第三章 第二十二話 「女神の因子」
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地上に降りた後、颯天たちを迎え入れたのは歓声で。そこからはヒュドールと森の民の厚意から空き家となっている家を借りて、さらに仲間が無事に帰ってきた事と、森を襲った凶星を消し去ったお礼を兼ねて宴が開かれて。
「「「「かんぱ〜い!!!」」」」
帰ってきた颯天、白夜に伏見、ニアにアルレーシャ、そしてウラノスは幾つかあるテーブルの内の一つに村人達と伏見とニアが作ってくれた料理を囲み、それぞれ料理を食べ、楽しみ。その席には実体化したヒュドールの姿もあった。
ヒュードル曰く。
「食べなくてもいいんですが、美味しそうな料理を前に我慢できません」との事で、食べれる事も味覚がある事も発覚するというそんな事もあったりした。
「…なるほど。つまりウラノス。お前は神を殺すために、ローレライの体を狙った、という訳だな?」
「‥‥そうよ」
そう答えたウラノスの両腕にはそれぞれ鉄製の、腕輪が付けられていた。作ったのは勿論、颯天で。
颯天の職業である錬金術師の【技能】の一つである『錬金術』に新たな項目が幾つかあり。それらは「物質変換」と「形状変化」、そして「付与」と「反転」の四つ。
その取得した【技能】を使って颯天はヒュドールの加護で魔力を含む土を「物質変換」で鉄へと変え、「形状変化」で腕輪の形にし。更に腕輪に「付与」によって魔力吸収を施した後にその能力に「反転」を施し、一定以上の魔力を放出する魔道具で。
勿論、放出するだけではなく、吸収もしておりその魔力で腕輪の強度を上げているので、頑丈さも折り紙付きだ。
「なるほどな…。そして、アルレーシャと戦って、その後興味を持った白夜に持てる全力を以って戦って敗れた、と」
「ううっ‥‥美味しい」
颯天の口から語られる揺るがしようのない事実にウラノスは俯きながら、ちゃっかりとテーブルの上に並べられていた料理の内の一つを取って悔しそうに、けれど美味しそうに食べる。
「何というか、今日一日でそれぞれが激動の一日だったわけだな…」
こんなこともあるのか? と内心で余り経験したくない事だな。と内心で思いながら颯天は手直にあった魚の揚げ物を口に入れる。
「そうじゃのぅ。たしかに大変じゃったが、それよりもその娘は?一体どうしたんじゃ?」
「ああ、フランならそこにいるぞ?」
白夜からの質問に颯天が指を差した先に居たのは、手のひらサイズの大きさの少女が美味しそうに伏見がある食材で創作したチャーハン擬きを美味しそうに食べているところで。
「ふむ、改めて見ても信じがたいのぅ」
美味しそうに食べる小さな少女、フランを白夜はしげしげと眺めていると。
「!」
「っと」
視線に気が付いたのか、まるで逃げ込むように颯天の首元に抱き着くとそのまま首の後ろに隠れてしまった。
「ふむ、怖がらせたかの?」
「いや、ちょっと恥ずかしがり屋なだけだよ。ほら、これで食べな?」
白夜の言葉に颯天は笑いながら果物を手に取り、話しかけながら少女の前に持っていくと、少女は嬉しそうに果物を持つと颯天の肩に移動すると嬉しそうに食べ始めて。
「かわいいですっ!」
「…強敵」
「‥‥」
自分より大きな果物を食べるその様子にニアは微笑ましく、ニアは意味深な事を言い。白夜は興味深げに見るという三者三様の反応をして、ウラノスも横眼だがフランを撫でたそうにその様子をしっかりと見ており。そんな微笑ましい空気の中。白夜は改めてそれを連れ来た張本人である颯天を見た。
「‥‥なるほどの。どうやら見る限りでは主殿の事を余程、信頼しておるようじゃが、先ほどとの大きさの違いといい、そやつ、何者なんじゃ?」
「フランは人工生命体だ。それもただの人工生命体じゃない。女神の血、血管を司る因子を持つ、そうこの子の父親は言っていた」
「‥‥それは、本当なのですか?」
女神の血、血管を司る因子。その言葉に最初に反応したのは水の大精霊であるヒュドールで、その表情は驚いたような表情で、だが颯天と白夜は気づいていた。その表情は何も知らない表情ではなく、知っていた事を再び聞いた事に対する驚きだと。
「ローレライ、何か知っているんだろ?」
「…はい。知っています。女神の因子、その言葉の意味もその因子が持つ者が現れる意味も、全て」
「なら、教えてもらえないか? 女神の因子。それに関連する知っている全てを」
「分かりました。ですがその前にお聞きしたいのですが。その子は人工生命体との事ですが。一体どのような経緯であの子を預かる事になったのですか?」
「そうだな…。いい機会だから皆にも教えておくか」
そして、颯天は白夜が作った異界に戻ってくるまでの、森の民を助ける為にゲルトゥーア帝国へと潜入して森の民を解放した後に出会った、フェンと共に地下遺跡を利用した牢獄の遥か下にあった古代科学文明が作り出した施設管理統括AIであるファザーとの事を話し始めた。
場所はゲルトゥーア帝国の北東、キゲル地下遺跡の更に下にある超古代科学文明の内部で、マザーを倒して一息ついた時だった。
「この世界は既に二度、神によって滅ぼされた」
「…何?」
「事実だ。一度目は私が作られた時代よりも遥か昔に。二度目は、私が作られた時代だ。一度目の滅びが確認されたのは地層の研究によって判明した」
「つまり、表面上は消えてなくなっても、その情報が大地に残っていたという訳か?」
「いや、逆だ。地層に一切の情報が残ってない時代があったからだ」
時間と共に築かれる見えざる歴史の標本である地層に、一切の情報、即ち人や動物であれば食べ物や排泄物、植物であれば種子や根っこといったものが焼かれたにしろ、灰にされたとしても、破壊などその痕跡は必ず残る。
それが一切なくなったという事はあまりに不自然で、結果とその時代に何かあったと推測することは容易だったという事だった。
「‥‥そうか、何も情報が無い事が、そこに何かあったと証明していたという事か」
「そういう事だ。そしてそんな不可解な現象を起こせるのは、一つしかなかった」
「神、という訳か?」
確かに、それほどの超常的な事を起こせるのは人ならざる者でなければ起こせない。高度な科学技術を持っているが故にその不自然な事柄は鮮明に浮かび上がる。
「もちろん、当初は半信半疑でもあった。だが、その時代の地層を調べての結果はどれも解析不能だった。だがある時、地層の調査と発掘をした際。地層の中にただ二つだけ見つかった石碑があった」
「石碑だと?」
「ああ。これだ」
二足歩行ロボットのモノアイから投影されたそれは、縦四メートル、横三メートルほどの大きさの石碑で、そこには確かに見たこともない文字と絵のようなものが刻まれていた。
「これ材質は不明だが、一つ目の石碑には一人の女性と四人の妖精と、それと対するように一人の男と背に羽をもつ十二人の人が描かれており、翻訳した結果、こう書かれていた。「箱庭、異神と使徒により女神と共に滅ぶ」と」
「なるほど、女神の箱庭が世界だとして、女神はその異神と使徒との戦いに負け、世界は一度滅んだ。ということか。だが、この石碑は一体誰が?」
一度滅んだ世界。勿論その後は異神によって作り直されたのだろうが。一体どうやって滅んだというのに石碑を残す事が出来たのか、颯天には不思議に感じていると。
「恐らく、女神の眷属である四大精霊の力を合わせて作られたのだろう」
「四大精霊の力でだと?」
颯天が会ったことがあるのは水の大精霊、ヒュドールだけで。その魔力の厚みを知っているので残りの三つの大精霊も同格だとすると世界が滅んでも残る石碑を作るという事も不可能でないように思えた。
「ここから先は推測になるが、作り直された世界で異神の存在を知らせる為に自らの存在をも削って作ったのだろう。そして弱った大精霊達は休眠状態になったのだろう。世界に溶け込み力の回復に努めたのだろう」
「なるほど。そして石碑を掘り出したその時代の人類が石碑から情報を得て、女神と異神という存在を知り。異神に備えて生まれたのがお前やマザーという訳か?」
「ああ。その通り。人型戦闘機巧は異神に対抗するための手段の一つだった」
「道理で手強いはずだよ」
ファザーの言葉に、遺跡の防衛に過剰という訳では決してないが。それでも強すぎるマザーの戦闘能力の訳に颯天は納得した。
「因みにだが、今現在、マザーの同型は十体製造され、うち五体は異神との戦いで破壊されたが、残りの五、いや四体が残っている」
「残ってるのかよ…」
マザーと同じ奴がもし四体も相手にすることを想像して颯天は背中に冷たいものを感じていると。
「ところで、もう一つの石碑には、なんて書いてあったんだ?」
今まで興味なさげに黙っていたフェンは気になっていたのか、ファザーにもう一つの石碑について尋ねると、ファザーは中央部にある円筒形の強化ガラス内で眠る娘の近くに行き足を止めた。
「もう一つの石碑には、こう記されていた。「女神の加護を受けしもの、その加護の名を女神の因子。加護を受けし者、女神と眷属が作りし迷宮の試練を越え、世界を救う英雄となる者」と」
「‥‥なるほど、女神の因子ってのは、謂わば世界を救う英雄の資格を持っているって訳か」
「そういう事なのだろう。そして迷宮に入るには女神の因子を持たなければ入ることが出来ない。私はそのように予想している。そして、この場で改めて頼む、私はこの場から離れられない。此処に居ても狙われる可能性がある。故に力を持つお前に「娘」を託したい。頼む」
ファザーはそう言い、頭を下げてきた。AIと言えど颯天はそこに確かな人と同じ感情と、想いを感じた。故に。
「分かった、お前の「娘」は、俺が守ろう」
頭を下げるファザーに、颯天は自身が持てる最大限の誠意をもって、その願いを叶えた。
颯天の回想はこれにて終わりです。
次はヒュドールかな?と思います。次話をお楽しみに。