第四章 第十二話 「海王、ネプチューン」
短いですが、久々に浮かんできたので頑張って書いていきます。
ニアが蒼玉の扉へと姿を消して、数時間後。颯天たちは特に何をするでもなく三人仲良く水辺に座り、それぞれが釣り糸を垂らしていた。
「静かだな‥‥」
「…うん」
「そうじゃな…」
颯天の言葉に伏見と白夜の二人も同意しながら竿をあげるがそこに釣果となる魚の姿はない。もちろん魚の姿が無いわけでも、三人が存在感を出している訳でもないのに魚がかかる様子は全くと言っていいほどなかった。
「これは、今日の夕飯の魚が無理か?…おおっ!?」
と、そんな事を言っていた颯天の竿が突然しなるとそのまま竿ごと持っていくかのような勢いからして、かなりの大物であることが伺え颯天の表情も真剣みが増す。
「こいつ、結構勢いがいいな!」
立ち上がり竿を引くがそれでも魚影は見えない。
「頑張って」
「うむ、大きいものが釣れれば、ニアが帰ってきた時の料理に使えるじゃろうからの。頑張るのじゃ!」
「おう!」
伏見と白夜、二人の応援に応えるように颯天も糸を巻いていくが木製の竿と糸巻き機からはミシミシと音が鳴り始めているが、颯天とまだ見ぬ魚(?)との戦いは続く。
「くおおおぉぉ! くそ、本当に力が強いな…!」
先程は小さかった竿の音が、少しづつ大きくなってきており長くは持たないと予感させるもので。
「一か八か、やってみるか」
竿に負担がかかり、折れてしまうか又は糸が切れる可能性もある。だがそれでもここまで格闘して逃がすというのも惜しく、そうだとしてもせめてその影は見てみたい。だがそもそも、颯天であれば【魔力感知】でその姿を確認する事も出来るのだが、それをやってしまうのは無粋というもので。
颯天は糸巻き機に手を掛けると一息に巻いていくが、それに負けないように釣り糸も引っ張られるが肉体を強化する『無系統忍術』【金剛体】で強化された身体能力で以て上回り。
「おおおおぉぉぉっ!」
颯天が一息に竿を振り上げり、それが水面から跳ね上げられた瞬間に釣り糸は切れ竿は力に耐えきれなくなり壊れてしまったが、颯天は。いや伏見と白夜も釣り上げられ未だに宙にあるそれに驚きの表情を浮かべている間にそれ、上半身はムキムキの全長は2メートルは軽く超えるむさ苦しいおっさんが、腹部より下は魚というあまり見たくない人魚が頭から地面へとそのまま着弾し、頭だけでなく脇腹辺りまで地面に埋もれた状態で尻尾がピクピクッと動いている何とも言えない光景に、誰一人口を開くことはなく釣り上げた当人である颯天の表情も引きつっていた。
「‥‥‥‥‥あ~。どうする、あれ?」
「放置でいいじゃろ」
「放って置いていい」
「…だな。取り敢えずあのままじゃあれだし、取り敢えず埋めるか」
伏見と白夜だけでなく、颯天としても先程みた光景は出来れば思い出したくない光景ではあり。しかしそのまま放置という訳にもいかず、釣り上げた者としての責務とばかりに記憶と一緒に埋め立てるために近づこうとした時、人魚に変化が起きた。魚の部分が泡生まれ、泡が消えるとそこには人間の足があり。
その足で地面を踏ん張ると自力で地面に埋まった頭を抜き出して立ち上がる。
「ふふ、フハハハハハっ! よもやこの俺、ネプチューン様が釣り上げられてしまうとはな! ハハハハハッ!」
そして、立ち上がった元人魚。ネプチューンと名乗るそれは体の調子を確かめるように筋肉を見せつけるポージングを何度か取った後、辺りを見回しその視線が颯天ではなくその後ろに居た伏見と白夜へ向けられた瞬間、まるで空気を置き去りにするほどの速さで、伏見の前に膝をつく。
「俺の妻になって「はっ!」ぶがあああぁぁぁ!!??」
ネプチューンがセリフを全て言い切る前に全力に近い【金剛体】を発動させた必殺の颯天の蹴りによる一撃目の足払い、それによって体は宙へと浮かび。足払いの勢いを乗せた状態で体を捻り、全ての勢いと体重を乗せた二撃目の蹴りが後頭部に蹴りが炸裂するとネプチューンは再び先程よりも深く骨盤の辺りまで地面に埋め込まれる。
「‥‥ふう、大丈夫か。伏見?」
「大丈夫。襲い掛かってきても殴り飛ばす所だったから。でも、ありがとう」
そういう伏見の手には気を纏っており、颯天が動かなかったとしても伏見が迎撃したであろうという事は容易に想像できたが、それよりも男の本能で颯天の体は動いてしまっていて、それが分かっている伏見は嬉しそうにふんわりと笑みを浮かべ。
「いや、まあ。咄嗟だったけどな‥‥」
伏見の嬉しそうな表情に颯天も照れ臭く、思わず頬が赤くなるのを感じている中で空気を読まない元人魚が再び地面から頭を抜くことに成功する。
「ぶはっ!? いきなり何をするか!? 死ぬかと思ったぞ!?」
「俺の女に手を出そうとするな、くそ爺!」
追撃とばかりに颯天は更に蹴りを放つが、ネプチューンは咄嗟に腕を交差して受け、数メートル程の轍を作ったがその姿勢は蹴りを受けたままの状態で。
「……俺の女」
一方の伏見は颯天に「俺の女」と言われた事がかなり嬉しかったようで何処かにフワフワとした表情で上の空状態になっているが、その間にも物事は進んでいく。
「受けきったか」
颯天としても加減していたとはいえ、体勢を崩すことなく受け切られたことには素直に驚いていたが、どうやらそれはネプチューンも同様だった。
「…ふむ。我が親衛隊を遥かに凌ぐ無駄のない、洗礼された動き。良い蹴りだ!」
ネプチューンとしても海王であるので以上、これまで幾度もの戦いにその身を投じてきた。その中で戦った者達の中で、今自分に蹴りを放った人間が一番強いとその身を以て感じ取っていた。
「お主、名はなんて言う?」
「影無颯天だ。そういうお前は何者だ?」
「我が名はネプチューン! 誇り高きサウスザーランド海王国の国王にして、人魚である!」
「ああ、それは見たから分かる。けど‥‥サウスザーランドの国王だと?」
サウスザーランドという国こそ聞いたことないが、それは脇に置いておくとして。何故国王がこの場に居るのか。その方が重要だった。
「それで、そんな国の王であるアンタはなんでこの場に居るんだ?」
「それは‥‥」
幾ら颯天が釣り上げたとしても、そもそも名前からして海の中にあるであろう人魚の国。そんな場所から海に通じていないはずのこの泉に何故居るのか、そもそもどうやって来たのか?。そんな疑問を以ての颯天の問いかけにネプチューンは曇った表情で先程とは打って変わって口ごもるが。
『それの説明は、私がお教えしましょう』
泉から声が聞こえた後、颯天たちの前に姿を現したのはこの泉に居る水を司る精霊の母、ローレライだった。
次の話は、ちょっと執筆中でまだ決まっていないので未定です。ですが、ニアだけが試練に挑んでいるのに主人公たちが何もない、なんてことはないんですよね‥‥。
まあ、不定期気味ですが次話を出来るだけ早く投稿できるように頑張りますので、読者様、次話もよろしくお願いいたします。