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生産職ですが最強です  作者: シウ
第三章 精霊の森編
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第三章 第二十三話 「代償」

「まあ、その後はフランを託させての見ての通りだから割愛するとして」


「いや、そこも重要ではないかの!?」


「いや、これ以上に話を引っ張るのはそろそろ面倒だし話が進まないと興味も薄れるだろ? と誰かの言葉を代弁をしただけだ」


「急にメタイ事を言うでないわ!?」


 颯天の言葉に白夜は思わずと言った感じとツッコミを入れて。そのお陰もあり、やや重い感じの空気が幾分か緩和されたようだった。


「それで、どうなんだ?」


「そうですね。まず、ファザーという人物の説明は正しいです。女神の因子、それは私たち大精霊と人を生んだ母である創世の女神であるリュミエール。その力を受け継ぎ、異神を倒す為の英雄の証。女神の因子を持つ者が迷宮を踏破すれば、人の身という枷を壊し、宿る因子の力を目覚めさせ、神を殺す英雄とする迷宮。それが女神の迷宮(ラー・ラビリンス)です」


 ローレライの言う事を例えるとすれば、RPGにおける、一定事を成し遂げなければ上限が解放されないレベルキャップ。

 迷宮はそれを壊し、人の理を越えた者を生み出すそのようなものだと言うことだった。


「成る程。異神はそうでもしなければ勝てない存在、というわけか」


「はい。幾ら世界を救うためとはいえ、私達としてもそれが許されるべき事ではない事は承知しています。ですが、あれはそうしなければならない程の存在なのです」


「…そうか」


 ローレライの言葉には深い悔恨が混じっていた。だが同時にそうでもしなければ勝てない。そう思わせる存在である異神彼女達には、それしか方法がなかったのだろう。

 故にその理由を聞いた颯天はそれ以上、何かを言うことはなかった。


「ですが、私としては彼女達二人が迷宮に挑む事はない。そう思ってもいます。その理由は、お分かりですね?」


「俺、というわけか?」


「はい」


 颯天の問いにローレライは頷いた。そして、そんな彼女の言葉に颯天は否定しなかった。

 ローレライは颯天に宿る存在を認識している。そして、その力は颯天は知らない、異神の力を知るローレライは颯天であれば異神に通じる。そう確信しているようだった。


「やれやれ、また面倒な事を頼んでくるもんだな?」


「迷惑なのは理解しています。ですが、その方が良い。そう思っています。何故なら、フラン、そしてニア。因子を持つ二人が一度でも迷宮を踏破した場合、人ではなくなってしまうのですから」


「え、わ、私が女神の因子を…!?」


「はい。ですが、貴女は既にその片鱗を知っているはずです」


「…もしかして、あの見えない壁、です?」


 驚くニアに対してローレライは頷く。そして同時に颯天の中でも気になっていた事への答えとなった。


「…成る程、ニアのあれはそう言うことか」


 突如としてニアに目覚めた見えない障壁を創り出す、不思議な力。正確な名前などが分からないため、【壁】と呼んでいたが。それが女神の因子に因るものだと分かった。それは颯天にとって確かな収穫だった。


「女神の因子はそれぞれ司る部位によってその力が変わります。例えばフランですが。彼女に宿る因子は『血液と血管』。それは治癒、回復を司ります。そして、ニア。貴女の因子は『右手と左手』即ち攻撃と防御を司るのです」


「攻撃と、防御…」


 ローレライからの因子に関する情報。それによって明かされたのは、フランは治癒や回復を、そしてニアは攻撃と防御を司る因子を持っている事で。

 その事に、しかしニアは驚愕からか、何処から呆然とした表情で自分の両手を見ていた。


「今まで、迷宮を踏破した奴はいるのか?」


「いえ。因子を持っていてもそれを自覚できる者はほとんどいません。ですので、本当に運任せなのです」


「それでいいのか?」


「それに関してはどちらとも言えません。ですが、異神を倒す英雄になって欲しい願いと同じ様に、英雄とならず人として死んでほしい。そう思っているのです」


 ローレライの独白には、世界を滅ぼす異神を倒したいが、同時にそんな事情に人を巻き込みたくない。そんな相反する2つの思いが感じ取れた。


「優しいな」


「いえ、私が優柔不断過ぎるのですよ」  


 自嘲気味に微笑むローレライの姿に、颯天は仕方がないか。そう思い言葉を発しようとした時だった。


「私、女神の迷宮に挑戦したいです…!」


「「「「「…え?」」」」」


「私、英雄になります!」


 ニアの唐突な宣言。

 それに対して颯天だけに留まらず、同じくテーブルを囲んでいたウラノス、ローレライを含めた全員が驚きの表情でニアを見て。

 みんなからの視線を受けてニアは僅かにひるんだが、直ぐにそれは消え、残ったのは覚悟の籠った眼だった。


「いや、ニア。さっきの話を聞いていただろ?もし迷宮を踏破すればお前は人の枠を超えた人外の存在である英雄になるんだぞ?」


「颯天さん…」


「そうじゃ、良く考えるのじゃ!人であれどお主は強くなれるし、力も使える。じゃが一度人の道から外れると戻ってこられぬ。英雄とは理から外れた存在。その道行は険しいものじゃ。後から後悔しても遅いんじゃぞ?」


 颯天と白夜はそれぞれニアを説得するためにそう声を掛ける。声に出してはいないが伏見とローレライ、そしてウラノスも心配げに見ている事に気が付きながら、自分の願いを叶えるためにニアは改めて宣言する。


「私はいつまでも、颯天さんが死ぬその時まで一緒に居たいです!でも、今のままじゃ私は颯天さんに、そして皆の後ろで守られてばかり。それは嫌です!苦しい思いをするかもしれない、後悔もするかもしれない!でも! 私だって、皆と、颯天さんと肩を並べて戦いたいんです!その為なら、私は人である事を、辞めます!」


 颯天と白夜の言葉にニアは迷いなく改めてそう口にして。パァンと乾いた音がして、誰もがその音に驚き、それは頬を叩かれたニアもだった。


「颯天‥‥さん‥‥?」


「もし英雄になる。そう言うなら、お前とはここまでだ。ニア」


 その言葉に一切の感情も温度もなく、それは機械的なまでの言葉で。ニアが見た颯天の顔は何の表情も、感情も感じ取れないほどの無表情で。そのまま颯天はニアへと背を向ける。


「もう一度、考えろ。いいな?」


 その言葉を最後に、颯天は音もなく姿を消し、あとに残ったのは初めて見た颯天の表情に驚いて固まってしまったニアと、突然の事態に混乱する者達と。


(颯天、お主はそれほどに‥‥)


 先ほどの颯天の動きに思う事があった白夜は、思わずため息を吐きたくなった。


(ニアを叩いたのは、戦わせたくはない。されど本人の意思を尊重したい。その覚悟を問う為とはいえ、不器用すぎるじゃろ…)


 既にこの場から姿を消した颯天に、白夜はそう思わずにはいられなかった。

第三章はこの話で終わりで、次からは第四章になります。第四章のタイトルは既にあるのですが、異動によって仕事が忙しくストーリーの構築に少し時間が掛かってしまっていますが、出来得る限り早めの投稿を出来るようにしていきます。

どうか、読者の皆様、第四章もよろしくお願いします。

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