第三章 第九話 「難攻不落への潜入 下」
気がついたら約三ヶ月経ってました…。
久方ぶりに、ようやく話が浮かびましたので、短いですが、投稿です。
時間が空いてしまい、申し訳ありませんでした。
助け出した狼少女、フェンを連れ、颯天は近くにある檻へと移動する。その中には震えている幼い少女の姿があった。フェンに目配せをした後、颯天は怖がらせないために姿勢を低く、更に優しい声音で話しかける。
「大丈夫か?」
「ひ…ッ!?」
颯天に声を掛けられ、俯いてた少女は顔を上げるも、目の前に黒一色の男が立っていれば驚くのも当然で、物凄い速さで檻の奥へと下がると、両手で熊の耳を押さえて再び踞ってしまった。
(そ、そこまで驚くか…?)
優しげに声を掛けたのにそこまで驚いて逃げなくても、と軽くショックを受けると同時に、強制的にここまで連れ去られてきた事を考えれば仕方がないか、そう自分を納得させていると。
「ふふふっ。君は案外と不器用なのかな?」
背後から小さな笑い声と共にそんな声が聞こえた。
「…任せていいか?」
「ああ。この場合は私の方が適任だろうしな」
先ほどのフェンの言葉をスルーしつつ、颯天は頼み、それにフェンはまだ少し笑いながらも了承し、颯天と立ち位置を入れ替わる。
「相変わらずだな、キィ?」
「え…、あっ、フェ、フェンお姉ちゃん!?」
フェンの声が聞こえたのか、再び顔を上げた少女は目の前のことが信じられないのか驚きの声を上げた。
「ど、どうやって外に出たの!?」
「なに、この黒づくめ、シャドウに助け出されたんだよ」
と、後ろに視線を向けつつ、そして、暗に大丈夫だとフェンは告げながら言うと、キィと呼ばれた熊耳少女は先ほどとは違い、まだ警戒心を解いたわけではないだろうが、先程みたいに怯えるという様子はなかった。
「ほ、本当に……?」
「ああ。その証拠に私は外にいるだろ?」
「う、うん…。でも、どうやって?…」
「それは、実際に見た方が早いだろう。…頼む」
フェンにそう言われ、颯天は頷き檻へと近づくと、それに比例して熊耳の少女も距離を取るが、それも仕方ないと思いながらもフェンを助け出したのと同じ方法、魔力を浸透させ檻の格子を左右へと開き人が通れるように変形させる。
「ふえ?」
目の前の現象が信じられないのか、熊耳少女も瞬きをするも、その光景が変わることはなかった。
「ほら。キィ」
「う、うん…」
開いたそこからフェンは檻の中へと入り熊耳少女へと手を差し出すと、熊耳少女はその手を取り立ち上がり、二人仲良く檻の外へと出る。
「と、こんな感じだな」
「……」
フェンの言葉に対して、熊耳少女は信じられないと言わんばかりに、改めて自分が出た檻を見ていると、まるで巻き戻るかのように開いていた格子は元へと戻る。
「よし、それじゃあ時間もそれほどある訳じゃないからな。早く次に行くぞ?」
「ああ、そうだな。どのように脱出するのかも気になるが、それ以前に君は一人しかいないから、急がないとな」
「うん? ああ、「「そんなことは無いぞ?」」」
「は?」
「ッ!?」
そう言うと、颯天の体が一瞬ブレたかと思った瞬間、颯天が二人になっており。目の前で二人に増えたその様子を見たフェンとキィはそれぞれ信じられないモノを視てしまったかのように、驚愕の表情を浮かべる。
「俺は自分そっくりの存在、所謂「分身」を作れるんだ。だから」
「効率は全く問題ないぞ?」
同じ存在であるがゆえに、互いの思考を読むことは容易でありこのような芸当が可能になるのだが、初見のフェンとキィは衝撃が大きかったのか、更に驚いていた。
と、このようなことがあったものの、その後は復活したフェンとキィと一緒にそれぞれ颯天が行動し、助け出した人を一か所に誘導するために、更に分身をして二人と助け出した獣人達を驚かせるといった事がありながらも救出は順調に進んだ。そして最後の檻から獣人達を助け出すと、そのままエルフ・獣人達を集めていた場所、監獄の中央へと移動する。
するとそこには颯天が助け誘導して集めた、誘拐された女、子供を含めて凡そ50人ほどのエルフ・獣人達がおり、同時に27人の颯天が周囲を警戒するように円陣を組んでいた。
姿や恰好、それら全てが同じである人間が複数人居るというその様子は不気味ともいえるが、既にフェンやキィから説明されているお陰で、混乱は無かった。
(どうやら、問題なく集まれたみたいだな)
そんな所に、フェンと一緒に颯天は歩いていくと、気が付いた獣人達が近づいてくる颯天へと顔を向ける。その中には、怯えに似た感情を抱いている者も居ると颯天は気が付いたが、気が付かなかったフリをして、颯天は足を止めると、フェンは一歩、颯天の前に立つ。
「皆、知っているだろうが今一度言っておこう。彼、シャドウは仲間たちの依頼で、私たちを救出するために危険を犯してまでこの監獄へと助けに来てくれた。そして、脱出の手助けまでしてくれるそんな彼に対し、不審があるの者がいれば、正直に名乗り出よ」
「「「「「「‥‥‥‥」」」」」」
フェンのその言葉に、名乗り出る者は居なかった。彼らは分かっていた。確かに一人の人間が複数人に別れ、それが全く同じ容姿と恰好でありながら明確に恐怖心を抱かなかったのは、フェンと何より人見知りのキィ。この二人がシャドウと名乗る男を信頼しているのが分かったからだった。
だが、そんな中、小さな幼い声が聞こえた。
「ど、どうやって、お家に帰れる、の?」
「ふむ。確かに、それは大切な事だな。それでシャドウ、一体どうやってこれだけに人数をここより脱出させるつもりなんだ?」
その声の主は、まだ母親から離れるには少しばかり早いエルフの子供で、その問いにフェンはやや大仰に頷くと、悪戯交じりの視線をフェンは颯天に向けつつ尋ね、それに対して颯天は肩を笑いながら竦める。
「まあ、それは今からのお楽しみ、ってやつだな。大丈夫なら今すぐ行うが」
大丈夫か? と言外に尋ねると、フェンは直ぐに頷いた。
「ああ。一体どのように脱出するのか見物だからな」
「分かった。それじゃあ全員、動いてもいいが、円陣の中に居てくれ」
そう言うと、颯天はフェンの前、円陣のぽっかりと開いていた場所に移動すると同時に印を組むと同時に言霊を口にする。
「是なる影は門、光より映し出されし門」
言霊により増幅された詠唱によって颯天の足元にあった影が獣人達が一塊になっている中心部分へと一直線に伸び、それは分身達の影からも同様に伸び更に一つになるとその形は円環となり、更に白と黒の二色、太極図となり回転を始める。
「影在りしところに、光あり。我らを光の元へと誘いし境界の門よ、今開け!」
円環となり、白と黒に別れた元影は獣人達の足元が強い光を放つ。
「影辿光邂」
最後に、鍵となる言葉を口にした瞬間、辺り一帯を包み込み、光が晴れたその場所には先ほどまでいた獣人達の姿と、27人もいた分身の姿も忽然と消え失せていた。
「‥‥ふぅ、取り敢えずは成功か‥‥で、なんでいるんだ?」
「ふむ、やはりバレたか」
颯天の問いに答えたのは颯天の丁度視界に入らない場所に立っていた、フェンの姿で、颯天の問いにフェンは悪びれもなくそう答えた。
「ワザと、転移の瞬間に陣から移動したな?」
「ああ。まあ、なんとなく半分は賭けだったけどな。ああ、安心しろ。キィはちゃんと彼らと一緒に行った。それよりあの時厄介な存在が来る、そんな気がしてな?」
「‥‥はぁ~、まったく‥‥」
何処かワクワクといった感じのフェンのそんな言動に、颯天はため息を吐くしかなかった。何よりフェンが言った厄介な存在が来る。それに似た予感が颯天にもあり、だから全員を集めて然程時間を掛けずに事前に転移先を設定して場所へと獣人達を転移させたのだ。
そしてその後は可能な限り早く戦闘を終わらせ、即座に離脱をと颯天は考えていた。だが一人ではなくフェンが居る事によってそれが不可能となってしまったが、今更それを言っても意味が無いのは理解していた。であるならばと、颯天は決めた。
「はぁ、こうなったら仕方がない。フェン、自分で残ったんだ。手を貸せよ?」
「ああ。 仲間を傷つけない為に我慢していたからな。腕が鳴る」
そう答えるフェンはまるで先ほどとは別人と思えるほどで、先ほどまでを鞘に収まっていたとするならば、今は刃が剝き出しの状態といえた。
「その言葉を信じるが、無茶はしてくれるなよ?」
「さて、それはシャドウ。君次第かな?」
そんなフェンに頼もしさを感じ、颯天は僅かに笑みを浮かべると、その隣にフェンが颯天と似たような笑みを浮かべながら並ぶ。そして颯天は刀を、フェンは拳を構え警戒していると、颯天とフェンの二人の耳は奇妙な音を捉えた。
今話で潜入は終わりで、次話ではいよいよ(?)戦闘です。敵が何かはぼんやりと形はありますので、早ければ今月にもう一話、遅ければ来月に投稿となる。予定ですので気長にお待ちいただけると幸いです。
それでは、今回はこれにして失礼します。ブックマーク、評価や感想など頂けると励みになりますので、宜しくお願いします。それでは皆様、また次話でお会いしましょう。