第四章 第十三話 「旅は道ずれ、世は情け」
如何にか、続きが書けたので投稿です。
「ローレライ? アンタはこいつが何でここにいるのか知っているのか?」
「はい。彼、ネプチューンがここに来ることが出来たのは私が昔、サウスザーランドの王族に与えた転移魔法を使ってきたからでしょう」
「という事は、ローレライ。アンタ昔はいろいろな所に行っていたのか?」
「はい。私は水がある所であれば大抵の場所には移動する事が出来ますので。色々な場所を旅していた際に寄った一つが、サウスザーランド海王国という訳です」
「で、その時の王にこの場所へ転移出来る転移術を教えたという事か」
「はい。私は水の大精霊。故に水にかかわりが深い地では崇拝もされています。サウスザーランドもその一つで、国民である人魚族達も私を信奉していまして、その縁でもしもの時としてその代の国王に転移術を教えたのです。そして、彼がそれを使ってこの地に来たという事は、災厄が目覚めたのですね?」
「…はい。我がサウスザーランド海王国が古くから封印していた災厄の魔物、クラーケンの封印が何者によって破られてしまいました…!」
「‥‥そうですか」
ローレライの真剣味の増した言葉に、ネプチューンはその場で頭を下げてそう言い忸怩たる思いが言葉からも伝わり、ローレライの言葉にも労りの色が見えた。
「なあ、クラーケンって、巨大な蛸の事か?」
「タコというのかは分かりませんが、その魔物の名前はスモックス。大きな頭に複数の触手を持つ魔物です」
「あ~、なら俺の知っているのと同じだな。で、なんでそいつが災厄の魔物として封印されていたんだ?」
「災厄とされたのは魔物が噴き出す黒い液、それに触れたあらゆるを溶かされてしまうのです」
「そいつは厄介だな‥‥」
災厄とされるのも頷けると、颯天も納得した。地上であれば最悪の場合はそれを避けるか焼却すれば問題ないが、水中では辺り一面が水で。水という事はその黒い液、恐らく墨であろうそれを吐き出されればあっという間に浸透、侵食して逃げ道すら無くなりかねない。確かに、水の中でのクラーケンは驚異的。封印されるに十分な理由だった。
「それで、そのクラーケンをどうにかしてもらう為にここに来た、という事か?」
「そういう事だ。と言ってもクラーケンを相手に共に戦ってもらう訳ではない。私は大いなる水の大精霊であるローレライ様の加護を受けに来たのだ」
「ローレライの加護? という事は何か水に関係するものかのぅ」
「…気になる」
気になったようで聞き耳だけを立てていた白夜と現実に復帰した伏見の二人も話に交じってきて、そんな二人の言葉にローレライは少し苦笑を浮かべる。
「お二人が気にされているほど凄い加護ではないですよ。ちょっと黒い液体に触れないように膜を張るだけですから」
「何をおっしゃいますか! 水の中に暮らす我ら人魚族にとって、そして彼の災厄と戦う戦士達にとって貴女様の加護を纏い戦うのは如何なる報酬よりも名誉なことなのです!」
「そこまで言っていただける事は嬉しいです。ですが使命にてこの地より加護を与えるだけの私は誇る訳にはいきません」
ネプチューンの言葉に対して、ローレライは一緒に戦えていないのだからと称賛を受けるに値しないと
譲らないが、それはネプチューンも同様で。
「何をおっしゃいますか! その加護のお陰で我らはクラーケンに立ち向かうことが出来るのです!」
「そうじゃぞ、ローレライ。謙遜をしすぎるの考えものじゃと思うぞ?」
「‥‥そうでしょうか?」
「そういうもんじゃよ。もちろん過剰に崇められるのであればそれは天罰を与えればいいだけじゃしの」
「幼子でありながら、知ったようなことを言うではないか?」
「ふん。今のわしが仮初であると見抜けぬ小童が。上からものを言うでないわ」
「なに!?」
そして、このままでは終わりが見えない論争になりそうだったので白夜が間に入った事で論争は終わりを迎えたように思えたが、どうやら白夜の中にある導火線にネプチューンが火を点けてしまったようだった。
(多分、さっきのあれなんだろうな…)
恐らく、ネプチューンから見ての白夜の外見年齢は凡そ10歳前後ほどで幼い。だが実際は1000年
以上を生きる狐の妖怪だが、それ以前に女であり。外見だけで幼いと判断されたのは僅かながらだが白夜の心を多少は傷つけてしまったようで。
「まあまあ、その辺りにしておけ。白夜もそれ以上は墓穴を掘ることになるからやめておけ。それにお前には俺が、いや俺たちがいるだろ?」
「……そうじゃの」
「アンタもだ、ネプチューン。見た目だけで白夜をいい女だと気付かなかったようじゃ、まだまだだぞ?」
「…どういうことだ?」
「まあ、それはいずれ分かるだろうさ」
煙に巻くような颯天の言葉、その意味が分からずに困惑しているネプチューンに対して颯天はそれ以上何か言うことはなく。そしてそれは白夜も同様だが、白夜の手は少し恥ずかしそうに、しかし同時に嬉しそうにそっと颯天に触れていて。それに応えるように颯天も少しだが白夜の手に自身の手を当て返した。
「さて、どんな話だったけ?」
「…加護の話」
「ああ。そうだったな。ローレライ、加護の付与はすぐに出来るのか?」
「あ、はい。というより、この泉の水を汲めばいいだけです。あとは持ち帰った水をサウスザーランド海王国に設置してある泉に注げばこの泉との霊的に繋がりが構築されることで結界と加護が発動するはずです」
「なるほどな。それじゃあ俺達も行くとするか」
「「は(はい)?」」
颯天の唐突な宣言に驚いたのはローレライとネプチューンの二人だけで、白夜と伏見の二人には驚いた様子は微塵もなかった。
「だと思った」
「うむ。まあ、わしとしてもサウスザーランド海王国という海の中にある国を見てみたいしの」
「けど、ニアに悪い」
「何、あやつが帰ってくるのを待つだけというのも味気ない。ならばこちらも土産話を作り持ち帰るのでちょうど良かろう?」
「まあ、退屈ではある」
「じゃろ。それにじゃ、その時は三人で謝ればいいんじゃよ」
「‥‥そうだね」
伏見にそういう白夜は悪戯っぽい笑みを浮かべていて、伏見もそんな白夜の笑みに応えるように頷いた。
そんな中で、当然の帰結として納得できない人物も居た。ネプチューンだった。
「いや、何故勝手に我が国に来ようとしているんだ、お前達は!?」
「勝手にじゃないぞ?ネプチューン。アンタの許可があれば俺達は合法的に国に入ることが出来るんだからな。それに、いい起爆剤になるかもしれないぞ?」
「なにを! 俺はお前たちを連れて行くなど、災厄を前にしてそんな余裕もわざわざ危険な場所に連れていくこととはせぬ!」
ネプチューンの言葉は、確かに正当性がある。国が危機的状況である中で、観光気分の人間が来られても迷惑というのは確かにそうだが、誤りもあるのもまた事実だった。そしてそんな状況で一石を投じたのはローレライだった。
「連れて行って差し上げなさい、ネプチューン」
「ローレライ様!? いや、ですが!?」
「大丈夫です。彼らが居れば最悪の事態は避けられると私も思います。もちろん、この方たちの実力は私が保証します」
ローレライの言葉にネプチューンはどうしたものかと思案顔を浮かべる。国では災厄と戦うので防衛のための戦力を割けず、自分の身は自分で護るしかない。
(だが、彼らが居れば最悪の事態は避けられるとローレライ様が言われている…。どうする?)
ネプチューンとしては、無関係な者たちをサウスザーランド海王国に連れていくのは、それも人間を連れて行くなどしたくない。それが本音だったが。それでも災厄を相手にするならば、そして国民の意識をローレライ様の意向もある彼らであれば変えることが出来るかもしれない。
(分の悪い賭けになるかもしれないが、国王としてはいつまでも歩みを止め続けるわけにはいかない)
何が起きるか分からない、不測の事態が想定される災厄との戦い。最悪の事態を想定して、ネプチューンは決断する。
「分かりました。ローレライ様の御意見に従い、お前達だけは特別に我が国へと招待しよう。だが、改めて言っておくが、身の安全は保障できぬが、良いか?」
「ああ。問題ない。よく言うだろ、旅は道連れ世は情けってな?」
「そういうのもなのか…?」
深刻な事情でもあるゆえに真剣なネプチューンの言葉に、颯天は問題ないと頷き手を差し出し、ネプチューンも差し出された手を握り返す。今のこの場にサウスザーランド海王国入国の交渉は成立した。
いや~、次の舞台は(ニアを置いて)海の中という事ですか…。さて、どうしたものか‥‥(本当に頭を抱えてます)まあ、頑張るしかないんですけどね!?
さて、まあ読者の皆様次話も楽しみにしていただけると嬉しいです。どうか、よろしくお願いいたします。評価やブックマーク、本当にうれしいです!ありがとうございます<(_ _)>!