第三章 第四話 「一手」
なかなかの虚無の状態でしたが、どうにかこうにか書けましたので、投稿です(気分転換できること、ないかな…)
「やれやれ、思った以上に貧弱だったな?」
「いや、数が居たとはいえ兵士レベルだし、私とハヤテを相手にこの結果は当たり前じゃない?」
あの後、颯天とアルレーシャは、数分もしないうちに兵士全てを剣の腹で、または柄で殴って昏倒させ現在、唯一気絶させていない一人を除いた全ての兵士たちを話をしながら一纏めにしているところだった。そうして、少し経った頃にが気絶させた兵士たちが一か所へと集められ、アルレーシャが最後の一人を置いた。
「よし、これで全員だ。ハヤテ、頼む」
「ああ。蔦狗」
一纏めにしたところで、アルレーシャが距離をとったのを確認した颯天は兵士全員を一纏めに木遁忍術「蔦狗」によって縛り拘束し終えた。
「よし、こっちは俺がどうにかするから、アルレーシャはあっちを頼めるか?」
「ああ、そうしたほうが良さそうだな」
颯天の言う、あっちの意味を正確に理解したアルレーシャは頷き、そちらは任せたと兵士の山の向こう側で仲間に治療を受けている獣人とエルフたちの方へと向かい。
「それじゃ、こっちも始めようか?」
そう言いつつ振り返るとそこには、気絶こそさせられなかったが、代わりに抜け出せないように蔦狗によって関節を決められ、力が入らずまるで芋虫のように横になっているピッグスの姿があり、颯天は近づいて、ピッグスに視線を合わせるように屈む。
「さて、それじゃあイロイロと話を聞かせてもらおうか?」
「ふ、ふん!俺は何も知らん! いいから早く解放やがれ!」
「やれやれ、お仲間もいない裸の大将の癖に、口だけは達者だな?」
「ひっ…お、俺が悪かった! だから、命だけは…!」
「そう言われてもなぁ」
その様子に、颯天はもはや清々しいなとばかりに笑みを浮かべる。だがもちろん、その笑みの四割ほどには黒い部分をわざと含ませ、それに気づいたピッグスの顔が恐怖によってひきつる。だが、それは無理もないことだった。何せ目の前の男は女と一緒だったとはいえ、二人だけで数が圧倒的に多かった兵士たちを倒してのけた。それも全員を容易く気絶させて、だ。
(くそ、なんでこんな化け物がこんなところに…!)
ピッグスは商人とはいえ、あれだけの人数を相手に、その誰もを殺さずに気絶させるなどという芸当を成せる者の話など聞いたことすらなく、聞いたとしても嘘か、デマだと思っただろう。だが、目の前の黒装束の男は、女と共にそれを容易に成し遂げてしまい、それはもはや驚愕を通り越してピッグスに恐怖をもたらし、本能的に目の前の男との圧倒的なまでの実力差、そして逆らえば死ぬと理解した。
「こっちは怪我人に加えて連れ去られた奴も多いからなぁ‥‥」
そう呟く男の顔には、先ほどと変わらず笑みを浮かべていたが、逆にその笑みがピッグスの中にある恐怖をより強く煽った。
「お、俺を逃がしてくれたら、俺たちが捕まえた奴らをか、解放する! だ、だから‥‥!」
「お前が捕まえた人たち、それだけじゃあ、釣り合いが取れないな。お前以外の奴が連れ去った全員の解放じゃないと、な?」
「そ、そんな無茶な提案など…!」
「無茶も何も、それくらいやってもらわないと、事が穏便に済ませられなくなるから、こっちも困るんだよな…」
「そんなもの…」
不可能だ、出来るはずがない! そう言おうとしたがピッグスの声が音となって出ることはなかった。何せ、言葉を返す直前に見えた男の眼は本気でそう言っているのだと本能が理解し、体が声を出すことをやめたのだ。
そして、もし声に出していたら‥‥、とピッグスは声を出さなかった自分を思わず褒めたくなり、その様子に気づいていたのだろう、目の前の男は小さく笑みを浮かべた。
「正直、不可能だ、出来るはずがないといえば今ここで殺していたんだが…。まあ、ならさっきの条件が飲めないなら。この条件なら飲めるだろう」
男の言葉に、ピッグスは警戒した。何せ、商売などの取引において最初の提案はあくまで予備で、そこから徐々に腹を探りあい、その後の提案こそが本命だと知っていたからで、その予感は的中していた。
「俺を、いや、俺たちを帝国へ連れていけ」
「…俺に、帝国を、国を売れってのか?」
ピッグスは生まれも育ちもケルヴァス帝国で、当時のピッグスを含め帝国に住んでいる子供であれば幼いころから知っていることがあった。それが帝国が他国では認めていない事業、奴隷の売買を公的に認めている事。
それによって生じる莫大な金を獲得している事を。そしてやがて大人になり、大金を手に入れるために、奴隷商人に弟子入りし、認められて自分の店を持つようになると同時に教えられた。
それは例えば捕まえた人間が他国の貴族の娘でその情報が洩れてしまった場合は国家間の争いに発展してしまうことで。もちろん、いい女などを欲する貴族達とは秘密裏に契約を交わしているために問題はないが、それでも明るみになった場合の国同士の後処理が途方もなく面倒になってしまい、更にせっかくの商品を手放し、尚且つ賠償金を支払うことになってしまう。
故に帝国は奴隷を捕まえ、引き渡しする場所などの情報は奴隷商人たち以外には一切秘匿しているのだ。
そして、その引き渡しや捕まえておく場所の情報を漏らすという事は、帝国においては国を売るという事に等しい内容だった。
「別にそこまで言うつもりはない。お前はそこの兵士を連れてただ帰ればいい。何人か死んだのは商品に手を出そうとして処断したってな? その後で何が起きようがお前には関係がないことだ。これなら、両者にとって不平等もない提案だが、それが嫌なら今この場で死ぬか?」
「‥‥‥わかった」
「そうか、それは良かった」
ピッグスは迷った末に了承し、それを聞いた目の前の男は笑いながら立ち上がり、ピッグスに背を向けて歩き始め、男が十分に離れた所でピッグスは自分の命がつながっている事に安堵の息を吐くと同時に無意識のうちにかいていた冷たい冷や汗を背に感じ取る。
(…くそ、二度と出くわしたくねぇな‥‥)
先ほどの男の笑みの意味を、まるで余計なことをせずに済んだとばかりに笑ったのだと理解しつつ、少しでも体力を温存、回復するために、全身の力を抜き地面へと突っ伏したのだった。
一方の颯天は交渉が成立したことに、無駄に殺す事が無かったことに内心で素直に喜びながら、治療を終えたのか獣人、エルフ達と話していたアルレーシャへと近づき声を掛けた。
「アルレーシャ、そっちはどうだ?」
「ああ。取り敢えずは全員の治療は終えたよ」
「そうか、それは良かった。ところで紹介してもらえないか?」
「ああ、そうだな」
そういってアルレーシャが横に避けると、アルレーシャの向こうには男性と女性が立っており、男性の方は鍛えられた体に加えて、歴戦と言える細やかな傷を持ち、狼耳の片側が欠けていたりと、いかにも戦士と言った風貌で、もう一人の女性は線が細いながらも、何処かどっしりとした雰囲気を纏った長い耳を持つ女性が立っていた。
「紹介しよう。彼はカゲナシハヤテ。実力もだが、人格に関しても問題ないと私が太鼓判を押すから、安心してほしい」
アルレーシャの紹介にくすぐったさを感じながら、颯天は軽く頭を下げ、そのままアルレーシャは二人の自己紹介を始めた。
「彼は狼族のヴァンさん。この森に住む二つの種族、狼族の長で見てわかる通り、歴戦の戦士でこの森の自警団の団長をしているんだ」
「ありがとな、助かったぜ」
「どうも」
アルレーシャの紹介にあった狼族の男性、ヴァンはアルレーシャの紹介が終わると手を差し出してきたので、颯天も手を出して握手を交わす。そして握手を終えたタイミングでアルレーシャは女性の紹介へと移る。
「そしてその隣にいるのがエルフのミーシェ・アルトフォレストさん。エルフの長で、自警団の副団長をされているんだ」
「うふふ、よろしくね」
「こちらこそ」
先ほどと同様に握手を交わし終えると、颯天たちはさっそく作戦会議を始めた。
「それではまず、情報の共有からしたい。いいか?」
「分かりました。まずこちらの今に至るまでの状況を説明いたしましょう」
颯天の提案に、ヴァンではなくエルフのミーシェが説明を始めた。
「まず、彼らが、いえ初めて帝国の兵たちが現れたのは、昨日の朝早い時間でした」
ミーシェが言うには、昨日の朝、まだ朝日が昇って少し経った頃に突如として帝国の兵士たちが姿を現し、その場にいたエルフ、そして狼族の女子供をさらって言ったと、逃げることが出来た狼族の子供が大人たちに伝えたが、この森の周囲には常に霧の結界があるため、大人たちは質の悪い子供の悪ふざけ程度としか思わなかったそうだが、子供があまりに必死に話したのでもしかしたら、と自警団の団長だったヴァンと副団長のミーシェは数人を連れて周囲の警戒を行うと、子供の証言通りに複数の足跡が見つかったのだ。
「私とヴァンは、団員たちと共に即座に辺り一帯の警戒を始めました」
そして、その日の夜、二度目の襲撃があった。だがこの時の襲撃では少人数であったために即座に撃退することが出来たとのことで、危険を感じた二人はその日の夜から翌朝まで団員に周囲の警戒を徹底させた。そして翌日に起こった戦闘に颯天たちが出くわしたという事だった。
「なるほど。今の話から考えるとすると、帝国は霧の結界を破る何らかの手段を手に入れた可能性が高いと思いますが、それについてはどう思いますか?」
「ああ。少し前までの俺だったら、そんなことはない。と断言できたが二度も襲撃を受けた今じゃあ絶対とはいいきれねぇな」
「私も同様です。ですのど、もちろんローレライ様にお尋ねしたのですが、原因が分からないそうで、もちろん御力を信じてはいます。ですが…今の状況では」
本来であれば、帝国兵達がこの森へと入れるはずがないのだが、今日に至るまでの間に計三回も侵入されているのだ。その信頼が揺るぐのもおかしくはなかった。
「分かりました。ではとりあえず今は次の議題に移りましょう。お二人は連れ去られた人たちを救うための救出部隊を派遣するつもりですか?」
「「……」」
颯天の質問に、二人は一旦互いを見た後、ミーシェがアルレーシャを見つつ口を開いた。
「その件なのですが、アルレーシャ様。そちらからでどうにかなりませんか?」
「力になりたいが…難しいだろう」
「そうですか…」
ミーシェのいうそちらというのは、カヴァリナ皇国の外交を意味しており、それを理解して、アルレーシャは首を横に振りそれにミーシェは残念そうに眼を伏せる。
ミーシェとしても、外交で仲間を取り戻せる可能性はかなり低いと思っていながらも提案したのは、それが最善にして、互いに最も被害が少ない方法だったからだった。
「やっぱり、力ずくで取り戻す他はねぇか?」
「いえ、それでは帝国から難癖をつけられ、あの国に手札を与えてしまうことになってしまいます」
「ああ…分かってはいるが」
それじゃあ、一体どうすりゃいいんだ。とヴァンが苛立ち紛れに頭を乱暴に掻いたとき、黙って話を聞いていた颯天は口を開く。
「なら、この国に関係ない第三者が助けるのであれば、問題はない。それは間違いありませんよね?」
「は、はい。それはそうですが、一体どういうことですか?」
颯天の言葉の真意を図りかねたミーシェがアルレーシャ、ヴァンを代表して尋ね、それに対しての颯天は既に打っていた一手、先程の奴隷商人とした話を明かした。
「実は、勝手ですが、先程と今回の主犯である商人と取引をしました。彼と兵士達を見逃す代わりに、帝国へと入国させろ、と」
今話は、主に取引と作戦に関する話を書き出しましたが、正直に言って、慣れない事をしたので、相当に苦労しましたし、なによりミスがありそうで内心でビクビクしてます。
ですが、今話を少しでも楽しんで貰えると嬉しいです。そして、次話に関してはまだ纏まってませんが、潜入するのは恐らく第五話になるのでは、とも考えています。
ですので、少しでも楽しみに待って頂けると幸いです。長くなりましたが、今回はこれにて失礼します。評価や感想、また誤字脱字など頂けるますと幸いです。
では、今回はこれにて失礼します。また次話で。