第四章 第十話 「高い壁」
書けました…。モチベーションが上がる、良い感じ。
(この人、疾い!)
青玉の扉の先にある世界に来て四日目。
この日三度目の激突は、手数で勝るニアに軍配が上がった。
一つは槍の迎撃に、残った手に持つ剣による刺突はしかし、掴まれる事によって膠着する。
「うん。いい判断だね。彼処で斬ることを選択してたら、貴女が後ろに吹き飛んでたよ」
「…」
四日目となれば多少は慣れるというもので。ニアは無言のまま仕切り直しを兼ね掴まれた剣を支点に体を捻ると、アリカディアへと蹴りを放とうとしたが。
「おっと」
それに気づき剣を離したアリカディアによって支点が無くなる。ニアは鍛えられた体幹をもって体重と捻りを乗せた蹴りをアリカディアの腹へと当てることで距離を作る。
「~っ! いい蹴りだね!」
鎧越しであってもそれを貫通した衝撃に対してアリカディアは笑った。
「ッ!」
その瞬間、ニアは咄嗟に頭を重点的に守った直後にその体は丸でゴムボールのように跳ね飛ばされたが、ニアは直ぐに起き上がる。
「ありゃ? 対応されちゃった?」
アリカディアが何か言っているが、ニアはそれどころではなかった。
(一体、何があったの…?)
咄嗟に頭を重点的に守り、痛みを覚悟した直後に吹き飛ばされたが、そこに多少の痛みはあれど想定した以上の痛みはなかった。
(お姉ちゃん!大丈夫!?」
(もしかして、今はアニが?)
(うん!でもごめんなさい。あの人の攻撃が早くてまだ全部は…)
(ううん、気にしないの。寧ろ助かったんだから)
アニのしょんぼりとした声に、ニアは改めて妹に伝える。
私は一人で戦っているんじゃない。|姉妹《ふたり》で戦っているんだと。
(アニ、防御はお願いね!)
(っ! 任せて!)
ニアの言葉に宿るまるで颯天に対するのと同じ全幅の信頼に、アニは力強く答えニアは態勢を整え立ち上がる。吹き飛ばされてから時間にして僅か。だがその僅かは強者との戦いにおいて致命的と言えて。
「遅い!」
態勢を立て直したニアに対してアリカディアは既にニアの視界の死角となる背後へと回り込んでいた。そしてアリカディアの槍はニアの体を捉えるのに掛かる時間はコンマ数秒。ニアの回避が間に合うはずもなく。
「えっ!?」
しかし、それはアリカディアの驚きによってその事実は塗り替えられる。アリカディアの槍は、確かにニアの体。それも人体という生命において最も致命的と言える最大の弱点。心臓を狙って放たれた一突きがまるでそこに城壁のような感触によって防がれ。
「やっばっ!?」
「はあっ!」
想定外の状況、弾かれたことによる衝撃によりアリカディアの動きが鈍る。そこに放たれるニアの斬撃に対しての動きは俊敏だった。
「てやっ!」
「あぐっ!?」
槍を弾かれた事によってアリカディアの態勢は後ろへと崩れながら、ニアの手首に蹴りを当てることでニアの攻撃の速さが鈍りその間にアリカディアは距離をとる。
「あれでっ!?」
(蹴りを出せるの!?)
出鱈目だ。そんなニアの内心を引き継ぐようにアニも驚きの声を上げながら、ニアは距離を取ったアリカディアへと距離を詰める。
「やああぁぁっ!」
「ふふっ、これは久々に面白くなりそう!」
剣を振るい追撃するニアに対してアリカディアは後ろに下がりながらも笑っており。それは獲物の隙を窺う猛禽類のような目だった。
だが今この場においての天秤はニアに大きく傾いていた。何せニアが扱うのは取り回しがきく攻防を兼ね備えた小太刀の二刀流。
超近接戦において真価を発揮するに対しアリカディアは全身に鎧を身に着けてことに加え、武器は取り回しのきかない長槍。
中距離戦に真価を発揮する武器でそこからの加速、そしてその重さを用いた一撃の重さは強力だが代わりに近接時の取り回しに難のある武器。それに加え鎧を身に着けているのにニアの攻撃を柳に風とばかりにスルスルと避け、逸しながら逃げていく。
「逃げてないで、戦ってください!」
「逃げてないわよ? 隙を伺っているだけで」
未だに有利なのはニア。その状況は変わっていない、その筈なのにその顔に焦りが募る。
(何、この嫌な感じは…)
例えるなら、今から背中に冷たい氷を入れられるかのような、一歩間違えれば奈落へと落ちてしまうそんな警戒からくる本能的な悪寒。
そんな悪寒を振り払うように、ニアは一歩深く踏み込んだ。
(お姉ちゃん、避けて!!!)
(ッ!!!???)
アニのそんな叫びを聞いた瞬間、ニアは本能的にアニの盾による防御だけでは足らないと理解したかのように防御を固めた直後、その眼にあり得ないものを捉えながら破砕音とともに大地を削りながら吹き飛ばされ地面を転がり、今度は先程のようにすぐに起き上がる事は出来なかった。
何せ、腹部には咄嗟に守ったとはいえど確かな斬撃の跡が、それを証明するかのように切り口からは鮮やかな血が流れていた。
「いや~。四日目で慣れたって油断して大概の子は殺れる初見殺しの技。なのに両断されないどころか、防御まで取るなんてすごいね!」
挑発ではなく、純粋な賞賛を上げながらニアが吹き飛ばされたことによって生まれた土煙。その土煙の中から姿を現したのはアリカディアだったが、その手に持っていたのは長槍ではなく、1メートルほどの短槍へと変わっていた。それも片手に一本ではなく、反対の手にも同様の短槍を持っていた。
「それじゃあ、種も割れていい感じに体が温まってきたことだから続けましょう♪」
そう、笑顔でアリカディアはニアに告げると同時に、ニアへと距離を詰め二本の槍をまるで演舞のように振るう。それに対してニアは先程とはまるで逆の防戦一方となる。
「くっ!?」
アニが作り出す不可視の盾である戦女神の守護楯によって幾つかは弾かされるが、それすら織り込み済みなのかアリカディアの猛攻は止まらない。
「ほら、まだまだこんなものじゃないはずよ!」
そこにあるのは、強者の瞳。それでありながら油断せずに奢らず相手が何をしてくるのか先程以上に警戒を怠っていない。故に下手な攻撃は自分の首を絞めることになる。
(ふえええ~ん!? お姉ちゃんのこのままじゃ押されちゃうよ~!?)
(分かってる、けど…!)
隙がなさすぎるとニアは思わず臍を嚙む。このままではジリ貧だということはニアにも理解できている。腹部の出血も多いものではないとはいえ時間が経てば血が失われて動きが鈍り、やがて待つのが敗北だと。
だが、今の状況においての打開策がないのもまた事実だった。今の状況はまるで高い壁を前にしているかのようだと、ニアは思った。
(でも、私は諦めない!)
確かに防戦一方。だがアニの戦女神の守護楯のお陰もあり幸い大きい傷は腹部だけでまだ負けてはない。さらに言えば目の前の敵は幽霊のような存在といえど人という体の実体を持った存在。故に、必ず勝利の道はあるとニアは防戦ながらアリカディアの一挙手一投足を、細かな動きを観察した。
(…あった)
そして、見つけた。か細い道であれどアリカディアに勝利するための道を。
次は少しずつ進めていきます。…不定期になりますが、宜しくお願いします。




