第四章 第七話 「楔の巫女」
出来上がりましたので、投稿です。次話…どうしようか考え中です…。
「グガアアァァァァ!!!!!」
「凄い」
「やれやれ、久々に見たが相変わらずの威圧よ。しかし、少々うるさいのでな。【そこで黙っておれ】」
「…!?‥‥!!!??」
「え、二人とも冷静すぎませんか…?」
ごく自然に霊力を乗せた言葉。【言霊】による神縛りによってドラゴンの声と動きは完全に縛られる。その手慣れた様子にニアは驚愕と同時に困惑した。
空気が震えておったのぅ。と感心しつつそう言う白夜は勿論、颯天が変じた人型のドラゴンに対して伏見の反応もニアの思っていた以上に冷静で。逆に突然の事に困惑ししている自分がおかしいのか。ニアが思わずそう感じていると。白夜がその種を明かした。
「何、わしらが驚いておらんのは知っておったからじゃよ」
「うん。教えてもらった」
「教えてもらったって‥‥それは、もしかして?」
「颯天」
予想していたが。二人にだけ教えて自分だけ仲間外れにされていた。その事にニアは疎外と僅かな怒りを感じていると。それを察した白夜はニアへ話しかけた。
「じゃが、今回ばかりは簡単に教える訳にはいかん理由もあったんじゃよ」
「伏見さんには言えて、私には言えない理由って一体何ですか!?」
思わず言葉に感情が乗ってしまったニアに白夜と伏見はそれぞれ互いを見た後、ニアへと向き直り伏見が口を口を開く。
「楔の巫女」
「え、楔の‥‥巫女?」
伏見の口から出てきた、聞いた事のない言葉である「楔の巫女」。それが何を意味するのかそれを知る為に、ニアは白夜の次の言葉に耳を澄ませる。
「楔の巫女。その名の通り、対象に己を楔として打ち込みを縛る巫女を指す名じゃ。そして、奉じる者の巫女になる者には自らの全てを縛る存在に捧げなければならない。命は勿論、己の自由の全てを差し出すという訳じゃ」
「全てを…」
何故、白夜が唐突にこんな事を言い出したのかが分からず、ニアは最初は困惑していたがその説明を聞いていくと次第にそれが何を意味するのかが理解できて来た。
「そして、楔の巫女になった者は祝福(呪い)をその身に受ける。その存在が死ぬまで死ぬことも許されずに永遠に縛られ続ける、そんな祝福(呪い)をな。さて。何故、わしが今その事を話したのか、分かるかの?」
「ハヤテさんの為に、死を含めたあらゆる自由を捧げる覚悟を私が持っているか、ですか?」
「それはお主が最も知っておるはずじゃろ?」
「‥‥」
白夜にそう言われ、ニアは沈黙を返す。確かにニアは自身の中に颯天へ全てを捧げる覚悟があるか、そうと問われるとそれはあると言い切れるもので。同じ女である故に白夜と伏見の二人であるならば、分かるはずで。
であるのに、意味深な言い方をした白夜はそんなニアの様子を見た後に静かに告げる。
「そうではなくての。これが最後、という訳じゃよ」
「…最後?」
「分かっておるじゃろ? 楔の巫女となるか、ならないかを。その機会が、じゃ」
「…っ!でも、勝負が決まってない私が楔の巫女なるのは…」
駄目なんじゃ? そう言いかけたニアに対して白夜は笑いかける。
「大丈夫じゃ。颯天は既に認めておるよ」
「…え? う、嘘を言わないで下さい!颯天さんが一体、いつ私を認めてくれたんですか!?」
言ってしまった後にニアはしまったという表情を浮かべたが、既に言葉となってしまったものは取り消せず。
しかし、そんなニアの言葉を聞いた白夜は相変わらず笑顔であった。
「まあ、分からぬのは仕方がなかろうて。じゃが、ニア。これはお主も聞いておったぞ?」
「え?」
「ほれ、颯天は言っておったじゃろ? 「後は任せた」とな?」
「…あ」
確かに、魔力に呑まれる直前に颯天はそう言っていたのを、ニアも聞いていた。だけどニアはあの言葉の意味は助けるのを任せたと思っていたのだが。
「でも、もし違ったら…」
「はぁ。今更臆病になるでないわ!」
「!」
「もし違っておったとしても、お主は自分の意志と想いを貫く覚悟を以て絶望的な相手である颯天に挑んだのではなかったのか!」
「そ、それは…そうですけど」
「それにの。夫を想い、時に対立する道を選び行動する。それもまた良き妻じゃろ?」
「…その通りですけど、なんか、言葉が違ったような気がするんですけど?」
「気のせいじゃろ」
そうしらばっくれる子供のような白夜にニアは何も言わず、自分の中の想いを確かめるように目を閉じ、目を開けたニアの目には芯の通った覚悟があった。
「私、楔の巫女になります」
「後悔はせぬな?」
「…はいっ! 私は死ぬまでハヤテさんの隣に居たいですから!」
「…そうか」
「!?」
覚悟とともに言葉にされたニアのその言葉。それを聞き白夜は静かに目を閉じた後、そこに居たのは人を越えた存在を感じさせる瞳がニアを捕え、ニアの体は動かなくなる。
そんな中で白夜は右手を伸ばすと親指を立て、人差し指を伸ばした先には、ニアの心臓があった。
「力あるもの、力無きしもの。天と地を繋ぎし契約の楔。力無きしもの者に力あるものの祝福と呪いを!」
「え?」
祝詞が終わると同時に白夜の指先に集まっていた白と黒の渦に渦巻く弾丸が形成され、撃ち出されニアの心臓を撃ち抜いた。
「…あれ?何ともない…?」
その事によってニアの体から力が失われ倒れるという事は起きず。ニアはまるで狐につままれたような表情を浮かべながら撃ち抜かれたはずの左胸を見るもそこに傷などなく。そもそも撃たれた事が嘘であるかのようであったが。そんなニアの様子とは裏腹に白夜はそっと息を吐いていた。
「…ふぅ。どうやら撃ち込んだ楔はちゃんと体に安定したみたいじゃな…」
「…もしかして、さっきの光が?」
自分の心臓に向けて撃ち込まれたはずの白黒の弾丸。それが白夜のいう楔だとするならば、今のニアは心臓に楔を撃ち込まれた状態と言えた。
「ああ。颯天に撃ち込むための楔(弾丸)を心臓に撃ち込んだのじゃ。勿論、肉体に影響がないのはあくまで霊的な楔を撃ち込んだからで、今は特に影響ないぞ?」
「という事は、後から影響が出るって事ですか?」
「まあ、それは後々分かるはずじゃよ。のぅ?」
「うん。今は気にしなくて大丈夫」
恐らく、既に楔の巫女となっているであろう伏見がそう言うのであればと、ニアは一旦その事を気にすることは頭の隅に一旦置いた。いや、置かざるを得なかった。
「おっと。どうやら少々しゃべり過ぎたようじゃの」
「来る」
「え?」
「…ル…ルル…ッ!…グルアアアアアァァァッッ!!!」
白夜と伏見。二人の言葉をニアが理解できたのはその咆哮が聞こえてからで。それでも先ほどとは違い体は強張る事無く小太刀を構える。
そんなニアたちの前で白夜の言霊【神縛り】によって動く事が出来なかった人型のドラゴンはまだ鈍いながらも動き始めており。
「‥‥わしの【神縛り】を破るとは。やはり、強くなっておるのか」
「‥‥」
聞こえないようにといった感じの白夜の小さな呟きにニアは自然と体に力が入ってしまうのを自覚した。何せ、この三人の中で一番強いであろう白夜の言霊を破ったドラゴンに対して、今の自分は役に立つのか、足手まといにならないかそんな不安がない訳ではなかったが。ニアは自分の中に顔を覗かせたそんな気持ちを抑え付け、自分たちを鼓舞する言葉を口にする。
「私たちで、ハヤテさんを助けましょう!」
「‥‥ふふっ。そうじゃの」
「うん。私たちで」
そんなニアの言葉に白夜は一瞬驚いた表情を浮かべた後に小さく笑い、伏見も小さくだが笑いながら猫耳と尻尾が生えた状態。猫又となり拳を構える。
「行きます!」
「合わせる」
全身に魔力を纏い身体能力を上げたニアが飛び出すと、それに並走する様に伏見も地を駆けドラゴンとの距離を詰める。
「グルルル!」
距離を詰めて来る二人を敵と認識したのだろう。ドラゴンからの視線に思わず気圧され竦みそうになる足を動かしニアは距離を詰める。
「ルアアアアァァ!」
咆哮。それと同時にドラゴンの表面の鱗状の魔力が幾つか本体から分離し、浮遊する。その数は八つ。そして分離した鱗は単騎で飛翔し、距離を詰めるニアと伏見へと飛来する。
それに対してニアと伏見はそれぞれ最初に飛んできた二つの鱗を剣と拳で弾き、または回避するが、弾かれ、回避された鱗は軌道を変えて再びニアたちへと迫る。それはまるで鱗自体に意思が宿っているかのようで。
更にニアたちの正面にそれぞれ新たに二つの鱗が迫り挟まれた状態となる。
「わしを忘れてもらっては困るの。「炎熱劫火」」
そんな二人の背中に向けて飛翔する鱗に向けて白夜はそう呟くと同時に、二人の背後から迫っていた鱗が劫火に飲み込まれる。
「それでは、始めようかの。我らが愛しの良人を助ける良き女の戦いをのぅ!」
「「はい(うん)!」」
白夜の言葉にニアと白夜はそれぞれ返事をし、人型のドラゴンとなってしまった颯天を助ける為の戦いが始まった。
今話、どうでしたでしょうか?いや~。それにしても熱いです…。皆様も体調に気を付けてください。
さて、今話に出てきた楔の巫女。これ意外と主人公とかかわりが深い人物が関係しているんですよね…何時かこの事を本編の何処かで書きたいと思います。
次話に関してですが、戦闘シーンですので苦戦しそうですが、どうにか執筆を頑張ります‥。
楽しみにしていただけるととても嬉しいです。また評価や感想、ブックマークなど頂けるととても励みになります。よろしくお願いします。
では、皆様また次話で。