第三章 第七話 「難攻不落への潜入 前」
時間が空いた割に短いですが、投稿です。どうぞ
タイトルの通り、前後か、前・中・後のどちらかになると思います(多分)
颯天が出立して、およそ半日が経つという時だった。
「‥‥退屈」
「…ですね」
イルミナス城の来賓が泊まることを前提とした客間にて、伏見は読んでいた本から顔を上げると、目の前のソファで横になっていたニアは体を起こす。
「でも、ハヤテさんには待っているように言われましたし…」
「うん。だから、私たちに出来ることをしようと思う」
「私たちに出来る事、ですか?」
「そう」
伏見の言葉に、ニアは不思議そうに頭を傾げたが、伏見は机に本を置くと立ち上がり、そのままニアの空いた隣へと座ると、じっとニアを見る。
「ええっと‥‥なんですか?」
「貴女は、魔族との戦闘の時、気を失っている時に私でも砕けない障壁を展開していた。結局、颯天が周りの障壁に干渉して【分解】して、触ることで解除できたから良かった。でも、だからこそ何か知らない? 嫌じゃなければ、あの時、どういった気持だったか、そんな曖昧なモノでもいい、思い出してみて?」
「分かりました‥‥やってみます」
伏見の質問に、ニアは頷くと、自分でもあまり思い出したくはないが、しかしまた同じような事になった時、次はハヤテでもどうにもならない。そんな事態を避けたい。ニアを失いたくない。だからこそ、辛いかもしれないけどその切っ掛けを思い出してほしい。そんな伏見に答えるように、あの時の覚えている範囲の記憶、感じた思いを思い出す。
(確か、あの時。私が思ったのは‥‥死にたくないってまず思った。そして、その後は‥‥護りたい…?)
魔族からの攻撃で、死を意識した時に何故か、自分は伏見を。同じ男を好きになった仲間を失いたくない。そう思った
「死にたくないって、思いました。そして‥‥その、私だって伏見さんを護りたいって、思った、と思います」
「うん‥‥大まかな予想が出来た」
「え!?」
たったあれだけの情報で、伏見はなぜ自分が記憶にはないが、周囲に障壁を展開するという事が出来たのか、ニア自身は理解できないなか、伏見は口を開く。
「外れているかもしれない。けど恐らく、ニアがあの不思議な力が発現したのは、死にたくないって思いより、護られるんじゃなく誰かを護りたい。まだ仮説だけど、そんな想いが関係している…のかもしれない」
「護りたい、想い…」
「そして、もしニアのそんな想いであの状態になったのなら、経緯はどうあれ、私は嬉しい」
「え?」
今までは、護られてばかりだった。力が無いのは自覚しているし、何より颯天のみならず伏見もニアから見れば圧倒的強者で、無力な自分が護るなんて烏滸がましく、更に迷惑をかけてしまった。そんな力なんて。
そんな風に思っただけに、伏見の言葉はニアにとっては衝撃だったが、伏見は何とでもないように話す。
「だって、それは助けるだけじゃなくて、助け合えるってこと。私一人じゃ駄目でも、ニアとなら越えられる。そう言う事じゃない?」
「それは、そうですけど…」
でも、なんでああなったのか、それが分からないから無理じゃあ。ニアはそう言おうとしたが、それを言う事は出来なかった。
「…外が騒がしい」
「え?」
そう言うと伏見は突然立ち上がると、そのまま部屋を出ていき。
「あ、ま、待ってください!?」
伏見を追うようにニアも慌てて部屋を出て、伏見の後を追い、二人はそのまま騒ぎの大本の場所。イルミナス城の外へ出るとそこにはウマから降りた、颯天と一緒に「水精霊の森」へと出発したはずのアルレーシャの姿があった。
「という事だ。故にもしもに備え国境付近へと偵察、また保護を目的とした部隊を出す。いいか!」
「はっ!」
アルレーシャの号令に話を聞いていた兵士たちは慌ただしく動き始め、一方のアルレーシャは二人に気づいたようで、馬を近くにいた兵士に手綱を渡すと近づいてきた。
「アルレーシャ、何があった?」
「ああ。簡潔にいえば、「水精霊の森」に帝国の兵士が入り込んでいた。そして現在、ハヤテは一人で攫われた森の住人たちの救出に向かっている」
帝都を発ち、川を遡るようにして北東に進むと、やがて当たりは木々が覆い繁るようになり、道も整備されていない荒れたものになるが、颯天は進み、辿り着いた。
「あれか」
水が滝のように流れ落ちる滝つぼの近くにある洞窟。その洞窟のすぐ近くには木造の平屋の建物、更に物見やぐらも建てられており、数人ほどが辺りの警戒に当たっていた。
「この地形は、厄介だな」
視界は開け、更にくぼ地であるがゆえに周囲には高さおよそ二十メートル、傾斜およそ七十度の壁があり、傾斜がきつく逃げ出しにくい、まさに蟻地獄というにふさわしい地形だった。
「人数が分からない以上、まずは地形の把握が必須か」
ラッテより渡された情報に記されていたのは、帝都からここに至るまでの道、そしてここにいる兵士の数と装備のみだが、別に颯天としては元々現地の状況を確認するつもりだったので、ここに辿り着けただけで十分だった。
「【投影】」
陰遁【投影】それは自身の影から分身を作り出す、所謂分身の術だった。そして、自身の影で作り出した存在であるために、視覚に限らずあらゆる感覚を共有することが出来るが、颯天が共有したのは、聴覚と視覚の二つのみだが、同様の分身を更に五体。
計六体の分身を作り出す。
「行け」
ハヤテの号令の下、分身たちは一斉に散開していった。
「あとは、時を待つとするか」
ここまで、一切の休息をとって居なかったことに加え、陰遁【投影】の弱点として、分身たちからの情報の取捨選択、処理するのは分身でも出来るが、最終的に情報を受け取るのは本体である颯天だけで、情報の処理に頭を使わなければならない為も兼ねて、颯天は休息を取ることにした。
そんな一方、【投影】で作り出された分身たちは地を駆け、着実に情報収集していく。そして時に透視を使い、地面の質なども確認していく。
陰遁【投影】の強み、それは作り出した分身は本体ほどの強さはないが、代わりに幾つかの力を付与できる。そして、今回作り出した六体にはそれぞれ「錬金術」と「霊眼」の二つを付与していた。
そして、辺りが夕日が差す時刻になった時、散っていた分身たちが戻ってくると、そのまま颯天の影に吞み込まれるように消えると、颯天は閉じていた眼を開け立ち上がりその場で大きく伸びをし、動かしていなかったがゆえに固まってしまった筋肉をほぐしつつ、状態を確認する。
(頭はクリア。体の休息も十分。周囲の地形を含めた情報の把握、完了)
情報、および身体的疲労も回復し颯天は、ただ時を待った。辺りが薄闇に飲まれる時間を。
どうでしたでしょうか?短いですが、少しでも楽しんでもらえれば幸いです。
また、時間が空いてしまい、申し訳ありませんでした。
ですが、月一投稿は維持していきますので、宜しくお願いします。また、誤字脱字報告をしていただけると幸いです。
では、また次話で。