表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生産職ですが最強です  作者: シウ
第二章 カヴァリナ皇国編
53/101

第二章 第三十一話 「封印、解錠」 

…なかなか仕事が忙しくなり、書いても納得のいくように出来ず、こうしたい、ああしたいという実力が無いのに高望みして沼に嵌まるなどの負の連鎖に巻き込まれ全てを書き出すことが出来ませんでした…本当にごめんなさい。そして、限界を感じましたので実質、前後編に分ける形で書き上げることにしました。申し訳ありません。…投稿です。

 颯天が再度、コカビエルに接近戦を挑んでいる時に、何処か嬉しさを内包した声音が颯天の頭へと直接聞こえてきた。


『ハヤテ、私は、やったよ』


『そうか』


 そして、その内容に颯天は思わず笑みを浮かべた。何故ならこの会話が成り立っているのはアルレーシャに渡していた『念話』を刻印したペンダントの効果で、使用するタイミングは事前に決めていた。成功の際には使い、そうでなければ使用しないと。そして、成功した時の方針を既に颯天は決めていた。


『なら、もう少しばかりの時間を稼ごう』


『え?』


 唐突な颯天からの提案に、アルレーシャは驚いた声を出したが、構わず颯天は言葉を紡ぐ。


『幾ら開放に成功したとはいえ、いきなり本番はリスクが高い。なら少しでも感覚を慣らした方が確実だ。だから、まずはその状態に慣れろ。幸いアザゼルも居る事だしな』


 アザゼルからアドバイスを貰えと言ったのは颯天で、アドバイスを聞きながら実践したのであればすぐ近くにアザゼルが居るのは当たり前のことで、何かしら手伝わせるのも当たり前のことだった。


『え、でもそれじゃあハヤテに負担が』


『俺は大丈夫だ。だから今は確実に奴を倒す事を考えろ』


 アルレーシャの申し訳なさそうに言葉を遮る様にして颯天が言うと、何かを感じ取ったのか僅かに息を整えると同時にアルレーシャも覚悟を決めたようだった。


『‥…分かった。それじゃあまた後で『アルレーシャ』…なに?』


『頑張ったな』


 唐突な颯天の労いの言葉になんと返したら良いのか分からなくなったアルレーシャだったが、既に覚悟を決めていたお陰でその沈黙は短かった。


『…ははっ。それはまだ早いよ。けど、ありがとう。じゃあ、気は抜かないで』


『ああ、お互いにな。それじゃあ、…頼んだ』


 それでも、颯天の労いが嬉しかったという事をアルレーシャは嬉しさを隠しきれていなかったが、颯天は追求せずに『念話』は切ると同時にそれまで黙っていた白夜が颯天に『念話』で話しかけてきた。


(ふふふ、どうやら、彼方は大丈夫のようじゃの?)


(ああ。近くにアザゼルが居るだろうからな。練習で暴走とか下手な事態にはならないだろう)


 力を解放させたばかりのアルレーシャの相手を務める。それは下手な戦闘よりも厄介な事は颯天も理解していたが、ブランクがあるとはいえ、颯天がアルレーシャを治療している間、単独でコカビエルと戦っていたアザゼルにならそれを任せられると信頼していたからこそ、アルレーシャの事を颯天は任せたのだ。そしてその考えは白夜も同様だった。


(ふむ。まあ、人選的にはわしも妥当じゃと思っておるよ。しかしの、幾らなんでも主殿が囮というは、贅沢は過ぎぬか?)


(さぁな?)


(さぁなって、主殿よ‥‥)


 何処となく呆れた白夜の声音をサラッと無視しつつ、颯天は現在進行形で刃を交えているコカビエルを霊眼()で一視しただけコカビエルがどのような状態なのかを理解する。


(‥‥酷いな)


(うむ。今の奴の状態を一重に現すのであれば、暴発寸前、と言ったところじゃな)


 無視した颯天に怒る事無く、白夜は颯天の言葉に同意する。

 颯天と白夜が【霊眼】によって視たコカビエルの内部は確かに酷く、言葉で表現するのであれば、今にも超新星を起こしそうな星と言った表現が今のコカビエルを現すのに一番的確かも知れなかった。

 確かに、コカビエルの力は今も刻一刻と上限を知らずに上昇している事は、今まさに戦っている颯天も痛感しており、アザゼルがあそこまでの傷を負ったというのも納得は出来た。


 だが、同時にある疑問は浮かぶ。際限なく力が上がり続ければ、天使であれどうなるのか。その答えが今まさにいつ爆発してもおかしくないコカビエルの現状で、颯天がアルレーシャに確実に倒す事を考えろと言った原因でもあった。

 何せ、幾ら結界内とはいえ、限界まで高められ肉体(うつわ)から解放されたエネルギー全てを抑える事が出来るか否かは不明だったからだ。


(まあ、取り敢えず今は、しばらく時間を稼ぐ)


(それが妥当じゃろうな)


 内心で改めて今後の方針を決めた颯天は、一旦距離を取る為に足場を蹴り後ろへと跳躍、同時に【黒鴉】を握ったままの右手をポーチへと突っ込み、目当ての物を指の間に挟み、取り出し様に三本の苦無を同時に見えて、僅かな時間差でコカビエルへと投擲する。だがキキンッ、キンッ!と投擲した苦無は全てコカビエルの光の槍で弾き飛ばされ、コカビエルが一秒にも満たない僅かな溜を作った後、音速に迫る勢いで颯天へと肉薄する。


(っ! さっきより早いか!)


 尚も力が上昇している影響か、先程と比べ移動の速度が上がったコカビエルの姿を、颯天は一瞬見失う。


(上じゃ!)


 しかし、白夜のサポートのお陰で颯天は咄嗟に頭の上で剣をクロスさせた直後、ギャリンッ!と耳障りな音と同時に火花が散った。


「凄いですねぇ。この攻撃も防ぎますか」


「はっ! 上から目線とはいいご身分だな。そんなんだから、アザゼルを倒せなかったんじゃないのか?」


「なに言うかと思えば。貴様の様な人間相手に本気を出すと思い上がらないでください」


「御託はいい。さっさと来い」


「良いでしょう。お前は、私の八割で殺してあげます!」


 挑発に乗ったコカビエルに対し、颯天は鋭い蹴りを放ったが、直撃する前にコカビエルが下がったことによって不発に終わり、お返しとばかりに光の玉が飛んできたが蛇腹剣で以て対処する。


 とはいえ、現状の状態が颯天の優勢かと言われれば、少々、いやかなり劣勢とまでは行かないが、やや不利と言った状況だった。

 その一方、先程からの攻撃を含めその全てを未だに対処する人間に対して、コカビエルは素直に目の前の人間を有象無象ではなく一人の敵として捉える事にした。


(まあ、前座にはちょうどいいでしょう。その間。この力を私のものにさせていただきましょうか。幸いにも、的はいますしね)


 コカビエルの目的は封印を解きアザゼルを殺すだけだったのだが、予想外の障壁に阻まれ止めを刺す事には失敗していた。だがそれは力を掌握できていなかったからだとコカビエルは考え、颯天の時間を稼ぎたいという思惑も合わさり結果的に、それは颯天にとって都合のいい内容となった。


(…どうやら、注意を引く事は出来ているようだな‥‥白夜、どうだ?)


(うむ‥‥先程より悪くなっておる)


(やっぱりか)


 颯天も視てはいたが白夜からの報告を聞き、それが外れではないという事と早めに決着を付けなければと改めて再確認した。とはいえ、まだアルレーシャとの『念話』を切って凡そ十分が経過したほどで、颯天の心にも僅かな焦りは芽生えかけるが、呼吸を整える事で焦りを抑えながら、念の為にアレを使うか否かを悩んでいた。


(白夜、あくまで試算でいい。アレが上手く出来たとして、どれくらい持つと思う?)


(そうじゃの‥…‥‥今の主殿の魔力残量から見て‥…最長で三分、戦闘を考えると二分と少しと言ったところかの?)


(‥‥思っていた以上に短いな)


 颯天が予想していた限りでは、上手く行けば五分は持って行けるのではと予想していたのだが、白夜が出した試算はそれより三分も短いものだった。それでも最悪を想定して颯天は決断した。


(白夜、念の為に、鍵の生成を頼む)


(…じゃが)


 思わず言い淀んだ白夜の言葉を引き継ぐように颯天は白夜を説得する。


(俺としても出来れば使いたくはない。けど最悪に備えておきたいんだ。頼む)


(……分かったのじゃ)


(悪いな)


(なに、わしも居る。それにこの場にこそおらんが、あの女子(おなご)二人もおる。もしもの時は任せるのじゃ!)


 申し訳なさそうな颯天に白夜は気にするなとばかりに言葉を返したが、長い付き合いの颯天には白夜の声音に不安が混じっていることに気が付いていたが、その事に触れることはなく、そのままアルレーシャの時間を稼ぐために再びコカビエルへと距離を詰めたのだった。







(…き、緊張した…)


 颯天との念話が途切れたアルレーシャは、思わず安堵の息を吐いた。何せ、自身の思いを知った直後の短い時間とは言えど、颯天との会話はかなりの緊張感をアルレーシャに齎していたのだった。そして、そんなアルレーシャの緊張を解す為にアザゼルが声を掛けた。


「どうだ、上手くいったか?」


「はい」


「そいつは良かった」


 アザゼルとの会話のお陰でまだ僅かに残っていた緊張感が和らいだのを感じながら、アルレーシャは僅かに息を吸い、吐き出す事で気持ちと意識を引き締めると、あるお願いの為にアザゼルへと顔を向ける。


「それと。申し訳ないですが、剣の扱いに慣れる為に手合わせをお願いしてもいいですか?」


「ああ。あいつが言ったのか?」


「ええ」


「ったく、人使いが荒ぇ事だな…分かった」


 颯天に対して愚痴の様な事を言いながらもアザゼルは体を解しながら、アルレーシャと話しかける。


「そうだな‥…理想は最初は軽く、徐々に上げてるなんだが…それは要らないようだな?」


「ええ、最初から全開で行きます」


「分かった。けどまだ奴を倒すんだからな。 飛ばし過ぎるなよ?」


「はい」


 アザゼルの忠告にアルレーシャは頷くのを確認し、アザゼルは右手に光の槍を握り、アルレーシャも同様に剣を構えながらも、最初は軽くなので両者ともにそこまでの緊張感はなかった。


(さて、解放された剣の力。一体どう言うものなんだろうか)


 互いに武器を構え相対しながらも、アザゼルは解放された剣が何を齎すのかという知的好奇心を抱いていた。何せアザゼルもルーチェから聞いてこそいたが、解放された剣の姿もその力も全く教えられていなかった為に、何処か子供っぽい好奇心が疼くのは仕方がない事だった。


「…行きます!」


「ああ、来い!」


 呼吸を整えた後、まず動いたのはアルレーシャで、一直線にアザゼルとの距離を詰めるに対し、アザゼルで、宙に三本の矢を作り出し、牽制目的で投擲。


「はあっ!」


 だが掛け声と共に足を止める事無く剣が三度閃き、アザゼルが胴・両足目掛け投擲した矢を切り裂きながらアルレーシャの足は止まらずアザゼルへと距離を詰めるに対し、アザゼルは後ろへと退く。


「【焔槍(フレイム・スピアー)】!」


 しかし、後ろに飛ぶと同時に用意していた焔の槍をアルレーシャへと投擲する。当然剣で斬り払うと予想していたアザゼルだったが、アルレーシャは予想外の行動、即ちそのまま焔の槍へと突っ込んで行き、槍は消え去った。


「なっ!?」


 予想外の出来事に思わずアザゼルは足が止まりかけ、そのタイミングでアルレーシャは更に一歩を踏み出し距離を詰め、迷わず剣を振り下ろす。


「ハアァァァッ!」


 ギャリンンンッ!!!と辺り一帯に音を響かせながらも、その剣はアザゼルは右手に作り出した槍で受け止められていた。と言っても槍身の三分の一ほどに剣が食い込んでおり、剣の切れ味にアザゼルは苦笑を浮かべていた。


「あぶねぇ‥‥今、俺を切るつもりだっただろ?」


「ええ、止められると信じていましたから」


「へぇ、言ってくれる、ねっ!」


 剣を押し返し、それによってアルレーシャの足が地面から僅かに浮いたタイミングでアザゼルは蹴りを入れるが返ってきたのは硬い物を蹴った感触で、アザゼルはそこで追撃はせずアルレーシャも地面へと着地するアルレーシャの手元を見れば握られている剣先が先ほどとは逆になっており、先程の硬い感触を含め導き出される結論は一つだった。


「咄嗟に剣を盾にする事で蹴りを防いだのか?」


「ええ、そうです、そして防げたのは推測されていると思いますが、この剣の加護のお陰です」


 アルレーシャが本来防げないタイミングの蹴りを防いだことから、剣から何らかの加護を一つのみならず複数受けているのでは?というアザゼルの推測が間違っていないとアルレーシャは認めた。

 何せ、幾ら動体視力を鍛えたとして、体が動かなければそれは何の意味も持たない。いや観察眼と言う意味では有用だが先ほどの蹴りの早さ相手では意味がない。であるなら自然とアザゼルの推測である複数の加護を得ていると考えた方が妥当だった。


「なるほど。それが覚醒した剣が使い手に与える力って訳か?」


「ええ、その内の一つですねっ!」


 再び始まる剣と槍による剣槍戟。そしてアルレーシャの剣を長年の経験と感覚を頼りにアザゼルは捌き、時に反撃を混ぜる。


(こいつは、強いな・・・!)


 刃を交える事で分かった事、それは今のアルレーシャが先ほどと比べると正に天と地の差ほど強くなっていた事。そして時折アザゼルは少ない魔力を遣り繰りしつつ魔法を織り交ぜるが、そのほとんどがアルレーシャへ届く前に消失した。まるで見えない壁がそこに存在しているかのように。


(まるで結界だな!)


 アザゼルのその推測は当たっていた。【剣の(ソード・オブ )聖域(サンクチュアリ)】 それは剣に宿る力の一つ。その力は使い手を敵性魔法から護る守護結界。それがアルレーシャへの魔法を遮断する正体だった。

 そして、この結界にはもう一つの使い方があった。


解放(ワイド)!」


 その瞬間、不可視の守護結界が広がり、アザゼルが発動させようとしていた地面から土槍を作り出す【地槍(ランド・スピアー)】を無効化する。


「なに!?」


 想定外の出来事にアザゼルは焦りの表情を浮かべる。


(今!)


 好機と判断したアルレーシャが距離を詰めた時だった。アザゼルが結界に抗いながら左手に最小限の魔力で光の玉を形成、アルレーシャへと投擲する。


「甘いです!」


 威力が落ちている為に、容易に斬れると光の玉を打ち払う姿勢をアルレーシャが見せた時だった。アルレーシャは直感的に剣を止め咄嗟に後ろへと飛ぶ。


「散!」


「くぅっ!?」


 そのタイミングで、光の玉の爆散。アルレーシャは咄嗟に魔力で全身を覆う事で衝撃に備えたが、近距離で爆発したのにも関わらずアルレーシャへ衝撃が来ることは無かったが、僅かな時間とはいえ眩い光が視界を焼かれる。それでも次の攻撃に対処できるように意識を切り替えた直後、体が浮遊感に包まれた。


「きゃああああぁぁぁ!?」


 突然の浮遊感に声こそ上げたが、それでもどうにか態勢を立て直し足から着地する事が出来た後、アルレーシャは両手を上げた。その背後には槍を構えたアザゼルが立っていたからだった。

 アザゼルは、アルレーシャの結界に対する慢心を突き、光の玉を敢えて爆散させる事で強烈な光で視界を奪うと同時に距離を詰め、アルレーシャを上空へと投げたのだ。

 そして、落ちて来るアルレーシャを待ち構えていたという訳だった。


「どうやら、俺の勝ちみたいだな?」


「‥…はい、完敗です」


 こうして、手合わせは一枚も二枚も上手であったアザゼルの勝利で幕を閉じたが、アザゼルはアルレーシャの急激に強くなった事への慢心に対して釘を刺す意味を込めて勝利こそしたが、その内心では冷や汗をかいていた。


(あぶねぇ~‥‥もし油断が無ければ、危なかったな…)


 恐らく、今までのアルレーシャは殻の中だった。だが剣が覚醒した事により今は、芽を出さんと殻を破り芽吹き始めたばかりの幼いひな鳥と言うべきだろう。そして幼い故に油断も存在する。だがたったいまアザゼルが釘を刺した事により油断をする事は減るだろう。その結果あくまで感覚に過ぎないがアルレーシャはこれから更に力を付け、一年以内には自分をも抜き去るだろう。そんな予感がアザゼルにはあった。


(全く、末恐ろしいな)


 アルレーシャ然り、アルレーシャが気にし、今も強くなり続けているはずのコカビエルを相手に囮として今なお戦いながらも底を見せない人間の男にそんな感想を抱きながらも、まるで子供の成長を喜ぶ親の嬉しさに似た感情があった。


「よし。これで手合わせは終わりでいいだろう。どうだ、感覚は掴めたか?」


「はい。大丈夫です。今なら、あいつを倒す事が出来ます」


 そうか。アザゼルがそう言った時だった。上空で二つの強大な魔力が出現したのは。魔力の一つは何処か神々しくも禍々しい魔力。そしてもう一方は強大な力の塊と言う言葉が相応しい魔力だった。

 、


「なんだ、この二つの魔力は…!?」


 もし、アルレーシャの言葉通り片側があの男だというのであれば、それは凄まじい事だった。何せ、勇者や龍の血を引くアルレーシャなどの例外を除けば人間にあれほどの魔力を保有する事等、まず不可能だった。


「一体、上で何が起きているんだ…?」





 時は、アザゼルとアルレーシャの手合わせが始まる頃まで遡る。その頃、上空では颯天とコカビエルの間では物量による戦いが展開されていた。


「さあさあ! もっと私を楽しませてくださいよ、人間!」


 コカビエルが創り出した光の剣や槍、斧や槍といった幾多もの武器が作られると同時に射出され、その武具を颯天は【錬製】で作り出した【黒鴉】の複製、その数十本と苦無で十本、計二十本を以て防ぐ。

 だが物量の多さにより、原典に近い強度に加え、【分子固定】によって強度が増しているはずの【黒鴉】と苦無は十は防いだ後、刃毀れを起こすが尚も攻撃を防ぎ、更に十五ほどは耐えた。がしかしパキンッ!という砕けた音を最後に無数の武具によって砕かれる。

 それによって颯天を守る物は何もなく迫る中、颯天に焦りの表情は一切なかった。


「【分解】」


 錬金術【分解】によって砕かれた【黒鴉】、苦無が塵サイズにまで分解される。


「【麒麟剛雷】」


 次に颯天は右手に握る【黒鴉】に雷の忍術【麒麟剛雷】発動、剣に雷を纏わせる事によって発生した強力な磁力によりたったいま、砕かれた剣や苦無の慣れの果て、鉄が光の武具の隙間を縫い【黒鴉】へ、引き寄せ、纏わせる。


「【錬製】」


 纏わせたそのタイミングで発動させた『錬製』によって颯天がイメージした通りの武器【黒鴉】と苦無が形となり颯天へと迫りつつあった無数もの武具を迎撃する。


「ふん、私の真似をしようなど!」


 再びコカビエルの武具の一斉射が始まり、颯天は壊れた武器を分解・回収。そして作るを再び繰り返す。そして、そこから颯天の剣と苦無が壊され、再び作られる繰り返す。それによって颯天の【錬製】の技量も上がっていき、作成までの僅かな無駄が削ぎ落とされ、()()()()()も加えることが出来た結果、砕ける回数は徐々に減って行き押され気味だった状況が膠着状態へと持ち込まれた。


「馬鹿な、何故力で上のはずの私の武器が壊れる!?」


「そいつは、強度の違いじゃないのか?」


「そんな筈はない! 人間が創り出した武器に私の武器が壊れるなど…!」


 膠着状態に持ち込まれた事、そして何より力では上のはずなのに颯天の武器が壊れにくくなり、代わりに自身の武器が壊れる回数が増えた事にコカビエルは怒りを露わにし、更に攻撃の密度が上がる。

 それによって相変わらず颯天の武器が壊れる事はあったが、回数を重ねるごとに壊れる数が減っていき、代わりにコカビエルの武器が壊れる数が増えていった。


「そんな訳ない‥‥! 私がたかが人間に‥…ッ」


 コカビエルの感情に呼応するかのように魔力が強くなっていくと同時に、制御が効かなくなった魔力が辺り一帯のみならずコカビエル自身をも包み込んでいく。


「おい、それ以上はやめておいた方が身の為だぞ?」


「ふん、ついに限界を知らない私の強さに怖気づいたか?」


 そんな風に行ってくるコカビエルに構わず颯天は話を続ける。


「それ以上やれば、お前はお前じゃなくなるが?」


「ふん、それはない。あの方は、私を必要としているからこそ、この力を与えになったのだからな!」


「‥…そうか。なら好きに全力出せばいい。その間、俺は手を出さない」


((今の奴が壊れかけというのは主殿も知っておるじゃろ! なのに何故そのようなことを!?)


 颯天の予想外の言葉に白夜の驚きの声が聞こえたが、それでも颯天は動じる事無く作り出した剣と苦無を分解。更に【黒鴉】と蛇腹剣を共に納刀した。



 颯天は何もせず。その様子は傍から見れば相手を舐めているとして思えない行為、故にコカビエルの感情が爆発するのは当然の帰結と言えた。


「いいでしょう‥‥ならば見せてあげましょう。私の全力を!」


 颯天の目の前で無防備に更に魔力を高めるコカビエルに対し、颯天は宣言通り何もしなかったが、それはあくまで表面上という訳で、内で何もしないという訳ではなかった。


(白夜、悪いが封印開錠の準備を頼む) 


(‥…後で説明してもらうからの)


(ああ。と言っても白夜ならすぐに分かるだろうけどな)


 白夜のそんな言葉を聞きながら、颯天は封印を解く為に自身の内部へと意識を集中する。意識を集中させるのは封印が外れている一つの鍵穴。そこに差し込むための魔力を鍵を白夜に制御を補助してもらいながら生成する。


(さて、封印の開錠、上手く使えると良いが)


(ふむ。正直魔力も然程残っておらん今の状態じゃと進めかねるが、開錠した場合、恐らくわしがフォローしたとして、以て最大で三分じゃな)


(分かった、ならいつでも使える様に)


(うむ、分かったのじゃ)


 そうこうしていると全力を出したのだろう、神々しいまでの魔力を纏い槍を構えたコカビエルが迫りつつあった。


「死ねぇぇぇ!!」


 距離を詰めると同時に中で、コカビエルは逃げられない様に確実に殺す為に颯天の周囲に無数の武具を展開しており、明らかに颯天が不利だった。


(勝った!)


 颯天が自分の動きについて来れていない為に動けず、そのまま槍が刺さるという確信と共に勝利を確信した時だった。


(なんだ、この音は…?)


 その音は自身の内側から聞こえて来ており、やがてその音はビキビキビキッ!と亀裂が入るかのような音がした直後、パキッと言うまるで覆っていた殻が割れるような音を最後、コカビエルの意識と肉体は崩壊し、神々しいまでの魔力が無秩序に吹き荒れかけた時だった。


(あの魔力を相殺する。白夜、やるぞ!)


(ああ!)


 封印を解除する為の魔力の鍵を、鍵穴へと差し込み、コカビエルへと距離を詰める。そして、数メートルの距離まで接近したと同時に魔力の鍵を回し、鍵となる言葉を口にする。


第一封印(ファーストシール)開錠(パージ)!」


 直後、颯天の体から濃密なまでの魔力が噴き上がる。その様は風とは違い雲を散らす事は無かったが、その様子はまるであらゆるものを流し、吹き飛ばす嵐と評すべき激しい魔力の奔流だった。

 突如として颯天から解き放たれた暴力的なまでの魔力の嵐は颯天の狙い通り、吹き荒れる魔力が崩壊白コカビエルから漏れでた魔力相殺したが、封印を解放した影響でそんな事に気を割いている余裕は颯天には無かった。


(ぐ、ううぅぅぅっ!!)


 封印を開錠した事によって堰き止められていた颯天本来の魔力が、一部が解放されたとはいえ、解放した影響で無秩序に溢れ出た魔力の制御は颯天を以てして困難を極めた。

 例えるなら、今の颯天は激流相手に盾を構えて流れを変える、または制御しようと試みている様なモノだった。そして、もしこれが()()()()()()()()、制御は不可能、無秩序に魔力を放出する災害となっただろうが、この場に第三者よりその魔力の視て、制御を可能とする存在が居た。


(なるほどの、そう言う事かの)


 白夜の声が聞こえた瞬間、颯天の魔力回路に掛かっていた負担と痛みが緩和され、颯天の体にある|魔力回路を傷つけながら無作為に暴れ溢れていた魔力の奔流が白夜の魔力制御によって荒ぶる激流から徐々に緩やかな流れへと落ち着いていき、颯天も流れを抑え込むのをやめ、自身の魔力の制御へと意識を傾ける。

 それから、少しして、颯天は自身の開放した魔力の全てを掌握した。


(ふぅ‥‥助かったよ、白夜)


(何、構わぬよ。おかげでわしも主殿の考えが大まかに理解できたしの)


 こうなる事が予想が出来ておったからのじゃろ?と白夜は言葉にこそしなかったが、何を思っているのかが予想できていたのだろう、颯天は苦笑を浮かべるだけだった。


(悪かったな)


(ふむ、そう思うのであれば主殿の子種が欲しいかの?)


(駄目だ)


(むぅ、あの小娘は良くて、わしは駄目なのかの?)


(猫なで声で言っても、今はまだダメだ) 


 思わず、口が滑ってしまった事を颯天は後悔したが、それは既に遅かった。


(という事は、後なら構わぬのか?)


(‥‥‥‥‥)


(そうかそうか♪ ならば今度わしの我儘を聞いて貰うからの♪)


(‥…ああ)


 白夜からの問いに対する颯天の答えは沈黙だったが、それで白夜は何かを察したのか嬉しそうにそう言い、颯天は言葉少なげに返事を返すに留まり、まるで今の状況との場違いにもほどがあったが、すぐにその空気は霧散した、何故なら無秩序にまき散らされていた神々しいまでの魔力によって生み出された光が収まり、その中から敵の姿が見え始めていたのだから。


(さて、それでは色々と準備を始めようかの、颯天?)


(ああ…そうだな!)


 そして、完全に視界が晴れ、颯天達の前に姿を現したのは、一本の剣だった。 

…一旦、気持ちを切り換えまして。読まれてみてどうだったでしょうか?

今話は書き出した後に見てみたのですが、本当に前哨戦ですね(呆れ)

そして、次話の後編でこの戦いの最後までを書ききりたいと思います。投稿の目標としては二週間以内に後編を。そして、今月中にはエピローグまで書き上げて投稿をしたいと思いますが、現在、身の回りが色々と騒がしいために執筆、投稿が遅くなっておりますが、どうかよろしくお願いします。


最後にですが、誤字脱字、または評価、感想などを頂けるととても嬉しいです。また、読者の皆様、終わると言いながらなかなか終わりに辿り着けず、本当に申し訳ありません。ですが、少しでも皆様に楽しんで貰えると努力を続けて参りますので、宜しくお願いします。

それでは、また次話の後編で。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ