第四章 第十一話 「生きる覚悟」
お久しぶり。ようやく出来ましたので、投稿です。
目の前にいるニアと名乗った少女、その雰囲気が変わった事をアリカディアは長年の戦闘経験による直感的に感じ取った。
(何か狙っている?)
感じ取ることはできるが、それが何なのかはアリカディアには分からない。けどこういった時に直感で感じ取ることは必ず当たると。
とするならばどのように対処するか。その答えは至極簡単。相手がまだ見ぬ技と全力にて、相手を倒す!
「槍蝕!」
「なっ!?」
故にアリカディアが切る手札とは、己が持つ槍術の中の奥義の一つ。それはニア達にとってそれは全くの初見であり、不可視の一撃となってニアの脇腹の肉を抉り取る。
「あぐっ…!?」
「ありゃ、知らないはずなのにこれも反応されたか~。こりゃ、勘の鋭い子が確実にもう一人いるね!」
(槍が…伸びた…!?)
休む間もなく繰り出されるアリカディアの続く攻撃を何とかさばきながらニアは考える。
先程、いきなり槍が伸びた攻撃。アニが咄嗟に展開した戦女神の守護楯が槍に僅かに当たった事によって軌道が逸れ致命的な一撃とはならなかった。だがそれでも脇腹を抉った傷は決して軽いとは言えなかった。しかしそれ以上にニア達が衝撃を受けたのは、槍が伸びたという事実だ。
(でも、一体どういうからくりで?)
もし相手が任意のタイミング二つの槍を伸ばせるのであれば、時折繰り出されるアリカディアの徒手空拳などの体術以上に、回避できるか否かは別として槍による攻撃に注意を割かなければならない。
ニアは一旦、振るわれる槍の攻撃から逃れるよう距離を取り、一呼吸つくと抉られた脇腹に痛みが走るが意識的に無視をする。
(お姉ちゃん、大丈夫?)
(痛みがある内は、まだ大丈夫。それより、アニはあの時の槍がどうなっていたのか、わかる?)
(分からない。私も必死だったから…)
(そっか。なら仕方ないね)
ニア自身もそこまで期待を以ての問いかけというわけではないので期待に応えられなかった事にしょんぼりするアニにニアは優し気に言葉を返す。
(それにしても、どうしよう?)
一息ついたニアは再びアリカディアへと距離を詰め刃を交える。振るわれる槍を弾き、その隙に剣を差し込むがもう片方の槍に受け止められる。そこから反撃のように槍を手放し放たれた拳の一撃を咄嗟に両手の剣をクロスさせることによって防ぐがそれよって剣の間合いから弾き出される。
それはまるで見えないニアとアリカディアの二人の間に聳える見えない実力の差を現しているかのようだった。
だが、決死の覚悟を以てすれば突破は不可能ではない。ニアはそう判断した。
(アニ、一撃で決める。防御に回していた障壁を剣に集中させて)
(お姉ちゃん……。わかった)
倒すために死すらも厭わないニアの覚悟にアニ自身も覚悟を決めたのかそれ以上は何も言うことはなかった。二人の意識が研ぎ澄まされていく中で、アリカディアは空気からそれを感じ取った。
「うん、いい覚悟! けれど、死んでも勝利をもぎ取ろうとしているのなら、それは無意味」
「(ッ!?)」
決してニアもアニも油断していたわけはなく、むしろこれから成そうとしていた事に意識を割きながらも十分以上に警戒をしていた。
だというのに、二人は目の前に立っていたアリカディアの姿を見失ってしまった。
(お姉ちゃんっ!)
最初にアニが気付き、遅れてニアもそれに気が付いた。二人の視線の先は数百メートルは離れた場所で、強大な魔力を纏う二本の槍を持つアリカディアの姿だった。
『我が槍の前に、貫けぬ盾は無く。我が槍を以て逃げ切る者も、また無し』
紡がれる言霊。それに呼応するかのように二本の槍に宿る魔力は強くなる中でアリカディアは槍同士の接触させるとまるで二つの槍は一つの槍へと融合する。
『二つに分かたれし刃、今ひと時の開放を以て真の姿をここに示し、その刃を以て我が敵を射貫け』
アリカディアの言霊が紡がれていく毎に槍に収束する魔力の濃さが跳ね上がる。そしてその様子からニア達はもはや確信を持った。あれは自分たちが識る中で最強の一撃だということを。そして避けてもまるで猟犬の如く追ってくる一撃と死の予感を以て本能が理解した。
(お姉ちゃん!)
「分かってる!」
目の前にしたあまりの状況に呆けていたが、アニの声に現実に復帰したニアは再び意識を集中させる。生き残るための方法は、ただ一つ。今の自分たちが持てる最高といえる攻撃を以て立ち向かうほかないと。
そうしている間に、アリカディアは一つになった白い槍を持ち、投擲の構えとり。
「白閃の光槍」
投擲した。投擲と同時に白い軌跡を残しながらニアめがけて飛翔する。
対してニアは両手に持つ剣を一つに束ね戦女神の剣の力を付与、そこにアニが戦女神の守護楯で作った無数の障壁を収束させ巨大な剣を形作る二人の合わせ技。
「(剣神の穿剣)!!」
踏む込み放たれた突きは全長はおよそ五十メートルの不可視の巨大な大剣による一切の重さを感じさせない最速の突き。
ニアとアニ、二人が制御が出来る限りの、更に威力を上げるために極限まで力を収束した刃が振り下ろされ、不可視の剣と白槍が衝突する、直後。
ビキビキビキッ!と小さな不吉な音がニア達の耳朶に響くと、槍と剣が接触して場所を中心に剣を模した障壁全てに亀裂が生じ。
(修復…!)
アニは瞬時に障壁を修復し。
「ぐうっ!?」
崩壊を免れたが、それによってニアは気を抜けば手から剣が跳ね飛ばされてしまうほどの圧倒的な力に晒されるが踏みとどまり、一気に崩れかけた形勢を立て直す。
(なに、この威力!?)
今も全力で以て押し返そうする二人に対して、槍の威力は少しも削れた様子はなく。寧ろ刻一刻と押され始めていた。
(くぅ、押される!?)
地面に轍を作りながら徐々に押されていくニア。
(修復が間に合わない‥‥!)
アニも崩壊の箇所を修復し何とか槍と競り合っていたが、それも徐々に崩壊が修復の速度を上回り始め。 やがて、一際大きな破砕音があたりに響きわたり。
「…え」
ニアが認識できたのは砂煙が舞い上がる中に白の軌跡が描かれたのを最後にニアの意識は白く塗りつぶされた。
それからニアの体感にして十秒に満たない僅かな時間が経ち、ニアの意識は無意識状態から再び覚醒した。
(一体…)
何が起きたのか。そう思いながら体を動かそうとするが上手くいかない。何故ならニアの体は至る所に火傷の跡があった。
そして、緩慢な動きで違和感の場所を見た。
右腕の肘から先、そこにあるべき腕はなく、その断面は黒く焼け焦げていた。
「あ、ああっ!? あ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"っっ!!!??」
腕が焼失した事実を視覚から認識した脳によって走る激痛は鮮烈になり、ニアは思わず声を上げてその場に蹲り、その目元には涙が溢れ出る。
そんなニアの前に一つの人影が現れる。
「はぁ〜。まさかアレに自分から飛び込んで来るなんてね。油断したよ」
アリカディアには見えていた。槍が不可視の剣を砕いた直後、ニアが更に踏み込み加速し、自分の右手に障壁を纏わせ右手を犠牲にして槍を切断、勢いは止まることなくアリカディアとニアの間にあった距離は無くした事を。
だが、アリカディアは反応出来なかった。いや正しくは死んでいるが故に、咄嗟の生物の本能としての回避が出来なかった。
そして、結果はニアは片腕を失い、全身は重軽傷の火傷を負っているが、それを対価とした一撃はアリカディアの心臓を中心にして貫き致命傷を与えた。
背後で蹲るニアにアリカディアの表情は嬉しげで、口元には笑みが浮かべながら思った。覚悟を見誤っていたのは自分の方だったと。
「うん。貴女、いいえ。貴方達なら大丈夫!私が太鼓判を押すよ!だから…頑張ってね!」
想いを託すかのような呟きを最後にアリカディアの姿は空に溶けるように消え、同じように蹲っていたニアの姿も消えて、後に残ったのは穏やかで、静かな空間だけだった。
次話は、出来れば今月中を目標に頑張りたいと思います。
少しづつでも、物語を進めていきたい…。