第三章 第二十一話 「終息と帰還」
「「……」」
白夜とウラノスの戦いを見る第三者。白夜の結界に守られたアルレーシャとニアの二人は、戦いの凄さににそれぞれ言葉を発せずに無言。二人のその反応の根幹にあったのは圧倒的なまでの戦いを繰り広げる二人で。アルレーシャは開いた口が塞がらない状態だった。
(あれは、世界が違い過ぎる…)
先程は巨大な氷塊が作られたと思えば、突如としてそれが炎によって綺麗に一閃にて両断されて。
その後は何処か怖さを感じるオーラを感じた後、突如として大地が吹き飛び底が見えない渓谷が出来上がり。
その後には白夜と思しき魔力とは違った、されど圧倒される何を感じて。
その果てに、両者がぶつかったことで雲が割れて。
アルレーシャは白夜とウラノスの戦いを間近で目の当たりにして、強くなっていたと思っていたが今の自分では叶わない。と感じながらも歯痒さを噛み締めている一方で。
(…なんだろう、これ。…懐かしい?)
ニアはウラノスと白夜。二人の戦いを見ている中で、ウラノスの姿が見えた時、まるで遥か昔に別れた存在に物凄く久し振りにあった。そんな感覚を感じており、伏見は無言で戦いを眺めており。
そんな中でも、二人の前で黒いオーラと紅い炎が再びぶつかり戦いは激化していく。
「やれやれ、不死身と剣の記憶。凶悪な組み合わせもあったものじゃな!」
口元に滲む血を拭いながら、白夜は【深紅】を、ウラノスもノートゥング振るい、火花を散らし互いに激突した後、距離を取り再び詰め互いに剣を交えた数は既に百を超え。その影響は甚大で地上は豊かな黄金の稲穂は炎に呑まれ、切り裂かれて深い谷底を作り、奈落思わせる口を開けており。空に関しては空間の裂け目のような物が幾つか見えた。
「やれやれ、これは然程長くはもちそうにないの…」
視界の端に見える自らが生み四神の力をもってして強化した結界だったが、白夜とウラノスの幾度とないぶつかりに限界を迎えつつあるのは、明らかだった。
「そろそろ、終幕も近いようじゃ。のう、ノートゥングよ?」
「‥‥意思があると、何時気が付いた?」
ウラノスの口から聞こえた声はウラノスではなく。その声音はまるで長い年月を生きた老人のような深みのある声で。
「何、初めからじゃよ」
「…ほう」
種明かしをしつつ、白夜は肩を竦める。推測など容易だった。ウラノスがノートゥングに魔力と自身の血を注いだ後から、ウラノスの魔力からの波動が変わった。だがその変化は極微細にして一瞬で。
常人であれば感知することは不可能と言えるほどで。だが、軽く本気を出したお陰で見逃すそれを感じ取ることが出来たのだった。
「なるほど。流石は長く生きる狐よ。ならば、私が口を開いた意味も、分かるか?」
「もちろんじゃ。この世界もそう長くは持たん。故に楽しむための全力を出す為、じゃろ?」
「ああ、その通りだ」
その言葉の直後、ウラノス、いやノートゥングは今までの抑えていた力を解放し、剣を握る左手から始まり、体の半分が装甲に包まれるが、そこまでだった。
「ふむ?そこで終わりかの?」
「…仕方あるまい。今の状態ではこれが限界だ。とはいえここまで出来たのは、この娘の力があってこそだな。悪い」
「謝るでない。では、わしも今の状態で出せる全力を出そう」
半分の時点で、既に先ほどよりも明らかに強くなっているノートゥングに対して白夜は尋ねるが、ノートゥングは冷静にそう語り、出せる全力を出したノートゥングに対して白夜は少しばかり残念そうな顔をした後、約束の為に白夜も出せる力を解放し、白夜の体から可視化できるほどの霊力が放出され、その霊力は一本の、尻尾の形を取った。
「では、最後の戦いだ」
「うむ」
白夜もノートゥングの間にあるのはただ相手に敬意を表し、互いに出せる全力を持った戦いをするだけだけで、二人は剣を構える。その間に流れるは、無言。
だが、それは嵐の前の静けさに過ぎず。
「「ッ!!」」
まるで示し合わせたかのように動いたのは同時、だが対格差もあり僅かにノートゥングの動きが早く、均衡は崩れる。
「はあああぁぁっ!」
「…はあっ!」
先に剣を振るったノートゥングの剣を白夜は寸分の狂いもなく打ち払い、打ち払われた事によって僅かに体勢を崩したノートゥングに【深紅】を振るうが。
「【凍空(フレズ】」
「なっ!?」
突如として放たれた魔法【凍空】は一歩踏み出そうとしていた白夜の足の動きを僅かにだが鈍らせ、その間にノートゥングは後ろへと距離を取り。
「【三魔法混合術式】氷雷炎蛇」
「…そうか」
更に距離を取る最中に放たれるは氷・雷・炎の頭を持つ三つ首の蛇で。それに対して白夜が浮かべたのは、歓喜に満ちた笑みを浮かべ。
「最後に。驚かせてくれた礼をせねばな」
そう言い、白夜は霊力を喉へと収束させ。
「散れ」
決して大きくはない、されど良く通る白夜の言葉として口にした瞬間。言葉に乗った霊力の圧にウラノスが放った氷雷炎蛇は形を失い、弾け飛び消滅した。
「言霊、久方ぶりに使ったのぅ」
「…消し飛ばした‥‥?」
目の前で起きた事実にウラノスは驚いていたが、それに対して白夜が疲れた様子はなく、軽く喉を摩っていた。
「ふむ、思った以上の強さで少々喉が疲れたがの」
何とでもないようにそう言った白夜がしたこと。それは言霊。力ある言葉を以って本来は対象に干渉して阻害を主とするもので、氷雷炎蛇が弾け飛んだのは、言葉に乗せた霊力のごり押しでウラノスの魔法を霧散させたからだった。
しかし、本来の言霊がこのような力技で行うようなものではなく、相手の油断を突く様にして行うのが常套手段であり、白夜がしたのは通常は出来ず、負担も大きい霊力で魔力を押しつぶした原始的で誰しもができる方法ではない。だが、単独ではなく複数の魔法を混ぜた氷雷炎蛇に対しては効果的な手段だった。
「さて、どうする? まだ続けるかの?」
敢えて霊力を放出しながら白夜は問う。
白夜としては、ノートゥングと目覚めたウラノスの二人と戦う気はなかった。何せ、戦えば自分が勝つ。その未来が見えたからだ。
更に言えばノートゥングは全力ではなく、体の主であるウラノスが目覚めたとはいえノートゥングを目覚めさせるために魔力と血を消費しすぎた影響で魔法の威力もガタ落ちしており。更に言えばこれ以上は異界が持たないという理由もあった。
もし戦えば、元の世界に戻った時に眼を付けられる可能性もあった。
「そうだな。ここで終わりとしておこう」
「ノートゥング!?」
「あの者との実力の差はもはや分かっていよう? それにこの提案は悪くはない。そうであろう?」
「うむ。わしが出来る限りの事はしよう」
ノートゥングの言葉に白夜は頷く。白夜としてもここでウラノスを消すのは惜しいと思っていた。故に
アルレーシャの説得を引き受けるつもりだった。
「けど、私はまだ‥‥っ!?」
「気が付いたか? そうだ。我々は縛られているのだ」
白夜が放った先ほどの言霊。あれはウラノスの魔法を押しつぶしたのみならず、ウラノスの肉体、ひいてはその根源にある魂を威圧し、動けなくなるようにしていたのだった。
「さて、改めて聞くが。どうする?」
「!!」
白夜は先ほどより少しばかり霊力を上乗せした言霊にウラノスはびくっと体を震わせ、されど目じりに少し涙を滲ませて直ぐに睨み返してきたが。
「どうやら、眷属の勝負もついたようじゃぞ?」
少し離れた所で立っていたのは真菰で、その真菰の腕に止まっていたのはウラノスがシェードとなずけた影梟王で。その体は心なしか小さくなっているように見えた。どちらが勝者であるかは明白だった。
「…私の、負けよ」
「そうか。では、これで終わりじゃ。それに、ちょうど来たようじゃしの」
「‥‥来た?」
負けを認めたウラノスに対して白夜はウラノスを見ておらず。白夜は空に出来た空の裂け目、その内の一つに眼を向けており。
視線で尋ねても答えられなかったウラノスもその答えを知るために視線の先を追いその先を見ると、そこに居たのは黒衣を身に着けた男、颯天が眠る少女を背負った状態で立っていた。
(どうやら、派手にやったようだな、白夜?)
(ふん。帰ってくるのが遅すぎるぞ、主殿? 所で、大丈夫か?)
(ああ。帳は張ったよ)
そして、そんな互いの言葉を念話で交わした直後、白夜が創造した異界は破砕音と共に崩壊し、壊れた先に元の世界が現れ、外は、もうすっかり夜になっていた。
「取り敢えず、夕飯にでもしよう」
そう言って一足先に颯天は地上へと降りていき、それに続くようにそれぞれが地上へと降りて行った。
かなり駆け足気味でしたが、次は颯天の方を書き出して、その後に三章のエピローグに入ろうかと考えていますので、よろしくお願いします。
また読者の皆様。高評価とブックマーク、本当にありがとうございます。これからも執筆を頑張っていきます。




