第二章 第二十八話 「成長」
深夜テンションにて、書き上げました…その影響でおかしな部分があるかもしれません。その際は申し訳ありませんが、教えて頂けると幸いです。
それでは、どうぞ。
立ち上がったアルレーシャは颯天から何が起こったのか等の話を聞きつつ、体の状態を確認する。
「‥‥なるほど。じゃあ私はあの天使のオーラを喰らって、気を失っていたのか」
「ああ。ところで、体の調子はどうだ?」
「そうだな‥‥魔力がかなり減ってはいるが、それ以外に違和感はない。特に問題はなさそうだ」
「そうか…なら、これを返しておこう」
「それは…」
アルレーシャの言葉に颯天は何処か安堵した表情を浮かべた後、アルレーシャにある物、回収しておいたアルレーシャの剣。【光り輝く黄金の聖剣】を差し出した。
「これは、お前の【剣】だ。なら主であるお前が振るった方がこいつも喜ぶ」
「‥‥‥‥…いや、受け取れない」
一度、手を伸ばしかけたがその手を引っ込め、アルレーシャは剣を受け取る事を拒否し、一方の颯天は何故アルレーシャが剣を受け取る事を拒否したのかが、分からず尋ねた。
「何故だ?」
「私は、この国を統治する王。国を、臣下を守る責務を果たせなかった。そんな私に、|その剣【光り輝く黄金の聖剣】を握り、振るう権利など…ない」
「…そんな事で」
「そんな事では無い! 王ではない貴方には分からないだろう! 私が常にどれほどの重圧に晒されて王としての仕事をしていたか!常に臣下の為に王であろうとして、常に気を張っていたという事を!」
「‥…」
目尻に涙を浮かべながら吐露する様子はまるで、今までの溜まっていた鬱憤を晴らすかのような、何処か子供の様に癇癪を起すアルレーシャの姿に、颯天は何も言わずにその鬱憤を受け止める様にして、何処かアルレーシャを正面から見つめていた。それから少しして、アルレーシャは気まずげに視線を横に逸らした。
「‥…すまない。八つ当たりだった…」
「なに、吐き出すことが出来たなら、それでいいさ」
溜まっていた鬱憤を吐き出したお陰か、幾分かすっきりした様子のアルレーシャは颯天に八つ当たりをした事を謝罪するが、颯天は特に気にした様子もなく優し気に笑った。
そして、そんな颯天の様子を見たアルレーシャは、悔し気にぽつりと呟く。
「颯天は‥‥強いな」
「いや、俺なんてそんなに強くないさ」
「嘘だ! だって君はあいつと、相対したにもかかわらず、ここに立っているじゃないか!」
颯天の言葉にアルレーシャは思わず声を荒げてしまった。だがそれも仕方がない事だった。自分では歯が立たなかった。そんな相手を前にして、目の前の颯天は生きている。アルレーシャの様に使い道があるからという理由ではなく、だ。
そんなアルレーシャを見た後、颯天は上空に視線を向けつつ、まるで昔話をするかのように話し始めた。
「これは、ある人間の話だ。この人間の両親は人には言えない家業を古くからこなしていた。そしてその人間も同様に家業を継ぐために幼いながらも修行を始めた」
「‥‥いきなり、何を言っているんだ? もしかして、私を馬鹿にしているのか?」
いきなり一人語りを始めた颯天に、アルレーシャは困惑しながらもそう尋ねるが、颯天は答える事無く続きを話していく。
「家業を継ぐための鍛錬は、過酷を極めた。そしてある時、その人間、いや少年は鍛錬に耐えきれず、逃げ出した。当たり前だ。下手をすれば死ぬ可能性も存在していたんだから」
「‥‥‥‥…」
今の颯天に何を言っても無視されると感じたアルレーシャは静かに颯天の言葉に耳を傾け始め、その様子に気づきながらも颯天は話を続ける。
「そしてそれ以降、少年は鍛錬をしなくなった。そしてそれが一月ほど続き、その日も鍛錬から逃げて倉庫に隠れていたある日。一人の、二、三歳ほど年上の女の子と出会った。そして女の子に尋ねられたんだ。「どうして、逃げてるの?」って」
「‥‥‥‥‥それは、仕方がない事じゃないのか?」
幼くして過酷な鍛錬は幼い子供にとって、恐怖を与えるのに十分な事では無いかと暗に行ってくるアルレーシャの言葉に、颯天は頷いた。
「ああ。確かにな。だから当然少年はこう答えた『痛いし、怖いし、死ぬかもしれないんだ!そんな事なんかやりたくないに決まっているじゃないか!』と。けどそれを聞いた女の子は少年に対してこう言ったんだ。『それじゃあ、私を守れるくらいに強くなってくれない?」って」
「少年は‥‥なんて返したんだ?」
「ああ、当然の如く「僕は、そんなに強くなれない」って答え、また目を閉じ自らの殻に閉じこもった。幼いが故に感じ取ったんだろうな。扉越しであろうと女の子が、自分より遥かに心だけではなく、力量的にも強いという事に」
まるで、その時のことを見ているかのように颯天は何処か懐かしみながらも、苦笑を浮かべる。
「けど、そんな少年に対して女の子は扉越しにこう言った。「今すぐ、っていう訳じゃないの。努力していつか、困っている私が、貴方に助けを求める事が、そんな人に私はなってほしいな」と。そして女の子はそれを言うと扉の前から居なくなり、それから陽が暮れるまで少年が倉庫から出て来ることは無かった。日が暮れる直前に、閉じていた扉が開き、そこから少年は出てきた。【強くなる】という覚悟を秘めて。恐らく女の子の些細な言葉が、少年に確かな光与えたんだろうな」
空を見上げながらも語る颯天を、アルレーシャは何とも言えない表情で見つつ、この話が誰の話なのかという事に対する確信を、アルレーシャは得た。
(これは‥‥颯天自身の話だ)
恐らく、これは自分以外にまだ、誰にも語っていない話だとアルレーシャは確信していた。と同時にこれだけの実力を持つ颯天ですら、最初は弱かったのだという事に、アルレーシャは心の片隅で安堵していた。
(‥…どうして、私は安堵したんだ?)
思わない感情に、アルレーシャは困惑しながら、その原因を探ろうとしていると。
「アルレーシャ」
「な、なに…?」
アルレーシャの耳に唐突に自分の名前が聞こえ、若干しどろもどろになりつつ返事をしつつ颯天の方に視線を上げるとアルレーシャのすぐ近くに颯天が来ており、その事に驚くよりも先に颯天はもう一度、先程アルレーシャが受け取る事を拒否した聖剣【光り輝く黄金の剣】を差し出す。
「さっきの話からでも分かっただろ? 誰もが、初めから強い訳じゃない。寧ろ弱いって事を」
「それは、分かったけど‥‥私は自分一人じゃ…」
立ち上がれない、そう言おうとした時、アルレーシャと颯天のすぐ近くに上空から何かが隕石の様に落下し、地面へと直撃、地面を砕き水しぶきと土煙が巻き上げ、それらが収まるとそこには全身の至る所に加え、翼もボロボロに傷を負った、堕天使の総統、アザゼルの姿があり、視線を上に向けるとそこには白翼の天使が、まるでトドメと言わんばかりの極太の光の槍が迫っていた。
「このままじゃ‥‥!」
「待て」
「ッ!」
たった一言。だがそんな一言に思わず、アルレーシャは足を止められてしまった。今すぐいかなければ助けられなくなるかもしれない、そんな状況なのに、アルレーシャは更なる一歩が踏み出せない。そんなアルレーシャに、感情を感じさせない颯天の言葉が聞こえてくる。
「アルレーシャ。お前は本当に、あいつを助けたいと思うのか?」
「あ、当たり前だ! 手が届くのに手を伸ばさない訳には、行かないだろ!」
「今のお前が行っても仲良く死ぬだけの可能性が高いとしても、か?」
「それは…」
思わず黙ってしまったが、颯天のその言葉が正しい。アルレーシャはそう思った。確かに今のアルレーシャが間に入ることで上空にいる天使の攻撃を防げる可能性は確かに、低い。けど何もしない訳にはという先に進むか、留まるかという二つの意志がアルレーシャの中で鬩ぎ合う。そんな中、颯天は無造作に手に持っていた聖剣をアルレーシャへと渡す。
「まあ、こいつを使って助けるかは、お前次第だ」
それっきり颯天は黙り、アルレーシャは考えた。だがいくら考えても自分だけで状況を打破できるに足る手段は思い浮かばず、そうしている間にもアザゼルへと極太の光の槍が投擲され、アザゼルまで残り半分の距離に光の槍が迫った時だった。
(‥‥‥‥‥‥‥‥…あ)
アルレーシャは、この状況を打破できる手段を思いついた。そしてそれは、今までの何でも自分で解決しようと考えていた自分では思い浮かばなかった事で、それは今までの自分との決別でもあると、無意識の内に理解し、颯天へと視線を向け、口にする。
「私だけだと、確かに死ぬかもしれない。だから、手伝ってくれる、颯天?」
「ああ、任せろ」
まるで、その言葉を待っていたととばかりに微かに颯天は笑みを浮かべた時、アルレーシャが持っていた聖剣から眩くも暖かな黄金の光が溢れ出し、その光がアザゼルを包んだ直後、光の槍がアザゼルへと直撃、威力を物語るように辺り一帯に土煙を巻き上げた。
どうにか、五月中にもう一話投稿をすることが出来ました。今話はアルレーシャの王としての成長をメインに書き出して見ました。
そして、次話か、その次の辺りで戦闘を終わらせれたらと思っています。そう考えるといよいよ、二章も終わりが近づいてきました。少しでも楽しみに待って頂けると幸いです。
さて、世間では色々とありますが、皆様もまだ予断は許さない状況が続いていますが、自分に出来ることを少しづつやって気を付けていきましょう。
長くなりましたので、今回はこれにて失礼します。どうか、読んで頂いた皆様。次話を少しでも楽しみに待って頂けると幸いです。また、誤字脱字や感想、また評価、ブックマークなど頂けると励みになりますので、どうか、宜しくお願いします。
では、皆様、また次話で。