第二章 第二十二話 「天使の毒」
遅くなりました。申し訳ない。
今月はもう1つか、出来れば二つほど投稿する予定です。
そして、先に言っておきます今話では特に戦闘シーンはありません。何処と無く説明回の感じです。次話の構想はまだ少し詰めるので待ってください。
転移の光が消え、眼が慣れたアザゼルが見たのは、地面は一帯が鏡の様に澄んだ水面で、空は何もない真っ白な世界だった。
「…ここは、一体…?」
「ここは、俺の仲間が気で構築した結界の中だ」
「お前は…」
アザゼルの疑問に答えたのは、アザゼル達をこの場所に転移させた従魔の主にして張本人である人間と転移の術を成した狐耳と尻尾を持つ幼女が一緒に立っており、その背にはアザゼルと同様にこの場に転移したであろうアルレーシャが背負われていたが、元気がなく、何処となくグッタリしていた。
「アルレーシャ…!」
男が背負っていたアルレーシャを横にし、アザゼルは急いで近づき声を掛けるが反応はなく、寧ろ表情は苦しげで何処か熱に浮かされているようだった。しかし、アザゼルはその原因はすぐに思い当たった。
(コカビエル(やつ)のオーラを受けた影響か!)
天使の纏うオーラを受ければあらゆる傷や病等を治すと言われており、実際にそれは事実だ。そしてそれは天使の位階が上がる毎に治る重症度も変わる。そしてもし最上位天使である熾天使が大病に侵され死に瀕している人間がオーラを受ければ、完全に治癒する。
そして、そう言った人間は後に大抵何かしらの英雄や偉業を残す人間となったりする者達が大半で、中には英雄と呼ばれずとも人を癒す等の力を持った人間を天使たちは姿を現しては癒し、助けて行った。
だが、その超常的な癒しはなんの代償、対価なくしてなく助けられるという訳では、もちろんなかった。天使に傷を癒され死んだ人間はその後、天上の神の元へその魂は奴隷として召し上げられ、天上の神に魂そのものを弄られ魂に刻まれた元の記憶や人格、性別などを含めて全てが書き換えられ、その無防備な状態で天上の神に対しての忠誠心が奥深くへと植え付けられる。
そして出来上がるのが神の忠実なる駒、即ち先兵である天使として永遠に死を迎える事無く働き続ける奴隷の完成という事だ。
(くそっ! どうする!?)
しかし、アザゼルが心配している事はそれではなく、寧ろ傷を負っていない健康な状態で熾天使レベルの力を持ったコカビエルのオーラを僅かとはいえ受けてしまった事が重要だった。
もし健康な状態で熾天使〈セフィロト〉レベルの、あらゆる病気や怪我を癒すオーラを受けるとどうなるか、それは驚異的な治癒が働くお陰で怪我や病は治るが、逆に健康であれば過剰な回復力が体に負担を掛ける。
例えるならば熾天使のオーラは健康な、例えるならば免疫のある人間からすれば猛毒で、弱っていればこの毒は体に馴染みあらゆる奇跡と言える現象を起こすだが、そうでなければ体はこの毒を殺そうとするために体内で戦いが起こす。それによって徐々に体調を崩し、最後には体を壊しやがて命を落とす事に繋がるという事で、これを治す手段をアザゼルはまだ確立できていなかった。
故にアザゼルは苦しむアルレーシャの為に出来ることはなにもなかった。そして、更に追い打ちを掛けるかのように先程より幾分か制御された、しかしそれ故に強さが増したオーラを纏ったコカビエルが姿を現す。
「おやおや、一塊に集まって作戦会議でもしているのですか、アザゼル?」
「コカビエル!」
アザゼルはコカビエルに怒りの視線を向ける。だがアルレーシャを置いてコカビエルと戦うべきか否かを決めきれないでいた時だった。
「おい、アルレーシャの治療は俺が引き受ける。だからお前は、あの天使を足止めか、または倒せ」
「‥なに?」
アルレーシャを横にした後、そのまま静かにアルレーシャを視ていた黒装束の男にそう提案された。そして、その提案はアルレーシャを救えるのであればアザゼルにとっては嬉しい事だったが、念のために尋ねる。
「お前のその治療、上手くいくんだろうな?」
「ああ。必ず成功させる。だが治療の間は俺も無防備になる。だから治療の間は天使を近付けさせないで欲しい。少しでも集中力を乱されると厄介だからな」
男の言葉からは絶対に成功させるという強い意志が感じられ、この男は必ずアルレーシャを助けようする事が言葉からも分かり、僅かな間悩み、任せる事にした。
「…分かった。ならコカビエルの相手と足止めは俺がする。だからその間に必ずアルレーシャを治してくれ」
「ああ。分かった」
治療を黒装束の人間に任せ、アザゼルはいま自分が出来る事、それは治療が終わるまではコカビエルを近付けさせない事で。アザゼルは漆黒の翼を力強く羽ばたかせると、今は見下ろしてきているコカビエルと同じく視点へと上昇しつつ、右手に光の槍を出現させ、掴みながら叫ぶ。
「お前は、ここで落とす!」
「ふん。天上の神に仕えし【神の使徒】たる十二熾天使をも越える力を持つ私に、その願いは叶わない!」
迎え撃つ形でコカビエルは光の剣を作り出して振るい、アザゼルは迎撃するように槍を振り、互いの武器が交差した。
アザゼルとコカビエルが戦い始めたのを見届けた後、颯天は改めて霊眼でアルレーシャの全身を視て若干顔をしかめ、同様に白夜も颯天と同じく霊眼でアルレーシャの状態を視た白夜の表情は颯天と同じくしかめていた。
「…ふむ。こいつは厄介じゃの」
「ああ。一部だけじゃなく、全身であの天使の受けたのだろうが、魔力を鎧の様に纏ったことで幾分かは軽減されたようだが、それも時間の引き延ばしにしかならないな」
「じゃが颯天、お主なら治せるじゃろ?」
霊眼で見て分かった事は、今のアルレーシャの体は今現在進行形で受けた熾天使レベルのオーラの残滓と戦っていた。直感的に自分の体を守るために魔力を鎧のように着込むようにしていたお陰でかなりの軽減と侵食を遅延させる事が出来ているのだろう。
だが、それでも一時的に引き延ばすだけで放って置けば状況は悪化の一途を辿る。だが颯天だけは、アザゼルですら確立できなかったこのアルレーシャを苦しめる熾天使レベルのオーラを取り除く方法を有しており、それを知っている白夜は少しばかり意地悪気に尋ね、その問いに対して少しばかり困った表情を浮かべる。
「ああ。だが一部と全体だと難易度が違う」
「そうじゃな。一部であれば多少問題はあっても差したり影響はない。じゃが全体となれば少しでも制御を誤ればアルレーシャの魔力のみならず、最悪は命すらも喰らい尽くしかねんしの。危険である故にアレはしっかりとあの時以来ずっと封印されているのじゃからな」
「ああ。分かっている。けど失敗すればアルレーシャの命が危ないんだぞ?」
「うむ。そうじゃな。じゃが」
失敗するば、アルレーシャの、人の命を奪うことに繋がるという生死を左右するという恐怖が颯天の中に湧き上がるなか、白夜はまるで母親のように一旦切った言葉の続きを優しく微笑みながら伝える。
「絶対にお主なら成功させるとわしは信じておるからの」
「‥…ありがとう」
「なに、もはや一年や二年の付き合いでもないんじゃ。その位、当たり前に信じておるよ」
颯天の事を信頼しての白夜の純粋に信じているからこそ出たその言葉に思わず颯天はお礼を口にしたが、白夜は当たり前のことを言ったまでと言った反応で颯天は思わず小さく笑みを浮かべた後、ゆっくりと息を吸い込み、吐き出した瞬間、颯天の雰囲気が触れれば斬れると感じる程の鋭さへと一変した。
それは一片のミスすらしない為に、極度の集中へと至った影響だった。そして、この状態に至った颯天には一切の意識の外の音が届く事は無い。
「第一封印、限定解除」
そう短く呟いた瞬間、颯天の体は夜を思わせる黒いオーラを纏い、そのままアルレーシャの胸の上に右手をかざし、制御に専念する為に眼を閉じる。
『白夜。俺はオーラを消す。白夜は傷んだ箇所などの治癒を頼む』
『任せよ』
颯天と同じく白夜の表情と雰囲気は引き締まっており、その体からは神々しさと同時に何処か禍々しさを感じさせる金のオーラを纏いながら念話で了承の意を示すと同時に颯天の空いていた左手を両手で握り、颯天と同じように目を閉じた。
「「………」」
二人が目を閉じて数秒後、白夜の金オーラが颯天へと渡りそのまま颯天の黒のオーラと白夜の金のオーラは混じり合い、黒と金が共に混じり螺旋を描くようにしてアルレーシャのへと降り注いでいく。それはあたかも黒と金、二つの純色が織りなす螺旋はまるで輪舞のようだった。
そうして、アザゼルがコカビエルとの戦い、颯天と白夜がアルレーシャの治療を始めたちょうどその頃、結界の外では伏見と魔族の女との戦いが繰り広げられていた。
投稿が遅くなり、申し訳ありませんでした。
現在は少しづつですが話を書いております。そして、投稿の予定がずれてしまうのでどうにか今月中にもう一話の投稿をして調整をしたいなと考えています。どうか、次話を楽しみにしていただけると幸いです。
では、最近作者の調子や日常の色々が重なり遅れたりなどがあると思いますが、どうか、楽しみに待って頂けると幸いです。また、違和感を感じた箇所、誤字脱字などありましたら宜しくお願いします。
それでは、失礼します。また、次話で。