする?」
「そうだな…封印が今にも解けるかも分からない。だからすぐに戻りたいのですが、人数などは問題はないでしょうか?」
ネプチューンはローレライに尋ねる。
確かに、この場所からサウスザーランド海王国に行くための手段はネプチューンが使ってきた、ローレライが用意した水を介した転移魔法。それに人数制限があるか否かは、確かに重要な内容で。颯天たちも視線を向けられたローレライは安心させるように微笑む。
「ご心配なく、水を介した転移魔法「水鏡」に上限はありません。もちろん、私が許可したもの以外は渡れないようになっているのでその面でも安全です」
「…そうですか」
その言葉にネプチューンは安堵と不安が綯い交ぜになった表情で頷き。すぐに切り替えたようで嘘かのように元の深刻そうな表情へと戻る。
「これが最後になるが、本当に良いのか? 我が国に来た後の安全は保障できないぞ?」
「問題ない、最悪俺達で如何にかするからな。それより、あっちで俺たちは呼吸できるのか?」
「すまない‥‥分からん」
「そうか‥‥どうするか…」
申し訳なさそうに謝罪するネプチューンに対して、颯天にそこまで困った様子はなかった。颯天としては、伏見と白夜の実力も知っているから安全の保障も食料などの面でも問題はない。
だが、呼吸手段の確保は重要だった。ネプチューンたち人魚族は常に水の中で住んでいるので何ら問題はない。だが地上で生活する人間である颯天たちにとって水中は未知の世界。そこでの呼吸の確保は必須で、幾つかの術で解消できるがもちろん欠点も存在していて。出来るだけその不安を取り除きたい颯天に助け船が出される。
「それでしたら、こちらをお持ちください」
そう言ってローレライが手を振ると泉から三つほど泡が颯天たちの前にそれぞれ飛来すると、その中身が見えた。泡の中にあったのはビー玉サイズの青玉が施された三つの腕輪だった。
「これは?」
「これは私の魔力を封じた青玉をあしらった腕輪です。この腕輪を身に着けると水の大精霊の加護を受けた状態になりますので、水の中でも地上と同じように動けるようになります」
「へえ、凄いな。これがあればいつも通りの動きが出来るって訳だ。効果はどれくらいだ?」
「そうですね‥‥。その魔力量ですとおそらく十年ほどは持つでしょう。耐久力も魔力が切れるまでは鋼鉄に匹敵する耐久力を発揮するはずです」
「‥‥ぶっ壊れじゃね?」
「うん、流石は水の大精霊。とんでもない」
「うむ、確かにこれは壊れじゃの~」
各々そう言いながら腕輪を身に着ける。そんな中でぶっ壊れの言葉の意味は分かっていないが期限付き、それでも十年という破格の使用耐久力、更に水の大精霊ローレライ直々の魔力を帯びた魔道具を与えられた颯天たちにネプチューンの顔も若干蒼くなっていた。
(これは、下手なことをするとかなり不味いのでは…?)
ネプチューンが心配している事。具体的に言えば妹が何かしでかさないかという事がネプチューンの胃をキリキリと痛める原因だった。そこからは既に颯天たちは準備万端だった事でとんとん拍子に事が進み、後はローレライが転移魔法「水鏡」を使うだけとなった。
「準備はよろしいですか?」
「ああ。万全だ」
「問題なし」
「わしもじゃ」
「んっ!」
颯天につづき伏見に白夜、そして人差し指ほどの大きさになったフランはといえば、颯天の肩の上に座って楽しそうに足をブラブラしていて。とてもではないが災厄と戦う国に行くのとは違い、どこかピクニックに行くかのような雰囲気だった。
「そう言えば、フランは海は初めてだったな。楽しみか?」
「んっ!」
「そうか」
全身で楽しみだと主張するフランに颯天は笑みを浮かべながら指の先でフランの頬を突っ突くとフランは擽ったそうに身を捩ったかと思うと、立ち上がり颯天の頭の上へと移動してしまい、そこでいい位置が決まったのか、そこから動こうとはしなかった。
「和むのぅ」
「…私も触りたい」
「…んんっ!!では、ローレライ様。転移先は場所は精霊の間でお願いします」
「分かりました‥‥。場所はサウスザーランド海王国の王宮の、精霊の間‥‥。【水鏡】」
ネプチューンの要望に答え、ローレライは自らの魔力を開放し、開放された魔力はそのまま泉へと注がれていき、やがて湖面の一部が浮き上がると姿見ほどの大きさ鏡となり森の風景を映し出す。
(へえ、流石は水の大精霊。簡単にこなしたように見えるが、緻密な魔力制御が成せる技というやつか)
ローレライは何げないようにしたが、常人であれば三日は要するほどの魔力と技量が必要だと颯天は見抜き、それに気付いたローレライは微笑むだけだった。
「繋がりました。この【水鏡】を通った先が精霊の間です」
「ありがとうございます。さて、という訳であの先は我が国、サウザーランド海王国だ。最後になるが、準備はいいか?」
眼の前には災厄が目覚めるサウザーランド海王国へと通じる水鏡、それを前にしてネプチューンは改めて颯天達に問う。
「ああ、問題ない」
「んっ!」
「…可愛い」
「はあ、やれやれじゃの」
颯天、そして颯天の仕草を真似るフランにメロメロな伏見。そんな伏見に苦笑を浮かべる白夜とそこには誰一人として気負った様子もなく自然体でいて。
これ以上は失礼だとネプチューンは判断し、自らも水鏡と向き合う。
「では、征こうか」
そう言うとネプチューンは最初に水鏡に触れ、その体は見えなくなり。
「それじゃあ、俺達も行くか」
そう言う颯天にフラン達も頷き、ネプチューンに続くように水鏡を通ると、その先には颯天達は海水で満ち、光る苔が照らすは神聖な雰囲気がある洞窟のような場所で。
背後にはたった今通った水鏡が揺らいで、溶けるように消えた。
「ここは、王家の人間だけが入ることを許されるローレライ様を祀る祠だ」
そう言うとネプチューンの足は魚のものへと変わっており、出口へと通じる通路へと向かって移動を始め、自然とその後ろを颯天達もついて行く。
通路は天然の洞窟のようで、自生してるのか光を放つ苔によって明かりは確保されており、緩やかに登っている道を照らしていた。
「お前達は、人魚をどう思っている?」
「そうだな…。俺自身も普通からズレてるから参考にはなるかは怪しいぞ?」
「構わない。君、いや君達から見ての意見を、一国の王として聞きたいのだ」
そこには、国を背負う者としての責任を帯びた"王”としてのネプチューンの問いに、颯天はごく自然に答えた。
「そうだな、まあ、下半身が魚ってのはちょっと不思議だが、人と違わないってのが俺の意見だな。伏見はどうだ?」
「…颯天と同じ。特になんとも思わない」
伏見は、なんとでも無いように言ったが、僅かに言葉に詰まったことを颯天は聞き逃さなかった。
伏見は人間と妖怪である猫又のハーフで。言い方は悪いが謂わば半端者。故に人間社会と妖怪の世界、そのどちらからも弾かれた存在で、もし颯天と出会わなければ死んでいた可能性すらあり、そんな伏見に颯天はそっと寄り添いながら、白夜にも尋ねる。
「白夜はどうだ?」
「狐の妖怪である私に聞くのもどうかと思うが? まあ、気にせんよ。妖怪の中には人とは違うものなんぞザラじゃしの」
寄り添われた事で自然と颯天の服の裾を握り甘える伏見を見ながらそう答えるの白夜に颯天は苦笑を浮べ。そんな和気藹々とした雰囲気を感じたようで。
「…そうか」
先を歩くネプチューンの顔は見えず、しかしその短い言葉にどういった意味があったのか、この時の颯天達には知る由もない事で。
そうしている間に通路は終わりを告げ、外に出る。
「ここが、我ら人魚族が住まう国。サウスザーランド海王国だ!」
そう言うネプチューンは颯天達に向かって堂々と振り返る。
上を見上げれば海面、そこから差し込む光を追うように視線を下に向ければそこには自然の岩を利用した街が広がっており、そこには街を行き交う大人や子供の人魚達の姿があり。
そんな中でも一際目を引くのは真紅のサンゴ礁を加工し創られた城、コーラルだった。
…さて、次の話をどうするか…。
そして、ネプチューンの意味深な感じの言葉の意味はまあ、近いうちに分かるかも(?)です(頑張らなければならないぞ、これ…)
次話も楽しみにしていただけると幸いです。また、評価やブックマークまたは誤字脱字報告など頂けるととても嬉しいです!